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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2014年1月号

2014年1月号 (2014/01/11) 俳句 (選者=樋口玄海児)


伯人女の足美しき半ズボン
事故に逢い神の声聞く星涼し
俗に住み俗にはなれて老涼し
危げな左包丁西瓜切る
パパイアも杏も鼡に食われけり
【三原春風】
(評:町を歩いていると伯人女の足が美しいのが目立ってくる。初夏、年老いた春風さんも目が覚める気になられた。まだまだ若さがある。二句目、彼は何カ月か前に事故に逢い、大変だったらしい。その時に神の声がしたようだと言っている。良くなられてからも、その神の声が耳から離れられない句。面白い。)

日本名の紫君子蘭とはこれか
敷物の牛皮を買いて牛馬市
除夜競走八十翁も完走す
念腹忌遺影を拝して座につける
忘年会音痴の唄に湧く拍手
【纐纈喜月】
(評:今では長生き時代になってブラジルでも八十歳の人が例のサンシルベストを完走したニュース。惜しまない拍手が湧いたことだろう。三句目の念腹忌、今は念腹先生を知っている人は少ないでしょうが、その念腹忌に写真を拝して座についた句。美しい句。)

行水に幼児の伸びに母の笑
卒寿越え除夜の鐘の音しかく聞く
老境の除夜の祝いを幸とする
尺取虫一歩一歩をくの字型
【秋元青峯】
(評:二句目、卒寿になられ、まだ耳目が達者とはおめでたい。しかも、除夜の鐘をしかととらえた。いつまでもお元気で。)

年忘れ出席さえも忘れしか
打水や喧嘩の子等にホース向け
ポ語の師は四つの坊や火とり虫
老いて尚人生前向き聖樹たて
【野村康】
(評:四句目。老い人に見られたくない生き方、素晴らしい。移民は老いてますます元気。見習うこと大いにある。)

庭桔梗今日を寿ぐ濃むらさき
花のあと花ともまがふ実の生る木
夏に咲けば夏菊としてホ句を詠み
鋏鳥の優雅な姿見て飽かず
【伊津野静】
(評:三句目。ブラジルは四季がはっきりしない国で、句を詠む場合などたびたびある。しかし、こう詠まれるとはっきりするし、また出来上がりも良く、これを詠む人もよく分かる。)

むらさきの相合傘や春の雨
明るくて止みそうもなし春の雨
春昼や句帳を閉じて大あくび
【伊津野朝民】
(評:一句目。百才の朝民さんは心まで若い。むらさき相合傘とは、全くの気の若さに驚く。いつまでもこの気持ちでいてください。)

猫用の餌を買ひに出る年の暮れ
それぞれの笑顔が集う年忘れ
食べることやっぱり楽し年忘れ
【畔柳道子】
(評:三句目。年の暮れの女同士の話の中味は、やはり食べる話。会話をそのまま俳句にした手柄。どこにでも句は転がっている。)

