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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2014年6月号

2014年6月号 (2014/06/13) 俳句 (選者=樋口玄海児)


寒椿垣のつづきに母の家
寒椿咲いて墾家華やげる
男の子人形当りケルメツセ
鶴亀の模様の布団婚仕度
寒鯔の網大勢で引く浜辺
【原口貴美子】
(評:一句目、日本の家には必ず椿または南天が植えてある。その垣根の続きに母の家がある。仲の良き親子であろう。日本でも椿は春一番に咲くから木へんに春と書くめでたい花である。)

酔芙蓉見ればあつ燗欲くなり
毒舌の酒友たのもし冬ぬくし
妻病みて独り寝となる冬の夜
五月花白き莟にほのと紅
ビル建ちて吾が家の冬日うばはれて
【三原春風】
(評:一句目、酒好きな彼。酔芙蓉の花を見たら酒が欲しくなった。それだけの句であるが、この句が出来上がるまでは彼の人生で永い永い月日ではないでしょうか。酒で苦労話をしたり、また楽しい話をしたり。酒の話は飲めない人にはできない話がいくらでもある。この作者はそれが分かっている句。面白い。)

朝日浴ぶハウスの冬菜美しき
旅先に田の日祝ふ媼どち
白菜の山より売娘顔を出し
牛鍋に笑い上戸と泣き上戸
【森川玲子】
(評:一句目、ブラジルではまだ珍しいハウス野菜の畑。そのハウスの菜園を朝見回っていると美しく目が洗われるようであった。物を作る人の徳ではないだろうか。私も野菜作りが好きで、早朝に畑を見回るのが日課である。)

誉れ高きロンドン将軍土人の日
学生隊のロンドン計画インヂオの日
乾季埃黄色いマスクのビアジャンテ
蔓サンジョンの花の蜜吸ひ育つ子等
【香山和榮】
(評:一句目、インジオの血の流れているロンドン将軍は、奥地僻地に住んでいる原住民たちに保健衛生などを行い、救済した人物。二句目、昔、USP(サンパウロ大学)の学生たちが組んで、休暇の時に救済に向かった。)

母の日のどこも満員レストラン
日系人多き此の町寒椿
あの町もこの町も過疎パイナ咲く
朝洗い夜早や乾くかけ布団
【畠山てるえ】
(評:一句目、最近、母の日になると家でご馳走など作らず、レストランへ行く人等が多い。それで行ってみれば、句のように満員。年寄りには驚きであった。それを句にしたのは見事。)

囮笛他にとりえのない漢
卒寿すぎ体操会員健康の日
マルカパッソ元気な次女よ健康の日
竹伐ってテニスコートが丸見えに
【猪野ミツエ】
(評:四句目、これは少々田舎のカンポでしょうか。竹林を伐っていたらテニスコートが丸見えとは驚きだったでしょう。俳句はこのように瞬間的なことを句にした場合、良い句になる。)

水だけをもらって咲きしすみれかな
この色を何に例えんすみれかな
うら若き女医の受診や声涼し
【伊津野静】
(評:一句目、ブラジルは土地また気候が良く、一年中気温が変わらない。庭の花など水さえ与えればよく育つ。それを素直に表現した句。出来上々。)

脚病めば鮫軟骨薬愛用す
寒鯔の刺身に勝る馳走なし
信あつき母子の地鶏ケルメツセ
一夜寝せ味しみ込ませおでん鍋
【野村康】

牛鍋は御馳走だった大昔
母も又大好きだった布団干し
北国は寒鯔だけの夕餉時
【今井はるみ】

ベンテビー秋囀りの練りし声
秋を告ぐ町の中なるパイネイラ
短日の細字の頁は明日とせん
【佐々木古雪】

運動会老も若きも参加して
ウンドウカイブラジル語にもそのままに
人参の味噌漬け甘し風味あり
【森西茂行】

両の菊見つめて佇てる老一人
今掃きし庭ふり向けば秋落葉
秋曇り郵便受けは今日も空
【伊津野朝民】

茹でミーリョ初もの届く畑三時
ピラト騎馬野にメガ舞台受難劇
受難節ノルデステ広野をメガ舞台
【清水もと子】

母の日も忙しく母でありにけり
母の日に集いし娘らに母忙し
四月馬鹿何時までつづくこの文化
【小野浮雲生】

母の日や日々安らかに倖せに
母の日も近づき莟の五月花
雨らしき雨も降らずに寒波来し
【矢島みどり】

優しさと厳しさそなえ寒椿
黄昏やおでんが誘う一人者
牛鍋や囲み一献酔ひ痴れる
【宇野博】

初嵐畑の仕事の好きな子よ
大根も白菜も出来よかりしと
虹の輪の中の牛群五百頭
秋蝉や移民の過去は皆貧し
朝市に出回るピエダーデの富有柿
【樋口玄海児】


短歌 (選者=藤田朝壽)


