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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2018年12月号

2018年12月号 (2018/12/14) 俳句 (鑑賞=吉田しのぶ)


万緑や地上の命みな燃ゆる
滴りを手拍子の如数えおり
手のひらの小さき幸せ風薫る
初夏の朝緑色した蜘蛛みたり
闊歩するみごとな二の足夏きざす
【坂野不二子】
(評:万緑という季語の元祖は中村草田男が命名したといわれている。万緑の息づく中で地上の命がみな燃えているとは季節感を先取りした諷詠の実態を的確に捉えています。万緑の季節はすべてのものが息づく生命力を感じます。)

ジャカランダ散る夕暮れの愁いかな
夢やぶる木々のさざめき春嵐
食のあと酒に足すジャズミンの香の甘く
苗床はベランダの隅町住まひ
苗売やカミニョネッテで街の角
【上田ゆづり】
(評:夕暮れの刻はらはらと散るジャカランダの風情に愁いを感じたと詠んだ作者の心の内をかいま見たようで、このような想いにひたるひとときに心の豊かさを覚える余韻を感じる句となりました。夢も希望も愁いもあって人生は悲喜交々です。)

家中が引いて長引く春の風邪
春時雨見知らぬ犬と雨宿り
尺取り虫真似する老人体操会
蜩(ひぐらし)の庇にしばし破れ寺
孫の春コンタクトレンズに付け睫毛(まつげ)
【田中保子】
(評:風邪といえどもあなどるなかれ、春の風邪は油断の隙に引くことが多いのです。家中で引いてしかも長引くとなれば、生活にも支障を来します。風邪がもとで肺炎になることも、普段の心がけが大事ですよ。)

四万十川万緑の中滔々と
朝まだきサビアにたよる夏時間
薄暑の日熱気のこもる古本市
夕薄暑ごませんべいの美味きこと
一雨ごと緑燃え立つ街薄暑
【田尻瑞穂】
(評:四万十川は高知県西部を流れ土佐湾にそそぐ清流として知られる、万緑の中滔々と流れる様は、万緑の季節の息吹きを感じさせます。滔々という言葉の表現が四万十川の水量の豊かさを連想させる一句となりました。)

夏時間老いに変哲なかりけり
万緑に胸張り大きく深呼吸
エマも見し万緑街道二千キロ
蛞蝓の俎板這ひし銀の跡
公務員退庁憚る夏時間
【猪野みつえ】
(評:今年は去年より二週間遅れて夏時間が始まりました。通勤者には一時間の時差慣れるまでに戸惑うこともしばしば、しかし老齢者には夏時間あってもなくても関係ないと開き直った滑稽味のある一句となりました。)

合掌に始まる朝餉風薫る
ウインドー流行り先がけ夏の色
万緑の深さマ州の地平線
リハビリに歩け歩けと風薫る
ブラジル盆墓で出逢うも縁かな 
【大原サチ】
(評:作者は浄土真宗の門徒で熱心な信者である。命を頂いて生かされていることへの感謝の気持ちを込めて食事の前には必ず「頂きます」の合掌をする。清々しい朝餉の様子が風薫るに凝縮されて、門信徒の生活の一面を見る一句になりました。)

成し遂げし今日四十回念腹忌
春風や未来に託すノーベル賞
花開く二世俳人念腹忌
やり遂げし大会春愁吹っ飛ばし
哀愁と気品の色よジャカランダ
【鈴木文子】
(評:十月の念腹忌大会無事終わりました。主催者側として大会が終わるまでの心労は言葉に尽くせないものがあります。第四十回という節目の大会で、私も当事者だけに全く同感で肩の荷が下りた感じです。成し遂げたという充足感がこの句から読み取れます。)

右左からくりもんもん街薄暑
味噌まぶす焼きおむすびや山笑ふ
万緑や白き一線堰の水
孫通ふ大学の杜風薫る
土間の壁光る曲線なめくじり
【香山和栄】
(評:「からくりもんもん」とは刺青の別名で辞書にないことから、岡山地方の方言なのでしょう。私も初めてきく言葉です。右も左も刺青をして薄暑の街を歩いているブラジルならではの光景ですね。からくりもんもんが軽快なリズムに乗った口調の座った句になりました。)

洞窟の滴る岩になぞの文字
夏時間しばらく狂ふ暮らしかな
音軽ろき足踏ミシン薄暑かな
天を突く糸杉並木風薫る
滴りを老斑の手に受けるなり
【森川玲子】
(評:洞窟の岩に何やら得体の知れない謎の文字を発見した。誰が刻んだものかこの洞窟は大昔の歴史の中に埋没された謎の祠なのであろう。その祠の滴りを老斑の手にそっと受けた。謎の文字が不気味でこの句は時を遡った幽閉の世に誘ってくれます。)