持ち寄りの自慢の馳走や忘年会
年の瀬や貧しさ云はず生きて来し
身の回り穏かなりし年は行く
【矢島みどり】

咲き誇る薔薇の鼓動を聞く日和
生きてゐる老の至福や更衣
南天の若葉を添えてお赤飯
【青木駿浪】

アガパンサス小さき庭に咲きあふれ
めづらしい料理集まる忘年会
年一回飲めぬ酒飲み年忘れ
【原口貴美子】

除夜の鐘良しも悪しきも流し去る
悪しき事忘れたまいし年忘れ
年忘れ忘れてならじ良き思い
【宇野博】

百日紅盛りの花に日でり大
日本の残りし大皿夏料理
夏大根すり残りしは味噌汁に
【佐々木古雪】

花土産あじさい祭の山下りる
朝顔や土も屈きて種を蒔く
忘れいし彼岸花咲いて十一月
【清水もと子】

ブラジルは美しい国島残暑
各々が自然大事に島残暑
早々とクリスマスツリーはなやかに
【三上治子】

街灯に金銀吹雪火蛾の舞ひ
尺蠖虫腕に這はせて男の子
尺蠖を見て泣き出せし女の子
【畠山てるえ】

信号は鳥居の模様街薄暑
忘れてはならぬ人あり年忘れ
夏めきて新こんにゃくの刺身とは
【森川玲子】

万緑を絞り大河の流れかな
うやむにや老境にあり深む春
大胆に崩るることも白いバラ
【山田富子】

朝刊紙見出しだけ読む夏時間
我が町の名物行事流灯会
年新た伝統文化の松竹梅
【小野浮雲生】

新米のお焦作らんと釜を出し
鉦叩き荒れたる庭に潜みいし
火焔樹の花の明りの移民墓地
【田中保子】

マンジュバの刺身大根おろし添え
搗きたての餅を並べし新筵
豆餅搗くなまこのままに整えて
【香山和栄】

夏来る此の日のためにダイエット
墓参とはこんなに晴々するものか
弘法の滴り枯ると国だより
【猪野ミツエ】

クリスタイスの囀り鳥の美しき
豚去勢すみし三人ビールくむ
クリスタイスの裾野の川に螢見る
昔昔金掘りし山囀れる
百年夏木千年夏木涼しかり
【樋口玄海児】


短歌 (選者=藤田朝壽)


珍しく春の大空夕映えて口ずさみゆく夕焼け小やけ
暖かき日差しの下に花の種子蒔く老い妻の若やぎて見ゆ
生きている限り無欲になりきれず老いて夜学の教壇に立つ
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:児童かまたは少年少女に日本語を教えて欲しいと頼まれたのであろう。月謝もわるくない。まとまったお金が入ればナタールに孫たちに小遣いを奮発することができる。「老いて夜学の教壇に立つ」は力強い言葉。秀歌。)

添い寝せし夫が起き出で着替えする夢に覚めたり空し部屋内
上岡さん土佐の話がしたかった北見志保子の歌碑のことなど
ヘソの緒もまだとれぬよな赤児抱き医者通いする伯人若妻
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:一首目、孤閨のさびしさを「空し部屋内」と詠まれたので胸を打つ作品となった。)

念腹忌旧き俳人の顔見えず寂しさの増す世代を思う
念腹忌に娘に送られて出席し無沙汰を詫ぶる先生方に
孫ふたり大きく育ち爺ちゃんは顔ほころばせ上機嫌なり
孫ふたり連れて爺ちゃんに会いに来し息子等とすごす日曜のアパート
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:四首とも難なく詠めている。特に第一首目の「寂しさの増す世代を思う」は我々の共通の思いと言いたい。)

吾の手の甲をつまんで立つ皺を首をかしげてくり返す曾孫(まご)
おぼつかなき歩調であれど娘や孫は盆の墓参に吾を誘(いざな)う
わが思いはるかに越えてコスモスは初夏の日差しにきおいよく伸ぶ
【スザノ福栄会 原君子】
(評:幼な児にとっては手の皺を見ても不思議でならないのである。「首をかしげてくりかえす」がいい。)

足首に十月ついたち白糸(いと)を巻くころばぬまじないと言うを信じて
猫好きは猫にもわかり歩みきて吾が膝の上に乗りて眠れり
今は亡き清谷益次の印のある歌書をいただく短歌に励めと
花園の中を歩める猫のいて呼べばわたしに近づいてくる
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:四首目、何の技巧もなく淡々と詠まれていて詩情がある。それは「呼べばわたしに近づいてくる」にある。)

カラオケとポ語に若きと交わりておれば老の身わすれて過ごす
アスパルゴに酢味噌を添えてすすめ呉るるクニャーダは伯人何をか言わん
久し振りに話す日本語忘れがち一つの熟語おもい出だせず
【サンパウロ中央老壮会 野村康】
(評:年老いても若い人達と交際できるのは何よりの幸せである。羨ましさを感じました。)

