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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2018年11月号

2018年11月号 (2018/11/14) 俳句 (鑑賞=吉田しのぶ)


潮引けば広き岩場や汐まねき
再生のチエテを游山樹木の日
植樹せしチエテは森に樹木の日
勿忘草拡大鏡で愛でにけり
おとなりの仔犬泣きゐる春の闇
【畠山てるえ】
(評:故郷瀬戸内に嫁いだ私はこの句のように潮の満ち引きに現れるこの光景を懐かしく思い出させてくれました。汐まねきは蟹の一種で雌ははさみが小さく両方同じで雄は片方が大きく横いざりに歩きます。春の海辺の情景が的確に詠まれています。)

朝晩の足湯でいなす余寒かな
かげろいてかすかに笑ふ石仏
かげろいて鉄錆におう線路わき
鉄橋の先にゆらりと陽炎立つ
春泥のおのが顔見る水たまり
【田尻瑞穂】
(評:春というのに寒い日が続くそんな時候を余寒が居座るなどと申します。北海道に旅行した時、開放された足湯に浸りながら旅をしたのを思い出しました。足湯は実に気持ちのいいものです。足湯で余寒をいなすとは巧みな言葉の表現です。)

幼子は母の腕に青き踏む
来てみれば春の果てなり海の青
我と共にバス待ちくれし白イペー
天空にハゲタカの舞ふ春深し
春寒や足湯をしつつ本読みし
【坂野不二子】
(評:春の温かい日差しの中、母親の腕に抱かれた幼子と、母の後先を嬉々として戯れる幼子たち、若草を散策する一家団欒の姿が想像されます。そこには父親もいて、乳母車もあってピクニックを楽しむ一日の情景をこの句の中から読み取ることができます。)

春泥に足を取られし通夜帰り
カーンカンと森へ谺すアラポンガ
陽炎やサーカス小屋の丸き屋根
菊根分やさしく濡らす如露の水
新即位話題ちらほら君子蘭
【森川玲子】
(評:お通夜の帰りに春泥に足を取られたとは、暗い田舎の夜道での出来事で亡くなった方との心の繋がりを思い出しながら泥道を歩いていたのかもしれませんね。お通夜帰りという特異な情景を詠んで、作者の感受性を引き出した一句となりました。)

山は春焼きおむすびを宮様も
こぼれたるバールの砂糖に群れる蜂
鄙の出湯遠く近くにアラポンガ
春泥に全員出て押す診療車
朝七時余寒の園に体操す
【香山和栄】
(評:作者の故郷岡山の柵原鉱山を三笠宮様が訪ねられたときの回想句です。学者宮様といわれた方でしたが、誠に庶民的で、焼きおむすびをお付きの方鉱山の方達と一緒に頬張られたというまことに親近感あふれた宮様でした。移民五十周年の時ご来伯された方です。)

春愁やパソコンスマホまだ苦手
春浅し永久の別れの句会とは
ミニチュアに仕立てられたり春の蘭
一服の抹茶の旨さ春の昼
春愁やいつの間にやらしのび込み 
【鈴木文子】
(評:今世界中が情報社会の中で、パソコンスマホは生活必需品である。若者の特権ではないけれと、お年寄りにはどうも機種の操作にうとく苦手である。作者は毎日使ってはいるが、もっと使いこなしたいそんな思いがあるのでしょう。春愁が効いています。)

春泥のにわか黒子や右瞼
一塊のみみずも一緒菊根分け
産み落とす玉子につきし春の泥
春泥や家鴨ひき連れ大家族
痛む足いたわる日々よ余寒して
【猪野みつえ】
(評:春泥のにわか黒子とは作者の目のつけどころ流石ですね。泥道を歩いていて疾走する車に出会ったらお手上げで恨めしくもなります。延々と続く田舎の泥道、買い物袋を提げて何キロも歩いた昔の移住地を思い出して春泥の情景がよみがえってきました。)

