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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2012年7月号

2012年7月号 (2012/07/06) 俳句 (選者=樋口玄海児)


扉を押せばおでんの匂ふ厨かな
時折りは老夫厨へ日短か
貰ひたる焼藷の包みあたたかし
【松崎きそ子】
(評:厨の戸を開けたら出来上がりつつあるおでんの匂いが来た。その瞬間を捉えた句。よく出来ている。)

移住地の切干日和凧日和
船客の和語美しき小春旅
夫婦して余生あたため木芋汁
【栢野桂山】
(評:さほど上等の食べ物ではないが、長年連れ添った夫婦。ブラジルの冬は急に冷える日もある。温かい木芋汁で食べると、体の芯まで温まるようだ。)

枇杷療法窓の冬陽のやさしさに
薬湯のほのかな湯気や寒波の夜
雑炊の熱きに病癒え心地
【伊津野静】
(評:薬湯を作る場合のコツは、なるべくとろ火で時間をかけることで味もやわらかくほのかな匂いになるでしょう。)

嫁と娘の身籠りを知るマリア月
母の日や身ぎれいになる母誇りし日
【猪野ミツエ】
(評:一句目、季題を上手に詠んだ句。発想が面白く暗誦するとますます面白くなる。)

男より女の好きな皮衣
観光バス右往左往や牛の旅
【三原芥】
(評:一句目、皮衣なるほど女の着る姿は美しい。女の夢である美しくありたい気持ちをうまく捉えた句。)

小春日の陽の射すほうへ席移す
水涸れて川幅狭きイガラッペ
【宮腰陽子】
(評:一句目、何でもない動作をそのまま句に纏めた感じの良い句。)

晩婚の娘発つ日よマリア月
午後に立つスザノ市場園小春
【畠山てるえ】

小春日や庭の手入に一日過ぎ
涸れ沼に穫れし魚の泥臭く
【纐纈喜月】

マンションの厨ののれん灯涼し
かまきりを払い落とせば身構える
【大橋昭子】

談笑の歯無し婆々の冬帽子
豪快な卒寿の友の大くさめ
【青木駿浪】

冬晴れの街樹に親仔の放れ馬
生き抜きて余生楽しきクリスマス
【小野浮雲生】

庭のすみ我待つ如く返り花
くき漬けや今は亡き祖母懐かしむ
ブラジル食たべ厭きた日の納豆汁
【矢野恵美子】

水洟のキスして呉るる男孫
【野村康】

針箱に耳掻捜す夜長かな
トコトコと仔犬来て猫来て日向ぼこ
【田中保子】

作業衣のままの夜学を許されて
万両の一粒づつの光かな
【佐藤孝子】

六月の月下美人の咲き揃ふ
何一つ思い出せない夜長夢
【高尾ケン一】

店小春マネキン姿また増えし
白き蘭蕊守る花弁紅少し
【伊津野朝民】

フクロウの鳴く夜は父母こひしかり
【荒田田鶴子】

青空をキャンバスにしてイペーロショ
【村松ゆかり】

ひたすらに信じて祀る神の旗
イエス像交はすほほえみ冬銀河
【吉崎貞子】

諦めは悟りに似たり帰り花
【山田富子】

虫の音や汽笛は遠くに闇に聴く
養国のブラジルに感謝移住祭
【清水もと子】

ブラジルが好きで永住移住祭
【木村都由子】

移民の日父母も老後は安らぎて
過ぎし日の苦労は語らず移民の日
【矢島みどり】

白寿近き翁往生冬の晴
ペーチカに白寿の翁の手の平よ
宵闇や九十七で往生す
白寿の翁の葬や冬の晴
【樋口玄海児】


短歌 (選者=藤田朝壽)


健康に老いゆく日々を願いつつ詠みためし歌帳の整理を急ぐ
朝食に卵を割れば黄身二つ只それだけで一日やすらぐ
藷飯を食みて戦後を生きのびし六十五年目の終戦日迎う
【スザノ福栄会 青柳房治】

孫ふたりの四月の誕生日祝うとて孫の自動車(くるま)で食堂に来ぬ
ゆっくりとひとりで歩けるじいちゃんを見守りながら孫らも歩く
土曜日をたのしみにして見るのど自慢傘寿の夫は居眠りしつつ
【スザノ福栄会 青柳ます】

