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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2013年12月号

2013年12月号 (2013/12/13) 俳句 (選者=樋口玄海児)


丈揃うユーカリ林の風は夏
吾れ合掌子等十字切る墓参り
吾が健康七十五点更衣
夏の月ビル裏明るく登り初め
【佐々木古雪】
(評:サンパウロ奥地を旅していくと、ユーカリを切りし後がユーカリの丈が美しく揃っているのに驚く。これは自然の美をうまく写生されていることに驚く。三句目、作者は九十を過ぎておられると思うに、このように若々しい句を発表されてことに選者として元気付けられる。)

聞き役に廻りてやさし夕端居
端居して風の噂さを耳にせる
フィナドス遺影はいつも微笑んで
マラクジャの花珍しを撮さるる
【畔柳道子】
(評:二句目、二年前、福島原発事故で風評の言葉が流行している。それに似ている言葉を使ってうまく句にした面白い句となった。)

麗や孫の新居を見て来たり
蜂巣焼く宇宙服めく装ひで
バイヤより良き家族見え新農年
子沢山の句が入選よ念腹忌
【猪野ミツエ】
(評:一句目、天気の良い日に孫の新居を見て満足された句。何でもない句に見えるが、自分の血の流れの孫の新居を見て満足した句。麗やの季がよく出ている。俳句は季が大事だから、季をよく選ぶことが大切。)

今年又恙なく夫と墓参かな
子と孫の墓並びおり供花あふれ
流灯の寄りつはなれつ流れけり
我が家の先祖供養や流灯会
【矢島みどり】
(評:二句目、涙を誘う句。移民初めの墓であろう。このような墓に立てば移民初期を思い出しては涙がひとりでに出てくるでしょう。)

移民史に残る歳時記牛童子忌
サビア聞く亀の甲めく岩にのり
ブラジルの野蒜辣韮と似たる味
【香山和栄】
(評:二句目、人々が言っている亀の岩にのり有名鳥サビアの囀りを聞いた句では珍しい。サビアの声もさぞかし美しい声で鳴いてくれたことでしょう。サビアの句では上等である。)

ワラビ取り夢中でつんで時忘れ
面白く両手に一杯ワラビ取り
健康食蓬も入れて菓子作り
公園の宿りし蘭の花を見る
【三上治子】

古米をとげば殻象浮いて来し
甘くして女性にすすめマラクジャ酒
脚細き老人夫婦半ズボン
塀を乗り出して血葉木の庭
【纐纈喜月】

竈巣鳥砂蹴飛ばして交るかな
パルミット椰子種貰う喜雨の中
何もする事はなくても喜雨来る
【長谷川ふみを】

欠席も詮なき老の念腹忌
白靴をはくことなしと妻病める
十字星仰ぐ安堵の余生かな
【伊津野静】

ゆく春や持病と共に老ひにけり
葉桜や花の日語る異人かな
春落葉幹のらくがき一と廻り
【伊津野朝民】

ジャポチカバ幹より真白き花つけて
満開の花ジャポチカバ幹かすみ
保護色に隠れて太りし大毛虫
【清水もと子】

半ズボンはちきれそうな尻ふって
古里に憩えば匂ふ時計草
海岸を並んで闊歩半ズボン
【原口貴美子】

風薫る少しはなれたる坂の道
春寒しくびにひんやりネクレス
低く舞ふ蝶追いかける三輪車
【山田富子】

日帰りの近郊巡り半ズボン
雷に河岸のボテコに人溢れ
血葉木館の地下の奴隷部屋
【畠山てるえ】

キンタールに半ズボンの母ネギ植える
孫の自慢やまぬ端居に加わりぬ
友の売る花買って詣ずフィナードス
【野村康】

紫陽花や夕立ちに映えて色清か
我が庭に清かに映える紫陽花ぞ
雨蛙ゲロゲロゴロロ夕立待つ
【宇野博】

店閉めて寛ぐ一服端居かな
マラクジャのジュース一杯鎮静剤
ハンモックマラクジャ棚の日蔭よし
【秋元青峯】

破れ靴に入る砂こぼし秋深む
夏の虹後の世に続く彩七つ
師の旧居跡見て今日は念腹忌
【栢野桂山】

端居してははの晩年貧しかり
雷鳴の池面をゆすり去りにけり
雨蛙はたと鳴き止み雨来る
【森川玲子】

犬の墓夏草分けてお参りし
風鈴の短冊替えて風を待つ
春愁や連日続く暴力デモ
【田中保子】

クリオーノ囀り今朝は風の音
クリオーノ囀り今日は滝の音
クリオーノ囀り今日は波の音
鶯の声に勝りし朝サビア
雨の降るごとく囀る森のあり
明け易し五十五年瞬く間
【樋口玄海児】


