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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2014年2月号

2014年2月号 (2014/02/14) 俳句 (選者=樋口玄海児)


卒業の孫抱きしめて声もなく
親の背丈遥かに越えて卒業す
みどり茄子好きでパパガイ元気よし
イガポ航く鰐のひるねを垣間見つ
クリスマス卒寿に届く化粧品
【伊野ミツエ】
(評:四句目。私も去年は旅をして鰐、ピラニア、インジオの住むイガポを皆で楽しんできました。鰐の生命は人間と同じで七十年、八十年まで生きると案内の人の話でした。しかし、河には外敵が多く、長く生きるのは難しいとのこと。その敵が人間らしい。鰐の皮は高値で売れるから捕られてしまうということらしい。四〇〇〇キロの大アマゾン、仕方ないでしょう。)

マンジューバにピンガあればと舌鼓み
苦学成り我子三人卒業す
春惜しむかつて句宿をせし棟に
惜春や音沙汰もなき句友達
【伊津野静】
(評:一句目。マンジューバはレジストロ地方に十一月頃に取れる河魚の一種。小さく取れ立ての時に食べれば最高に美味しく、生で食べられる忘れられない味。)

炎天に佇ちみしがふと駆け出しぬ
老眼に赤きもの見ゆ夏木の根
街炎天高き靴音低き音
街残暑通行止めの一街路
【伊津野朝民】
(評:二句目。百歳の朝民さんの目に映ったのは赤い夏木の根であった。百歳になられた方の目に、ある時は違う色に見えたかも知れない。俳句として面白い表現。)

羽蟻舞ふ夕日の丘の風は止み
春一番裳裾をおさえ笑ふ娘に
花冷えの村の大運動会の朝
もて余す家の広さよ老の春
【長谷川ふみお】
(評:一句目。ブラジル田舎の夏。美しい景をうまく捉えた句。全く句に濁りなく、写生句モデルの句。)

露の身の念腹門下誇り生き
鬼蓮や真夜の帳の中に咲く
三日はや黴の生えきし鏡餅
たが弛まぬ八十年経し寿司の桶
【香山和栄】
(評:三句目。ブラジルは暑い時期。正月はどんな料理でもすぐ傷み易く、正月用の餅もその一つ。毎日の暮しの中の出来事を詠んだ句。上手にできています。)

少女期に歩きし道や夏木立
州境の町に住む娘や夏の旅
新入りの猫に驚く嫁が君
【富岡絹子】
(評:三句目。嫁が君は正月に現れるネズミのこと。そのネズミに驚いただけの句だが、俳句の季として面白く作っている。詩でしょう。)

俎板に裏表なく西瓜切る
ひとり居の貧しき昼餉冷素麺
一望にビニールハウスの雲の峰
北伯の旱激しく初日の出
【森川玲子】

年一つ重ねて拝す初日の出
健やかに育ち行く子等年明くる
三ヶ日過ぎサッパリと茶づけかな
【矢島みどり】

除夜花火沖に打上げ待つ筏
新年を迎うシャンパン浜で買う
水あそぶくるくるくねって子川うそ
【清水もと子】

六十年過ぎても初夢里の家
君が代蘭育てる人におめでとう
大家族揃ってにぎやか年酒酌む
【原口貴美子】

今年こそ世界の平和祈るのみ
郷愁も共にすし巻く夏彼岸
天の川流れる河面チエテ川
【山田富子】

手作りが何より嬉し雑煮餅
冷蔵庫空にして子等帰る
泉守り山懐の一軒家
【畠山てるえ】

日本語喋れぬ口もて雑煮食う
縦横にシワにクリーム初鏡
東北は雑煮は切餅えぞ恋し
【野村康】

一人身の新年一切清清し
新年を迎えて始まるドラマあり
来る年も健康長寿二人して
【宇野博】

アガパンサス一千株の咲き揃ふ
掛乞いにボリビアまでも出張し
掛乞ひが見合ばなしを持ち来る
【纐纈喜月】

花つけし幸福の木や初日の出
墓地の名はフランボーヤン初日出
初日の出黄色の花をつけし椰子
【樋口玄海児】


短歌 (選者=藤田朝壽)


引っ越ししメルカード前のアパートの高き椰子樹にランの花咲く
この一年元気であれと願いつつ新日記帳のページひもとく
年金では買い得ぬカメラ中古にてやっと手にせし老いの喜び
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:年老いても欲しいものはある。中古品のカメラを求めることがやっとできた。さて、何を写そうかと作者は思案中。)

忙しく手を動かして美容師が語る声にも初ういしさあり
コーラス部の友らとバスに唄いつつベルチオガの浜へ魚を買いに
稀勢の里九州場所にて二横綱倒しし気迫今も忘れず
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:九州場所で二横綱に土をつけた稀勢の里の闘志はスゴかった。あの気迫で横綱になってほしいと願うのはファンだけではない。)

