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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2012年5月号

2012年5月号 (2012/05/12) 俳句 (選者=樋口玄海児)


美しき耳わのゆれてハンモック
見られてはならぬ涙や夜の秋
こぶ牛のこぶゆすり行く青嵐
【栢野桂山】
(評:一句目、九十過ぎの人の句だが句の発想が若い。若い時から句を作られ、いつも心が若いからでしょう。句の若さを見習うべきである。)

ぼうぼらが本名なりと南瓜言い
鬼も哭く平野耕地の墓地の秋
鳳仙花殿に咲く白い花
【田中保子】
(評:一句目のぼうぼら、九州ではボウブラと発音する。ポルトガル人が長崎に来た時に種を持って来て始まった。他にも同じようなポルトガル語がある。ボトン、バケツなど発音は少し違うが。)

掘り頃を知らせる如く芋嵐
神酒供え二礼二拍手爽やかに
爽やかに声かけ合いてジョウギング
【纐纈喜月】
(評:二句目、宗教の儀式二礼して二拍手。評者も今まで知らなかったが、今後気を付けなくては。)

対州と分つ大河は水澄みて
鞭鳴りて調教の駒牧の露
稲光りユーカリ林闇続く
【青木駿浪】
(評:二句目、競走馬など牧で調教。朝の数時間は続くでしょう。涼しい時を選んで。)

和語話す孫に満足菊作る
朝顔は三つの鉢を伝ひ咲く
穴まどひがガビオン鳴けばとぐろ巻き
【佐藤孝子】
(評:一句目、三世で和語話さない中で、ばあちゃんとは和語で話してくれる最高の喜びである。)

朝霧のなか呼びあいて萵苣を切る
朝八時日課のジョギング花野ゆく
移住地を古里として草紅葉
【青柳房治】
(評:早や二、三世時代。評者の妻も古里は移住地生まれで、早や七十才。)

節食の夫の好きな鰡サシミ
父母は農家暮しよ芋嵐
【原口貴美子】
(評:評者も魚のサシミ好きで今は特に美味しい季節。天候も良く食も進みますね。)

若者のモーダに似し髪芋嵐
髪立つは流行にあらず芋嵐
【畠山てるえ】

銀杏黄葉大学都市のメトロ駅
くるくると小さき龍巻芋嵐
【森川玲子】

爽やかや卒論通りし子は旅に
さわやかや皆十代の聖歌隊
【宮腰陽子】

訪日の友を送りし蝉しぐれ
片蔭や選びて街行くウオキング
【多川富貴子】

バス停に急ぐ小道や草の花
小鳥来る古りたる吾が家捨てがたし
【杉本鶴代】

菜の花やテレビが写す千葉の里
健康に恵まれ迎ふダイヤ婚
【青柳ます】

庭椰子のたかぶり騒ぐ青嵐
夜の沼鳳眼目がけて鰐射つと
【木村都由子】

南伯は零下二度とや街残暑
健やかに夫九十二を祝れて
【矢島みどり】

暮なじむ小さな部落花ジンジヤ
勘違い老の難聴秋深し
【松崎きそ子】

雨季続く壁半分は濡れており
堆肥にと老の日課の落葉掃き
【鈴木美和子】

我れを呼ぶ曾孫爽やかに三才児
苦瓜を食べて長寿の夫婦とか
【矢野恵美子】

椰子浜の五星ホテル草の宿
椰子木の間草ぶき宿の灯涼し
【大橋昭子】

春暁の堀一杯の若みどり
牛蹄花桜と粉ふ路地塞ぎ
【栢野花影】

爽けしや朝シャン髪にバス待つ娘
ゴーヤ並べ苦いキウリと書いて売り
【野村康】

急流に形の良い石ゴロゴロと
熱帯魚出入自由に遊ぶ様
【三上治子】

雲の峰白亜のホテルめく獄舎
筍飯五郎八茶碗で食べし頃
【香山和栄】

売られゆく肥え馬いななく村の道
【古賀マリア】

泡立草落日に映ゆ里明り
【本広為子】

新涼のコーラス流るる堀越えて
【清水もと子】

頬染めしことは昔よさくらんぼ
【山田富子】

思い出は銀杏黄葉のふる校舎
【秋本青峯】

シラスコに鰡のアツサドはじまりし
【荒田田鶴子】

ウインドに厚着のマネキン街残暑
【村松ゆかり】

食大事大漁豊作祈願して
【三上治子】

山蔭の大きく傾き夏の果て
今の世も女長生き木芋汁
占に長けしインジオ星流る
【樋口玄海児】


短歌 (選者=藤田朝壽)