暮れなずむ湖面たゆとふ花筏
偶(たま)さかな想ひもありし猫の恋
夕闇に溶けてゆきたる白パイナ
チプアナの緑やさしく聖市かな
子ら植えしパウブラジルよ樹木の日
【上田ゆづり】
(評:夕暮れ迫る湖面に散り敷かれた花びらがまるで花筏のようにみえたという作者の感性の豊かさをこの句から詠みとれます。昼間強風に煽られて花吹雪となって散ったのでしょう。暮れなずむという表現がこの句に趣を添えています。)

春惜しむそろそろ杖も欲しいころ
春夕焼け車窓に眺む旅半ば
春立つやインターネットで献立を
我を越す曾孫の背丈竹の春 
出不精を多忙とかこち春の雨
【大原サチ】
(評:今まで杖も突かないで矍鑠とした九十三歳の作者に敬意を表したいところこの年にしてそろそろとは遅れ入ります。書道に健康体操と趣味多くしてまだまだ百歳は大丈夫と思えるほど気丈なサチさん、頑張ってくださいね。)

陽炎や門よりつづく石畳
だんだんと開き華やか君子蘭
春泥にまみれ遊びしおさなき日
匂い立つ春の息吹や庭の土
春眠やしとしと雨に二度寝して
【岩崎るりか】

靴脱いで素足の感触青き踏む
輪塔に陽炎もえて移民寺
礼儀作法厳しくしつけ君子蘭
境内に雀も遊ぶお彼岸会
春泥の乾きて続く轍跡
【吉田しのぶ】


短歌 (選者=梅崎嘉明)


天災の相次ぐ故国にお見舞金かかる悲惨事に我なし得るは
それぞれが母県の災難訴える同胞社会は一つにあらずや
地震なき大陸に住み思うこと島国ニッポンいつか沈没
【サンバウロ中央老壮会 水野昌之】
(評:昔、邦字紙の記者であったという作者、歌歴は古くないが個性豊かな作風に魅力がある。この度の作品は天災の多い祖国に献金しながらも、やがて沈没するんじやないかと憂いている所が独特。)

雨脚に追われかけっこ鬼ごっこやっと逃げきり出る玉の汗
忘れ物のあるじはなかなか取りにこず忘れたことを忘れいるらし
「お袋の味はー」と問われ料理下手にしばし戸惑い子の顔を見る
【サンパウロ中央老壮会 金藤泰子】
(評:口語体ですが、なかなか面白く纏めています。このように日常茶飯事を上手にこなすのが短歌の魅力です。)

人生に目標持てと人は言う最後の日まで短歌に励まん
ブラジルに住みてポ語を覚えずに九十年経し不自由もせずに
選挙の日われに関係なけれども子等集いきて候補者を語る
【サウーデ文化協会老壮部 山田かおる】
(評:ブラジルに住む移住者の心情をよく捉えています。私もこの国に長く住みながらポ語は下手、選挙権もなく孫たちから笑われています。)

枯れそめしリリオダパースに水やれば幾日の後に蕾もちたり
塵すてに行くたび眺むるリリオダパース細き蕾みの日々にふくらむ
蕾なるリリオダパースのふくらむを見つつたあいなき喜びを知る
【サンパウロ中央老壮会 富樫苓子】
(評:最近は叙景歌が少なくなりましたが、この作者は風景を詠んで自分の気持ちを伝えるのが得意でいい作品を詠んでおられる。この調子ですすめられように。)

殺風景なビルの谷間に一本のイペー黄色に街を彩る
三日月の横に並びて星一つ雲間に見えてまた隠れたり
電話帳繰れば逝きたり友の名あり「もう話せない 逢うもかなわず」
【サンパウロ中央老壮会 坂田栄子】
(評:写実傾向の作者として堅実な道を歩んでおられる。この調子で続けられるようにー。)

