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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2014年9月号

2014年9月号 (2014/09/14) 俳句 (選者=樋口玄海児)


強東風や念腹の伝説神話めき
競馬場見下ろす事務所行徳家
訪伯のハンター出逢いし大梟
猟犬を尻目に飛び立つ大梟
風邪癒えし宿題片付く冬めくし
【野村康】
(評:二句目、一移民の成功者、行徳さんの庭には競馬場有りと言われるほど眼下に見える。その事務所へ行った人の句。面白くまとめた。)

富士形に積まれて冬至南瓜かな
夕の膳冬至南瓜のほのぼのと
老ぬれば寒夕焼もさびしかり
目に見えることが幸せ寒夕焼け
口開けてふくれクリオー日向ぼこ
【伊津野静】
(評:四句目、白寿に近い筆者。目、耳、手足丈夫が最大の幸。静さん、いつまでも体を大事にして下さい。)

雨上り透き通りたる春の空
九十にもう一年や冬終る
すぐ物を捨てたき子供冬支度
過去帳も供えて法要移民際
【山田富子】
(評:四句目、移民も早百年を越え、色々な事が各家に起こり、忘れ去られていく。それを家宝として大事にしている人もある。私もかつて、ある人に五十年間分余りの日記を見せてもらったことがある。その様な物や過去帳を供えて法要された事を句に詠まれた。出来上がりも良く、移民祭がよく出ている佳句。)

妻の墓参済ませ冬陽の丘下る
手伝いの桜祭りの人等老い
一人カラオケ唄い夜長をもて余し
【長谷川ふみを】
(評:彼の墓は丘の上の新しい墓でした。その墓参り、冬陽の丘を下る句の出来が良く、冬陽が季がよく出ている。俳句の場合、半分は季が生命。この句季が生かされている。)

ブラジルは冬も生るなり胡瓜もみ
春光の奥地を指せり移民像
寒風やほうほうと白け山羊髭草
聖州も麻州も冬晴れ釣りの旅
カナネイヤ魚市にぎししじみ貝
【佐々木古雪】

木の実落つ番ひの鳩に添う一羽
老眼に冬凧の尾のちらちらと
日向ぼこ花壇の蕾数えつつ
ペン持てる白髪頭へ園落葉
植へし我老ひけり桜花盛り
【伊津野朝民】

冬ぬくし弁当開く畑の隅
紅に燃ゆるハウスや猩々花
裸木に弁当つるす老農夫
草競馬畑の隅にゴールイン
【森川玲子】

冬暖し隣りの老いの杖の音
ナポレオンあの懐手何隠す
冬暖し孫の手温し園遊び
寒釣りやよっぽど釣りの好きな人
【秋元青峯】

霜柱片耳急に遠くなり
分家して決意新たに冬耕す
人形抱く柩に従きゆく夕焼墓地
水洟やとげある言葉聞き流し
【猪野ミツエ】

一片の雲なき空や枯木立
大小の岩巡る園冬木立
町村も埃まみれや長乾季
旅帰り乾季汚れの衣服脱ぐ
【畠山てるえ】

鯔祭り煌火にずらり並べ焼く
楽しそう寒鯔焼ける間の釣り話
マルセーラ枕は人気バザー用意
【清水もと子】

たてつけに人の訃ありうそ寒し
傷心し友の訃を知り星凍てる
寒星の高くまたたく友訃音
【青木駿浪】

父の日や若き父あり老夫あり
カラオケ会アツアツ汁粉で喜ばれ
【矢島みどり】

威勢の良き琉球太鼓や星祭
甘酒に白菜漬の旨まかりし
風味良き鰯で作るあご竹輪
満開の桜根の瘤どっしりと
目閉じれば故郷の馬小屋日なたぼこ
【香山和栄】

冬の海河細りて穀物船出ずと
畑かすむカーラは花に地平まで
花カーラ日本の唱歌口ずさむ
【清水もと子】

日本の名物料理冬ぬくし
草競馬兄は勇んで馬飼を
寒釣りで大漁の鯉の御裾分け
【原口貴美子】

ナツメ椰子食べ頃となり初夏の庭
庭を守る二匹の犬に蠅生る
畑にとどきし昼の弁当蠅生る
カンポスの水は冷たし春浅し
カンポスの流れに育ち春野菜
【樋口玄海児】


短歌 (選者=藤田朝壽)


手術すみ始めて口にす白き粥まだまだ生きてゆかねばならぬ
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:作者の決心のほどが分かる。一日も早いご全快をお祈りしています。)