シートベルトしっかり締め若者は「よろしいですか」と後ろふりむく
老いし身に口笛ふけば遥かなる少年の日がよみがえりくる
熟年時吾の手足の乗用車夜の夜中に身おばたすくる
【スザノ福栄会 青柳房治】

捨てること知らずに暮らす吾が家の大掃除して娘ら帰る
頂きしコスモスの花色とりどりサーラに活けて秋を楽しむ 
朝あさの体操終り帰りゆく杖をたよりに歩ける夫と
【スザノ福栄会 青柳ます】

机に置きし曾孫の写真のあどけなき笑顔に吾は朝夕なごむ
ふっくらとドイツあやめは蕾いて朝の日差しにほつほつ開く
吾が歌の忌憚なき評を読みながら作歌の道の遠きを思う
【スザノ福栄会 原君子】

夏時間終りてしばしば朝寝する母の腕に抱かるる心地
面影も淡くなりゆく友の墓所朝に夕べに名を呼び通る
今日葬れる女人の墓をも照しいん皓皓と冬の満月さやか
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

ダリヤ祭バスを連ねて来し人らホームいっぱい賑わいており
火焔樹の大きく枝はる下びにて食事を終えし人々憩う
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

夫逝きて早や二十年カラオケに亡夫恋う歌をはばからず唄う
永らえて在れば良きことの巡り来て日頃思い居し著書に遇いたり
新暦手にしあれよと思う間にカンナバールの影サンボードロモを走る
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

うごくともなく流れゆく白雲に心なごますあしたの庭に
ソファーに小さくなりて座して居り風をともなう大雨の来て
【セントロ桜会 上岡寿美子】

強風に激しくゆるる竹の群ぶつかりあいて不気味なる音
大木の下で大手を広げれば心もひろくなりゆく思い
【セントロ桜会 富樫苓子】
(評:両手を広げて見ても幹廻りの大きさには及ばない。このような大きな木の傍に立っていると、心が広い気持ちになると詠った作者。なりゆく思い、と連用形で止めたので作品に余情がある。)

毎週の土曜日にくる孫の来ず物忘れたるような一日
午後にのむ一杯のコーヒーは私の頭をすっきりとさす
【セントロ桜会 井本司都子】

一日を家にこもりて過ごす身も老いの生きゆく幸せとせん
真夜さめて静かに聞こゆる雨の音声なき亡母の笑顔が浮かぶ
【セントロ桜会 上田幸音】

真夜さめて眠れぬままに歌一首夜明けて思えばまとまりのなし
予定せるカラオケ練習に杖をひきトボトボ行くも私の健康法
【セントロ桜会 鳥越歌子】

あの人もこの人たちも次々と知る人少なくなれる故郷
行かないでしがみつきたるこの足に母の涙が忘れられない
【セントロ桜会 板谷幸子】

最近よく耳にするなりナデシコは花言葉では貞節とあり
吾は難聴夫は視力の弱りいて日常生活二人三脚
【セントロ桜会 大志田良子】

朝ごとにパン屑雀に撒いてやる我が近づけばパッと翔びたつ
本願寺の本堂に参る車椅子エレベータはガラス張りなり
不揃いとなりしつつじの生け垣を異人庭師はカマボコ型に
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:二首目の初句、秋の寺となっていましたが、寺の名を入れてこそ一首が生きてきます。本堂に行くは、本堂に参るとすれば敬う心が出てきます。「エレベータはガラス張りなり」この下の句は素晴らしい。氏をもって初めとする句です。三首目の歌五句「型にす」は「カマボコ型に」で止めた方が余韻があると思いました。)

いかほどに嬉しかりしか友の歌全伯大会に一位となりて
日系の植えし街路の若桜花さく季(とき)をわれら待ちおり
【セントロ桜会 星井文子】
(評:素直な詠み方です。少し手を入れました。お控えの歌と照らし合わせてみて下さい。)

誘われてポッソスデカルダへ温泉の旅濃淡のクワレズマ咲き満ちており
公園の紫に咲く花の名を町の人さえ知らぬと言えり
いつ見ても日本荘の借景の自然公園に心静まる
【プ・アルボレー老壮会 矢島みどり】

雨上がり萌えるつつじの青葉色東洋街は客足多し
青々と茹で上がりたる枝豆に真夏のご馳走おもわする朝
青空に枝を広ごるジャカランダ紫の花今を盛りと
窓の雲怪しと見ればたちまちに雷雨となりて道たたき降る
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