世を捨てし遍路のなれの果てと聞く路傍の墓に草花あたらし
四国高野と呼ばるる札所の雲辺寺ロープフェイで雲の世界へ
国分寺の握手大師に手をあづけ笑顔つくりて娘に撮らる
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

一つだけ願えば叶うと友の言う首なし地蔵に何を願わん
指折りて作歌しおるに計算器持って来よかと親切な婿
渋滞の長きを何時も気にしつつ海辺目ざして山下りゆく
【スザノ福栄会 原君子】

住みなれし家を去る日の近づきて心にうかぶ様ざまな思い
田舎の家守りくれいる妹に訪づるるたび吾は感謝す
十三人の子らそれぞれに人生を歩みはじめぬこの家を巣立ち
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

「赤トンボとぶ古里に帰ろう」と唄うを聞けば吾も帰りたし
孫嫁ぐ日の近づきて慶びの傍ら胸処に寂しさよぎる
支えられ欠かさず通う教室に生きの証と痛む足ひき
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

大通りを行き交う車列を見下ろして朝のひとときベランダにいる
皺おおき頬にクリームをすり込みて九十二歳の顔手入れす
【セントロ桜会 上岡寿美子】

年古りて歩幅小さき吾なれど歩行器にて歩めること有難き
吹く風に左右に揺るる椰子若木を六階の窓ゆ見下ろしており
【セントロ桜会 井本司都子】

いきいきと育つ孫らの声きけば未来明るく安堵の思い
年重ね足の運びも弱まれば一歩一歩に心くばりて
【セントロ桜会 上田幸音】

朝寒くなりてこの頃起きる度つづけてくしゃみ二つ三つする
五月花今年は遅れ六月の五日となりて満開となる
【セントロ桜会 富樫苓子】

恙なく九十五歳の誕生日呆けてはならぬとわが身はげます
窓くれば一点の雲なくそよ風に並木はゆらぎ小鳥飛び交う
【セントロ桜会 鳥越歌子】

あれこれと思いあぐねて窓により流れる雲に問いかけている
今年また桜色したパイネーラ花咲くを見て古里しのぶ
【セントロ桜会 板谷幸子】

アパートの陽射しは朝夕変わるゆえそのたび鉢の置き場所かえる
聖市にも冬到来の南吹き齢(よわい)かさねて寒さ身にしむ
【セントロ桜会 大志田良子】

孝行を履き違いして娶らずに友は老いたり孤独な生活
吾が提案決まりて建てし石地蔵頭(づ)に水そそぎ暫し合掌
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:ご自分の提案が通って地蔵様が建った喜び。頭に水をそそいで人類の平和を祈願されたのであう。類型の無い素材で生きた歌。現歌は「水かけて」とあったが、「水そそぎ」とすれば、やさしさが出る。)

百三歳のホームの老母よく食べて楽しそうなり安心与う
ピンクイペー手まりの如く咲きにけり思わず手にとり抱きたき気持
老いぬれば親切なこころほのぼのと人に与えてやさしく生きん
春めきて黄イペーの咲く東洋街こころときめき吾が店に行く
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

小春日に恩師の温顔偲びつつ一周忌法要に門弟集う
杖を手に参拝の人多かりし恩師追悼一周忌法要
冬温し仏心寺に恩師追悼の法要に参加し胸切なかり
【プ・アルボレ老壮会 矢島みどり】

セ寺院いく百年を鐘の音正午を告げる秋ふかむ中
杖つきてメトロへ降りる老い人に紳士はやさしき言葉かけゆく
【セントロ桜会 星井文子】
(評:杖をひいてメトロへ降りる老人にお気をつけて降りて下さいよと紳士は言ったのである。只それだけの言葉で年老いた身はどんなにうれしいか知れない。)