病むわれを気づかいくるる友はみな目尻にひと筋涙をひけり
遠く来て共に学びしいく年か皺ふかき手を互いに握る
【セントロ桜会 上田幸音】
(評:上田さんは九十六歳と聞いている。二首とも老人とは思えぬしっかりした詠いぶりには驚かされる。ご養生のほど、お祈りいたします。)

ウニカンピと三つの大学受かりしと孫は声あげ吾に抱きつく
赤に紺の筋入りの市旗ひるがえる「スザノの日」秋空晴れて
高知城の染井吉野が五輪咲き桜の開花は全国一なり
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:全国一の桜の開花は高知城の染井吉野と決まった。土佐人の歓声を聞く思いがする。)

メトロとタクシーに乗りつぎ老人会に一人で通う夫を気づかう
老い夫は自分のことより吾のこと気づかいくれて日々すごしおり
孫二人つれて訪れくれし息子と夫は笑顔でひと時すごす
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:二首目、妻は夫をおもい、夫は妻をいたわる心がよく一首の中に込められている。)

百までも生きてころりと逝きたしと夫のむつきを替えつつおもう
「おーい」と呼ぶ夫のかたえに寄りゆけば手を握れとてあまえるしぐさ
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:二首目、一見頑固そうに思える青柳君も奥さんに甘える気持ちがあるのに安心しました。いい歌です。)

赤と黄の盛り上がり咲くランターナ蜜吸う蝶らの舞うを見あかず
人ごとと聞きいし救急車とUTI卒寿となりて初体験す
秋空に映えて輝ようランターナ病床の吾をはげましくるる
【スザノ福栄会 原君子】
(評:救急車とUTIを初体験した作者。早く退院できて歌友一同大安心。)

摘みし茶をシャレッテに馭者たる弟は一と鞭あてて雨の晴れ間を
ブラジルに子供移民たりし吾みたりの子らを大学に出し
湧き出でし入道雲に暑さ増す帽子かぶらで行く伯人女(め)
【サンパウロ中央老壮会 野村康】
(評:一首目、作者は「馭者」という熟語を使いたかったのであろう。シャレッテ業をしておられたのではないと思う。「シャレッテに乗せて弟は」としたい歌。)

午後に飲む一杯のコーヒーはさわやかに私の心を満たしてくれる
二度咲きのシュバ・デ・オーロは母の日に男孫のくれし白き花にて
カーテンを引かせて見れば朝日差し雲なき空を仰ぎ慰さむ
【セントロ桜会 井本司都子】
(評:晩年を静かに送っておられる作者の気持ちがしみじみと伝わってくる歌。)

今はもう住む人もなき生家にて庭にたたずみ昔を偲ぶ
人の一生は儚なきものと知りながら賑やかだったあの頃恋おし
節水が続く毎日いらいらと雲なき空をうらめしく見る
【セントロ桜会 板谷幸子】
(評:かつての生家を訪ねた作者は、住む人もなく空き家の庭に佇んで往時を偲んでいる。日本の田舎には空き家が多くなっていることが分かる歌。)

新聞とテレビと見て新知識日本の技術と頭脳は世界一
未開國へ若人数多ポランテイヤ人類愛もて技術で助(す)ける
未開國といえども主都は近代都市農村貧し昔のままに
内乱のある国々の人民は貧困政治に喘ぎつつ生く
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:年老いても知識欲旺盛な作者。二首目の歌「人類愛もて技術で助ける」は日本の使命の一つです。)

蜂どりのために吊るせる蜜瓶に見かけぬ野の鳥仲間入りして
オーイ生きて居たかと友と抱きあいて若き時代をなつかしむ顔
両親に五年の暇を貰い来て帰化も帰国もせずに老いたり
裂帛の気合の響く道場に女性剣士の雄々しき姿
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:礼儀に始まって礼儀に終わる。剣道を学ぶと姿勢がよくなる。右の作品、雄々しき姿と名詞止めにしたのがよく効いている。)

仕込み終え梅酒の瓶にレッテル貼りバールに出せる吾のよろこび
生かされて今日ある命に感謝しつつパウ・ブラジルの苗鉢植えにす
赤信号車見えねば通る癖悪いと知りつつ今は身につく
【レジストロ春秋会 小野浮雲生】
(評:悪い癖と知りながら車が見えない時は通る臨機応変と言う言葉がある。何事にも裏表がある。よくまとまった歌。)

暗闇に閃光一瞬稲光り雷鳴ともに大雨となる
吾が家族市(まち)に移転し妻や子は若いうちから少しは楽に
暑い日は冷しソオメン・ウドンやら夏バテせぬよう気がけてくるる
【バレットス寿楽会 池田正勝】
(評:暑い日の冷しソオメンは何よりの好物。奥さんに感謝しながら食べている作者。)

建設の槌音高く球場は見事に完成試合は間近
ブラジルに住みてなじみしフッチボール見るが楽しみそれぞれの技
【セントロ桜会 星井文子】
(評:第一首目、一気に詠み下していて五句を試合は間近と結んだので佳品となった。)

