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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2019年1月号

2019年1月号 (2019/02/08) 俳句 (鑑賞=吉田しのぶ)


年の瀬の貧者の一灯五レアール
検診のすべて正常クリスマス
パトカーのサイレン激し年のくれ
日本餅並ぶ師走の食品店
東西の除夜の鐘なる本願寺
【森川玲子】
(評:今年も年の暮れが迫ってきました。慈善鍋に貧者の一灯を入れた作者の心の温かさ伝わってきます。物品でもお金でも多少にかかわらず、施しをする人の気持ちですね。よきナタールよき年の瀬が皆で迎えられますように。)

勇気出しメトロで参加師走句座
電子ラケットパチと快音火蛾捕ふ
新設の地下鉄涼し新車輛
煤払ひノッポの孫が役立つ日
出稼娘恋ふを綴りて日記果つ
【猪野みつえ】
(評:作者は九十三才の矍鑠とした女性で、新設された地下鉄線に乗るのが怖いと常日頃遠回りをして句会に出席していたのが勇気を出して新設の地下鉄に乗ってみた。何事も挑戦ですね。一度一人で乗ったら自信がつきます。よかったね万々歳。)

父母のありし昔の雉雑煮
年越しはピザを進言して孫ら
本格の梅干し届く年の暮
古里の浜に続くか春の潮
老いの春よく食べしゃべり皆忘れ
【田中保子】
(評:昔よく父が雉を捕獲して雉料理を作ってくれ ました。とにかく雉の肉は柔らかくて美味しいのです。日本の故郷で雉雑煮を食べた思い出が父母を慈しみ、故郷を懐かしく思い出しますね。ブラジルでは中々雉雑煮にありつくことはできません。古里を恋ふ心情が雉雑煮によってよく出ています。)

クリスマス七面鳥の出番です
ブラジルは花火で鳴らす除夜の鐘
春集ふ酒は笑ひの誘い水
つくしんぼ袴新たにすくすくと
うぐいすの声は谷間に相和して
【武田武則】
(評:新しく俳句教室に入会された白一点の男性の方です。クリスマスは七面鳥の出番です。七面鳥を囲んで楽しい我が家のクリスマスイブを満喫できるのは幸せですね。少し句を添削いたしました。ご参考になさってください。)

踏み台の足腰あやうし煤払い
達磨の目大きく入れて年暮るる
山梔子の白きを無残に雨の降る
年越しの不景気風にスリ走る
紫と対なし映える白菖蒲
【田尻瑞穂】
(評:年末の大掃除に煤払いは欠かせません。齢を取ると梯子や踏み台に上るのは苦手です。「大丈夫?気を付けて」などと、周りをはらはらさせ煤払いをしている様子が見てとれます。足腰あやうしでおぼつかない様をうまく表現しています。)

刺青の老若男女街師走
酒好きの一丁ペロリ冷奴
驟雨中師走商戦始まりぬ
しみじみと来し方行く末古暦
若武者の奮闘めざまし九州場所 
【香山和栄】
(評:刺青に破れズボン今若者の流行りで街にあふれています。師走の雑踏の中でこうした光景も見慣れてしまいました。周りの目を気にもせずフアッション感覚で楽しんでゐる人達を見守るブラジルはおおらかな国ですね。)

好物の苺大福今日も買ひ
大瀑布写真もメールで届く世に
網メロン高値の花とあきらめし
ミニトマト溶けるチーズも乙なもの
大輪のピンク際立つハイビスカス
【鈴木文子】
(評:作者に嗜好の句を作らせたら天下一品の句を作って点を稼いでいます。苺大福の句も、ミニトマトの句もそうですが、詠んで如何にも美味しそうな句を作るのは作者の特技ですね。好物の苺大福となれば尚更です。)

七つ滝覆ふ巨大湖水鏡
日本の神支那の神ありプレゼピオ
西瓜買ふ大和小玉は日本種
落し文踏まれ踏まれて山路かな
逃げながら卵産む鶏蜥蜴来る
【畠山てるえ】
(評:ダムの底に沈んでしまったセッテ・ケーダスの滝も巨大湖となり、在りし日の面影をみることはできません。過去の七つ滝を知っているだけに、水鏡となった巨大湖に思いを馳せているのです。ダムとなって久しい観光地が一つ消えました。)