ブラジル語会話たのしむ余裕なく語彙のとぼしき吾を淋しむ
突然に降りだしし雨やむを待つに容易にやまず財布にぎりて
急ぎ行くに羽織りの裾のひろがりて倒れし花瓶もそのままにして
【JICAシニアボランテイア 岡田みどり】
(評:二首目、出かけようとして突然雨が降りだした。財布を握りしめて待つ、という発想、突飛なようでおもしろい。三首目、日本着で踊りにも行かれるのか、ここでも急いで倒れた花瓶も起こさず、と慌てている気持ちがよくにじんでいる。)

月一度の歌会出席も不自由にてタクシで通う井本司都子さん
長かりし闘病生活によく耐えて美しき短歌を多く残せり
老壮の友の歌人の井本さん黄泉へ去りし冥福祈る
【サンパウロ中央老壮会 大志田良子】
(評:長年の朋友であった井本司都子さんの逝去を詠まれた一連、少し手を加えた所、参考にされたい。)

エッフエル塔に五月の光ふりそそぎすずかげ並木は萌えたち香る
赤々と天をこがして地平線にいまし落ちゆく大なる夕陽
これはこれで味なものだと噛みしめる負けず嫌いの苦い結果を
【サンパウロ 野口民恵】
(評:よく旅をされる作者で、第一首はパリのエツフエル塔とすずかげが五月の光に輝く風景を詠んだ佳作。第二首は赤い太陽を詠んだ写実短歌。第三首は反対に心象詠、その両方に挑戦されている作者だが、なかなか難しい。しっかり研究されたい。)

体形が日本着むきねと過ぎし日に言いくれし母逝きて久しき
あの頃は似合いし日本着いまの身に自身なきまま手に取り眺む
ブラジルで半世紀余の美容師を続けし吾も早や八十路
【サンパウロ 外山安津子】
(評:長年美容師を続けられた作者、半面短歌にも熱心で、幅広い素材を自由にこなされるベテラン、この度の作品もなかなかよく出来ている。続けての投稿を期待します。)

三人の仲間あつまり手なれないいなり鮨つくる味見しながら
「ありがとう」この一言を言いたくて夫の墓場をたずねてきたり
地の底に眠れる夫をいとおしみくるくる回る手向けの風車
【サンパウロ 五木田洋子】
(評:夫の墓場に手向けた風車が風に回るのを見て、夫をいとしんでいるように回っている。と捉えたところがいい。続けて投稿なさってください。)

吾が夫の手垢に光る経本が移民移料館のガラスケースにあり
節電の趣旨は吾も理解せりされどもされど風呂の恋しさ
吾が生命何処より来て使命終え何処に消えん宇宙の不思議よ
【サンパウロ酉年会 田中保子】
(評:生命の神秘。誰にも解き明かすことができません。今、生きていることに感謝あるのみですね。移民史料館のガラスケースに亡き御主人の経本を見た時の作者の気持ちはいかばかりだったでしょう。どの句もよく詠まれています。次回も投句して下さい。)

土、日はお手伝いの休みにて朝寝夜ふかし吾は奔放
火曜日は歌謡放映の朝にして馴染みの歌手の出演を待つ
水曜の新聞は文芸欄ありて吾の短歌があれば満悦
金曜は歌会の日にて恋人に逢える思いにいさみい出でたつ
何もなき日には友に電話して病める仲間の安否を問えり
【梅崎嘉明】
※ 私の一週間を詠んだ記録です。このように何気ないことを詠んでもひとりの人間の生活が記録できるのです。短歌をはじめ、文学とは上等な作品を作つて褒めてもらいたいと願うことばかりでなく、人間にはいろいろな面があって、好い事、悪い面もひっくるめて投げだすことによって皆様から親しまれる作品が生まれるのです。文学としての価値がでるのです。
 また作品は投稿すると、作者から離れ独立したものと言われていて、作品を酷評されても作者を虐めているわけではなく、勉強の場として受けとめべきだと言われています。心を広くもって勉強しましょう。次の十二月分の締切りは十一月二十日です。できれば来年の一月分も一緒に送って下さい。