農地今思い出の地よ豆の花
九十九折りの旧道もよき花マナカ
参道にピンクの並木遅桜
着込む人Tシャツの人春の街
苜蓿小さき庭に数種類
【畠山てるえ】
(評:農地の思い出と言えば移民の辛苦を舐めた開拓時代を思い起こします。作者は農業に勤しんでゐた頃豆の花が脳裏に思い浮かんだのでしょうか、百姓の経験のある人たちは皆農地に色んな思い出をもって過去を懐かしく思いまた老後の余生を送っているのですね。)

謎の石野伏しの墓とや木下闇
万年の石筍伸びて滴れり
万緑の中のせせらぎ丸太橋
つり橋の揺れに歓声風薫る
大夕焼け彼方に馳せる浄土かな
【吉田しのぶ】


短歌 (選者=梅崎嘉明)


五七五ここまで読んで立ち止まる後の七七に命吹き込む
古きノート出で来し繰れば短歌ありいまより良しと思いつつ見る
さりげなく愛の短歌にマークつけ歌集をかえす老いらくの恋
【サンパウロ中央老壮会 水野昌之】
(評:相変わらず健詠、第一首五七五まで詠んで後の七七は短歌の引き締め所と「命吹き込む」としたところ、よく抑えていて巧み。)

誘われて入会したるラジオ体操早二十五年われも老いたり
われ卒寿健康維持にと雨の日のほかは毎朝体操に出る
親友は体調くずして三年臥す見舞えば起きて笑顔で話す
【サンパウロ中央壮会 大志田良子】
(評:二十五年も体操を続けられたから健康で卒寿を迎えることが出来たのか、落ち込むこともなく毎月短歌を寄せられるけなげさ、まずはおめでとう。)

息を吸い吐きては階をのぼり行く吾の工夫で健康たもつ
人類は依怙贔屓あれど森の樹々は争うもなく繁茂をつづく
朝々を歩く道の辺腰かける所のありて楽しく散歩
【サンパウロ中央老壮会 富樫玲子】
(評:第二首、人類と森の樹々をあしらってすばらしい作品となりました。)

新井師亡く小野寺さんは病気とて今年の大会淋しかりけり
雨ありてすくすく伸びる朝顔に屋根までとどけと竿なしてやる
お盆にはお寺参りと墓参り仏壇の灯の消えぬ一日
【サウーデ文化協会老壮部 山田かおる】
(評:作品よく纏まっています。お齢は九十三歳とか、私より妹です。百歳まで頑張りましょう。)

早朝の墓地はさわやかひと抱えの菊を手向ける母の命日
一人居の午後は睡魔のおそい来て仕事せわしく頬をたたきぬ
プリマベーラは枝いっぱいに咲き盛り夕光のなか重たげに揺るる
【サンパウロ中央老壮会 小久保鈴子】
(評:プリマベーラの花は、しなやかとか、曲がって垂れるといった感じはありませんので、少し替えてみました。参考にまで。おっしやる通り、短歌はすこし字あまりでも、字たらずでも、語呂がなめらかであればそれでいいのです。)

ジャカランダ花の散りしく道をゆく悲しみ心踏みしむるごと
日本の「夕焼け小焼け」を教えしが大人となりて孫は唄わず
庭一面朝顔の咲きてすがすがし出で来し猫とともに眺むる
【サンパウロ 寺田雪恵】
(評:この作者の特徴は、上句が叙景で、下句が感情、第一首の「悲しみを踏みしむ」とか、第三首の「猫と共に眺むる」など上下がよくマッチしている。)

裏庭に凛と咲きたるカキツバタふと立ちどまり故郷が見ゆる
初孫の生まれし日本へ息子夫婦はレアル貨で土産買いて旅立つ
わずかでも日本の年金有難し受給手続きおえて安堵す
【インダイアツーバ新和会 野村文恵】
(評:自分の気持ちが素直に出ています。第一首、「ふと立ちどまり故郷が見ゆる」など突飛なようですがよい発想です。)

男性の一人が加わり女性等のコーラス歌うさま温かし
生活の苦労も病むこともあるなれど生きとし生きる証なるべし
秋の季と言えど寒暖の繰り返しこの日常に戸惑うわれは
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:ブラジルは夏だ、秋だと言えど気候の変化にとぼしく、雨が降ると寒く、照ると暑い、この変動に順応してゆくのに作者は戸惑つている。)

