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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2014年3月号

2014年3月号 (2014/03/13) 俳句 (選者=樋口玄海児)


農薬の匂ひ残れる畑残暑
乳呑んで草舐めて居る仔馬かな
露の芝泥靴の跡ついており
新涼に気力体力取り戻す
【纐纈喜月】
(評:四句目。喜月さんは年の暮、二か月余り体調を悪くして休んでいられたところが、新年句会には元気で出席され、皆を喜ばせてくれた。その時の句。体も元気になられ、この句のように元気な句を句友に発表された。句友皆、喜ばしい事である。句も立派である。)

お雑煮の具のそろいたる目出度さに
お雑煮や庭の三つ葉の彩清し
新年や九十四歳夢のごと
初み空佳句は授かるものとかや
【伊津野静】
(評:三句目、静さん九十四歳。時の過ぎ去る早さを句にされた。移民として時を忘れて過ごされ、九十四年経って、振り返った静さんの人生の句でありまた、移民の句として尊い移民妻でないとできない句。)

風涼し洗ひし筆の水を切る
日盛りの鳥の歌声枝止めて
雷走りペン先動く俳句帳
首筋に落ちし庭木の露涼し
【伊津野朝民】
(評:一句目、評者は出来ない書道家の朝民さん。白寿とか。しかも元気で投句されて喜ばしい事である。これからも元気で投句される事を願う。)

参加に意義ありと悠々除夜競走
膝小僧揃え平和と書き始め
卒寿翁受賞のホ句書き年賀状
マニソバをトメアス食堂に食べ元気
アマゾンの豆なしフェジョワーダマニソーバ
【香山和栄】
(評:オリンピックの言葉のようにスポーツは勝つだけでなく出場することに意義があると言ったのはギリシャの、クーベルタン男爵。これを元にした句。上手に出来ている。)

食に飽きTVに疲れ寝正月
大降りに窓の木の葉は楽奏で
元旦も普段着のまま豚を飼ふ
読み始め四十年前の主婦の友
【猪野ミツエ】
(評:一句目、ブラジルではクリスマス、正月と続き少々食べ飽きたと感じられる。また、ブラジルの正月は暑い。それで寝正月に終わった句。日本の正月との違いをよく表現している句である。)

ダブダブの半ズボン涼しと大流行り
来客へまず一杯のレモン水
メトロ客老若男女半ズボン
連日の酷暑に老の食細り
【矢島みどり】
(評:一句目、被の流行には切りがなく、今年の夏はダブダブ半ズボンが流行したと言っている。自分もその流行の半ズボンを着ているではないか。)

ホ句の秋昭和生まれも世に古りし
父と兄畑に一揖鍬始め
軒下でフオィセ研ぎいし父の秋
初刷りの老壮の友チンタの香
【野村康】
(評:この野村康さんの記憶力が素晴らしい。一句目、昭和生まれも世に古りし。全くその通り。この句は中村草田男の「降る雪や明治は遠くになりにけり」をもじった句と思われる。しかしブラジルに一世紀近く住んでいると、この句が生き生きとしてくる。康さんの頭がしっかりしているからでしょう。)

太陽と水で遊んで裸の子
句を詠んで静かな余生夏の月
海びらきイルカになって泳ぎたし
今もなお瞼に浮かぶ終戦日
【山田富子】

野良犬のノミ取っておりホームレス
ホ句暦喜び踊る風みどり
大旱に十薬茗荷までしおれ
男より女に多し半ズボン
【三原春風】

農の幸供へ移民の四方拝
余生とは淋しき文字よ初暦
汗も出ぬ痩せ腕に打つ注射針
ラバペーの一匹汗の睾丸に
【佐々木古雪】

老いたとて新年一切我仕切り
奮い立つ仕事初めのまず一句
清々し仕事初めの一句詠み
【宇野博】

髪染めて十年若く初鏡
亡き母の命日記す初暦
コンピュータで世界めぐりや去年今年
【原口貴美子】

田舎の子木登り上手ジャッカ熟る
鉢植えの湯気立ちており庭極暑
まれと言ふ極暑極暑の続く日々
【畠山てるえ】

神佛にしきたり忘れず供へ餅
人生の苦難を忘れて屠蘇祝ふ
初茜賢治の詩集懐に
【青木駿浪】

顔照らす初満月に目を覚ます
賀客人浜の気楽さ半ズボン
禁煙に減らせし作地花煙草
【清水もと子】

泰山木の蕾を手向け花とせん
泰山木咲き継ぎ今朝も晴れ渡り
明日は咲く泰山木の供華なりし
【長谷川ふみお】

ユーカリの山に育ちし月美し
椰子の花咲かせ育ちし月涼し
陽を育て月を育てて一大河
魚育て月の大河の涼しかり
数千の魚の育つ月の河
【樋口玄海児】


短歌 (選者=藤田朝壽)


