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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2011年11月号

2011年11月号 (2011/11/11) 俳句 (選者=栢野桂山)


牛群の憩ふ大樹のイペー咲く
汲み置きの水灰色に煙曇
春寒し若く逝かれし舞踊の師
沖天の陽はトマテ色煙曇
【纐纈喜月】
(評:沖天とは天の中心のこと。それが工場の多い街の煙のために赤く、まるで熟れたトマテのようだ!)

遠霞み遠くで叩く太鼓の音
山鳩の来て鳴く狭き庭の春
立春やイペー街路樹花盛り
数々の苦楽のり越え春となる
【小野浮雲生】
(評:春には色々な言葉が付くが、これは移民となって来伯して、数々の苦労を乗り越え、今穏やかな春のような日々を迎えたという句。)

句宿もす長閑な移民寺なりし
祝ぎごとの厨に寿司巻く蝿生る
自家製のバナナのカノア水温む
ピアーダ聞き笑えば園の亀が鳴く
【野村康】
(評:ピアーダとはこの国の落語のような面白い例え話のようなもの。それを聞いて庭の亀まで面白がって鳴いた!)

春愁や思い出母のことばかり
活け花の郷愁そそる猫柳
春の風母の面影漂わせ
父の日や常より輝く夫の顔
【村松ゆかり】
(評:父の日に何時にもまして良い顔をしていると、夫を詠んだ句。日頃の感謝が伺える。)

汚れ犬路地に住みつき蝿生る
塩水に浅蜊音立て流し台
野薊(あざみ)や夢の跡なる開拓地
【畠山てるえ】
(評:荒れた古いパストなどによく咲いている野薊。それが苦心して開拓した地に咲いていて、それをねぎらうようだった!)

肩寄せて日傘かたむけ嫁姑
吊鐘草姉妹衣服のお揃いで
煙雲たなびく村を迷う鳥
【吉崎貞子】
(評:現在はこんな景は見られないが、昔は山焼きの煙で空が暗くなり、ひなの待っている巣に帰る小鳥が迷うぐらい空が暗かった。)

竈猫生みし仔ほったらかしにして
この仔猫家の一人になつかざる
好々爺めく禿山も眠りけり
【佐藤孝子】
(評:好々爺、人づきあいの良い頭の禿げた老人に良く似た山も冬に入り眠りについているようで、寒い頂は静かだった。)

晩春の古き映画の原節子
父の日や父の寝ころぶ野良姿
【森川玲子】
(評:昔は「父の日」もなく、畑仕事に労れて一日が暮れて夕食の後、野良着のまま疲れて寝てしまった老父。)

宿無しの姿も見えず春寒し
小鳥の唄声も少なく春寒し
日だまりに雀二三羽日向ぼこ
【矢島みどり】

青葉縫ひ貴婦人と呼ぶ列車行く
大滝の飛沫(しぶき)を浴びて鳥巣立つ
目刺焼く日本語塾の老教師
日に六粒黒豆療法山笑ふ
巣作りのサビアは鉢の土攫(さら)ひ
【香山和栄】

感謝せよと神の心の春の声
貧乏も知らず育ちし子等長閑
アズロンの美声に聞きほれ念腹師
【木村都由子】

親仔馬青き牧場に春温し
そよと吹く風に誘われたる木の芽
出稼ぎの夫婦帰える里春温し
【秋元青峯】

白人の娘くっきり日焼あと
おぼろ夜の出合ひやうすく化粧して
虹の橋我がふるさとはあのあたり
【池上静子】

感謝せよ天の心と春の声
春雨の無情に叩くつつじかな
散り際に潔ぎよさなきつつじかな
【大岩和男】

三寒や日向ぼっこもままならず
ちらほらと春のきざしに牛蹄花
誇りある新茶で栄える植民地
【藤井梢】

陽ざし待ち子供等楽しく凧上げる
寒波にも小鳥等枯木で巣を守る
亡き姉を思ひ出しつつカフェーもぎ
【玉置四十華】

柿の畑守り五十年父老ひて
入り陽今五寸ばかりや日脚伸ぶ
補歩器で祭り参加の門くぐり
【三上治子】

来年の良き花願い菊根分
足るを知り感謝の日々よ暮の春
柿干して故郷偲びし老移民
【疋田みよし】

貝殻の蝶の形に鍋の中
日みじかや浪曲なつかし移民悲話
【星井文子】

賑やかな木の芽静かな森大樹
春眠の娘の何時までも夢覚めず
この島の情話を偲ぶ春の月
寺の鳩ふくみ鳴きして春うらら
鍬掛けの鍬壁えぐる青嵐
【栢野桂山】


短歌 (選者=藤田朝壽)


桃の実は日々に太りて袋かけ今日は風なくはかどりてゆく
捨てられに行くのかトラックの荷の上につながれし老犬伸び上がりおり
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