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


億の民救う発見ノーベル賞
勇気ある女の生き方ノーベル賞
政治家の正義問われる白紙票
大相撲土俵外で大荒れに
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:がん免疫治療薬の開発に道を開いた本庶佑京都大特別教授と米テキサス大のジェームズ・アリソン教授の発見に対して、安倍晋三首相も「この研究の成果で多くのがん患者に希望と光が与えられた」との祝意を伝えられた。)

僕の孫ブラジルにては三代目
チョットしたドラマで涙腺刺激され
孫のキス目尻を下げるジジの顔
妻曰く貴方の川柳おもろない
【サンパウロ中央老壮会 角谷博】
(評:移住地ブラジルで代々の祖となる作者に対して敬意を表します。)

日系の楽しい行事いつまでも
ブラジルの地下鉄駅は日本名
春の陽に犬も居眠り園の午後
良き政治願って投票する庶民
【なつメロ倶楽部 坂口清子】
(評:日系の楽しい文化行事を次世代へと受け継いで行って欲しいですね。)

手を開き見れば見るほど皺が増し
強風に白く流れる雨の舞い
指折りで作る川柳難しい
噴水のたえなく落ちる水の音
【サンパウロ中央老壮会 沖野エリゼ】
(評:生きた証の尊い皺です。感謝しましょうね。)

インターネット使う使えぬ明と暗
子のけちと我の合理噛み合わず
踏んばりが利かず弱気になる齢(よわい)
度忘れを理由に約束反故にされ
【サンパウロ 渡辺文子】
(評:インターネットを使えぬ老いの暗さは増すばかりです。)

天国は極楽万国共通語
趣味多彩あって老いも又楽し
世界地図広げて見てる紛争地
停電の闇に慌てるビル暮らし
【叙情歌の集い 秋吉寿子】
(評:天国の極楽を夢見ながら昇天したいものですね。)

訪日で古風と言われ戸惑いも
プライドは心に秘めて発芽待ち
昔は昔今を大事に生きてゆく
年金で賄う薬苦すぎる
【サンパウロ市 大塚弥生】
(評:日本人の良さがうすれて行くように感じさせられることも――。)

財なくも生きた宝の孫子あり
昔はと過ぎた話に花咲かせ
度忘れは自分勝手の言い逃れ
ロボットに職場任せる良き時代
【スザノ市 飛松信雄】
(評:何にも勝る大きな宝ものです。益々のご繁栄を――。)

開拓地廃屋に見る夢の跡
騙されて移住に泣いた過去もあり
世の秩序乱れて不安増すばかり
抱く孫に続く未来の夢をのせ
【オザスコ市 斉藤晃伯】
(評:夢跡に旧移民達の汗の匂いが伝わって来るようです。)

風向きを柳のように受けながし
正論を言えば言うほど煙たがれ
人生路咲くも実るも我れ次第
渡伯時抱きし青雲今も尚
【ソロカバ市 早川量通】
(評:柳に風と受け流す作者の度量に感動しました。)

◎席題「子」(ふみ出題)
カメラ向け止まって欲しい子供達【みどり】
文化祭舞台せましと子供たち【みどり】
子供とはなぜにこんなに可愛いの【エリーゼ】
席題の子供にわたし四苦八苦【エリーゼ】
よかったなあ子供の頃に返りたい【博】
子は宝育てた筈が親不孝【博】
子育てを終えてわが世に春が来た【清子】
子は宝何にも勝る財産だ【清子】
見つめられ子猫とうとう飼うことに【ふみ】
子宝にするもしないも親次第【ふみ】
究極はやはり親子と言う絆【柿嶋さだ子】
子の遺影在りし日のまま語りかけ【柿嶋さだ子】


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