何事も簡素となりぬ年の暮
年の瀬や今年も無事と掌を合わす
古日記めくりてみれば秘め事も
煤払い母たすきがけ父頬被り
夏帽子枕に置いて寝る児かな
【坂野不二子】
(評:年を取ってくると何事も面倒になり億劫になり、簡単に済まそうとなるのは皆同じです。年末はとくに雑用に追われ入念に物事を運ぶ気力が薄れてしまいます。年の暮で一層その感を深くします。)

遠き日の父母偲ぶ除夜花火
四世等の晦日ラーメン蕎麦もどき
年の暮れすきなパン屋は閉まりけり
鴫焼とご飯で満足老夫婦
老ひかもす温顔ほのと風薫る
【岩崎るりか】
(評:両親とみた除夜花火を思い出し感慨深いものがあったのでしょう。作者は二世の方、ブラジルで育った遠き日を懐かしんでいる光景が浮かんできます。過ぎ去っていく一年一年を遠き日の父母に思いを馳せる心情がよく出ている。)

黄イベー光奏でるように散る
一日を読書三昧春しぐれ
陽に透けて朱艶やかにけしの花
アガパンサと背比べをして孫の笑み
夕焼けを映して初夏のビルの窓
【上田ゆずり】
(評:風に煽られて黄イペーの散る様を光を奏でるように散ったと表現した言葉の選択は詩心があふれています。陽に映えて散った黄イペーの絨毯をも連想します。ブラジルならではの光景ですね。)

身の丈の施しをして慈善鍋
経蔵に僧の身支度煤払い
一語法話心の糧とし古暦
闘病の日々を綴りて日記果つ
牧中に一景をなし大夏木
【吉田しのぶ】


短歌 (選者=梅崎嘉明)


春が来て冬着をタンスにしまいつつ来る冬までは生きてるつもり
移民行李の底に祖父の旅券あり半紙は古りて大正が眠る
喪服着て黒きネクタイをしめながら身辺見つつ空想広がる
【サンパウロ中央老壮会 水野昌之】
(評:「来る冬までは生きてるつもり」「半紙は古りて大正が眠る」などなど心情をよくとらえている。)

鉢植えの重きを両手で抱えつつ四っ組む力士の如く力みて
絶えるなき夫の鼾のふと止みて不安となりし起きて確かむ
セーラ・ネグラの霧深き宿友らしき声あり出でて姿を探す
【サンパウロ中央老壮会 金藤泰子】
(評:夫の鼾がふと止まり、起きていって確かめるといった、女性のこまかい愛情をよく表現されています。)

寒くなりまた暑くなるブラジルの四季はあいまい区別のつかず
太陽と大地の恵みに実りたる果実手にとり試食をしたり
黒髪と思いていしに白まじり早や若くなき吾と知りたり
【シニア・ポランテイヤ 岡田みどり】
(評:四季を詠み、果実を詠み、黒髪を詠むといった自在な発想が魅力。)

故里の甥からの便り届きたり一家三世帯にぎやかとあり
二年前の訪日の折も大勢で吾の卒寿を祝いてくれし
訪ね来し娘は「身体を大事に」と言いて夫待つ名古屋に発ちし
【サンパウロ中央老壮会 大志田良子】
(評:日常生活のこまかいことを注意深く観察されていて、読者の共感を呼ぶ作品。)

年忘れの会は御馳走に花 ビンゴあり老いも幼も和気あいあいと
踊りの師旧知の者や幼友米寿の友もまじえて宴
この年は不幸多かりしが来る年は皆幸福であれよと願う
【サウデ文化協会老壮会 山田かおる】
(評:恩師や旧友、幼もまじえての年忘れに興じている様子がよくとらえられています。)

バラの花匂うがごとく咲き満ちて吾の心に微笑みかくる
肌みだれ眩暈いは齢のせいなりと血液検査をすすめられたり
人の話に耳かたむけぬ友がいて猪の猛進と汝が道を行く
【サンパウロ 寺田雪恵】
(評:バラの花が吾の心に微笑むと、いつもの叙景と心象を組み合わしているが、かなり上達されつつあるようだ。)

日伯の料理あふるる忘年会写真にとりて日本の祖母へ
ヨガ帰りの暑さにたえつつまわり道日本食品の商う店へ
新しき年を迎えしポ語教室新元号を話題となして
【岩崎るりか】
(評:短歌を作る方々は日本に関心を持つておられるようで、今年は年号も代わるらしい、などと話題にされているよううで、また写真を祖母に送るとか、日本食品を買うとか、外国に住んでも日本はすぐそばにあるのですね。)