短歌 (選者=藤田朝壽)


風邪に効く金柑を煮て持ってきし友あり今日の福博歌会
リハビリの為に小さな鶴を折るこのひと時を楽しみとする
生かされている喜びにいそいそと万歩計腰に朝をいでゆく
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:房治短歌は定評がある。生かされている喜びに「いそいそ」とがよく効いている。)

ため子姉の君子蘭の苗のようやくに毬と咲きたり花二十まり
ウィーンの合唱団の少年ら被災地に来て「ハナハサク」を歌う
教会の時報の楽が鳴り渡りスザノの町に灯が点り出す
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:当たり前のことを詠っているのだが、五句の「灯が点り出す」で詩情がある。)

街角のイッペの花が咲きさかり夫とふたりで行きかえり見る
アパートの友の飼いいる小鳥らし朝早くより春つげて鳴く
恒例の日本祭の会場で二年ぶりに友と出合いぬ
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:街角のイぺーは今花ざかりである。夫とふたりで行きかえりに立ち止まって見る花の美しさ。観賞してもらってこその花である。)

歩くには不自由な夫よ一病は息災と云うことばぬくめん
風邪気味の身をいたわりて小雨ふる今朝の体操やすむと決めぬ
嫁ぎ来て四H運動に熱中の夫は頼めずひとり麦ふむ
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:歩行に不自由な夫をいたわる妻「一病は息災と云う言葉ぬくめん」はいい。柳に雪折れなしと云う。ご長命を祈る。)

先生と呼ばずにくれと言われしが吾には優しき良き師でありし
元日は吾が歌の師の誕生日賀状空しく師は逝きませり
浮かびきし思いをそのまま書きとめて三十一文字になりてほほ笑む
【スザノ福栄会 原君子】
(評:先生と呼ばれるとこそばゆい感じがするのである。先生と呼ばずにくれと云はれたは酒井師か、それとも米沢師か。その詮索はいらないやさしい先生であった。そして教え方が上手であった。)

連休の帰省待つ母よりの誤字なき手紙が文箱に古りて
コンクリの歩道の亀裂のペーデガリン二ャ削れど枯れぬ農の日おもう
吾が持たぬ音域のなか啼きており軒に吊しし籠のアラポンガ
【サンパウロ中央老壮会 野村康】
(評:三首とも佳。但し、三首目の歌「籠」が脱字であった「要注意」。「音域の中、啼きており」はいい。)

為(し)たきことあまたあるのを良しとして雑用次ぎつぎ片付けてゆく
いただきし山百合居間に華やぎてさながら園に居るがに思う
曇り日に啼く山鳩の声きけば吾が遠き日の思い出かえる
【セントロ桜会 富樫苓子】
(評:山鳩の啼く声は独特な味わいがある。その声を聴いていて遠き日の思い出をよみがえらせている作者。)

台風や地震津波と竜巻まで日本列島おだやかならず
久しぶりに合えばつきせぬ旧友とデパートの椅子に二時間あまり
青春を北朝鮮の平壌で生きながらえて今はブラジル
【セントロ桜会 大志田良子】
(評:朝鮮、日本、ブラジルと三つの国を知る作者は今、ブラジルの地に在って平和な余生を送って居られる。カナンの地をブラジルと決めて移住されたのは賢明と云いたい。)

夫婦して月々貰う年金は命の綱と養国に感謝
盆供養に聖経読誦一斉に香煙ただよう教会の午後
盆参りの孫子かえりて今日は雨ピーリャ切れたとカーマに寝ころぶ
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:盆詣りに孫子が帰ってきてピーリャ切れたといってカーマに寝ころんだのは少年らしくていい。)

娘らと一日遅れの盆参り夏日さわやか供花満ちあふれ
手入れよき霊園に吹く風暖かし夏日を浴びて立ち去りがたし
老いていま夫と墓参に連れ立ちて身に余る幸せ神仏に感謝す
父母弟妹孫子の眠るパース霊園紫の花咲き満ちてあり
いつの日かわれも眠らん霊園に緑あふれて小鳥囀る
【プ・ダ・アルボレー老壮会 矢島みどり】
(評:五首とも佳。しみじみとして胸を打つ歌。)

日本移民百周年に市議会より代表者として褒賞受ける
移民祭にブラジル人もヤキソバの味を覚えて大勢あつまる
九十年過ぎし年月ふりかえり神の加護ありいまだに元気
【バレットス寿楽会 池田正勝】
(評:ヤキソバの味を覚えた伯人達に感謝したい。そのお陰で日本祭は大賑わい。ヤキソバ係りの人達は腕に縒りを掛けて作るので注文は殺到し、うれしい悲鳴をあげて汗だく。日本まつりもヤキソバも此処ブラジルに定着した。何と云っても有難い。)