写し絵もプラッカもなし姉の墓にひとり来たりて目を見張り立つ
爺がまくピポカのくずに群なして寄りくる鳩の足うす紅し
きぬ川と聞けばやさしき流れかと読んでおどろく鬼怒川温泉
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:白絹のような川を連想していた作者は温泉旅館に着いて看板を見ると、鬼の怒る川とあるのでビックリ仰天したのである。漢字の面白さ。)

グレーベがブラジル各地に広がれどコッパドムンドは幕を開けたり
日本の選手出場のサッカーを夫と見つむる手に汗にぎり
気がかりしグレーベは止みイタケロン観客席は熱気溢れる
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:W杯が始まったというのに各地でグレーベが起き、それもやっとおさまり安心して観戦している作者夫妻が目に浮かんでくる。)

蜜を吸う花も枯れたる庭に来て蝶は空しく秋空に消ゆ
街住みの孫にと祖父は鉢植えの苺を育ててプレゼントせり
ブラジルのW杯の夢さめぬ記録やぶりの自国の敗退
【スザノ福栄会 原君子】
(評:ドイツ対ブラジルの試合は目もあてられない試合で泣くにも泣けない有様であった。それにしてもドイツ対アルゼンチンの試合は最後を飾る好試合であった。)

日本のお盆を知らせる蝶ちょかも吾が耳元に来て騒ぎいる
認知症にショコラッテが良いと効き早速娘が買い来てくるる
亡き友のファン大川栄作ののど自慢きく夫とふたりで
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:打てばひびくで娘は早速ショコラッテを求めてきてくれた。男の子ならば、こうはゆくまい。早くて三日後。)

ピポカー食べつつ見ておりW杯日本軍勝てストも心配
在日の邦人を思う如何ばかりコッパの試合案じいるかと
【サンパウロ中央老壮会 野村康】
(評:ピポカを食べながらの観戦。ストも心配と詠まれたのは作者ならではと言いたい。)

玄関の右手におわす地蔵様熟連われらの守り本尊
短歌の友つぎつぎ黄泉の旅に立ちやがてはなどと思えば淋し
眠れぬ夜古き一冊の小説を読み終え見れば早や朝まだき
【セントロ桜会 大志田良子】
(評:熟連館の地蔵さまを詠まれたのは作者が初めてではないかと思う。地蔵さまも喜んでおられる。)

大切な思い出の鍋こがしたりメールに刻を忘れしわれは
寒き日のつづきて今日も昼寝する冬眠のごとしと夫と笑う
天候は狂っているのか六月咲く蔦サンジョンが七月に咲き
【セントロ桜会 富樫苓子】
(評:天候は狂っている。地球温暖は年々進んでいる。栗の若葉は八月初旬に萌えました。)

ガラス戸の明るきさまに目をこらす大きなバロンが今のぼり行く
故郷を遠くはなれて生きるわれ老いたる今はただに恋ほしき
亡き兄をひとり偲びぬシベリヤゆやせおとろえて帰り来たりし
【セントロ桜会 板谷幸子】
(評:亡き兄偲ぶ作者。シベリヤよりやせおとろえて帰って来た兄を見て、どんなにか痛わしく思ったであろう。)

病みし夫余後の食事も日ごと進みひと安心と胸なでおろす
熱あつの煮込みうどんを食(たう)べつつ夫と楽しき夕餉のひと時
嫁や娘のやさしき労りの毎日を幸せなりと夫と語ろう
疲れ易き老の身なれば家事終りしばし午睡の時を楽しむ
めっきりと視力の落ちし今日この頃いつまでつづく吾が生くる道
【プラッサ・ダ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:五首ともよくまとまった歌。二首目の熱々の煮込みうどんの歌佳。私も大好物です。)

母の日は子らや友人大ぜいに妻はもらった沢山の品
母の日は墓参る人多くいるいずれの墓も花でいっぱい
今頃は便利な世のなか遠くからメールで話し顔まで写る
【バレットス寿楽会 池田正勝】
(評:十年ひと昔で隔世の感あり。相手の顔を見ながら話す、想像を超えた進歩。)

異状気象に未曾有の大セッカ信徒集いて雨乞いをする
黒光る葉蔭にピンクの八重椿赤い蕾の咲くは稀なり
家事の手を休め裏庭で日光浴エネルギいただき今日の活力
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:朝の日光浴は大切です。この元気で頑張って下さい。)

