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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2014年12月号

2014年12月号 (2014/12/15) 俳句 (選者=樋口玄海児)


父母結婚記念の杉よ樹木の日
童話読む事も看護や春の昼
あやとりの如き会話や春深む
折鶴で覆ひし柩春は逝く
【猪野ミツエ】
(評:一句目。父母結婚記念日に杉を見上げながら父母を思い出している。しかも、その日は樹木の日であることと知る。父母の思い出はあまりに多く、ただし父母の思い出に植えた樹木は何と言うであろうか。他人はこの句を読んで何と感じるだろうか、と思わせるところが良い。二句目。病人との会話を上手に俳句にした。季題が春の昼で、暗くなる病人を明るく表している。)

俳諧は世界語となり念腹忌
旱天や水を大事に使ふ主婦
演目に長寿音頭も花卉祭り
マンジュバ童謡ながすレストラン
【香山和栄】
(評:三句目。どこの花祭か長生き音頭を流し、花祭を引き立てて楽しい祭りだったでしょう。評者はまだ長寿音頭を聞いたことがない。一度聞いてみたい。四句目。マンジュバを食べさすレストランで童謡を流して明るい感じを与えた。マンジュバにぴったりの句であろう。また、マンジュバは一年でほんの少しの間しか食べる時はなく、珍しい魚である。)

遡る銀のさざなみマンジュウバ
リベイラの河の名物マンジュウバ
雨知らす蟻の行列畦渡る
青くさき鳴き声出すよ雨蛙
【森川玲子】
(評:二句目。マンジュウバはいたみ易い魚で、生きている時に料理して食べる魚。地元の人は生で食べている。また、生で食べれば格別である美味。)

やわらかき芝に思いや墓洗う
長男の手の頑丈に墓洗う
花園の墓地一望や墓洗う
墓洗う父母は他州に眠るかな
【伊津野静】
(評:二句目。久しぶりに長男と墓を洗った一日。長く見なかった長男の全身しっかりした体。特に手の大きさ丈夫さを見て、長男の人生を思い走らす気持ちになった母。めでたい句。)

芝青む幼児を載せるすべり台
両親の墓拝む我が掌も老ひぬ
詫び乍ら踏む霊園の芝青む
春小雨羽ふれ合ふて番ひ鳥
【伊津野朝民】

父母弟妹孫子の眠るパース墓地
何時の日か我も入るべき墓参る
卒寿過ぎの夫と墓参の出来る幸
【矢島みどり】

アララ来て巣つくる町の名はアララ
森伐(き)られアララが選びし町の椰子
街の子のサッカーチーム燕飛ぶ
【清水もと子】

手にノート持つ一団や梅の花
春愁や此の頃つづく医者通い
開拓地今果樹園に花マンガ
ロドアネウで聖市半周墓参り
【畠山てるえ】

父の忌も六十回目椰子茂る
墓洗う逝きたる娘の年数え
晩春や以外に寒き日がつづき
【小野浮雲生】

花くづを一ト呑みにして池の鯉
秘めごともなし大輪の冬のバラ
【山田富子】

初夏の風暑さ忘れる心地よさ
マンジューバ刺身で食べるおいしさよ
【荒田田鶴子】

雨を待つ青く澄みわたる初夏の空
マンジューバ子等は背骨を取って食べ
【原口貴美子】

行儀よく伸びしユーカリ夏の山
咲けば明るくキリストの泪と云ふ花は
ジャタイ蜂早や働きいる春旱り
囀りに耳傾けて放れ馬
【樋口玄海児】


短歌 (選者=藤田朝壽)


町裏の垣根の庭にひるがえる白きむつきを久々に見る
クレタ島の潮騒聴くや掌に夫は土産の小石を揺らす
道の辺の背丈に伸びし夾竹桃初花なれば声かけて過ぐ
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:三首とも水準の高い作品。「初花なれば声かけて過ぐ」は読者を感動させる。)

