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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2012年3月号

2012年3月号 (2012/03/14) 俳句 (選者=樋口玄海児)


羊羹は厚く切れよと新茶淹れ
葱かつを紫蘇も散らして冷奴
朝市に肌透き通る烏賊を買ふ
【香山和栄】
(評:今年出始めの烏賊少しは小ぶりだが肌が透き通っていて美味しそうでつい買った。今晩が楽しみである。目で物を買ふとはこの通り。尚、日本では目で食べるとも言っています。)

耳鳴りの如く聞こえて夜の蝉
夏痩せて尚健啖は衰えず
来客に何はともあれ冷しマテ
【纐纈喜月】
(評:自分を客観的に見た句。これは難しく、自分を外から見る難しさを難なく句にした。)

厨には太字をかけし初暦
【畠山てるえ】

憩い場の広き庇や蟻地獄
芋虫や性に合いしか土いじり
【吉崎貞子】

あの人も来ているかしら初句会
書初に竜の一字の勇ましく
【原口貴美子】

書初は家族の愛と云ふ一字
書初めや青き香りの墨を磨る
【秋元青峯】

書初めや筆先しっかり老いの幸
今年こそ空白なかれと日誌買う
深々と安眠浄土菊枕
【柏野桂山】

みずうみに七色写し虹丸し
雑煮餅丸型角型故里(くに)自慢
【宮腰陽子】

水蛇の居座る蛇口夜の濯
耕地まだ祖父の支配や鍬始
【佐藤孝子】

初暦子等戻る日に丸つけて
万里の長城と撮る鴛鴦の賀状受く
【猪野ミツエ】

添書に煙草止めよとある賀状
子育ての頃の夜濯なつかしく
【村松ゆかり】

若水を汲む子遠くに住みにけり
夜濯ぎや鼻唄も出る旧移民
籐椅子は昼寝の猫の指定席
【田中保子】

俳人も女流が多し柿紅葉
【青柳房治】

新墾(ばり)の土地に美しクワレズマ
ベンテビの一声淋し暮れの畑
【杉本君枝】

み仏にリンゴのようなザクロかな
【青柳ます】

新豆腐骨身おしまぬ姑なりし
【本広為子】

パイネイラ美し寺の庭広し
【杉本鶴代】

くじら雲ゴジラ雲混む秋の空
【寺尾芳子】

カレンダーの二月は雪の兼六園
一気に書く龍と一文字筆始
【森川玲子】

初明り両手合わせて迎えけり
【矢野恵美子】

友の顔見たさに参ず初句会
【野村康】

波音が決心させる夏の旅
【山田富美子】

初あかりみんな笑顔でおみきかな
【荒田田鶴子】

具の多き田舎雑煮と云うが美味
【木村都由子】

夫婦して味覚うすれる夏の風邪
【矢島みどり】

蝶のごと風に吹かれて舞う落葉
【相沢絹代】

沈みゆく夕焼雲に夢たくし
古希過ぎし花嫁移民笑い皺
年の瀬やつぶやき多し老移民
【多川富貴子】

街の明かり誘われ歩くクリスマス
サントスへ降(くだ)る街道霧の中
山荘にしばし安らぐハンモック
生きがいも夢あればこそ天の川
【玉井須美子】

ジュンジイアイは奥地の出口パイネイラ
日焼けしてインジオに似し日本人
雨よ降れ雨よ降れ降れ一番雨
包を解く椰子の花美し初日出
【樋口玄海児】


短歌 (選者=藤田朝壽)


遠慮なくものを頼める娘と住みて吾が晩年の気楽な暮らし
白壁に映えしアラマンダくる年を言祝ぐごとく光輝く
妻の肩借りて日課の二〇〇〇歩を黄花コスモス咲ける道ゆく
この年を言祝ぐごとく咲きいでし庭の白百合ほのかに匂う
【スザノ福栄会 青柳房治】

テレビの前にいびきかきいる老い夫を起こして眺むゆく年の満月
近く住む嫁に気がねすることなく買物たのめる幸せ思う
お早ようと顔見せくるるこの嫁を心にたよりくらす幸せ
はなれ住む嫁と息子に支えられ心配もなく八十路を生きる
【スザノ福栄会 青柳ます】

