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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2018年8月号

2018年8月号 (2018/08/15) 俳句 (鑑賞=吉田しのぶ)


足留めの電車の故障駅寒し
祖母母の齢越え来て茎漬くる
朝市に何はともあれ葱を買ふ
冬の蜂つまんで刺されべそかく子
菜を干せば知らぬ間に来て冬の蜂
【畠山てるえ】
(評:電車が故障して足止めをくうことはブラジルではよるあることです。通勤電車だと遅刻という事態も起こります。寒い駅の構内で待たされるその気持ち通勤者にはよく解ります。実感です。)

コッパ観る健闘日本涙して
大冬樹蛸足の如気根垂る
立てつづけ嚏(くさめ)に淑女はにかめる
曾孫娘にマニュキアをさる冬ぬくし
予定なき四温の一日ミシン踏む
【猪野みつえ】
(評:予選に勝ち残ったW杯、ベルギーとの戦いに惜しくも負けましたね。日本がここまで健闘するとは思っていませんでした。三対二という世界にひけを取らない実力を示してくれました。選手もサポータも感動の涙を流した試合でした。)

古セーター肌に馴染みて心地よし
冬旱時が解決するを待つ
着ぶくれの姿誰にも見せられぬ
冬の夜や思い出だけの人となり
庭隅に可憐に咲きし冬そうび
【坂野不二子】
(評:着古したセーターも捨てがたいものです。そのセーターに愛着がわいてくるのも不思議です。私など思い出のつまったセーターだとそればかり着ます。冬ぬくしと言って季語が動かないものになりました。)

餡たっぷり寺のバザーの草の餅
梟や彫刻のごと馬柵の上
一と夜さで単衣一枚縫ふ夜なべ
風呂吹のねりま大根この一品
琴で弾くヴォルガの舟唄冬ぬくし
【香山和栄】
(評:寺のバザーで一番先に売り切れるのは草餅です。餡たっぷりで一番人気の一品です。年一回のバザーを楽しみにしている人たちで毎年売れ残ることはありません。バザーの草餅は実感です。)

養国に幾春秋の移住祭
弓場味噌の売子はバレリーナ日本祭
君が代やロシアの青空W杯
黄緑旗振る群れに入るW杯
焼芋を半分にして焚火祭
【田中保子】
(評:今年で二十一回目となる日本祭りは移民百十周年を記念して日本から皇室を迎え盛大な記念式典が開催されます。作者は戦後移民、養国のブラジルに幾春秋の移住祭を迎えることが、来し方を振り返り感慨深いものがあります。幾春秋の言葉の表現は胸に迫るものがあります。)

重ね着や齢重ねし背の丸み
北鮮の仮面外交冬の雷
冬の雷物流ストに泣く庶民
華のある齢重ねて冬薔薇
百十年不屈の歴史移民祭
【鈴木文子】
(評:齢をとると恥も外聞もなく重ね着をして寒さを凌ぐ、そして余計背なの丸みが目立つようになります。私など寒い時期は綿入れの半纏を引っ張り出して今年は着ました。齢は取りたくないものですね。)

入植の苦難は遥か移住祭
夕暮れの侘しき色や冬ざるる
紅イペー掃かずにしばし夢心地
わが子には届かぬ思ひ寒の月
晴天の冬空飛んで里帰り
【上田ゆづり】
(評:誰にでもあった入植当時の苦難を思い起こすとき、その苦しみを乗り越えて今の幸せがあるのです。あの当時が懐かしいとさえ思う今の境遇に満足し移住祭を迎える幸せ、自ずと感謝の念が沸いてまいります。老境に入る移住者の実感です。)

空砲なく少し淋しきゴールかな
寒気満ち莢のはじけて風に舞う
カーテンの黒の一点冬のはえ
紅色のブーゲンビリア這いのぼる
初しぐれ紅一花ゆらりとす
【田尻瑞穂】
(評:W杯の熱戦も幕をとじました。日本もブラジルも惜しくも負けました。終わっみれば淋しい結末でしたね。でもひやっとするあの気持ち試合を楽しませてくれました。本当に淋しいゴールは実感です。)

