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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2013年7月号

2013年7月号 (2013/07/13) 俳句 (選者=樋口玄海児)


主病みほったらかしの蘭の花
タピオカを一度は食べて見たしとて
秋風や足の病いも小二年
病める足庇う格好髪洗う
新ピンガ勇んで句宿せし昔
【伊津野静】
(評:三句目、作者は白寿近く元気でいられます。それでも老いは足からと言われます。最近、皆長生きですが足は衰えが早くやってきます。お大事に。)

生かされて三万四千日老の秋
天の川聖州貫くチエテ河
母の日や亡妻の年忌を指おりて
秋晴れやバイロを結ぶ新陸橋
蛇つけし新酒に太々年月日
【佐々木古雪】
(評:誰しも自分が生きた年数を数えた事はあるだろう。だが、この作者のように日数を数える人は珍しい。成功した句となっている。句の材料はどこにでもあることを教えてくれる。)

女性の日亭主関白も死語となり
今もある美人薄命女性の日
打ちしユダ耕主館へ投げ込みし
認知症の妻も喜ぶ初曾孫
リハビリの折り返し点イッペー咲く
【三原芥】
(評:リハビリの彼。いつもは何にも気にしなかったところに早くもイッペーが花をつけ始めているのを見て春を感じる。リハビリ歩足も軽くなってきた。)

焚火する榾を集める青年会
椿油の商標なつかし寒椿
盆栽に粉う寒木瓜鉢に苔
婦人会で飲むを覚えし玉子酒
接木して紅白咲かせ寒椿
【野村康】
(評:婦人会に出始めの頃は酒には馴染めなかった婦人。そのうちに知人も出来、玉子酒の味を知り、そのよさも知り、疲れたる日など玉子酒を飲むようになった。玉子酒での面白い句。)

モートルの車椅子も来日向ぼこ
冬耕は値の出ぬ野菜鋤き込みて
よくはぜる榾の焚火を遠巻きに
離農者も馳せ参じたり移住祭
【纐纈喜月】
(評:農業を離れて行った者たちも移住祭には必ずやって来て昔話に花を咲かせ、移住地のその後の話など、同じ入植者同士の話は尽きない。)

足病んで句会は遠し秋の雨
句を詠んで静かな余生秋の雨
水涸れて片寄る川に魚群れ
さか上がり入道雲を裏返し
【山田富子】
(評:四句目、子供の頃鉄棒でのさか上がり天と地が反対になる面白さをうまく句にした。思い出を上手に句した手柄。)

北伯の大きな星よサンジョン祭
バス停へ道のり二キロパイナ吹く
日向ぼこ日向に酔いて日向ぼこ
街角の婦人警官日向ぼこ
【森川玲子】
(評:一句目、空気の美しい田舎に行けば、星が美しく見え、星座もよく見える。それで星が大きく見える。大都市では星さえ見えず、北伯の星はさぞ美しかったでしょう。)