土砂降りの昨日の雨も上がりたり今日はめでたいアパートの落成式
晩婚の娘なりしが子宝に恵まれ生(あ)るるをひた待ちている
新しきアパートにはベルソも入れてあり生(あ)れくる子をまつ母となる娘(こ)は
日本名もあったが良いとぢいちゃんが名付け親にて其の名はムサシ
ムサシとはエスピリットでサムライと言えば喜ぶ異人婿殿
【プ・ダ・アルボレー老壮会 矢島みどり】
(評:三首の歌佳品。新築のアパートには新品のベルソも置かれ、生まれくる児を待っている。具体的に詠まれていて、愛唱するにふさわしい作品です。倦まず弛まず作っているうちにかならず秀れた歌ができます。人様の心に残る歌を一首でも良いから作りたいものです。お互いに頑張りましょう。)

十二月雨降り寒くなりたれど蝉は違えず鳴きそめにけり
時折に兆す悲しみゆえ知らずこれが老ゆるというものなるや
【セントロ桜会 富樫苓子】
(評:二首目、老を詠って珍しい歌。このように詠まれると、なるほどとうなづかざるを得ない。)

沈丁花の香りは忘れがたかりき此のブラジルに住みておれども
めぐり来し秋日おだしく朝日差す椅子にすわりて通る人見る
【セントロ桜会 井本司都子】
(評:沈丁花の香りをなつかしむ作者は、九十四歳の誕生日も間近い。井本さん独特の落ち着いた詠風。)

藤田さん教えの通り料理して郷愁さそい蕨おいしく
朝顔の五年も前の種子ありて蒔きてみたれど芽生えざりけり
【セントロ桜会 大志田良子】
(評:ワラビ好きな作者は岩手出身。下句「戴きました」が省略されている。ワラビを煮る秘訣は原君子さんの所で教わり、大志田さんに私が伝授しました。)

台風が日本列島を通過するたびに気になる独り住む兄
突然の夫の入院に戸惑えり付き添いできぬ吾も老い人
【セントロ桜会 板谷幸子】
(評:日本に台風があるたび兄を気遣う作者。遠く離れて暮していても兄妹愛に変りはない。)

薪を焚き移民列車は枯野行く見知らぬ異国の夕暮れ時を
卒寿まで元気で生きし移民われ過去の八十年はドラマのごとし
口紅もお白粉ひとつ刷(は)くでなく子育てに生きし移民妻たち
【ツッパン 上村秀雄】
(評:薪を焚く移民列車、回想の歌。「夕暮れ時を」と詠ったので、歌が生きた。)

ブラジルの師走は猛暑日は長く半世紀住めど暑さに堪えず
老人会の三人の友が今年逝き減りゆく一世涙の黙祷
宇宙船の船長となりし若田さんリーダーシップのあふるる笑顔
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:三首目、テレビ取材の歌と思う。この作品、難なく良くまとまっている。宇宙船の船長に選ばれるとは容易なことではない。結句「あふるる笑顔」と結ばれたのは、さすがと言いたい。)

バレットスの荒馬牛のお祭りは他の市(まち)からも三万の人
お祭りの荒馬牛に乗る人はとつ国からも来て賑わえり
バレットスのペオン祭りの盛大さこの催しは十日つづけり
【バレットス寿楽会 池田正勝】
(評:バレットスのペオン祭りは、もしかすると世界一のペオン祭りかも知れない。一度行って見たいと思いました。池田さんの歌を一読しただけで心が躍ります。荒馬の天秤揺すりを乗り鎮め星野瞳)

手から手へ渡り歩いた流通紙幣紙幣の消毒聞いた事なし
慣れずして自由のきかぬ車椅子老クの川柳に誰か詠みいし
ホームにもクリスマスツリー飾り付け中国製らし華やかに見ゆ
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:人手から人手に渡った紙幣の消毒は聞いた事がないと詠まれているが、確かに其の通りである。)

