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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2013年1月号

2013年1月号 (2013/01/14) 俳句 (選者=樋口玄海児)


思い出は薄き雑炊カンブキーラ
太陽の光を浴びて緋衣草
錠剤の空箱溜り年暮るる
子の尻に蒙古斑有り天瓜粉
【森川玲子】
(評:年も六十、七十と越して来ると、どこか悪いところが現れてくる。医者に行くと、薬を使用する度に家には薬の空箱が溜まるばかり。そのことを句にした面白い年の暮の句。)

大胆に崩るることも白牡丹
朝顔に伸び放題の好奇心
うやむやに老境にあり深む春
春光をたたみこんだる孔雀かな
【山田富子】
(評:四句目、春の光を大きな羽根にたたみこんだ表現は面白い。今まで見たことはない。これはこの人の感覚にて生れた句で、大事にしてもらいたい。次の句に期待します。)

青蔦の堀の風来る道を行く
青蔦や島のお宿のレストラン
カンブキーラ青葉不足を補ひし
鍬引きに畑に出れば羽蟻降る
【畠山てるえ】
(評:三句目のカンブキーラ、今の人にはあまり馴染みないものですが、これはボーボラの芽をつんで油で上げたもの。移民当時はよく食べたもので、美味しい。)

門燈に古き山家に蛾の多し
この夏は螢がとばず一山家
秋のごと水すんで居し一山家
アバカテの青実に今日もさるを見し
【玉井としお】
(評:二句目、例年なら螢がとぶ季節。それが今年はとばない。七十年住んでいる土地、何でも知り尽くした百姓の嘆き。自然の移り変わりに敏感な百姓の嘆き。)

木洩れ日の庭に餌拾うサビアの子
隠し芸にやんやの喝采忘年会
今日天ぷら明日は和物カンブキーラ
【野村康】
(評:三句目、同じ物で料理法が違えば、昨日の物と別な物を食べているような日本料理の特長。)

雨季冷えや上着一枚増したる
ペット犬毛物着込んで雨季の冷え
夜学子に熱いパステス雨季寒し
【矢島みどり】

父親に似し女児丸々天瓜粉
牧場に大敵となるイサーとぶ
カンブキーラ最も旨しとシュシュの芽
【纐纈喜月】

良し悪しを過去に流して年忘れ
天瓜粉乳児の匂い思い出し
移住地のカンブキラも美味なりし
【秋元青峯】

倖せは音立て開き月見草
夕飯は早めに済ませイサ飛ぶ日
和やかに再会願う納め句座
【吉崎貞子】

カンブキラ豊穣の世で子等知らず
久しぶり友と一ぱい年忘れ
それぞれの自慢の料理忘年会
【原口貴美子】

蝉殻の見れば見る程そのまんま
囀ずる声山に届かず谷に消ゆ
初蝶に白い花咲く一山家
【大橋昭子】

サビアの赤をめがけて蝶が来る
旨いよとカンブキーラをひと掴み
うつの人笑顔を見せる年忘れ
【畔柳道子】

牧旱り牛サボテン食べて生き
牛集う飼料サボテン車着く
沖泊る観光船や夏がすみ
【清水もと子】

赤道を越えし汽笛の耳朶にあり
鰐鳴くを聞かむと宿の明易し
縁陰に娘禁煙挑戦す
【猪野ミツエ】

太陽の帽樹の紅葉はじまれり
落葉して早くも芽ぶく帽樹かな
幼な姪ひよこに餌やり芝青し
【三上治子】

早逝の弟偲びの墓洗う
我が町も訪いたる町も花祭り
多彩なる蘭に蜜蜂来るは来るは
【小野浮雲生】

ふくよかに春咲きうれし崑崙花
火酒の友心安さの胡瓜もむ
六十五年異国に俳諧更衣へ
【佐々木古雪】

源平かずら庫裏の小窓に灯がともり
逃水追ひて五時間温泉町へ
坪庭のメノウ風鈴ミニ釣瓶
【香山和栄】

春の泥俄か黒子や騎馬の客
文化の日動く歩道を娘にすがり
惜しまれて逝くも人生大夕焼
【猪野ミツエ】

蛇出会い蟻の巣に会い農の日日
毒蛇を打ちしその日も耕せる
子を持ちし毒蛇を打ちし農の日日
ユーカリの山にのりたる春の月
【樋口玄海児】


短歌 (選者=藤田朝壽)


洋(わだ)二つ共に越えきし友を訪う彼岸桜の咲くカンポス
野辺送り終えて夕べの冷えしるし加速度もちて老いは来向かう
思いつつ終に見舞わず逝きし友の面影たたす風塵の中
玄関におとなう人の声すれば病む腰庇いソロソロと立つ
【スザノ福栄会 青柳房治】