モロコシの葉ずれやさしくサヤサヤと秋の気配を立ててそよげり
秋空にピストル響かせ子供らの歓声と共に運動会始まる
其処ここに熟れしイチゴが陽を弾く孫の歓喜の聞ゆる畑に
【スザノ福栄会 青柳房治】

同じ趣味もてる幸せ年一度歌友らに会える全伯大会
ブラジルに連れてゆかずにおいてけと言われし長女も還暦迎う
南天は難を転ずると信じつつ息子の家の庭に植えたり
【スザノ福栄会 青柳ます】

母の死を知らせし電話日本の叔母の泣く声胸にひびき来
日本に電話で母の死知らすれば三日泣きしと弟の手紙
十年余母を看りし弟に吾れら感謝すご苦労様と
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

「忘れもの誰でもあるよ」と孫言いて元気出してと肩たたきゆく
「元気でね又会いましょう」と握手して一期一会の思いは裡に
【スザノ福栄会 原君子】

つかわねば忘れがちなる言葉にて喉につかえしままに出で来ず
ビルに添うシンビピルーナ落ち葉して絡まる蔦のみどり清けし
今日の寒さ昨日に変わるこの国は季節のけじめが無くて戸惑う
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

春一番ジャカランダ咲きそめてえもいわれない紫の濃く
当たりても当らなくても楽しかり老人クラブのビンゴ大会
【セントロ桜会 上岡寿美子】

朝の日の光さしいる窓の辺にテレビのニュース聞きつつおりぬ
離れ住む吾子思わるる夕暮れに窓眺めおれば胸熱くなる
【セントロ桜会 井本司都子】

お土産にいただきし醤油「破天荒」風味こよなく栄養に富む
久しぶりにしとしとと降る春の雨わが心までうるほしくれぬ
【セントロ桜会 大志田良子】

晩酌に亡夫(つま)とたしなみしビール一本いまわ独りで熱き茶をのむ
身のめぐり若きらは逝き九十四歳の誕生日祝われている
【セントロ桜会 鳥越歌子】

日々歩む道路は車のしげくなり犬との散歩あやうくなりぬ
その昔きらわれしピッコンいま吾はなつかしみ見る朝の散歩に
【セントロ桜会 富樫苓子】

庭の木につがいの小鳥巣をつくり餌はこべるを子犬は見上ぐ
吾がそばに身体まるめて昼寝するヨークシャーは時に細目を開ける
【セントロ桜会 上田幸音】

家もなく親まで亡くした子供たち強く生きよとただ祈るのみ
桜咲きもうすぐ春か山家(やまが)には筍ワラビとたのしき季節
【セントロ桜会 板谷幸子】

春うらら赤とピンクのつつじ咲く東洋街を観光者行く
満開の広場のツツジ愛でてゆく体操会員元気溌剌
産地より朝速達の野菜ある店喜ばれ笑顔重なる
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:新鮮な野菜を求めることが出来た主婦の喜びと笑顔。よろこんで頂いて店主もうれしさで共に笑顔。かくて店は大繁盛。)

春寒し朝ごと散歩の並木道季節忘れず芽吹き初めたり
枯木めく並木の道もいつしかに春の息吹(いぶ)きに緑増しゆく
流れゆく車列に野犬は立ちどまり左右よく見て渡る利口さ
【プラッサ・ダ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:第二首目の四句は「春の芽吹きに」とありましたが、「春の息吹きに」としてみました。第三首目の歌は類型の無い作品で野犬の賢さがよく詠めています。)

二千五百キロ離れて暮らす末っ子の安否気づかい過ごす毎日
写真送ると知らせはあれどさびしかり待てどくらせど未だ届かず
待たせる身になっても待つ身になるなという待つ身の辛さを沁みて味わう
【ツッパン 林ヨシエ】
(評:末っ子は特に可愛いもの。まして遠く離れておれば尚更です。写真を送るとの便りはあったけれど、まだ届かないがどうしているのだろうと心配している気持ちがよく詠めています。息子さんは忘れているのではないのです。そのうち素晴らしい写真を送ってくれます。気長に待ってあげて下さい。)

訪日墓参もこれが最後と思いつつ希みかないしことを喜ぶ
老いの身に欠かしてならぬ運動と寒さに耐えて続ける体操
貧しきはまずしきなりの生活(くらし)にて感謝をこめて今日も供花買う
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:浮雲という「雅号」をもっておられるだけあって、かんどころを心得ておられ、三首とも楽しく読ませて頂きました。少し手を入れました。お控えの分と照らし合わせてみて下さい。)