園に立つ兵士の像の空高くはためく国旗の破れしに気づく
片脚に立ちてズボンをまだ穿ける八十二歳の身に正月を
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

祖母の味つぎて作りし娘の雑煮孫らも集いて舌つづみ打つ
孫らより年玉受くる齢(よわい)まですこやかなるをただ謝するのみ
初夢の一富士、二鷹、三なすび、生あるうちに一度は見たし
【スザノ福栄会 原君子】
(評:めでたい夢の順序を言ったものとされているが、科学的には何の根拠もない。おこりについてはいろいろ説がある。一富士、二鷹、三なすび、四扇、五煙草、六座頭(ことわざ辞典より)。駿河(静岡)の国の名物をうたったと言う説。)

瑞みずしき水蜜桃を思わせる早乙女たちを微笑みて見る
夏休み孫は毎日学友を家に招(よ)んだり招ばれては行く
四、五人の孫の友達日本語は解らず集(よ)ればドイツ語話す
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

明けたらばダルマに片目入れたしと心ひそかに思いてぞいる
娘と住みて早くも十年福博村で習いし文芸に生かされている
八十年続けし旅も先見えて閻魔さまへの土産選り居り
【サンパウロ中央老壮会 野村康】
(評:頼山陽は「十有三春秋、逝く者は已(すで)に水の如し」と詠ったが、この作者は八十年続けた人生の旅もそろそろ終りに近づいた、さて閻魔さまへは何を土産にしたらよいかと目下思案中。人生を達観した前代未聞の歌。)

うまそうに草を食みいる牛の群ながめつつ今日も夕暮れとなる
降りつづく雨に牧場はみどり増し牛はぬれつつ草をはみいる
【セントロ桜会 上岡寿美子】

雨やみし午後のサーラに娘と二人過ぎし日のこと語らいにけり
夕べとなり帰りゆく娘(こ)を見送りて少し淋しき心となりぬ
【セントロ桜会 井本司都子】

四十四年交わりて来し旧友はすこやかにして米寿祝わる
満面に笑みをたたえて吾が友は米寿祝わる喜びを言う
【セントロ桜会 上田幸音】

電柱にジョンデ・バーロは巣をつくり入り口は西の方を向きいる
末娘よき青年と結ばれて飯(いい)盛る手つきも板につきたり
【セントロ桜会 富樫苓子】

もろもろの悲しき過去や思い出はみんな忘れて明日に生きよう
あけやらぬ東の空に三日月がさも淋しげに浮かんで見える
【セントロ桜会 板谷幸子】

天災の絶えぬ日本この年は大雪にして事故多しとぞ
吾の一生長くもありみじかくも外国に老いて夢のごとしも
【セントロ桜会 鳥越歌子】

甥からの便りによれば故郷(ふるさと)は雪の毎日はや二メートル余
お互いに涙は見せぬと言いながら「またくるから」と目頭うるむ
【セントロ桜会 大志田良子】

二人してウォーキング出来る有難さスポーツ場の空気はうまし
引っ越しせし友の空家に立ち止まる俄かにさびしさ迫りくるなり
新入学のコレージオテキニコ・カンピナス孫頑張れとヘソクリはたく
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:三首ともよくまとまった作品。第二首目の上句「引っ越せし」とありましたが、文法上「引っ越しし」が正しいです。「越す」さ・し・す・す・せ・せと活用。連用形の「し」に過去形の「き」の連体形の「し」がついて、越ししとなります。要注意。)

夢多き青春の頃を偲びつつ老後のひと日今日も暮れゆく
新年を共に迎えて早や今朝は帰る孫子の車見送る
走行車の窓に手をふる人のあり誰かとおもう間はや過ぎてゆく
煩悩は捨てがたくして捨て切れずほどほどにして一世生きなん
この年も無事に終わるか忘年会ふりかえりみる過ぎし月日を
【ツッパン 上村秀雄】
(評:第三首目の走行車の歌、佳。私も何回となく覚えがあります。少し手を加えた歌が有ります。お控えの歌と照し合わせて吟味して下さい。それから十一月四日お出しの歌稿、明けて二月十九日入手しましたので今月分に載せました。放射能の歌は今一度ご推敲の程を。)

