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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2013年6月号

2013年6月号 (2013/06/14) 俳句 (選者=樋口玄海児)


母の日や先ずチューリップ買われゆく
母の日のひと日ゆっくり昏れにけり
長き夜や夢なつかしくひとに逢ふ
秋を病むひとへ聴かせるセレナーデ
それぞれに生きて行く顔天高し
【畔柳道子】
(評:四句目、どのような病気か知らないが、句から見たら長い病いの様子。その近くに行ってか、窓辺でか、軽く歌を聴かせた句。秋の季がよく出ている。5句目、人はそれぞれに仕事を持ち、生きている。その仕事によって長くなると仕事の顔が出来上がる。百姓の顔、サラリーマンはサラリーマンの顔が出来上がる。この句は百姓の顔としたい。)

ちぢみゆく老の背丈や大朝寝
病みがちの命大事や大朝寝
帰農してすぐ身ごもりて大朝寝
大粒の星の宿りて木の芽時
ピンガあり鹿肉もある夕餉とて
【栢野桂山】
(評:三句目、若い夫婦が親の後を継ぐため田舎へ帰ったら、気持ちの上からか田舎の良さにすぐ身ごもった句。句が面白いし、このようなことも俳句にできるとは。五句目、評者の好きな句。これも田舎でないとできない自由田舎の句。面白し。)

下校せる鹿の足跡踏み乍ら
メトロ今旧獄舎前露寒し
道草の子等の登る木玄圃梨
シュシウー漬けかめば良き音良き香り
【畠山てるえ】
(評:一句目、雨後など土の道など足跡がはっきりしている山の鹿などよく親仔で畑などに現われ、新しい野菜を食い荒らす。その足跡を踏みながら下校する子供。二句目、獄舎内の暴動があって早や二十数年。メトロで通う人等は知らない人が多いだろう。死者百人余りが出た記事が残っている。その後を見ながら露寒さを感じるとともに何となく思い出している自分の体が震えを覚えた。)

遠征のカラオケ優勝天高し
重なりし夫婦蝗が捕り易し
精薄児の声きき分くるツッカーノ
蝗大群軍隊が出しマ州談
【猪野ミツエ】
(評:一句目、流行りのカラオケ。今度はどこどこの大会。カラオケに凝った人の話、いかにも楽しそうである。老いも若きも。)

森の道鹿に注意の絵看板
赤に青アララ飛ぶ空熱帯林
地球儀の世界は一つ労働祭
雷除け地深く埋めてシュシュウ棚
【森川玲子】
(評:一句目、近郊では見かけないが、奥地に行けばワニなど自然動物の保護地看板などを見かける。特に今は自動車時代、ワニに注意と書かれている。また、日本も北海道などでは牛などに注意と書かれた看板も見かけられる。)

有名なサンパウロの霧今いずこ
喜月画く富士流麗や秋扇
霧女出る噂聞くこの通り
霧襖リベロンピーレス領に入る
【野村康】
(評:三句目、雪女とは聞いたことがあるが、霧女は初めて聞く。私の住む所も四、五十年前は霧が深く、夜など自動車で走るのが大変だった。そのような時に霧女が現われたら、誰しも驚くだろう。これは妖怪として炉話などしたら面白くなるだろう。)

母の日を夫に祝われ有難き
朝夕の冬ざしの野や昨日今日
ピエダーデの熟柿赤の美しさ
【矢島みどり】
(評:三句目、モジの柿も有名だが、ピエダーデ産の柿も有名である。特に果樹類には適地栽培が言われている。まだ日本移民は百年余り。ブラジルの土地を知るためにはもっと時間がいるでしょう。)