水彩画凱旋門やシヤンゼリゼ描きしことあり若かりし日に
人生はいまを楽しむものと知り今日の食事は気の合う友と
八十路にても宇宙旅行をしてみたしUFOのドラマに胸ときめかす
【サンパウロ 外山安津子】
(評:八十歳になっても宇宙旅行をしてみたいと気持ちが若々しい。どの作品も自由奔放でたのもしい。)

少年の吹くオカリナの寂しくて遠き奴隷の哀しみさそう
イッペーの黄の色ゆるる道の辺にひとり見惚れてしばし佇む
若人の恋おもわする純白の月下美人の花は夜咲く
【サンパウロ 野口民恵】
(評:オカリナの笛の音はどう聞いても哀れをさそうもので、それに奴隷の哀調を重ねたところが見事、他の作品も佳作。)

娘には歩け歩けと励まされ毎朝散歩にでて行くわれは
弱い足鍛えんとして日々歩む今日はいつもより身体がかるい
空青く空気すがしく澄みわたり遠い稜線に山はそびえる
【サンパウロ 五木田洋子】
(評:口語体で詠まれているが、難なくまとまっています。この調子で励んでください。)

サンロッケは歌人ゆかりの地と言いて若きらに話す遠き日のこと
武本と青夢がバールで争いし遠き日の顕つこのサンロツケ
西田さんの住みたる家はいずこなる目をこらしつつサンロッケの町
【梅崎嘉明】
※お願い 十二月下旬は家を留守にしますので、一月の短歌は熟連宛に左記へお送り下さい。


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


暴走麻(ボウソナロ)登りつめたか大統領
議員さんお手盛り給料まだ足らぬ?
【サンパウロ中央老壮会 角谷博】
(評:片仮名を漢字にした事で含みの利いた時事吟となりました。ユニークな表現法を頂きます。)

集い合い行く年おしむ忘年会
過ぐる日の早さに齢(よわい)又増えて
【なつメロ倶楽部 坂口清子】
(評:過ぎ来しひととせを振り返りながら思い出話に花を咲かせて――。)

ブラジルにくまモン元気届けくれ
くまモンの活躍世界活気づけ
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:海外でも人気者のくまモンはブラジルにも上陸。多くのファンを元気づけてくれました。)

春の陽にアガパンサスも色づいて
緑の間所どころに花目だち
【サンパウロ中央老壮会 沖野エリーゼ】
(評:春景色が伝わって来ました。)

満開を見せず青葉を整える
一キロも重く感じる八十路坂
【寺田雪恵】
(評:人を詠んだ川柳の視点から味わせて頂き共感させられた一句でした。二句目は若干添削しました。ご参考になさって下さい。)

七転び八起きの名句に教えられ
弁当も楽しみのひとつ川柳会 
【サンパウロ 彭鄭美智】
(評:人生には格言に教えられ励まされる事が多い。)

鍵いらぬ国に住んでみたいもの
老いてなお大和魂もちつづけ
【サンパウロ市 大塚弥生】
(評:そんな国もだんだん少なくなりました。)

寒くても穴あきジーンズ廃れない
真っすぐな道より回り道が好き
【サンパウロ 渡辺文子】
(評:流行とは根強いものですね。)

年末は預金を削り身も削り
十二月出費の月と腹括る
【オザスコ市 井上風車】
(評:十二月は散財の月です。腹括る気構えで―。)

床に入り今日一日を振り返る
落ち込んで又思いなして暮らす日々
【オザスコ市 太田孝江】
(評:明日へのエネルギーをたくわえるひとときですね。)

外見で測るサイズで当てはずれ
若者の飛躍があっての世の進歩
【オザスコ市 斉藤晃伯】
(評:外見では人の性格は測れないもの。)

人も又いずれ熟して落ちて行く
此処だけの話に手がはえ羽がはえ
【スザノ市 飛松信雄】
(評:生あるものの宿命ですね。)

◎席題「年金」(博出題)
やりくりをしても年金まだ足りず【ふみ】
先細る年金寒くなる財布【ふみ】
年金で食べて遊んで老いの春【清子】
年金にボーナスも出るありがたさ【清子】
使いすぎ年金早くも底をつき【エリーゼ】
ありがたい年金制度いつまでか【エリーゼ】
年金日今日は妻にバラ一輪【博】
やりくりの年金ぐらしも又楽し【博】


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