小雨ふる春の終わりは肌寒し夕餉は煮込みうどんと決めぬ
風寒く小雨まじりの散歩道さえずりもなく人影もなし
夫婦して風邪引き味覚薄れたり手加減でつくる食事の不味さ
【プ・アルボレー老壮会 矢島みどり】
(評:日本人は十人が十人と言っても良くうどん好きでありまして、寒い夜、煮込みうどんを食べると天下泰平の気分になる。下句の「夕餉は煮込みうどんと決めぬ」日本婦人なればこそ。)

八十路にてパソコン習う夫の姿楽しき様子にわれ満ち足りぬ
のど自慢観ている夫がリズムとる我も思わず歌いたくなり
身のまわり自分でする夫八十路なり感謝の念で吾は見ている
豪雨去りまた降り出だす二月の日雨多くして豊作の年
芥一つ無き舗道にて爽やかなジォインビール市は欧州移民とう
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:第一首目の歌、パソコンを習っている夫の楽しそうな姿を満ち足りた思いで見ている作者。共に老いを知らぬ前向きな姿勢がうかがわれて頼母しい。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


年ともに増えるものあり笑い皺
これからが思案しどころ八十路
残生の画竜点晴思索する
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:作者の思量の深さに、思わず共鳴させられた一句でした。)

腹太き人鶴の如痩せており
方便の嘘を重ねて丸め込み
大らかに笑って見せる痩せ我慢
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:これが出来るようになったら所謂一人前といったところ―。)

不景気はどこ吹く風のカルナバル
カルナバル国境なき民輪になって
黒き肌汗で光らせサンバ踏み
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:カルナバルを詠んだ一連。黒き肌とサンバ踏むが活きている。)

大雪の死者のニュースに胸痛む
義理チョコに出費かさむバレンタイン
財布の紐いまだ締まらぬ二月かな
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:二月になったらなったで、出費が次々。財布を締めるにはまだまだですね。)

思い切って始める決心まだつかず
いつからか中国製にも馴れてくる
すさまじき驟雨に気持ち一転す
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】
(評:心機一転、後か先かを決めてくれた雨でした。)

辰年といえば老いにもファイト湧き
おみやげの金粉お茶など飲んでます
バーゲンで買いし服の値しゃべりたく
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:友人に喋りたい程、満足なショッピングが出来てよかったですね。)

豪雨禍のニュース遠くで聞く平和
軒先が寝床に替わる繁華街
感情に走り理性見失い
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:理性のともなわない行動は禍いのもととなることが多い。)

難聴ゆえ一人仲間からはずれ
レース編み夢中で難聴気にならず
復興にそれぞれ苦しい道を開け
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:なるべく早く被災者に明るい道が開けるようになって欲しいもの。)

移民妻一家の柱となった日も
健康にラジオ体操欠かせない
子の寝息に一喜一憂で介護する
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:お母さんの優しい思い遣りが伝わってきます。早く回復されますように―。)

労わりの言葉かければ皮肉られ
会長どの補聴器忘れ流会に
四つある補聴器どれも気にあわず
【バレットス寿楽会 岩本みずほ】
(評:「なるべく補聴器は使いたくない」と言う人が多いようですね。)

泣きながら鍬を引いてた準二世
中国の新年かざる竜の舞
カルナバル明日の空穴考えず
【セントロ桜会 中山実】
(評:明日は明日の風が吹くといったところ。)

孤独には孤独の夢あり春を待つ
陽の光今日もいっぱい受ける幸
人として恩義忘れず生きてゆく
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:徳義をわきまえた人ですね。見上げたものです。)

◎席題「忘れ」 余碌出題
忘却を誓うも後ろ髪ひかれ【清子】
嫌なこと忘れて人生朗らかに【清子】
忘れたる頃に顔出す嫌な彼奴(きゃつ)【余碌】
代替りしても生家は忘れない【余碌】
同じ品忘れて又も買って来る【ふみ】
嫌なこと一時忘れてカルナバル【ふみ】
約束を忘れて友に呆れられ【笑】
物忘れ嫌な事もすぐ忘れ【笑】
忘れごとみんな歳のせいにする【実】
忘れ物多く笑われる歳となり【実】
初恋を忘れず戻って来た彼氏【富子】


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