残暑の陽キラキラきびし昼下がり風鈴の音(ね)にそよ風通る
移り来て半世紀も間近なり祖国はるかに昭和は遠く
喜寿という節目の誕生日迎えたりよくぞ今日までつつがなく来し
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】

アマゾンの大密林を伐り開き楽土を築く日本移民
ブラジルに人の住めない土地はないセーラード拓き楽土となせり
特攻隊は片道ガソリン機と共に若き命を火玉と消えぬ
白粉も口紅等も知らぬまま生活に追われ移民妻老ゆ
【ツッパン 上村秀雄】
(評:少し手を入れた作品があります。熟読玩味してみてください。)

三人組の強盗になぐられしばられて孫を人質に金出せと言う
怖ろしく脳溢血で倒れたら孫を手放し盗車で逃げしと
身を投げて孫の命を助けたり先祖のみ霊に救われしなり
ほがらかで仕事上手でお母さんいつも元気で吾が家の太陽
【サントス伯寿会 三上治子】


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


意地を張り孤老の枠から抜け出せず
移民歴五十を過ぎて光り出し
いつからか日本語族は吾一人
【インダイアツーバ親和会 早川正満】
(評:日語が通じる世代が薄れていく事への寂しさが伝わってくる。)

作業中もケイタイ電話大ぴらに
もったいない暇もてあますお年寄り
手間暇をかけた手作り喜ばれる
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:丹念な手作り品。市販など遠く及ばない。)

乗せる気か真顔で聞かす口ぐるま
ケチ通し財を積み上げ今孤独
貧乏旗振って寄付からうまく逃げ
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:案外裕福な人物かも知れない。上語の「旗振って」の諷刺が妙である。)

誕生日祝辞感謝の胸で受け
歳の数忘れて励む趣味の道
大空へ描く夢から今日が明け
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:大空にわたし達は生かされ、生きてゆく。)

集い来る孫見てばあちゃん恵比寿顔
停年に景気不景気無関係
増税で国は肥って民細る
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:消費増税法案がねじれる所以である。)

軽い人重い人にはかなわない
連休は子等はプライア婆NHK
朕の時代思い出させる北朝鮮
【サンパウロ中央老壮会 しんかわ】
(評:北朝鮮の映像を見ながらふと、昔の軍国日本の姿を思い浮かべる作者。)

イケメンと育メン男の株上がり
お花見の花も団子も大好きで
総理殿誰が払うのその借金
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:消費増税ぐらいでは払えそうもない膨大な借金に対する総理への問責。お見事です。)

万物の音をひとつに神の滝
一切を忘れ落花舞って行く
天の声地の声響く五月晴れ
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:五月晴れの雰囲気が伝わってくる。)

試練とも思う震災耐えて咲く
朝早く恋の歌説く老ク連
カラオケは心の避難所賑やかさ
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:歌って踊って楽しいひとときを過させる老ク連はお年寄りのパラダイス!!無くてはならないですね。)

ハイヒール拾ってやっても知らぬ顔
初参加知友多くてひと安心
行き重く帰りは軽いわが心
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】
(評:不安であった一日の作業を無事に終えて帰路に着く心の和みは、また格別である。)

鳥類も生まれた時は丸はだか
馬の子は生まれて直ぐに立ち上がる
【セントロ桜会 中山実】
(評:人類も若しそうだったらとの想念であろう。)

気がつけばそれ程遠くないあの世
若い気がギックリ腰にどやされる
三脚を解いて先に旅立たせ
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:いつまでも二人三脚という訳にゆかないのが世のさだめ。下語に哀惜がただよう。)

◎席題「重荷」 余碌出題
前向きの姿勢で重荷軽くする【清子】
停年で重荷も軽くなりました【清子】
子等巣立ち父の重荷が軽くなる【しんかわ】
重荷下り父の重みも軽くなる【しんかわ】
重い荷も心しだいで軽くなる【ふみ】
重荷かかえ人生の坂越えて行く【ふみ】
復興へ重荷背負っていく母国【富子】
外出はなるべく重荷持たず行く【富子】
信じられ心の重荷おろせない【余碌】
援助など受けぬ覚悟の荷の重さ【余碌】





「夢」

或る日 夢を見た
夢の中の私は
友達と肩を組んで
楽しそうに笑っていた

或る日 夢を見た
夢の中の私は まだ子供で
多勢の部下を連れて
遊びまわっていた

或る日 夢を見た
夢の中の私は 貧しくとも
夫や子供達に囲まれて
幸せそうだった

或る日 夢を見た
夢の中では 雨が降っていて
私は暗い空を
ぼんやりと眺めていた

目が覚めたら
私は一人 寝ていて
枕がぬれていた
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】


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