空の餌入れつつく雀にすまぬ気につながれし犬が目をしばたたく
校門を建てるに邪魔と百年樹のフランポヤンは夜伐られたり
パライバの平野の遠近工場のあまた建ちつつ国展けゆく
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

引っ越しは間近にせまりぬ春のラン白く大きな花咲かせたり
アパートの庭歩む人ら米寿と言い卒寿と言いて吾夫(あづま)励ます
健康でぼけないように頑張ろう故郷の友の手紙読みかえす
テレビ無くただ目をつむりている夫が身をもてあますごとく欠伸す
【スザノ福栄会 青柳ます】

訪日せし目に鮮やかな彼岸花並木の土手に吾を待ちいる
乗りかえに六時間まつロービにて歌集「深泉」ありて助かる
再会は叶わぬものと思いしと互いに言いて友と抱き合う
【スザノ福栄会 原君子】

ボンジンニョ三代目とや心地よくかるくゆれつつ上りゆくなり
コルコバードの上に立ちますイエス様よく来てくれたと吾を見おろす
ポンデアスーカに立ちて見はるかす世界三大の美港のひとつ
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

小さき鉢にホロリと咲いた松葉ボタンこんなに寒い南向きの場所で
ブラジルに連れられて来し幼どき日本の歴史を漫画で読みき
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

容赦なく日は過ぎてゆく吹く風に流るる雲を仰ぎているも
日のあたる廊下に並ぶ花鉢の一つひとつを飽かずながむる
【セントロ桜会 井本司都子】

地下鉄の駅に早くもクリスマス・ツリー飾られて人は賑わう
かにかくに恙なく生き来しこの一年老いの日々たわやすからず
【セントロ桜会 鳥越歌子】

何事もゆだねてわれら末の娘に連れられイグアスーの滝に遊べり
翼をば広げしごとく鳳凰樹咲き盛りいるイグアスの町
【セントロ桜会 富樫苓子】

恙なく日々暮らしいる吾なれど気力の衰え寂しく思う
わらべ歌ともに唄えはひい孫は手をふりながらきやきやと笑う
【セントロ桜会 板谷幸子】

ブラジルの師走は暑し療養の身はいつしかに汗ばみている
故郷を遠く離れて半世紀零下幾度の祖国を偲ぶ
【セントロ桜会 上田幸音】

故郷の友の手紙に積雪が一メートル余で炬燵暮らしと
久しぶりに会いたる友は耳遠く難聴同士で声は高まる
【セントロ桜会 大志田良子】

カレンダの残り一枚に印しする三つ続ける忘年会を
接木して幾年を経ゴイアベイラー初生りの実に袋かけいる
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:自ら接木して丹生して育てたゴイアベイラーに初めて実がついた喜び。袋を一つ一つかけている作者の姿が目に浮かんでくる歌。佳品。)

考えても思い出せないこと一つボンヤリとしてなすすべ知らず
いつ知らずこの歳までも生かされてわれながら驚きまた有難し
【ツパン 林ヨシエ】
(評:二首ともよくまとまった歌。特に二首目の歌は高齢の作者の心境が申し分なく詠まれていると敬服しました。「われながら驚きまた有難し」の下の句は上の句を生かして得難い句と思います。)

子や孫と連れ立ちお盆の墓参り今年も果たし心安らぐ
永らえる夫と父母の墓参る子等に守られ生きる幸せ
弟妹も従兄も逝きて身の辺りそぞろさみしき盆の日今日は
鎮魂の流灯リベイラの河岸を寄りてはなれて夢幻のごとし
【プ・ダ・アルボレー老壮会 矢島みどり】
(評:四首とも申し分のない出来映えです。特に第一首目の歌、家族連れ立って墓参を終えた喜びがよく歌われています。)

大ソネのハゼの並木はいま紅葉姪の便りを今日うけ取りつ
菜の花や小麦の出穂にめぐりあうヒバリさえずる小春日の今日
道沿いの小川のせせらぎに歩み止め小ブナすくいし遠き日おもう
屋根よりも高くシューバデオーロの花さけり朝日に耀えば人ら見あぐる
【ツッパン 上村秀雄】
(評:四首とも佳。第一首目、大ソネは〔大蘇嶺?〕漢字で書かれるともっと良くなると思いました。)