木沓蘭貧しき庭を明るうす
肩こりの膏薬老の冬支度
嬰児(やや)の泣き声を真似して軒アララ
なみなみと小さき枡に新走り
【纐纈喜月】

熟年賛歌声張り上げて秋高し
秋耕やポパイのやうな腕を振り
パウリスターノ夜食に牛丼手頃とて
【香山和栄】

無事着の飛機に拍手や秋の旅
秋夕立傘の混み合うバス乗場
秋の日や旅する先の君想う
【小野浮雲生】

靴の紐解けてしゃがむ子園つつじ
秋うらら佇むホ句人に吠ゆる犬
秋高しサッカー場の網修理
【伊津野朝民】

拾い来しクチアを飼いし少女の日
お隣りの屋根猫の仔の育ちおり
吹き降りに屋根なる猫の仔は如何に
【伊津野静】

捨て家具に分封蜂が巣作りと
蜜蜂のむくろの山や沈丁花
時雨るるやコスモス重く頭下げ
【清水もと子】

間引菜を夕餉に摘んでもどりけり
亡き母へ今年の報告柿供え
ラビアータ応接間飾り客迎え
【青柳房治】

山坂を共に越え来て花野かな
ダイヤ婚祝はれ二人花野かな
忘られぬ母の白和アレルイヤ
【青柳ます】

踏切の近くに柿売り集まりし
秋の暮吾が降りたれば空のバス
群牛の列現れし霧の道
【寺尾芳子】

秋冷や谷間の家々灯を点す
解禁の海の匂いの濃き鰯
鶏豚を放し飼いせし秋の蝿
【松崎きそ子】

夕月の草食み満てぬ牧の牛
秋を咲く木朝顔の色と空の色
山丹花枝は少なく花明り
【佐々木古雪】

秋の声聞いて病の薄れゆく
新月の光を浴びて白い花
青首の太きを娘と二等分
【田中保子】

鉄の街人に馴れてる小リス達
熱帯夜明けるやいなや蝉時雨
秋祭り古里モジは吾が故郷
【田中エレーナ】

畑荒す雌鹿子連れで来たりけり
木沓蘭オランダ娘踊り好き
餌をまく子等が呼び出す緋のアララ
【原口貴美子】

ほこらしげえらばれのこる種茄子
森の鹿今日は小鹿を連れ来たる
冬来たる夜具の入れ替え出来上る
【荒田田鶴子】

はやと瓜母の漬物懐しむ
外套の衿立て歩く人多し
久々に衣類虫干し冬支度
【矢野恵美子】

笛の音の如くに遠く鹿の声
種茄子は囲の中で太り待つ
冬支度庭の鉢物見て廻り
【秋元青峯】

母の日に皆で食べたにぎりすし
チュリップ色とりどりで美しく
露の世に九十年の移民吾
【山田富子】

黒雲が広がり海辺は秋時雨
赤い被サンタに似たる流行着
【三上治子】

裸馬にのりて遊べる土人の日
出来秋や馬の嘶き昨日今日
風逸らし暑さ鎮めて今年竹
霧晴れて石山の石顔を出す
暮早し日本語通じる二世妻
日傘樹の紅葉見んとて海に来し
【樋口玄海児】


短歌 (選者=藤田朝壽)


生きるとは残されること月おぼろ二人の弟天界に在り
パイネーラ咲くわが家見え子らも見え楽しそうなり花ふぶくなか
【スザノ福栄会 青柳房治】

王将を唄うマスさんの力ごえ今日のダイヤ婚の喜びに満つ
ダリヤ祭にはるばる来ましし総領事開設以来のにぎわいとなる
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

年明けておくれしお参り花供え姑の墓石に手をおき詫びる
四ヵ月の病いの床のため子さん胸に手をおきお別れを言う
【スザノ福栄会 青柳ます】

ひと言の走り書きにてすむものを怠りしゆえ言い訳おおし
首を横に振りつつわれの顔を見ていたずらをする曾孫いとしも
【スザノ福栄会 原君子】

ダイヤ婚みんなに祝われおふたりは幸せ一っぱい顔にうかべて
様ざまな事も若さで乗り切って今は誇れるふたりの暮し
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