病窓に見ゆるは椰子の景のみぞ見飽きて今日も永き日暮るる
病む友の姿の哀れさしみじみと我が身の明日の姿とも見る
朝出でて夕べに揃う家族あり老にはほどよき食事ととのえ
【レジストロ春秋回 小野浮雲】
(評:三首ともよく纏っています。二首目の歌「我が身の明日の姿とも見る」このような弱気を持ってはいけないのです。病は気からです。強気を持って闘病して下さい。三首目の歌、この歌のような家族が多くなってきているのではないかと思います。年老いてホームに入るよりも家族の匂いのする家に居るだけで幸せです。「老にはほどよき食事ととのえ」で温かみがあり、老への思いやりのある歌になっていて佳作。歌友、小野さんの一日も早いご退院の日をお祈りしています。)

朝の散歩に声かけられて立ち止り笑みのこぼれる話題にはずむ
その昔(かみ)に住みたる地名なつかしく四十年ぶりに友と出会えり
友情は何にも勝る宝なり里の便りに元気出てくる
【ツッパン 上村秀雄】

旭天鵬の優勝とは誰知るぞ天が与えた廿年の涙
庭先で育て菊は花ざかり秋のさ中に風情のありて
天命を生き長らうる横地さんを「百歳の星」とたたえ祝いぬ
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:一世紀生き抜いた方のお祝い。素晴らしいです。原歌「百才」となっていましたが、短詩型文学では「百歳」と本字を書くことが大切です。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


前向きに歩けば夢の明日が見え
師の恩へ一歩近づく句作の灯
故郷の絆柳友(とも)との結び合い
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:作者の故里、広島の柳人数名の方々からは、ブラジル川柳大会にも毎月、投句ご協力を頂いている。)

その裏で陰口聞こえそな笑顔
引っ越しの先で待ってた貧乏神
無駄を知る不義理重ねて追いかけて
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:不義理までして追いかけた事業の結末。上語に空虚感が漂う。ユニークな発想、秀逸に頂く。)

酒タバコやって長生きうらやまし
おしゃべりは中韓伯も日本語で
どっと降りる駅で空かない前の席
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】
(評:空くと思っていた座席だったのに―。作者の微妙な心理を描いて妙。)

又一つ感謝で迎える誕生日
友よりの誕生祝う文温し
愛情は人を生かしも殺しもす
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:最近世上を震撼とさせた、食品大手メーカー「ヨキ」の社長殺害事件が想起させられる。事件は痴情によるものとされている。)

夢で逢う友はいつも美しい
空元気出して句会に今日も来る
ふところが痛むからだのあちこちも
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:ふところ具合で、人の体調も変わるもののようですね。)

親不孝おそしと詫びて香を焚く
姉逝きて孤独の義兄と忌を明かす
丹精の盆栽遺し姉は逝く
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:上句に在りし日の故人の姿が見えるよう―。深みのある一句である。)

ルージュひく女妥協はせぬ覚悟
ひっそりとみんなの命守るダム
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:万人の命を守ってダムは何も語らない。上語の「ひっそり」は佳い。)

夢でよかった又寝て夢のつづき見る
のろくても手足の動きに感謝して
ありがたい次々予定の仕事あり
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:お幸せですね。身体にお気をつけて頑張って下さい。)

今少し若くありたしサンバ観る
二人共切符忘れる歳哀し
着ない服半分持ちて旅終わる
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:身軽にと思っても、ついつい荷物は増えるもの。結局、着ない、使わないで持ち帰ることが多い。)

趣味多彩余生楽しく生きている
いがみ合う国にも月はまん丸い
私だけのお月様と思い見る
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:一人占めにしている月は優しい。作者は月と何を語らっているのだろうか。)

白髪も皺も生きて来た証
物忘れ笑えるうちはよしとする
【セントロ桜会 中山実】
(評:物忘れも笑って済まされぬようになったら、要注意です。)

未知の旅あの世へ踏み出す第一歩
百までも生きよと孫らの応援歌
三段腹臆せずビキニ闊歩する
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:メタボ腹を揺るがせて―。堂々たるものです。)

◎席題「因果」 余碌出題
飽食の因果かにくいメタボ腹【ふみ】
蛙の子やはり蛙とあきらめる【ふみ】
今日の幸因果の恵みありがたい【清子】
前向きの姿勢因果にこだわらず【清子】
説教に因果報を説く導師【余碌】
娶らずに一生孤独も因果とて【余碌】
渡伯してこの地に果てるも因果です【実】
この人に出合ったのも因果かも【富子】
因果応報あっての更正ありがたい【富子】


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