耳遠くなりたる妻とちぐはぐにふた言みこと交わして和む
惚ける日の来るやも知れぬ月おぼろ三寒身に凍む八十路を歩く
ブラジルに五十年過ぐ過ぎ去りはたわやすからずとつくづく思う
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:作者は愛妻家。耳の遠くなった妻に話しかけ分かっても分からなくても声をきくだけで満足。)

イペー祭あまたの人に囲まれし老夫の笑顔を久々に見る
思わざりし吾が晩年の幸せを神に感謝し暮らす毎日
ドラマ見る老夫と二人の日々なれば過ぎゆく刻の惜しまるるかな
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:イペー祭に多くの知人に囲まれて喜んでいる夫の笑顔を久しぶりに見ることの出来た喜び。素直な歌。)

届きたる暦に蔵王の湖の碧き鎮りふるさと偲ぶ
今一度立ちよりて見ん心まで明るく染めし黄イペーの花
花のみに生の限りを燃やすごと爛漫と咲く黄イペーの花
【スザノ福栄会 原君子】
(評:「花のみに生の限りを燃やすごと」とは巧みな表現。)

腕かして老女とゆくは女孫らし人ごみのなか胸あたたまる
お手しよと言いし人等はとうに逝き吾娘らの世代はプラッチンニョで済ます
【サンパウロ中央老壮会 野村康】
(評:人ごみの中を老女に腕をかして歩む娘。作者も老い人、胸あたたまる思いで見ている。)

ブラジルに二十七年住み古りて帰れば故郷の母に泣かるる
生きておればいつか会えると帰日せし吾が手をとりて隣人は泣く
戦死せし一人子を偲ぶ翁なれブラジル帰りの吾を見て泣く
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:二十七年ぶりに帰日した「ます女」を見て、かつては戦死した息子と幼友達であったことを思い、息子が生きて居てくれたらと泣く翁。なんとも哀れである。)

何げなく窓より仰ぐ残月は半世紀前の思い出起こす
チクタクと時計の針は進みゆく今年も残るはあと二ヶ月余
拉致家族憤りの声を大にして一日も早い帰故郷を望む
【セントロ桜会 大志田良子】
(評:拉致家族の怒りの声。一読しただけで痛切な思いが湧いてくる。)

断水をかこつ主婦らに今日も亦雨の予報は空しく外れ
盆参る炎天下の供花に水そそぐ日系娘のやさしき姿
ジウマ再選赤旗のPT大さわぎされど国家の前途険しく
【プラッサ・ダ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:八十年来の大セッカ。畑に灌水も出来ず、天を仰いで土砂降りの雨を待つのみ。)

五年前大腿骨折の手術せど車の運転出来る喜び
吾が愛車本田シビクは自動ギヤ六年経てど故障なく過ぐ
吾が家族に日本製車の増えてゆく今年は全部で七台となる
【バレットス寿楽会 池田正勝】
(評:家族の一人一人に日本製の新車を求められるとは、素晴らしいです。あやかりたい思いです。)

徐々に空暗くなりきて待ちまちし雨降り出せりサントアマロに
心地よき音を立たせて雨の降る選挙たけなはの十月の末
【セントロ桜会 富樫苓子】
(評:サントアマロにはかなりの量の雨が降った様子。天の恵みです。)

ファゼンダのコーヒー収穫始まりて一家総出で赤き実をもぐ
訪日し富士山見るは今日最後新幹線の窓に雄姿を
サントスで別れし移民ら薪を焚く汽車で奥地へ見知らぬ國を
ブラジルに移住せし身は帰日して友らの戦争話を聞きぬ
【ツッパン 上村秀雄】
(評:新幹線の窓から富士の雄姿を見ると日本へ帰って来たのだとの思いが湧く。富士山は今もなお日本の象徴である。)

招かれし先生に一言の謝辞もなく終わりぬ今年の敬老会は
盆の日は花束抱いて公平の眠る墓所へ今年も詣づ
朝ごとに庭に撒きやる飯粒に小鳥はなれて次つぎに来る
夜更けまでランプの明りで読書せし若き日を恋う二度とかえらず
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:四首ともよくまとまっていてしみじみとして胸をうつ歌。二首目の「公平の眠る墓所へ今年も詣づ」の歌は淡々と詠まれていて特に胸をうつ。)