カラオケに「与作」を唄う人のいて流行りしころの福博村(ふくはく)恋し
「今日はどこへも出ちゃ駄目よ」と言いおきて雨傘さして娘は出勤す
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

赤あかとポインセチアの咲く庭に秋雨の降るしずかな夕暮れ
遠き日に養老院で「ふる里」をわれは唄いし老いし人らに
【セントロ桜会 星井文子】
(評:養老院を訪ねて「ふる里」を唄って聴かせたあの頃は、自分も若かったと思い起こしておられるのだ―。中国の詩人・劉廷芝は詠っている。「年々歳々花相似歳々年々人不同」。二〇〇五年九月、横浜市で行われた海外日系文学祭で星井さんの左の歌が理事長賞に選ばれている。「産土の地ははるかなる空の果て阿蘇の煙の見ゆるわが故郷」)

真夜中にテレビをつけて日本のニュースをしばらく見てまた眠る
うら若き少女が煙草をふかしゆく日系なれば悲しくなりぬ
【セントロ桜会 上岡寿美子】

初めての曾孫をかこみ日曜は家族そろいて笑顔のたえず
アメリサと名前を呼びて顔みればかたく手にぎりにっこり笑う
【セントロ桜会 上田幸音】

晴天のつづきて朱き牛蹄花さき盛りいる高き塀ぎわ
月に一度つどい睦みし歌友のひとり鳥越さん逝きただに淋しき
【セントロ桜会 富樫苓子】

沈みゆく今日の夕日をあびながらカニサボテンの花をいとしむ
テレビに見るバラの花はすばらしい作ってみたいあのような花
【セントロ桜会 井本司都子】

躓きの多くなりたる夫となり気をつけいしがまたも転べり
生日を祝いくれたる子供たち紅葉の手をあげ曾孫はビーバ
【セントロ桜会 板谷幸子】

この年も忘れず窓辺のカニサボテンあまたの蕾は五月を待てり
短歌を愛(め)でカラオケに親しみし歌子さん急逝したり九十六歳
【セントロ桜会 大志田良子】

百一歳の天寿全とうされし林さんを歌友の星と讃えぬ
メーデに日会員のゲートボール終わればみんなでシュラスコで祝う
母の日は母への感謝五人の子を寡婦で中等教育受けさせ
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】

牛買いは節くれし手で手ぎわよくピンガを飲みて商談を終う
トラックに牛積みたれど一頭が暴れて乗らずトラットールで引く
雨に泣き雨によろこび農業は昔も今も変らざりけり
牧に出でてまだ働けるを喜べり我は本年九十二歳
この墓地に昔のパトロンみな眠る開拓当時の苦闘を秘めて
【ツッパン 上村秀雄】
(評:四首目の「牧に出でて」の歌佳品。九十二歳になられて元気で働けるのは、毎朝しぼり立ての牛乳を飲んでおられるからだと思います。一度お伺いしてしぼり立ての乳を飲んでみたいです。)

電柱に取り付けられし芥箱が今朝は無惨に壊されている
昨年は六月に咲きしカニサボテン母の日待たで四月に咲き初む
伊国より社用で来たりし三男は事業順調と父母に語れり
母のつくりし料理は久しぶりなりと健啖ぶりを吾子は発揮す
【プ・ダ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:一、二、三の歌よく詠めています。昨年は六月に咲いたカニサボテンが、今年は四月に入って咲き始めたとは随分狂っています。地球温暖化の故ではないでしょうか。四首目、少し手を加えました。)

吾が車、一瞬の間にあてられて向いの壁に二重衝突
九十歳になりたる我に運転を止めよと子らは幾たび言いし
家の前に傷みし本田車停めてあり夕方パパイの車と分かり
【バレットス寿楽会 池田正勝】
(評:年老いてからの運転は危険です。子供さんの言われる事を聞いて下さい。老いては子に従うことが大切です。)