訪日し戦時下戦後の悲話聞けば移民の苦労話す気はせず
移り来て八十年は夢と過ぐ卒寿迎えし吾の一世は
枯れ果てて土にはりつく牧場を舐むるがに食む親仔の牛は
新墾(にいはり)に棉蒔き終わり新年の雨後フイゲーラにキノコ生えたり
移住して三年目には原始林の中に二百アルケールの植民地成る
【ツッパン 上村秀雄】
(評:三首目の歌、内陸の大旱がよく分かります。枯れ果てて土にはりつくで佳品となった。)

自販機の発達したる我が祖国外国人が驚いて居り
年ゆえに一人歩きの出来ぬ身は付添いくるる者を頼りに
親しげに声かけくれし女性あり思い出せぬ名訊かず別れ来
酒断ちは病いのためとあきらめて馴れてしまえば欲しと思わず
近づきしコッパドムンド楽しみ日本チームはどこまでやるか
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:思いがけない場所で女性から優しく言葉をかけられた。名前を訊くのも失礼と思って別れたが、はてさて今の妙齢な美人はどなたであったかな―。佳品。)

屋上にブラジル国旗ひるがえり今日より始まるワールドカップ
攻防の蹴球戦を胸熱くわれは見ているブラジル勝てと
アレマンとわがブラジルの蹴球戦七対一とは泣くにも泣けず
攻防の蹴球戦に俊秀のアレマンチームに凱歌があがる
【藤田朝壽】


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


師や友へ感謝己の道が開け
世渡りは加減乗除の波に揺れ
七転び八起き明日の夢追って
一農年農夫は素手で立ち上り 
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:開拓期の移民の姿を詠んだものと解釈したい。下句「素手で立ち上り」の表現力、流石です。)

伯字紙も漢字に日の丸移民祭
市議二世市長も二世移民祭
ビル越しに花火眺める移民祭
移住時抱かれ来し児も祖母となり
【レジストロ春秋会 小野浮雲生】
(評:お祖母様の顔に移住当時の嬰児の顔を重ねたことで、一巻のドラマが描き出されました。)

神代から天災地災あとたたず
ロボットが手助け看護らくになり
あんた呆けたねと認知症に笑われる
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:「あんたも呆けはったなあ」と認知症者のうつろな眼で見つめられたらたまらない。適当に相槌を打ってさりげなく遠のいた方が利口かも―。)

膝まくら三年目には肘まくら
寝たきりの親の年金子が使い
静かですみんなメールと話してる
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:世はIT化時代。聞こえるのはキーの鳴る音だけ。)

まっ先に桜餅買う花見かな
祖国今地震台風熱中症
大乾季分けて欲しいなその雨を
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:旱魃に洪水、それぞれにドラマは尽きない。世の中は思うようにゆかないもの―。)

奥行きの深い柳句に感じ入る
メガセーナ毎週富豪が生むお国
耐用年数過ぎた頭で打つ手なし
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:耐用年齢はいつまでとは決まっていない筈。まだ打つ手はあります。ファイト、ファイト!)

笑えないお笑い聞いて眠くなり
ぎりぎりの逆転劇はロス・タイム
カットなし命の終わる日のドラマ
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:こればかりは不可抗力と言うもの。人生ドラマの終極ですね。)

W杯ドイツチームに持ち行かれ
花まつりやっぱり桜は美しい
提灯で日本祭り盛りあがる
【セントロ桜会 中山実】
(評:提灯の連灯は日本的情緒を浮き上がらせ、祭り気分に浸らせてくれる。)

父兄会アメリカなれど従いて行く
相撲観るための早起きいとわない
美しい梅の枝にお猿さん
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:梅の枝にお猿さん。一副の絵を観ているようですね。一度出くわしてみたいものです。)

あつあつの筈が冷めたかもう離婚
マイペースくずさず走るゴールまで
自己見つめ歩けばつまずく事もなし
【サンパウロ中央老壮会 渡辺文子】
(評:自己過信はつまずきのもと。己の身の丈に合った歩幅で―。)

ブラジルに根付き枝張り半世紀
今日も無事ひと日感謝の手を合わす
物忘れあのうそのうで言い訳す
【サンパウロ市 大塚弥生】
(評:「忘れてしまいました」と素直に詫びるのがいちばん。)

間違いは誰にもあるさ気にしない
裏返し見ればやさしさあった春
口閉じて利口だったと思う今
【オザスコ市 平谷伊佐】
(評:沈黙していて良かったと思うこともあるもの。言葉使いは慎重に―。)

浅学のかなしさ素敵な文書けず
夢で合う亡き人誰も年とらず
愛用のミシンも不要で塵被り
【サントス厚生ホーム 大矢のぶ子】
(評:既製服時代となってミシンを使うこともほとんどなくなりました。)


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