▼私の好きな歌(本年度の全伯短歌大会作品より抽出 藤田朝壽)

移住する我を見送り立ちつくすあの日の父にただに詫びたき     【金谷はるみ】
対岸の山焼く煙湖を渡り昼幻のごとく来向かう           【寺尾芳子】
ようやくにまとめし一首の短歌に足り夕べひとりの米とぎいそぐ   【山岡樹代子】
街の灯のとぎるるむこう何もかも埋めるほか無き闇が広がる     【多田那治】
若き母幼なを抱きわれに手をそえて車道を渡りてくれぬ       【富樫苓子】
鍬担ぎ文読むイタリア移民像花スイナンに囲まれて立つ       【纐纈蹟二】
ペルーからアルゼンチンをめぐりきし明治の旅券棺に納む      【神林義明】

▼椰子樹誌三五八号より抽く(五首)
コリンチャン勝てばただちに日本の吾子は電話でバンザイと言う   【富樫苓子】
いつ逝くも歳に不足もなく生きて未だ見果てぬ夢の数々       【山岡樹代子】
持ち時間いかほどあるや今生のこころに沁みる一首詠みたし     【山岡樹代子】
きっかけは二十センターボのグレーベから遂には医師らも改革を叫ぶ  【野村康】
たわいない諍の元たぐりなば御飯ひと粒こぼししことに       【武井貢】


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


泣き笑い泣くこと止めた日に出合い
弱音から人生悟りの夢を見る
浅学も趣味に努力を積み重ね
人生路北指す磁石に迷いなし
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:この磁石は絶対である。この磁石に副って生きて行くのみ。)

少し抜けたとこが有って敵がない
打てば響く心境今も秘めており
嫌み聞き流し低頭寄付集め
膏薬を貼って年寄り臭くなり
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:消しようのないサロンパスの匂いは、それとなく老人を感じさせてしまう。)

大自然人間などは砂の粒
陽気さが軽い人だと評価され
仲裁のつもりが事を大きくし
手にとって軽い財布を思い出す
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:「あっそうだ。これを買うにはお金が足りないんだ。又この次にしよう」誰でもよくあることです。)

ひとりずつ老いの身けずり軽くする
盆供養墓参出来ぬ身ホームにて
盆日和墓地で旧友に出会いし日も
無軌道の不和雷同のデモ続き
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:抗議デモはいいとしても、それに乗じての暴動行為は目に余るもの―。)

おはようのひと言今日も元気湧く
七転び八起きで過ぎし七十年
色黒は七難すべてさらけ出し
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:色白の逆をとっての諷刺。お見事です。)

日本人船長宇宙へ船出する
もしかして今が青春熟年期
幸せは足下にありすみれ咲く
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:日常気付かない小さな幸せを、すみれに例えた表現力、流石です。)

命守る動作獣も変わらない
バス通路自由になったサンパウロ
日本の戦後学力世界一
【セントロ桜会 中山実】
(評:この国の学力低下が思いやられる。)

風起こす力を溜める日向ぼこ
懸命に生きて過去など問わぬ日々
返事してくれる人いる幸福度
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:返事してくれる相手がいることの幸せを噛みしめる作者。)

高齢者血圧剤持ち日本旅
富士山はみやげ物屋がじゃまをする
夫と行く訪日前の旅疲れ
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:旅立ちへの気遣いは疲れるものです。機内食をいっぱい食べてゆっくり睡眠をとるように心したいもの―。)

二枚舌使い分けてるうちが花
立つ腹を横に出来ないこの世相
ゴマすりもそこまですれば才能か
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:胡麻すりにも得手不得手があって、その方の才能に長けている人にはかなわない。)

こせこせと出歩く趣味に生かされて
認知症こわくて趣味の独楽(こま)廻す
熟年も高齢もない趣味仲間
足早に迫る老化と鬼ごっこ
こころして日々積んで行く余生坂
馬(午)の年再度会う日のあるやなし
【柿嶋さだ子】

◎席題「汗」 鈴木ふみ出題
汗顔の至り無学をさらけ出し【笑】
何回もシャツを着かえる汗っかき【笑】
汗涙流した移民開拓期【清子】
汗なみだ流した日もある子育て期【清子】
手に汗をにぎる相撲に早起きし【ふみ】
汗しとど移民人生泣き笑い【ふみ】
寝汗かきのどうるほしに床を出る【実】


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