新米が馳走の主役にぎり飯
女流ホ句絆大事に虚子祀る
たっぷりとおろしも添えて秋の鯖
青首の横綱めける大根引く
【松崎きそ子】

農を継ぐ人なく秋の空仰ぐ
夫と居て背の温かし日向ぼこ
焚火あと焼芋取り出し子等笑顔
【原口貴美子】

移民当時馬がたのみや冬耕す
玉子酒風邪の薬と飲まされる
冬の蜂昼の気温に発ちにけり
【矢野恵美子】

日向ぼこ犬を左に猫右に
耳遠く世情に疎く日向ぼこ
秋深し何を視つめる窓の猫
【畔柳道子】

猫抱く子仔犬抱く子や庭焚火
冬耕や麻州の大地地平まで
寒木瓜や花の少なき庭の景
【畠山てるえ】

夜業すみ一杯の火酒めし上がる
居眠りの始まっており日向ぼこ
露路裏の焚火の人の笑い声
【秋元青峯】

日かげれば手もと冷たく焚火かな
寒椿早咲きもあり遅咲きも
玉子酒我家みんなでまわし飲む
【荒田田鶴子】

セラードは希望の大地鹿駈けて
二つなき命生き延び冬仕度
老農はつぶしがきかず冬用意
【栢野桂山】

余生とは自由で孤独残る虫
秋の声時を惜しみて暮の庭
新駅はデートの名所冬温し
【田中保子】

枇杷の花退職女性検事住む
母の日や掏模に注意とレストラン
蘭香り師の忌を修す寺小春
【香山和栄】

ホ句案じつつ掃く庭の秋落葉
添え木のまま傾ぐ街路樹初嵐
嗅ぎ乍ら土掻く犬や草の花
【伊津野朝民】

若者や子供の多い運動会
赤みどりトンボ飛び交う運動会
バチを上げかけ声大きく運動会
【三上治子】

母の日に病妻貰ひし冬すみれ
母の日に紅白饅頭娘が作り
日矢こぼし木洩れ日の座車椅子
【青木駿浪】

秋冷宵一人わびしく句集読む
日が射して居ても秋の日冷たかり
寿司祭り太鼓がかりは汗出して
【小野浮雲生】

ウルブーの輪高層ビルに円えがき
生きること楽しブラジル冬めきし
つつじ咲く国に長生きして移民
【杉本鶴代】

まだ生きていたかと握手移民祭
山伐りや男のロマンチエンソウ
ドラム缶の風呂の思い出天の川
【青柳房治】

母の居る炬燵が恋し父恋し
短日や居眠りババは返事せる
カラシナの漬物青き朝飯かな
【青柳ます】

短日のバス乗りつきて終停まで
冷えきりて福耳かくす衿立てて
【寺尾芳子】

白い霧に苺の花の美しき
白い霧に赤いいちごの美しき
ブラジルや熟れポンカンに小鳥群れ
昼の気温ポカポカ狸々花燃えて
【樋口玄海児】


短歌 (選者=藤田朝壽)


派遣隊見送る幼の泣く顔に哀しみ重なる父の逝きし日
孫の釣りし八キロのマグロこの婆が大わらはにて料り終えたり
亡き夫に大相撲の喚声聞かせむと部屋のテレビのボリューム上げる
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

ブラジルに行くとて母を悲しませし昔を偲びダイヤ婚祝ぐ
もの忘れはボケではないと思いつつ歩める道に霧がかかれり
在りし日にうまき白和つくりたる母を偲びぬ今日は命日
【スザノ福栄会 青柳ます】

玩具にもテレビにも飽きし孫つれて息子は狭庭で犬と遊ばす
苦瓜の調理のコツを教わりて今日は作らん思いにはずむ
老境をこぼしし祖母のひとり言しみじみ思う齢となりぬ
【スザノ福栄会 原君子】

叔父叔母もともに達者と書いてあり久方ぶりの日本の手紙
ブラジルと日本で育ちし歳月を叔母に語りし訪日の日よ
思い出は楽しきものよもの書けば胸に満ちくる様ざまなこと
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

病む脚を曳きて帰宅す娘の居間の電話をとれば友の訃を告ぐ
夕立にあわてて着きしメトロ駅気を取りなおし吾は杖つく
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

紅(あか)き地に鶴の舞いとぶ柄模様布団のぬくもりたしかめて寝る
採りたての真白き大根の「ふろふき」は母の自慢の鍋物なりき
出逢うたび転ばぬようにと挨拶す互に九十歳こしたるふたり
【セントロ桜会 上岡寿美子】

静かなる吾が臥す部屋に突然に鳥越さんの訃報を聞きぬ
おだやかな鳥越さんの美しき歌声耳に残りておりぬ
楽しみの月一回の歌会にも出席できず老いゆく吾は
【セントロ桜会 上田幸音】

うら若き母のかいなの幼子を見れば曾孫をわれは夢見る
その昔(かみ)の友遠く住み新聞に載るわが歌を読みているとぞ
今日ひと日護り給えと先づ祈り朝のカフェをゆっくりと飲む
【セントロ桜会 富樫苓子】

想えども遥かに遠い古里は花の便りも無きままに過ぎ
いつしかに歳月流れ老二人何する事もなく日は過ぎぬ
初曾孫の顔も見られてこれ以上欲張れないと思うこの頃
【セントロ桜会 板谷幸子】

冬到来ここサンパウロの朝夕は重ね着しても寒さ身にしむ
老人会改め今は熟年会刻字の見事な表札掲ぐ
旧友の愛情あふるる便り受け返信書きつつ涙とまらず
【セントロ桜会 大志田良子】

ドアソンのコロニヤ豊か大家具が置場所もなくバザーに出せり
知らずに乗る百戦錬磨の口ぐるま家庭崩壊自殺者ふえて
ユニセフの親善大使トットちゃん三十ヶ国の貧しい生活紹介し
毎日の肉の料理にあきあきすあっさり味の日本食うまし
献立ての寿司の数々味もよく味噌汁ありて日本食うまし
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:見たもの聞いた事何でも直ぐ詠める方。四、五首の歌佳。肉づくめの毎日では外人ならいざ知らす、日本人は飽きあきします。日本食が欲しくなる気持ちがよく分かります。味噌汁は日本人には欠かせない物。一椀の味噌汁で元気をつけて佳い歌を作って下さい。)

庭の木にしばりて根づきし胡蝶蘭幾種も咲きて人の目をひく
花好きな祖母の土産に女(め)の孫は鉢植え持ち来(き)窓に飾れる
砂糖水で冬場を越さす蜜蜂の巣箱をビニール小屋に移しぬ
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:蜜をとり過ぎたのであろう。食補給のため、砂糖水を作って蜂をいたわるこの心がけがいい。ビニール小屋に入れられた巣箱は寒い冬の風に当たらないので蜂はよろこんでいる事と思う。)

秋雨の寒冷止まず冬隠り再読たのしむ梅崎歌集
晩秋の三日続きの雨上がり冬着重ねてフェーラに急ぐ
短日や何なす間もなく日は過ぎて明日は明日と日は経ちてゆく
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:二首目佳品。三句中止法、下句「冬着重ねてフェーラに急ぐ」と詠まれたので冬到来を思わせ、佳品となった。)