新年の期待に胸を燃やしつつ百八つの鐘をききておろがむ
木蓮のつぼみに生まれる一滴の雫がダイヤの如く光れり
ライラック淡く芽吹ける隣家の地鶏つぎつぎ卵鳴きする
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:三首ともよくまとまっている。特に三首目の歌詩情がある。ライラックと地どりを対照させて成功した歌。)

もぎ立ての胡瓜は柔く甘みあり農薬かけねば心配もなし
どのような鳥がはこびてくれたるやダーマダノイテ庭に芽生ゆる
竹やぶに山鳩がなく幸福来るこうふくくるとくぐもる声に
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:三首目の歌、カ行音が音楽的で愛唱するにふさわしい歌となった。詩情満点と言いたい。)

種薯を毎年買いしパッサクワートロ今いちど見たしと老い夫の言う
娘らが昔バタタを植えし人をたずぬれど今では誰も知らなく
幾たびも来たりし村は町となり山と云う山みな牧場に
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:昔、種薯を売ってくれた人に会いに行ったのであるが、今ではその人を知る者は居ないのである。老夫の失望と落胆の程が察せられる歌。)

子や孫を育てし頃の童謡をおのず唄いて曾孫と遊ぶ
新年のならわし異る國に住み孫らは雑煮祝うとはせず
卒寿われ友の形見の杖をつき足どり軽く新年歌会に
【スザノ福栄会 原君子】
(評:三世ともなれば雑煮を祝わぬのは当然のこと。気にせぬこと―。)

待宵の月に兎の物語り母子で語らうフィナードの窓辺に
春と夏截り分けるごと燕とびチエテの流れに夏日かがよう
茹でミーリョの屋台に男女集まりてそれぞれ食(お)しおり働く人ら
【サンパウロ中央老壮会 野村康】
(評:「春と夏截り分けるごと」は新鮮味がある。下句「チエテの流れに夏日かがよう」と結んだので佳品となった。)

サンパウロの酷暑を逃れ娘と来たる高原の町カンポスドジョルドン
北欧風のトンガリ屋根も珍しく異国情緒にしばし浸りつ
涼風に吹かれて娘と散策すプラタナス並木は早や黄ばみおり
有名な観光の町売店は冬物安く客あまた居り
レストランで昼食したる名物のツルタフライの味素晴しく
【プラッサ・ダ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:助詞の誤まりを少し直しました。しか
   し、この作品五首とも文句なしです。俳句で鍛えられた方、さすがです。)

高齢者はリズム体操楽しんで手足運動疲れを知らず
ホームの身墓参は出来ず盆供養せめてとどけよ吾の読経
大木に宿りしランの花も咲きターザンのすがる蔓たれてあり
有難や「生長の家」の盆供養早口お経にわれおくれがち
演歌の詞わたくしの人生そのままで声はりあげてカラオケ大会
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:お元気で頑張っておられて何よりです。「演歌の詞わたくしの人生そのままで」は良かった。だから思いきり声はりあげて唄えたのです。)

投手となり孫はボリビヤへ遠征す南米日系交流試合に
嬉しさや同郷の友訪ね来て語るも涙笑うも涙
今日もまた焼きつく暑さに雨を待つ異状天候祖国は大雪
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:野球の花形はピッチャー。選ばれて遠征した孫を思う気持ちが余分な事は言わないで端的に詠めている。)

年末の助け合い募金に十二名今年も一位となりしうれしさ
カラオケに表彰されて記念品もらえば家族みんなが喜ぶ
年末の紅白歌合戦に出場しわが白組が優勝したり
【バレットス寿楽会 池田正勝】
(評:年末の助け合い募金に一番になった喜び。高齢でありながら相変わらずのご活躍は老ゆるを知らずです。)

訪日し我の苦労は語るなく戦火くぐりし友の話しを
新茶着き熱湯そそげば茶の香り吾が居間にまで漂いてくる
鍬ひきて汗あえたりしあの頃がありて今日の幸せがある
針穴に糸通してと妻の言う吾が目はたしか糸通したり
【ツッパン 上村秀雄】
(評:四首目の歌佳。「吾が目はたしか糸通したり」で歌が生きました。)

旅を来て緑あふるる山中にわが哀しみを鎮めて帰る
夏の夜は素肌に浴衣つけるとき袖も衿にも風通しよき
透明人間となりて逢いたき人ありき逢い難くして心奪われており
買物に心みたされしこの思い猫をいだきて話してもみる
猫の子を愛撫しつつも満たされぬ心は吐息となりて現わる
【サンパウロ中央老壮会 寺田雪恵】
(評:再起不能の夫の介護は容易ではない。生ある限りは人間のつとめとして手を尽くさなければならない。少しでも安らかになるよう栄養剤を与えるのである。)

隣家はカミニョネイロ日中はユーカリの木陰で昼寝しており
朝市にて三十二度は耐えがたくつめたきカンナのジュース飲み干す
【セントロ桜会 富樫苓子】
(評:日中ユーカリの木蔭で大の字になって寝ている運転士。呑気な人だと思ってはいけない。夜は不眠で遠くまで荷を満載した車を走らさねばならないのだ。昼寝して英気を養っているのだ。)