八十路越え二人元気に歩めるを神に感謝し朝を出でゆく
八十を一つ越したる誕生日すこやかにして夫と乾杯
ベランダに咲く花々をながめつつ希望をもちて新年迎う
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:八十歳を越した喜び。家族の者らの見守る中で誕生日に夫とグラスを合わせて乾盃した楽天家のます女が目に見えるようだ。)

ブラジリヤに二十年ぶりに来て見れば緑したたる都会となれり
一つ家に育ちし甥は爺ちゃんを父のごとくに敬いくるる
ブラジリヤの広き湖にかかりたる名所の橋を夫と渡りつ
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:ブラジリヤ。名物の橋を老夫と渡る喜び。それこそ生命なりけりです。)

夏場所のTVの前で爺ちゃんを相手に汗して相撲とる曾孫
門松も屠蘇もなけれど恙なく卒寿の春はめぐり来たれり
常きかぬ小鳥の声に目覚むれば久に泊りし娘の家の夜明け
【スザノ福栄会 原君子】
(評:聞きなれない小鳥の声に目覚めた時、自分は娘の家に久しぶりに来て泊まったのだと気付いたのである。この作品、味わいが深い。)

越さば越せ燕と競う気はなくて息子が駆る車はみつびしのマーク
うれいなき人はあらずとリリオダバス仄かにゆれて今日も咲きおる
この頃はとみにめぐりの人逝きておいてけぼりの寂しさにあり
【サンパウロ中央老壮会 野村康】
(評:息子が駆る車は三菱。燕と競走する気はないのだが、燕は空を飛び交ってる。面白い句。)

新年を老夫と元気で迎えたり安泰願い佛前に座す
故郷の熊本の姉より年賀状この嬉しさに飛び立つ思い
熱帯夜いつまで続くこの暑さ冷え切らぬまま夜は明けなづむ
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:私はズザノに移って四十年余になるが、今年の夏の暑さは初めてである。眠れない夜がいく夜も続いた野村さんの歌のごとしである。皆さん、夏バテせぬようお体に気をつけて下さい。)

新年は夫と二人の雑煮餅祝いて今年も佳き年であれ
持寄りにバアちゃんのお握り乞われたり心はずませ作る喜び
新年はシュラスコ会で簡単に一族集いて祝う元日
食べて飲み果てはカラオケ賑やかに心ゆくまで楽しく過ごす
幼子に人気のバアちゃんの福袋何が出るやら開けてビックリ
【プラッサ・ダ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:新年の歌、五首みなよくまとまっていて、私まで楽しくなりました。)

移住して始めて購(もと)めし悲願の土地天下晴れての地主になれた
移住時は故国の便り手にせしとき言葉も出でず目には涙が
移住して我が人生は好転す戦なき国卒寿を元気で
【ツッパン 上村秀雄】
(評:移住して来て初めて土地が買えた喜び。「天下晴れての地主になれた」はいい。「天下晴れて」が効いている。)

今は亡き兄の思い出たどる夜半八十余年の月日流れて
若草の青き川辺のメダカとり小さき妹をみてくれし兄
【セントロ桜会 星井文子】
(評:若くして逝った兄を偲ぶ歌。兄はメダカをアミでスクイながら岸にいる私に声をあかけてくれたものだが、と兄への想い出は尽きない。)

富士山が世界遺産に登録し霊峰富士は日本の誇り
奥地には位牌書く人いなくなり他の地方から吾に頼み来
子供らの言うこと内のちち母は何不自由なく育ててくれしと
【バレットス寿楽会 池田正勝】
(評:「位牌」は毛筆書きのため、書ける人がなくなった氏は毛筆は得意。それで他所からも書いてほしいと頼まれるのである。)

ホームにもクリスマスツリー華やかに飾りたるなり中国製か
馴れずして自由のきかぬ車椅子老壮柳壇に誰か詠みいし
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:クリスマスツリーを飾った喜び。今年は中国製らしい。色彩が中国人趣味で少しケバケバしい。)

レジストロ入植百年を記念して今年の春は祭りはなやか
理髪師は合わせ鏡を手に取りて吾が髪短く切りしを写す
逝きて後惜まるる人いくたりか思い出させる人の生き甲斐
新しく塗装終へたる庭の塀夏の日差しに白くかがやく
【レジストロ春秋会 小野浮雲生】
(評:四首目の歌。純写生歌であって佳品。塗り了った塀が夏の日差しで白く輝いて見えると云うのであるが、引き締まっている。)

風にゆれ白い雲ゆく夏の空窓に見ていて飽きることなし
夕焼けは空を桃色に染めており飛び行く鳥も色そまるらん
【セントロ桜会 井本司都子】
(評:足の不自由な作者は窓から流れゆく雲を友として眺めている。純真な心。)