さわやかな朝のひと時軽快な楽で始まるラヂオ体操
高齢化社会の記事を見る度に吾等夫婦の行く末おもう
去年今年逝きし多くの友ありて吾が身のことも思わるる日々
【レジストロ春秋会 小野浮雲生】
(評:一首目、佳。「軽快な楽で始まる」と三、四句を詠まれたので、ラヂオ体操が目に見えるようだ。)

昔なら六十手習い今時は卒寿で短歌投稿始め
卒寿でも用事を人にたのまれて未だお役に立てる喜び
朝起きてトイレで小用吾れながら勢いよくて気持の良さよ
【バレットス寿楽会 池田正勝】
(評:三首ともよく詠めている。特に三首目の歌は「吾が意を得たり」と言いたい。古川柳に「朝魔羅の立たぬ奴には金かすな」とある。池田さん、この元気なら百二十歳まで生きられます。)

祭日の雨静かなる昼下りタイタニックのテレビに見入る
晩秋の今日は恩師の三回忌日差しぬくとく人ら集(よ)り来る
亡師の忌に杖ひく俳人多かりし朝蔭守る寿和師のめぐり 
【プラッサ・ダ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:三首とも佳。一首目、タイタニック英国の客船。四万六千三百二十八屯。一九〇一年、ニューヨーク港に向け処女航海中、沈没。乗船者二二〇八人中、一五一三人の犠牲者を出した史上最大の海難事故とされる。〔流氷山に衝突、国語辞典より〕)

溌剌と制服姿のスチュアーデス正に離陸のわが日航機
本箱の古本整理に目にとまる昔なつかし雑誌「キング」は
前足でふんばる牛の尻に当つ電気ショックでトラックに乗せる
【ツッパン 上村秀雄】
(評:三首目の歌、類型歌がなくて新鮮です。くるまに乗るまいとして足をふん張っている牛を電気ショックで乗せるとはよく考えたものです。面白い歌と云いたい。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


頑張れと後押しされる日の感謝
川柳と出会い七十年夢と過ぎ
東天へ描く夢から句が生まれ
川柳の出来る歩幅で登る坂
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:作者は残り少ないブラジル川柳の草分けのお一人である。熊本の噴煙吟社の同人としても長年活躍。噴煙年間賞等にも数回にわたって入賞されている。今年も「移り来て夢を育ててくれた国」が平成二四年度ふんえん賞に入賞された由。パラベンス!)

出すものを出さず名前を上げる気か
解ってはならぬ神には近寄らず
脛(すね)かじり忘れた頃に顔を出し
大言壮語土壇場に来て間に合わず
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:土壇場に罷り出るには力不足であった。)

体罰は毎度のことでたくましい
おのろけは花よりだんなの物がたり
突然の老いが傲慢目覚めさせ
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:人ごとではない我が身の老いを知った時のショック。下句のまとめ、お見事です。)

畑仕事老いの悩みも埋めていく
難聴の話はいつもずれていく
ねじ巻きのような人生老いて知る
【インダイアツーバ親和会 早川正満】
(評:「ねじ巻きの人生」とは言い得て妙。)

長寿でしっかり者も呆けてくる
早や卒寿先ずはめでたいことにする
呆けもせず卒寿祝って貰う幸
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:ご卒寿おめでとうございます。ご健康第一にこれからも頑張って下さい。)

逝きし句友偲び一周忌の焼香す
秋ふかみ一人寂しく句集読む
遠くとも歩くと決めた一万歩
【レジストロ春秋会 小野浮雲生】
(評:千里の道も一歩から―。急がず焦らず一歩一歩に心して―。)

孫自慢したくなる子の十七才
愚痴を言いそして愚痴聞く人がいて
一人分二人で足りるレストラン
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:「年よりの茶碗小さいものと決め」、そんな句があったのを思い出しました。)

エベレスト登頂果たした八十才
特大のニシンの塩焼きみな笑顔
とりあえず今日も笑顔で過ごしたい
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:今日も明るい一日となることでしょう。)

リベルダデ街すずらん燈に個性あり
長寿国日本民族世界一
冒険家三浦老人ギネスブック入り
【セントロ桜会 中山実】
(評:史上最高齢、八十才で世界最高峰〔8848メートル〕エベレスト登頂を果たした三浦雄一郎さんの快挙は世界の目を集めた。)

秋空のように澄んでる子供の瞳(め)
日向ぼこ母に抱かれている気分
家守りは俺の仕事とポチが吠え
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:俺の出番とばかりに吠えしきるポチの描写と、ユニークな発想が秀れている。)

少しずつ酔うた気分で徳利なで
松みどり孤独の塔のひとりごと
携帯でこなせる範囲は時間だけ
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:「今、○時のバスに乗るからね。○時にはそちらに着きます」といったぐらいのところでしょうか。)

傘ひとつそんな小さな幸が好き
生かされて時の流れの早さ知る
呼び出しと行司と塩は日本製
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:国技と言われる角界の現状への諷刺である。多数の外国人力士の進出で、日本人力士が次第にうすれていく事への一抹の淋しさが諷刺に籠められている。)


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