海を背に指さす移民像の下一団の人が花束捧ぐ
晩春の黒々とせし野焼あと早も蕨は拳あげおり
父の遺品の浄瑠璃本を紙魚あらし捨つる外なし和綴なりしに
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:三首とも良くまとまっています。それにしても和綴じの浄瑠璃本は惜しかったです。)

年ごとに賀状くれたる友どちも次々と逝き今は少なし
東日本の大災害に義援金をわれ送りしが名を間違はれ
ファゼンダの近くに見ゆるパラカツ川州境へまで蛇行し流る
【バレットス寿楽会 池田正勝】

手術後の経過を調べる医者の眼の様子見ていてわれ安堵する
温かき吾が子の心にふれしとき余生楽しく祝う二人酒
年の瀬は店主も表に現われて往来の人に笑顔で応ず
【レジストロ春秋会 小野浮雲生】

人ごとと思っていたのに物忘れ呆けの始まり老の身を知る
巳年の白寿の男女も健在で新年の歌声高く唄う
【サントス伯寿会 三上治子】

 本年度の宮崎県長寿社会の短歌大会に出詠して、三上さんの短歌が昨年度に次いで入賞。お目出度うございます。
☆ 入賞作品
ひきずって腰を痛めた事故人が車椅子つけて生きいき歩く

歌友の皆様方にはお元気で佳き新年をお迎え下さるよう、お祈り申し上げます。




川柳 (選者=柿嶋さだ子)


年金に不安が募る年の暮
曾孫連れ地球の裏から孫帰省
初対面五世の曾孫ポ語知らず
【レジストロ春秋会 小野浮雲生】
(評:やがてポ語もマスターされることでしょう。)

人生の目覚め嬉しい日の出会い
吾が歩幅弛まず歩む日の努力
論争へ一歩ゆずった日の平和
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:「負けるが勝ち」と言います。己の心の平和が何よりです。)

早や師走賀状ボツボツ書きためる
長生きし子が先に逝く人哀し
娘も高齢親を看とれずホーム行き
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:少し悲惨なようですが、高齢化社会の縮図と言えましょう。)

市町村合併故郷の名が消える
この一票日本の政治良くなれと
乱立の政党に迷う投票者
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:政党と候補者の乱立に投票者の選考も及ばない。

日本丸荒海越える覚悟欲し
付き合い増え支出も増えて十二月
体力と気力で勝負十二月
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:年度の締め括りと、新年への心遣いで煩わしい月。体調に心しながら頑張って下さい。)

任されて胸叩くほど気力なし
悪口を批判をしたと逃げをうち
婆三人寄れば文殊の愚痴並べ
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:菩薩ならぬ婆ちゃん達の愚痴は、あらぬ方へと広がってゆく。)

旅毎に寝つく己に老い思う
歳を経て益々つのる嫌みどこ
重い旅終えてこの地の明を知る
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】
(評:東日本大震災による被災地を訪れて見て、災害の少ないブラジルの地に住む幸せを改めて感じさせられたと言う作者。)

もう師走リベルダーデに幟り立つ
聖市にも自転車道が出来ました
流石コリンチャンス一万人が日本へ
【セントロ桜会 中山実】
(評:クラブ世界一決定戦で見事優勝。一万人の声援に応えてくれました。)

晩酌のワイン長寿の秘訣かも
ドドンと太鼓郷愁の音で鳴る
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:昔、村祭りで聞いた太鼓の音が思い出されます。)

レシピなし目分量です母の味
人柄がにじみ出る文捨てられぬ
胸のうち文に託したのは昔
【サンパウロ中央老壮会 渡辺文子】
(評:そして、ロマンの夢も消えました。)

文鳥が啼けばペン持つ手が速い
一人ぐらい家にも欲しい七福神
捨てる前まず考える使いみち
【サンパウロ中央老壮会 峰村やす子】
(評:「もったいない」の言葉が先に立つ時代を生きた人の考えですね。)

文明の危機急速に温暖化
生かされて時の流れの早さ知る
過去達は我が身失せても生きてゆく
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:擬人法を使ってヒト科の深層をついた妙技、お見事です。)

◎席題「味」 ふみ出題
母さんの味で子らは成長し【清子】
ブラジルの味覚フェイジョアーダ好きになる【清子】
舌鼓打たせる母のかくれ味【余碌】
味を利く掌に一滴をたらし舐め【余碌】
味つけが大事と母に教えられ【富子】
母の味幾つになっても忘れない【富子】
味のある人になれよと父言いし【ふみ】
味わいの深き言葉に涙する【ふみ】

◎年頭吟
新しい年もやっぱりマイペース【ふみ】
新年も軌道修正つづく道【ふみ】
世界一コリンチャンス旗で年明ける【実】


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