※沈丁花について
【本名】じんちょうげ(瑞香)【別名】沈丁花。輪丁花【原産地】中国。
 古来、中国では文人墨客はもちろん、広く愛玩された植物で、名花十友の中の酔友とされ、また、十二客の中では佳客と称された。 
 香は「沈香(ちんこう)」の如く、花は「丁字」に似ているのでこの名ができたという。他の説によると、昔、盧(ろ)山に旅をした一老僧が熟睡中にこの香を嗅ぎ、覚めてからこの花を探し求め郷里に持ち帰り識者に名を尋ねたが不明なので、ついに「睡香」と命名し後に改めて、瑞兆にちなみ睡を瑞にして「瑞香」としたと伝える。近くは欧州大戦の時、敵前の草地に一夜を明かした将卒は、強烈な香気に驚き、一同は敵の毒ガスだと思い、騒然となったが夜明けとともにその辺一帯に「沈丁花」の群落を発見して安心したというエピソードがある。
 『尺素往来』に出ているから、この時代に大陸から我が国へ移ったものらしく、『草木錦葉集』に斑入品十四種が図示されている。
若き日の夢は浮びく沈丁花やみのさ庭に香のただよへば【佐々木信綱】
(居初庫太著 花の歳時記より)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


急逝の友の笑顔がまだ傍に
迷惑と思いつ今日も生きている
子の脛を噛り続けて老いすすむ
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:「百まで生きて」とエールをくれるお孫さん達がいます。大らかな気持ちで噛り続けてください。)

晴耕雨読余生感謝の日を貰う
クリスマス現実に見る貧富の差
午年の生れ今年はおらが年
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:九十六歳の年男、おめでとうございます。白寿まであと一歩。頑張ってください。)

ツキ過ぎの今年兜を締め直す
師走街やたら買物多くなり
お陰さま今年も帳尻合いました
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:主婦としての才覚万点。おめでとう!)

万全を期したつもりに出た裏目
逃げ切れぬしかとしっぽを掴まれて
車椅子すすめ老婆に怒られる
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:「まだまだこの通り歩けますよ。余計なお世話です」。折角の親切が仇になりましたね。)

東洋街鳥居の形で赤信号
幾万の豆電気光るクリスマス
リベルダーデ年越し餅でにぎわいし
【セントロ桜会 中山実】
(評:リベルダーデの餅つきは年末の恒例行事となりました。)

ケータイでこなせる機能は時間だけ
お正月おせち料理で一人酒
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

勢力に満ちた事業家女好き
老いの身にひしひし迫る金づまり
金づまり思わぬところで義理を欠き
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:最高齢者だからと言うことで大目に見てもらいましょう。)

耳立てて被災者の声聞き涙する
三従四徳教わり今日も恙なく
お陰さま先ずは元気で八十路入り
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:ご健康第一にこれからもご活躍くださいますように―。)

したたかに生きて根をはる野辺の花
得々としゃべって人をけむに巻き
足腰はままならずとも気は若く
【サンパウロ中央老壮会 渡辺文子】
(評:病は気から、と言います。気を若くして前向きの姿勢で―。)

渋滞でピポカバリバリ憂さ晴らし
古風だね卑下してるよな褒め冗語
年とるは引くはずなのになぜ増える
【サンパウロ中央老壮会 大塚弥生】
(評:気の持ちようです。一つ引いて一つ若返った気持ちでがんばりましょう。)

振る舞いは旧知の如く選挙前
振り向けばどの七坂もなつかしい
長寿法聞く全身が耳になる
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:長生きしたいと思う心が聴覚神経を全身に集中させる。)

◎年頭吟
新春の輝き発車のベルが鳴る【塩飽博柳】
空かける天馬にかける年であれ【中西笑】
まだやれる飛翔の文字を胸に秘め【鈴木ふみ】
逆に一つ年を取って若返る【彭鄭美智】
初夢を楽しみに待つお正月【大塚弥生】
新春の馬の嘶き聞ける幸【柿嶋さだ子】





「道」

人生のラスト道
年令より気張ると坂道
子に従えば平らな道
急いでも
急がなくても
ゴールはじっと
待っている
【インダイアツーバ親和会 早川正満】


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