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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2016年5月号

2016年5月号 (2016/05/29) 俳句 (選者=樋口玄海児)


簡単な漢字忘れて秋灯下
人間より品良く熟柿食べる犬
柿剥げばとんで来る犬身も軽く
行く秋や今年も一人旅プラン
落葉道いつも一人の老と犬
アレルイヤ寺の参道花明り
【田中保子】
(評:二句目、飼いならした犬や猫は主人のやる事は何でも真似る事が出来る。まるで家族の一員である。)

女性の日街行く姥も貰うバラ
秋うららいなせに地蔵の赤頭巾
焼鰯骨ごと食べて男の子
本願寺の二基の鐘楼去ぬ燕
【香山和栄】
(評:一句目、新しい季。日本にはない季題で作られる珍しい。ブラジルでしか作れないこのような句がじゃんじゃん作られることを望む。)

汲み上げし井戸水白く暮の秋
手土産に枝ごともらふ柿の畑
初つばめケロケロ鳥の飛ぶ空を
自家製の塩から甘し秋暑し
【森川玲子】
(評:一句目、深井戸より汲んだ水が白く見えたと言っておられる森川さんの井戸は掘り抜き井戸と聞く。さぞ美しい水が出ておられるのでしょう。)

山越せば海一望やアレルイヤ
店先に可愛いお客チョコ卵
猫抱けば仔犬付き来る庭の秋
母に抱かれ着きし港に秋燕
【畠山てるえ】

行く秋の空に一条飛行雲
アレルイヤ花に負けずに朝体操
柿熟れて子等も小鳥もうれしそう
【原口貴美子】

家族には隠し味なる茸かな
アカシアの看板出して材木店
友からの誘いことわる残暑かな
【村松ゆかり】

お手玉の中のあずきの音涼し
値下がりを待って柿買う朝の市
白き風切って遊べる秋燕
【寺田雪恵】

ラジオ体操アテモイアの実見上げつつ
秋日和水玉頭巾の地蔵さん
うららかやカピバラ日本の人気者
【香山和栄】

俳部屋に仏壇のあり仏生会
孫の顔ふくみ笑ひや四月馬鹿
地にたれて十六豌豆みずみずし
【青木駿浪】

八十の吾にも出来る菜虫取る
バラ咲けばバラの庭なり月の庭
ユーカリ樹水昌山の霧宿し
新涼の牧に少年馬に鞭
美しき畑までありし蟻の径
【樋口玄海児】


短歌 (選者=藤田朝壽)


楽しみの七十年の婚祝の一日早く夫は逝きたり
通夜の客安らぎ与える暖かき微笑み残し夫は逝きたり
【プラッサ・ダ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:九十六歳で急逝されたご主人に感謝一杯のみどりさん。お元気で。)

前選者藤田先生「赫き大地」の短歌集出版されし
エッセイと短歌の素晴らしい御本九十歳で出版された
御縁にて文通すれど立派なる御本を吾に送り賜へり
【バレットス寿楽会 池田正勝】
(評:本当に私も驚き立派だと思います。)

洗濯物いっぱい干して見上ぐ空自然の恵み今日も元気で
むれ雀餌を求めてどっと去る朝の神想観教会の土間越し
四月馬鹿ジアダメンチーラと笑う日は吾の誕生日なり八十一とは
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:お誕生日おめでとうございます。)

思い出して
われ難聴夜中の亡夫は声ほそく共に手首のヒモを引き合う
亡き夫は両眼ともに失明し住みなれし家歩行器自由に
親友に「さびしいでしょ」と問はれると遂に想い出が悲しみに
【セントロ桜会 大志田良子】
(評:三首目とてもいいですね。)

良き事かこの選択を迷う時正しきごとく空晴れわたる
夜の空かなたの雲の合い間より稲妻走るも雷の音せず
機上より暗きジャングル見下ろせば戦火のような稲光見ゆ
【サンパウロ中央老壮会 西原訓子】
(評:稲光は色々感ずるものですね。)

予想せぬ不意の停電キャンドルでロマンチックな二人のディナー
日曜日家族の集い昼食会かけがえの無い幸せあふれる
われ語る昔話に孫笑い未来の抱負を吾に聞かせり
【サンパウロ中央老壮会 三宅珠美】
(評:お孫さんたちとの語らい。ほのぼのとしますね。)

隅田川友と一緒の船旅を桜のたよりが思い出させる
花小金井息子が住んだあの町の並木の桜彼の青春
桜花テレビが映すそれだけで何か心がうきうきとする
【サンパウロ中央老壮会 尾身千枝子】
(評:桜の季節は遠くにいても浮き立つものですね。)