冬ぬくし十指で足らぬ孫の数
短日や日々なせぬこと多くなり
老猫の逝きて一人の日向ぼこ
ウルブ舞ふ漁港部落の船着場
〆切を明日に短き夜長かな
【大原サチ】
(評:九十歳を超えた作者には十指では足らぬ程の孫に恵まれて幸せな余生を送っておられます。確固たる指針をもって生きることは人生の生きがいにつながります。冬ぬくしと言って充実した余生を送る姿が見えてきます。)

ミシン踏む日がなカタカタ日脚伸ぶ
七夕に生れし息子に白髪見え
頬染めし熱きぶどう酒サンジョン祭
コッパ観て相撲始まる冬休み
七月は検診の月腰伸ばし
【森川玲子】
(評:だんだんと日脚が伸びてくる時節です。一日中ミシンを踏む音が聞こえてきます。さあ何が縫い上がったのでしょう。趣味と実用を兼ねてミシンを踏むそんな一日が日脚伸ぶで鮮明に表現されました。)

デイサービス老人の笑顔冬ぬくし
コーランの流れる墓地の霧襖
星冴ゆるタラップ上る小さき背
ストールの似合う老女を見送りて
冬の蝶舞い降りしまま寂となり
【岩崎るりか】
(評:今の世は介護福祉士といって老人の介護をするデイサービスの職業が必要とされている時代です。老人の笑顔に迎えられるのは心が和みますね。冬ぬくしといって老人との和やかな場面が想像できます。)

山門を出るや冬日のすでに無し
寺を守る親鸞像に鐘冴ゆる
リハビリに励む日々なり春隣り
冬安吾僧に七曜なかりけり
古里は豪雨甚大着ぶくれて
【吉田しのぶ】


短歌 (選者=梅崎嘉明)


胡蝶らん知る由もなく咲きつづくわが歌の師の形見なりけり
めぐり来し日本まつりに家族してふるさとさぬきのうどんの列に
熟年ク芸能祭の盛大さ老の元気の見せどころなり
【サウーデ文化協会老壮部 山田かおる】

リ広場の木は小なれど国花イッペイ蕾ふくらみ開花まちいる
早朝の寒さやわらぎ今朝見ればやっと八部目ほほえみかける
目の前のイッペイロッショ眺めつつ今朝も元気にラジオ体操
【サンパウロ中央老壮会 大志田良子】

病より解放されし喜びよ医院帰りにアバカトを買ふ
皺深き黒き吾手をかざし見る農にかけこしこの手この指
曲りたる胡瓜なれども初物なりてみどりと香り仏前に供える
【レジストロ春秋会 小野浮雲生】

ジャブチカバ強い香りの白い花吹くを知らせる蜂の羽音も
冬の日に生暖たたかい風にのり銀もくせいの香りが届く
友として師としてあった人逝きて年を取るとはこう言う事と
【サンパウロ中央老壮会 尾身千枝子】

 敬愛せし俳句の友であり短歌の師でありし新井知里さんが急逝されました。早朝の水中体操から帰ると間もなく電話の声はご主人で、不思議に思うと、知里さんの訃報でした。びっくりで言葉も出ず、目の前が真っ暗になりました。卒寿を迎えた私に比べると、まだまだ若くお元気だった方が突然に…。信じられない、信じられない…。イビラプエラ公園での体操とカミニャーダ(散歩)に張り切っておられ、文協の舞台では健康体操を踊って、とても喜んでおられました。
 熟連の短歌の選者で、文学、音楽と器用な方でした。私が卒寿の時、短歌に誘って下さり、最初に書いた三首の中から「これを日本へ出したらいいよ」とおっしゃられ、出した一首が次の句です。「三才児ふるさと出でて卒寿まで 生かされしこのブラジルが好き」。それが幸運でした。思いがけない入選を一番に知らせて、共に喜んで頂きました。
 幼く日本を出て、田舎育ちで、十三歳も年上の無学な私を可愛がって下さいました。「老いてもなお、学ぶことを生きがいに」と、教わりました。私の誕生日は寒い朝でした。大きな胡蝶蘭を抱えてお祝いに来て下さいました。二か月過ぎた今なお、きれいに咲いている蘭は形見となりました。逝かれて間もなく、サウーデ俳句の会の日、誰も悲しさに言葉もなく、空席に生前お好きだったバラを捧げ、一同、黙とうしました。
 「沈黙の句座に燃え立つ 冬のバラ」これは西谷律子さんの特選句です。
 九月に行われる七十回の節目の短歌大会を楽しみにしておいででした。優れたご子息とお孫さんに恵まれ、いつもご自慢で嬉しそうな笑顔は忘れる事が出来ません。どうぞ、やすらかに…。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