うす寒き小雨の宵に娘の姑の卒寿の祝いの宴に招かる
病弱の夫を亡くして三十余年苦労多かりし人生なりし
子も孫もみんな仲良く集い来て祖母をかこみて喜びはしゃぐ
老いて今安らかに暮すバアチャンを孫ら囲みて楽しき一夜
【プラッサ・ダ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:姑の卒寿の宴の賑わいがよく分かります。特に第四首の歌に心ひかれる。)

カーテンをやさしくゆらす朝の風肌にひんやり秋を感じる
ビンチビー朝早くより甲高く彼女を呼ぶと聞きしことあり
体操の音楽聴いて集うハト餌のとり合い修羅場の如し
【セントロ桜会 大志田良子】
(評:リベルダーデのラジオ体操だと思う。体操にくるどなたかが餌を撒かれたのであろう。楽の音が始まると共にハトらは一勢に飛んできて餌を競って食べるさまがよく詠めている。)

この冬はきびしい寒波が来ると言う流感予防の今日注射受く
天高くどこまでも青い秋の空吸われて見たし心身ともに
藤田さん歌壇選者で老い知らず頑張り励むに勇気いただく
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:第二首目、天高く晴れ渡った紺碧の秋空を見ていて吸われてみたいと思うのは誰しもである。しかし、一首にまとめることは難しいこの作品、秋空と作者が一体となっている。)

久に逢う上田さんの面よろこびに満ちて共ども手をにぎりあう
上田さんといつもの如くふるさとの話しはつきず刻は過ぎゆく
寒くなり日々の散歩も休みがちゼゼ不満げにわれを見上ぐる
【セントロ桜会 富樫苓子】
(評:三首ともよくまとまった作品。特に三首目の下の句、ゼゼ不満げにわれを見上ぐるが良い。)

「幸音さんを見舞う」
いかばかり嬉しかるらん幸音さん吾ら五人の今日のおとづれ
それぞれに手を握りては幸音さんを励ます言葉ききつつうれし
幸音さんのかたえに座すあり立てるあり今日の記念の写真を撮りぬ
【藤田朝壽】


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


事後承諾馴らされ気にする事もなく
我を折った気でも時には怒鳴りたし
まだまだと気張れど足が地につかず
御喋りが予防になるとや認知症
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:そう言えば老いて益々口達者な人に認知症はあまり見られないようですね。)

暑い日の余生木陰に涼をよぶ
仕合わせは己の心の隅にあり
他人を見る目玉を己に当てて見る
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:中句の目玉が生きている。自己を見る目の厳しさにこの人の凛とした人格が見えてくる。)

各々の使命日毎につみ重ね
充分に生かされ恍惚の人となり
吾もまた呆け感知する日の多し
長寿の哀しさ家族等先に逝き
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:一人逝き二人逝きで家族が少なくなってゆく寂しさ。上句に言い知れぬ侘しさがただよう。)

小さな力集めて句集出来上り
百才の大往生に教えられ
TPP外交力を試される
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:シンガポールでの閣僚会合も難行分野が多く、大幅な進展は見られなかったという。甘利明TPP担当相の手腕に期待がかかる。)

一日の雨読に飽きて窓みがく
老いてなお心の支え箸けずる
リベイラ富士移民の闘志眠る丘
【レジストロ春秋会 小野浮雲生】
(評:リベイラ富士を見ながら闘志を燃やした開拓移民たちも今は静かに眠る。合掌。)

恋人がいるかと聞かれ「はい、いります」
ダイエット今食べたのは明日の分
食べりゃ糖飲めば血圧吸えばガン
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:健康管理を念頭にいずれも程々に―。)

鶏も犬に追われりゃ飛ぶ力
花まつり甘茶そそいで手を合わせ
嬉しいね日系ホテルに鯉幟り
【セントロ桜会 中山実】
(評:路行く人々の目を楽しませていたのに、日を経たずして取り除かれたのは残念であった。)

手を抜いた分だけ後で悔残し
金が要るぎりぎりの線に来て護る
亡きあとも死線さまよう吾子が浮き
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:何かにつけて浮き上る我が子の姿はいつまでも消え去ることはない。)

衰えは眼中に置かず盛プラン
人の道時々脱線骨休め
絵手紙に願い託すや一言に
【サンパウロ中央老壮会 大塚弥生】
(評:悲喜こもごも絵手紙ならではの深さがある。)

母心愛と光に満ちあふれ
店の鍵嫁に渡してアポゼンタ
天国へのパスポート申請心する
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:永遠の旅立ちを念頭に天国行きパスポートを今から心するという作者のたしなみに感動しました。)

風に乗り噂ふくらみ散って行く
手さぐりの人生ついに八十路入り
線引いて国境決める身勝手さ
【サンパウロ中央老壮会 渡辺文子】
(評:北方領土をはじめ、韓、中も勝手な理屈をつけて利権を主張するがめつさ。)

○追悼御礼
 去る三月十七日、夫、柿嶋昭三の死去に対して柳人の皆様からお心のこもったお悔やみと過分なる御香典を賜り、深謝申し上げます。誠に失礼とは存じますが、紙上を借りて厚く御礼を申し上げます。(二〇一四年五月二十日 柿嶋さだ子)


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