鉢植えの野菜育ては楽しいもの歌考えつ土ほぐしおり
連休をリオの子の家に半年ぶり抱き合う胸のあたたかき愛
次男嫁異人なれども気兼ねなく明るいおしゃべり家庭円満
【サウーデ文化協会老壮部 山田かおる】
(評:どの歌も愛があり気持ちが暖かくなります。)

街路樹に桜に似ている花があり足を止めると日本の風が
ブラジルに来て六十年未だにことば意のままに出ず
【サンパウロ中央老壮会 神田桂子】
(評:二首共とてもいいです。)

生かされている日々悔いなく過ごさんと今朝も露けき庭を掃きおり
一日の農作業終え湯につかる手足伸ばして明日にそなえん
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:心洗わる思いです。)

声量の豊かさに心魅せられてヴォルガの舟唄聴く春の夜
早春の風に揺れつつやもめかずら紫のはな貴やかに咲く
送り来しカード開けば日本の空気がボンと部屋に飛び出す
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:三首共春がよく表現されています。)

夏雲のたちまち殖えて雷の音とどろき高くビルをゆさぶる
夏らしき気候となりて今日もまたゆだる暑さに夕立くるやも
真向かいのビルの夕陽はギラギラと吾が家に反射し暑さ増しくる
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:夏のギラギラする暑さがすぐそこに伝わってきます。)

ふさわしきその名と思う細長く銀色おびて光る太刀魚
曇り居の身に届きたる秋の色小かごに盛れる歌友よりの柿
歩き初めし曾孫の足取りたのもしく吾の歩調は日増しにおとろえ
【スザノ福栄会 原君子】
(評:歩き始めた曾孫さん、さぞ頼もしいことでしょうね。)

閉店の食堂はいま後仕舞い食器のふれ合う音が聞こゆる
移り来て幾山河を超ゆれども止まるわけにはゆかぬ八十路か
若返り長生きせんと白髪染め短歌など詠みておだやかな日々
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:短歌を詠むと若くなると思いましょう。)

三世の孫にしあればポ語のみに生きて日語は苗字だけなり
椰子の葉の露が光れる星月夜いただき帰る日語夜学生
日本の大河ドラマの逆を行く汚職に満ちている伯国ドラマ
【サンパウロ中央老壮会 野村康】
(評:日語を夜学で勉強していること大変ですが頑張って下さい。)

愛国行進曲歌うを聴きて十八歳の我は魅せられその夜ねむれず
青年が三人よれば歌い出す我らの愛国行進曲を
愛国行進曲とその名と曲はよけれども時代変わりて今はうたわず
【スザノ福栄会 藤田朝壽】
(評:一度聴いてみたくなります。)

一日中熊本地震のニュース観る祖国だからとつくづく思う
地震のこと予測は出来ぬというけれど神のみが知る自然の驚異
人間はどうしてこんなに弱いのかお城のシャチはどこかに逃げた
【藤田朝壽】

現代短歌の名歌集(篠弘編)
命あるままに積りし齢なり命の齢なりわがものならず【窪田空穂】
最上川逆白波のたつまでにふぶくゆうべとなりにけるかも【斎藤茂吉】
八十をいたく喜ぶ歌に会ふ思ひみるなく我は過ぎて来し【土屋文明】
モーツァルト聴きてねむれば身は透きて病も溶けてゆくかとおもふ【上田三四二】
一房の巨峰重たき熱もてり近代の巨大異変種の末【馬場あき子】
祖父・父・我・息子・孫・唱うれば「我」という語の思わぬ軽さ【佐佐木幸綱】
かならずも日本に死なずともよし絵葉書のランプに今宵わが火を入れぬ【小島ゆかり】
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ【俵万智】


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


日本海核ミサイルの試験場
打ち上げる核日本海の波荒らし
平和でと祈る心で遠く住む
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:北朝鮮の核阻止へ日米韓安保協力の強化で安全保障を望みたい。)

眼と両手笑わせお手玉手にやさし
老いた手にお手玉なんと落ちやすさ
お手玉になつかし少女の音をきく
【サンパウロ中央老壮会 寺田雪恵】
(評:お手玉を手にして少女時代を懐かしむ作者。サクサクとしたお手玉の音が聞こえてくるようです。)

振り向けば夢中で咲いた子育て期
ファミリーの基地はわたしの台所
少子化に孫まで付いた嫁が来る
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:少子化など何処吹く風を思わせて風刺満々。川柳ならではの表現法。お見事です。)