逞しく生き抜いて来て九十年わが生涯はブラジルの地に
故郷を遠く離れて暮らす身は筑後の国の四季をひた恋う
コロニアにカフェザールは距離ありて水タルかついで昧爽(あけがた)に出る
【ツッパン 上村秀雄】
(評:渡伯の頃のコロノ生活を想い出されて作られた歌。現在形で詠まれたので力強い歌になった。このような歌を詠む歌人はいなくなった。現在活躍している歌人は少年少女の頃に来たので、水タルをかついでコーヒー園に行った者は一人もいない。そういう意味において上村作品は読者の胸を打つ。)

屋上の色あざやかな鯉のぼり吹く朝風に勢(きお)いて泳ぐ
カラオケできたえし喉にくるいなし白寿のいまも美声で唄う
かた時も目をはなせなき老い母に看護婦つけてホームに入れる
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:三首目の原歌は「老いし母目をはなせずにつかるれば」とありましたが、「かた時も目をはなせなき老い母に」とすれば老母に付き添っている方の神経のつかれが解ります。結句の「ホームに頼む」は「ホームに入れる」とすればスッキリした歌になります。素材の取り方が勝れているのに感心しました。)

☆電話で歌を聴いたので誤りがあるかも知れません。お許しを。できるだけ郵送にて投句して下さい。


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


好きなことやって難聴苦にならず
趣味として一挙両得作業する
さりげなくいたわり合って老いの友
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:黙々と作業にいそしむ姿に感動しました。)

守備範囲広げて人の世生き残り
好不況流れが変わる人の波
身の丈を知って人生歩を合わせ
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:災難は想定外で起こるもの。上語の守備範囲に共鳴しました。)

読書熱まだ感動が出来る幸
何なくも両親あれば子は楽し
勿体ない何でもおいしく胃袋に
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:何を読んでも感動を覚えなくなったときは要注意ですね。)

何につけ五風十雨の世が欲しい
堪忍の袋をしめる痩せ我慢
叶いたる写経も終わりたる安堵
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:誰もが望むところですが、櫛風沐雨となる事の方が多いようですね。)

あきれられ怒られパソコン遅々として
建前と本音なければ渡れぬ世
川柳の絆にひと日触れし幸
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:生涯学習です。あきらめないで頑張って下さい。)

幼な児が人生絶つ世のうそ寒し
顔見せぬ仲間気遣う老ク連
トロフィーを貰って夢かとつねる頬
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:十歳の男児のピストル自殺のニュースに、身の凍てる思いをした人は多い。)

指あそび習っています老い広場
金婚やここまで来ればもう余生
いつの間にいつの間にかと体重計
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:「結んで開いて―」指体操も老化防止の一つです。頑張って下さい。)

又来たか兄妹歓迎先細り
コロニアのご三家順序入れ替わり
質より人気選挙に勝って国乱れ
【サンパウロ中央老壮会 しんかわ】
(評:珍客も度重なると―。上語の表現力、お見事です。)

沈丁花かすかに匂う帰り道
恍惚の蝶ただひたすらに蜜を吸う
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:少し言葉を入れ替えました。参考になさって下さい。)

口笛にのって子供等踊り出す
アチバイア苺畑で食べ放題
【セントロ桜会 中山実】
(評:口笛奏者もくさんの口笛公演は子供達にも喜ばれたようです。)

八十で俳句始めた人と居る
生涯現役今日も元気で動く幸
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:男女どちらでもいい。兎に角頼もしい人に違いない。下五にその人との対話さえ聞こえてくるようです。)

ジャボチカバ年に三回実をつける
孫娘爺の背丈をまず越える
【インダイアツーバ親和会 早川正満】
(評:ジャボチカバが年に三回も実をつけることを初めて知りました。)

八十路越えて約束果たせたり
【レジストロ春秋会 小野浮雲生】
(評:念願の約束が果たせて良かったですね。)

八十路まだ生きたくて富籤買う
いずれ来るお迎え遅い方が良し
【バレットス寿楽老人クラブ 岩本みずほ】
(評:初めてのご投句、続けてご投句下さい。)

◎席題「長生き」 余碌出題
長生きも好かれるうちが花ですよ【しんかわ】
長寿国世界一だが国貧し【笑】
玄孫(やしゃご)抱く長寿媼にこやかに【余碌】
世は豊か犬も猫も長生きで【清子】
好きな事やって長寿望まない【ふみ】
長寿の秘訣腹八分で医者いらず【富子】
長生きを家族と杖に支えられ【実】





「ひるの月」

今日は聖日
 よく晴れている
ふと空を見上げると
 ユーカリの樹の上にひるの月
時が止まったかのように
 しずか ただただ しずか
ひとり月を眺めながら
 静けさの中に佇む
やがて月は山の端に沈んだ
 目を移せば 朝顔が
ひばの木にからみついて上り
 濃い紫の花を
みごとに咲かせている
 老いたりとはいえ
まだまだ元気
 今日もまた頑張ろう
【ナザレ老壮会 波多野敬子】


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