「新井先生に捧ぐ」
忽然と逝かれし我が師の訃報聞くただ呆然と言葉失う
わが短歌この師ありてこそ来れたのにおやどりなくしたひなの如なり
早過ぎた神のお迎え敬愛の友でありしに師でありしに
【サウーデ文化協会老壮部 山田かおる】

※ 次号より以前、この欄を担当して下さっておりました梅崎嘉明先生が再び選者をして下さいます。宛先は左記にお願い致します。


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


W杯の蔭に空缶拾う人
転んでもただでは起きぬウン掴み
黄緑のTシャツ着ても日本人
不況など忘れて勝利の美酒に酔う
【サンパウロ中央老壮会 原一平】
(評:日本とセネガルのW杯試合の後、両国のサポーターがスタジアムを掃除して回る姿が印象的でした。或るセネガル人は「日本のマナーを見て自分もやろうと思った」と言う。ブラジル人にも見習ってほしいもの。)

いかにせん暴れに暴れたこの豪雨
W杯ブラジル負けて街静か
寒波来て背中丸めて急ぎ足
あれこれと楽しみに待つ日本祭り
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:西日本の豪雨禍による被災者を思うと胸がいたみます。救済活動が早く進むようにと祈るばかりですね。)

各国の威信をかけた世界杯
ヴァチカンで泣くブラジル人の姿みる
あこがれのトスカーナでワイン飲む
ここが里俺がルーツの元祖とは
【サンパウロ中央老壮会 角谷博】
(評:三〇余日間世界の目を集めたW杯サッカー戦もフランスの勝利で無事終了しました。)

朝起きて生あることに先づ感謝
犬走り人はおしゃべり朝の園
よく食べて程よく休んで健やかに
子や孫の幸せ祈る年令(とし)となり
【なつメロ倶楽部 坂口清子】
(評:生かされて今日も元気で朝のリズムに乗れることに感謝して――。)

陽の当たる窓べで舟こぐ齢(とし)となり
窓べ射す夕日にいよいよ秋ふかむ
からからと空きかん転がる散歩みち
久しぶり叔母の顔にも皺が増え
【サンパウロ中央老壮会 佐藤エリーゼ】
(評:なんと幸せなひと時、こっくり、こっくり夢を乗せて――。)

政治家の収賄問題花ざかり
民主主義最後は金力優先し
核廃絶疑視たんたんと見守って
飛びついて中途半端な趣味ばかり
【中央老壮会(ポンペイア市) 須賀とくじ】
(評:テレビのどのチャンネルもラヴァジャットのニュースで持ちきりです。)

無意識に挑む毎日生きること
上流が汚れ下流もにごり出す
食べるため生きてるような老い哀し
止めどなく科学は進化危くも
【オザスコ市 井上風車】
(評:人生とは日々生きることへの挑戦なのですね。)

◎席題「笑う」(一平出題)
人生は笑っていれば好転す【清子】
不幸など笑って飛ばすど根性【清子】
落語家は笑いをとるのに命がけ【博】
老夫婦孫の笑顔で雪どけす【博】
にんまりと取らぬ狸の皮算用【ふみ】
ダイエット又も失敗苦笑い【ふみ】
苦笑い苦い薬を飲まされて【エリーゼ】
我ながら笑ってしまう物わすれ【エリーゼ】
泣くな孫笑って爺の百面相【一平】
腹かかえ笑えるほどの腹もなし【一平】


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