我が国の秩序と進歩の旗が泣く
魔物住む政界汚職泥まみれ
つつましくお天道様と歩きたい
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:お天道様は私たちに希望と勇気を与えてくれます。上句の「つつましく」がいいですね。)

次々と催し多く駆ける日々
この不況オリンピックで吹っ飛ばせ
国民の痛み分かるか政治家よ
【なつメロ倶楽部 坂口清子】
(評:政治家はお金が何よりの目標。汚職を犯しても私腹を肥やすことにしか余念のない政治家に国民の痛みなど無縁に等しい。)

ランピオンの匂い漂うノルデステ
何となく老いのおとろえひしひしと
財政難解消策は年金減らし
【サンパウロ中央老壮会 角谷博】
(評:老齢者にとって先行きが思い遣られます。)

日系の行事いずこも盛り上がる
嘘ついて政治家平気で生きて行く
まず党派固め国民そっちのけ
【セントロ桜会 中山実】
(評:ブラジルへの世界からの信用度は低下するばかり。)

つまずいただけで転ばずほっとする
アスファルト押し上げ伸びる木の根っこ
聴いている振りして欠伸かみ殺す
【サンパウロ市 渡辺文子】
(評:口を開けずに欠伸するにはかみ殺すしかない。上句のユーモアが利いている。)

一日を無事に終えふと手を合わす
衰えは頭に置かず盛るプラン
適当の言葉のなんと曖昧さ
【サンパウロ市 大塚弥生】
(評:「どうぞ適当に」と言われて途惑う事もあるもの。)

わだかまり捨てて気楽な旅に出る
旅の恥かき捨てながらの一人旅
一線を引いて妥協に背を向ける
【オザスコ市 斉藤立穂】
(評:これ以上はもう一歩も譲れない。決然とした態度が頼もしい。)

良い予感悪い予感も気を遣い
ボンジーアお早うどちらも清々し
悟り切る心構えで生きる日々
【オザスコ市 原幸雄】

潤える大地の恵み陽の恵み
宝くじ予感当たらず空くじに
財布中記憶に合わず又数え
【オザスコ市 井上風車】

出航の記憶も薄れる八十年
一人減り又一人減る句会かな
立ち話出来る友も見当たらず
【オザスコ市 林久美】

亡き人を記憶にとどめ刻む日々
薬づけ一日時間にしばられて
何となく予感に頼る事もある
【オザスコ市 斉藤晃伯】

光り射す渡ってみたい虹の橋
修好の百二十年の橋ぬくし
橋消える自然の猛威打つ手なし
【サンパウロ市 市田イツ子】

子や孫よ日伯架ける橋となれ
男には言ってはならぬこともある
権利主張義務を果たさぬ人が増え
【ソロカバ市 早川量通】

子や孫がそっくり悪い血筋引く
親切に橋渡しして徒となり
買った物忘れて帰るボケはじめ
【スザノ市 飛松信雄】

四階の花吸いに来るハチスズメ
外の火事高みの見物五階から
諦めず続けてよかった上位賞
【サントス市 大矢のぶ子】

万人の手から手へと渡る金
世の中に金ほど汚れた物はない
盆日和墓地で昔の友に会い
【サントス伯寿会 三上治子】

◎席題「見栄」 ふみ出題
見栄ばかり中身は何もない大人【博】
つつましく生きた俺には見栄不要【博】
見栄っぱりあちこち寄付して金不足【清子】
男なら見栄を張っても名が欲しい【清子】
あの野郎金もないのに見栄を張る【実】
見かけだけ良く見せたがる見栄っぱり【実】
見栄っぱり粗食ばかりでダイエット【ふみ】
一DKマンション暮しで見栄を張り【ふみ】





「老移民のため息」

移民が移民の自分に本当に向き合うのは老年期に入ってからだ。
活動期の移民は異民族をあまりにも気にして自分の圏内の育成に気毀(こぼ)れあり。
移民の子が育ち、異民族に溶け入り、老移民が取り残された時、移民の心知る子一人でも残りしは良し。
異国で病をして、老夫婦で闘病でもすれば、移民という自分本来の姿に向き合う。
移民の実績を残すなら、その心意気を添えて残す工夫あれ。
肉親の絆を固め、友の輪を広げ、一世の去りし跡も移民の香りを残したい。
老友よ。今が移民の自分に本当に向き合う最後の時期と思う。君はどう思うや!


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