すぎ去りし苦労話は語らずと帰省の吾が子の背をたたきやる
亡き母の一生を偲びしみじみと今の生活(たつき)を吾は感謝す
優勝のカップかかげた日もありぬ今は敬老の席に坐りて
すこやかな四人の孫とプール辺に並んで今日は写真撮りたり
【レジストロ春秋会 小野浮雲生】

環状線の架橋工事の起重機が今朝は杜の上に見る
吾が農地十五アールを接収し縄張り了えて役人は去る
【藤田朝壽】

※哀悼:本誌歌壇の皆様お馴染みの、鳥越歌子さまが去る五月三日、亡くなられました。此処に謹んでご冥福をお祈り致します。


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


財産も借金もなき身の軽さ
アベノミクス国の借金どうするの
母の日も子等の幸せ祈る母
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:汲んでも尽きせぬ母の愛情が伝わってくる。第一、第二ともよくまとまっています。)

母の日がなかった頃の母偲ぶ
八十婆いい娘だナーと一目惚れ
戦中派リサイクル料理はお手のもの
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:この地でもマモン、カボチャの芽、ピッコン、カルル等々、食用にした開拓時代がありました。)

母の日を子等に祝われ苦労消え
孫の顔どっちに似たかと老い二人
孫の指そっと数える心配性
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:お孫さんの誕生おめでとうございます。中句におばあ様の微妙な心ゆきが巧みに表現されました。)

絵手紙も趣味の一つで又楽し
神仏論ずる奥に欲が見え
足弱も口は益々達者なり
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:口は禍の門と言われる。ほどほどに―が望ましいですね。)

美しい嘘に心踊らされ
友が友呼んで親和の輪を広げ
明日よりも今日が大事な道を行く
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:明日知れぬ命、今日のひと日を大事に―と云う作者の心意気に共鳴しました。)

徳利をなでつつ今日は酔うて見る
雨風に耐えぬき心豊かにし
認知症さけたく神に祈願する
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:認知症に絶対にならないという医薬品が早く出るといいですね。)

キタさんの再々選に人寄らず
喧人会静かになって喧連に
熟年と呼び方変えて若返る
【サンパウロ中央老壮会 しんかわ】
(評:呼び方を変えただけで若返るわけではないけれど、気分的に幾分若返るのはたしか―。)

花まつり甘茶をそそぎ手を合わせ
花まつり最終日には花配り
カーレース日本の佐藤氏世界一
【セントロ桜会 中山実】
(評:サンパウロで行われたインディ、カーシリーズで日本の佐藤ドライバーが優勝。カリフォルニア・ロングビーチでも総合王者争いでトップに立ったという。)

豊作でいたしかゆしの積み降し
荷降ろし待つトラックホームの道にまで
積み降ろし出来ず右往左往のサントス港
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:大豆の収穫量が増加する一方で、港湾のインフラ処理は限界に達し、荷降ろしを待つ大型トラックの列がホームの前まで続いたという。ホームから作者が見たサントス港の状況が巧みに表現された。)

別嬪も笑顔なければ五割減
研修は名のみでサッカー観覧す
人の世に笑顔に勝る宝なし
【レジストロ春秋会 小野浮雲生】
(評:笑顔は身心ともに健かであることのシンボルです。)

温泉水飲んでたちまち美人顔
卒寿の友もすんなり展望台
たどり着く展望台に杖忘れ
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:上句と下句のコントラストが佳い。やっとたどり着いた展望台での景観まで、忘れた杖が見せてくれました。)

◎席題「柿」 余碌出題
二日酔い柿を食べ食べ又一杯【しんかわ】
干柿が風にゆれてる農の軒【清子】
渋柿と知らずがっぷり噛(かぶ)りつき【笑】
冨有柿日本移民の心意気【ふみ】
川柳会柿登上で盛り上がり【富子】
柿産地モジの干柿絶品だ【実】
渋抜きを覚え異人奴(め)柿盗む【余碌】


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