この夏の暑さに夜も眠られず窓を開くれば蚊のはいりくる
遠慮なく正月は過ぎ早や二月二月の月は逃ぐるとか言う
【セントロ桜会 大志田良子】
(評:今年の夏の暑さは五十年ぶりとか。夜窓を開けて涼をとらないと眠れない。蚊が入るけれど仕方がない。暑しカユしとはこの事である。)

※名歌鑑賞

桑の香の青くただよふ朝明に堪へがたければ母呼びにけり
【斉藤茂吉】
 大正二年五月作に、「死に給ふ母」五十九首の連作がある。生母いくが五月二十三日に歿し、その前後、郷里山形県堀田村金瓶(現在、上ノ山市)に十六日から三十日まで滞在したときの作である。「桑の香の青くただよふ」は、養蚕をする農家の空気で、生家はいまは取り壊して建て替えられたが、総二階の宏壮な構えであった。その母屋の階上にも階下にも、五月中旬の春蚕の桑の香が満ちていて、母と作者とが寝ている倉座敷まで匂ってくるのであろう。「青く」は、桑の匂いの感じをいったので、感じを生かすことにおいて驚くべき鋭敏さを作者は持っている。まだ人音のしずまっている暁に母を呼ぶというのが切実であり、一首の感動もそこにある。「堪へがたければ」という激情は、「桑の香の青くただよふ」によって切実さのうちにどこか清新さがあり、不思議な色調をたたえている。(茂吉秀歌佐藤佐太郎著より)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


年老いたなんて言っては若作り
さわやかな顔して腹は真っ黒け
煙に巻くつもりがドッコイむせかえる
【サンパウロ鶴亀会 宇野博】
(評:思いの外、相手はしたたか者でした。)

飽食が病の元となる平和
行く千里神秘と思う渡り鳥
うなずいて後期高齢仲間入り
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:まだまだと思っていたのにいつの間にか自分もその齢になっていた。上句の素直な自覚表現法を頂く。)

子育て期終わってからは犬と猫
そっと起きそっと出掛けてそっと寝る
行列に並んでみれば裁判所
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:「何か景品でも貰えるのかな」と思いながら長い行列に入って、だんだん近づいてみたらなんと裁判所前。残念でした。)

カラオケで唄って暑さ吹っ飛ばす
猛暑でも熟年生き生き集い来る
趣味多彩あって溌剌老い知らず
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:趣味に生き甲斐を託せる人はいつも若々しい。)

夫古希汗が実となる熟年期
扇風機注文すれば二十日待ち
夏やせと言うけどちっともやせもせず
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:活力旺盛のしるしです。健康美でアピールしましょう。)

掛け算で割る人生の若返り
抗議デモ満員バスに火を放つ
W杯ひたすら成功祈るのみ
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:スタジアム建設をはじめ、諸施設の遅れ等々。不安の多い中でもW杯無事達成への国民の期待は大きい。)

騒音と暑さで週末眠れない
席ゆずる若者なんと頼もしい
祭日はいいね自転車天国だ
【セントロ桜会 中山実】
(評:自転車コースが出来てからは親子連れで楽しむ姿も見られるようになった。)

愚痴きいてくれる友情頼られる
至福とは短く崩れ易きもの
使い慣れせしチビ鍬捨てきれず
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:チビ鍬への愛着が伝わってくる。)

NHK紅白合戦遠くなり
かりの世を移民で過ごす心地よさ
肉親もよいけどコロニア戦友も(一月遅着分)
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:同じ移民として苦難を分かち合った友人は貴重な存在。コロニア戦友とは言い得て妙。)

曖昧でいいね「適当」という言葉
思うようにならぬ親と子の絆
ロボットが介護笑顔も出来るかな
【サンパウロ中央老壮会 大塚弥生】
(評:科学万能と言われる時代。泣き笑い、会話も出来るロボットの登場も夢ではない。)

一か八当てるつもりの種を蒔く
昭和史の深き闇生き活かされる
散り急ぐ花びらに問う明日の運
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:散りゆく花びらにふと目をとめて明日知れぬ己を問いかける作者。)

よき笑顔来客も笑顔で店繁盛
春をよぶ人になりたし我が余生
やる気ありまだまだ若いと自惚れる
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:力強い心意気にパワーを頂きました。これからも前向きの姿勢でーー。)

羨望の大きな家に大泥棒
友に会いたく炎暑いとわず熟連へ
習っても伝達かなわぬポ語です
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:会話コースから入ると案外話せるようになるものです。)

◎席題「暑」 博出題
扇風機ソーメン麦茶で暑気ばらい【ふみ】
怠け癖ますますつのるこの暑さ【笑】
この暑さいつまで続くと空見上げ【清子】
猛暑にも負けずゲート出来る幸【実】
扇風機夜通しかけるこの暑さ【富子】
暑くとも負けてならじと一句詠む【博】


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