年越しの花火におびゆるゼゼ犬にわれも共ども落ち着かずおり
雁の翔ぶ季のめぐり来て空仰ぐ度にその群数増して行く
【セントロ桜会 富樫苓子】
(評:花火に驚く犬は雷にも驚く。花火の鳴るたびに犬はちぢこまって鳴く。これは性的なもので、臆病と一口に言ってはいけない。他の面では強いと知るべし。)

初日の出アパートの窓より拝まんとあわき光がビルの谷間に
新年を迎えて何等かわりなしひたすら願う健康と幸福
【セントロ桜会 大志田良子】
(評:都会生活者はビルの谷間の日の出を拝むしか仕方がない。初日の出を拝むこの習慣は忘れてはならない。)

さわやかな朝の風が気持よく歩数のばして少し頑張る
御遷宮で賑わいおらん伊勢の町もう見られないと思へば淋し
【セントロ桜会 板谷幸子】
(評:朝の散歩。今朝は格別に気持がいい。其れで足をのばしてみたのだが・・・。)

夏バテという言葉ありまさしくに今年は異状の暑さが続く
選者評書きいて我は汗だくにシャツ脱ぎ捨ててひと息つけり
【藤田朝壽】

「頌春」
 熟年クラブ会長をはじめ、歌友の皆様方より新年の御祝詞を頂き、誠に有難う御座いました。本年も皆様方の御支援と御協力を切に御願い申し上げます。(藤田朝壽)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


雑煮食べテレビであとは寝正月
お一人ひとりお顔うかべて書く賀状
午年やわたしそんなに走れない
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:走り過ぎないように、身に合った歩調でポックリ、ポックリが望ましい。)

もったいないもったいないで塵の山
園散歩年始のあいさつ飛び交って
愛犬と祝う正月餅を焼く
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:「あんたも一つ年が増えたのよ。これからも仲良くね」。ペットと正月を祝う作者の淡淡とした姿が「餅を焼く」に活きている。)

松竹梅活けて新年きりっとす
メガセナ夢見る人の長い列
認知症本人極楽よい笑顔
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:認知症の人を柔和な表現法で詠んだ佳作。「よい笑顔」が秀でている。)

人が減り給料も減って仕事増え
旅帰り一泊二日で食事なし
忘年会酔が覚めたら新年会
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:忘年会から新年会へと一挙に詠みあげた力量。お見事です。)

年金の歩幅で無理のない暮し
七十年句作もラストの登り坂
初日の出雲の合い間に見た笑顔
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:雲が見せたこの笑顔。佳き年への兆しとなりますように―。)

幸せは余生を趣味に生きる日々
灯籠の行方知らねど慰霊の灯
世界の目リオの五輪にゆれ動く
【レジストロ春秋会 小野浮雲生】
(評:世界の目が集まるリオ五輪。絶対に完遂してほしいもの。)

心底まで見透かれそうな過敏な目
神妙に聞く振りしてる強意見
頼られて打てば響くの心意気
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:頼られてると、打てば響くようなエネルギーが発揮される。)

万馬券掴んで目覚め馬の糞
年老いて新たに始まるドラマあり
夢のせてサッカジャパンイツー入り
【サンパウロ中央老壮会 宇野博】
(評:夢が適えられますように。サッカージャパンにエールを送りましょう。)

落差ある滝にどんぶり猪瀬知事
家修理歯の修理すみサア新年
パカパカと軽く行きたし馬の年
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:軽妙なタッチでの詠み出し佳。今年も良い年となりますように―。

笑顔には笑顔がかえる和やかさ
難聴の悲しさ半ば呆けにされ
さっきまで元気な人が救急車
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:じっと立ちつくして救急車を見送る姿がいたましく描写された。)

リベルダーデ電灯型で青信号
東洋街年末年始の幟立つ
【セントロ桜会 中山実】
(評:この幟も東洋街ならではの風物の一つです。)

世渡りに運と度胸がつきまとう
綱渡り休まず続く果てるまで
老木となる程盆栽値打ちでる
【サンパウロ中央老壮会 渡辺文子】
(評:ヒト科もかくありたいもの。)

もうとまだ老いの心がせめぎ合う
人生の旅路の果ての紙オムツ
皆が見る手帳代わりの新ごよみ
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:新暦。早くもスケジュール・マークがいっぱい。ママさん、今年も忙しくなりそう。頑張ってね。)

◎席題「新」 富子出題
新年を迎えて僕は古くなる【実】
新顔が幅をきかせる老人会【笑】
柳友(とも)増えて新年句会盛り上がり【清子】
新人がいつの間にやらベテラン級【ふみ】
八十歳老人クラブ新入生【博】
新緑を浴びに田舎の旅に出る【富子】


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