ひまわりを咲かせんとして耕せば蚯蚓ははねる春日の中を
桃色は安心感を呼ぶという癌病院の垂れ幕に見る
物売りの声聞くこともなき家は塀越えてなおミカン色づく
【寺田雪恵】
(評:ガン病院へ行った作者は桃色の垂れ幕を見て心うたれたのである。桃色は色彩感に富む色。見舞いに行った方も心が何となく休まるのであろう。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


折り紙も認知症の予防なり
いつか死ぬ知らぬが花で生きてます
いつまでも枯れない花に嫉妬して
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:いつか枯れると分かっていてもなるべく長く美しく咲いていたい。この花のように―。)

大統領見事再選目出度き日
歳時記を開けば逝きし句友(とも)浮かぶ
うららかや娘に添い杖つき例会へ
【レジストロ春秋会 小野浮雲生】
(評:付き添ってくれる娘さんがあることの幸せが上句にうかがえます。)

八月の空思い出す終戦日
あの日から六十九年の日が流れ
父の日に集うてくれる子に感謝
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:親子の絆の温みが伝わってきます。)

髪刈ってすっきりさっぱり若返り
出来るだけ背筋のばして熟年会
多過ぎる薬病を重くする
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:薬を少なくと思っても医師の処方箋に従うしかありませんね。)

いつか来る大器晩成信じつつ
食べられる内が花です食の秋
遠回りするも人生味なもの
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:「迂回して拾った温い人情味」という句を思い出しました。)

エアコンが付いて団扇の用終わり
短冊に色いろ書いて願いする
ボランティア尽くした人が車椅子
【サントス伯寿会 大矢のぶ子】
(評:親切な人だっただけに余計いたましく思い遣る作者。)

やり直し出来ぬ人生星流れ
わだかまりすっきり解けてよい目覚め
胃袋が今日も生きよとひたむきに
【オザスコ市 平谷伊佐】
(評:健康のシンボル、胃腸は今日も健全です。)

ふる里の民謡競う晴れ舞台
さくら花供えごめんと父の日に
良き友はいつも心の中にいる
【サンパウロ市 大塚弥生】
(評:何やかにつけて良き友の顔はまっ先に浮かんでくる。)

言いよどみすっきりしない胸の内
簡単に予約は出来ぬ裏がある
さっぱりと頭切り替え出来ず老い
【サンパウロ中央老壮会 渡辺文子】
(評:出来そうでなかなか出来ない頭の切り替え。「三ツ子の魂百まで」と言われる所以です。)

リベルダデにラジオ体操記念塔
イペーロッシャ桜に見えて美しい
自転車道赤い色がすがすがし
【セントロ桜会 中山実】
(評:いつか自転車で走ってみたいな、と思わせるほど新鮮な感じ。)

ひれ伏せば神もやさしく受けてくれ
手を合わすだけで心の和み知る
国境ない空にひととき平和見る
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:スケールの大きさを頂く。下句の表現が佳い。)

運命の糸にゆだねて生きるのみ
ありがたい数えきれない友があり
家族愛に包まれ生きる老いの幸
【オザスコ市 杉浦いつ】
(評:これに勝る幸せはありません。)

顔色が読めずに無駄口が祟り
窮屈にみんなが座る自由席
かじられた脛が一息つく余生
【パラナバイ市 今立帰】
(評:細くなった脛をさすりながら、やっと一息つけますね。)

迫り来る明日という日に微笑みを
悔いばかり残して歩く古希の脚
死に上手いつも頭の隅におく
【ソッコロ市 大城戸節子】
(評:「ありがとう」と言い残してニッコリ微笑んで―。)

この星に平和憲法残したい
監督を退職させた負けっぷり
八十を越すと歳を言いたがり
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:歳をかくす年代は過ぎました。「わたし、もう八十を過ぎたのよ」と大きく胸を張って―。)


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