洞窟の古代の文字は苔むして読みづらかりし謎の深まる
予定ではパリの夜のイブ見ゆと息子とともに訪日の旅
夕もやの暮鐘草の白しずみ突如ともりし樹のシヤンデリア
【桜会 森川玲子】
(評:第一首いい素材です。言葉の使い方に工夫してください。薄れた文字に苔むすのでなく、苔むしたから文字が薄れたのでしょう。第三首、二つの情景を重ねるときは、よく工夫しないと、上下があいまいになりますので「突如」といれました。参考にしてください。)

何も彼も新らしくなる正月に常世の声にサビアさえずる
降る雨のあがりまた降る繰り返し夏の一日は気分のさえず
真夏より冬にもどりし温度差にとまどいながら衣服を変える
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:第一首、「常世の声にサビアさえずる」の発想すばらしいです。他の作品はもう少し工夫があってもいいでしょうがブラジルのきまぐれ気候は一応とらえられています。)

懸命に埋めたるものをまた掘りて口にくわえて野良犬は去る
近づけばわれを睨みて動かざる犬は近くの浮浪者が飼う
まだ若きと思いいたりし甥や姪に白髪の見えて年月は古る
【サンパウロ中央老壮の友 富樫苓子】
(評:動物好きな作者、動物の動作をよく観察されている。この調子で続けてください。)

すくも焼くふるさとの野辺まなうらに顕たせて恋し離れ住むとも
湯の宿へ熟年クラブの春の旅桃太郎岩を右に見ながら
ブラジルの沃土に栗梨桃つくり今年は年号新らしくなる
【香山和栄】
(評:短歌作法をよく心得えておられる。一首、三首目などの下句、そのままてもいいでしょうが、さらに高度を目指して少し変えてみました。参考にまで。)

棚かけしゴーヤの数多実りたり手土産として皆に持ち行く
この国は高齢者無料のバスがあり年金もらいナモラーダ誘う
年末はすること多く餅つきに忘年会に短歌も詠まねば
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:高齢者はバスは無料、年金ももらって豊かな作者、ナモラターを誘うなんてなかなかロマンチツクな詠風、この調子で続けられたい。)

静かなる書道時間に飴一つ眠気覚ましに舌にころがす
ゴキブリを口にくわえて闇に消ゆ蜥蜴はやはり益虫と知る
サンパウロ中央老壮会 水野昌之
春が来て冬着をタンスにしまいつつ来る冬までは生きてるつもり
移民行李の底に祖父の旅券あり半紙は古りて大正が眠る
喪服着て黒きネクタイをしめながら身辺見つつ空想広がる
【サンバウロ中央老壮会 坂田栄子】
(評:「来る冬までは生きてるつもり」「半紙は古りて大正が眠る」などなど心情をよくとらえている。)

鉢植えの重きを両手で抱えつつ四っ組む力士の如く力みて
絶えるなき夫の鼾のふと止みて不安となりし起きて確かむ
セーラ・ネグラの霧深き宿友らしき声あり出でて姿を探す
【サンパウロ中央老壮会 金藤泰子】
(評:夫の鼾がふと止まり、起きていって確かめるといった、女性のこまかい愛情をよく表現されています。)

寒くなりまた暑くなるブラジルの四季はあいまい区別のつかず
太陽と大地の恵みに実りたる果実手にとり試食をしたり
黒髪と思いていしに白まじり早や若くなき吾と知りたり
【シニア・ポランテイヤ 岡田みどり】
(評:四季を詠み、果実を詠み、黒髪を詠むといった自在な発想が魅力。)

故里の甥からの便り届きたり一家三世帯にぎやかとあり
二年前の訪日の折も大勢で吾の卒寿を祝いてくれし
訪ね来し娘は「身体を大事に」と言いて夫待つ名古屋に発ちし
ジエット機がコバルトブルーの空をゆく白き機影が初日に光る
【サンパウロ中央老壮会 大志田良子】
(評:写実短歌をよく心得ている作者。自分の言いたい感情を下句でしっかり押さえていて申し分はない。)

つむじ風ほこりや紙をまき上げて壜がころころ転がりてゆく
墨をすり心で祈り写経する友の病が癒えますように
夜半に吹く風すざましき音たてて人の叫びもまじりて聞こゆ
【サンパウロ中央老壮会 小久保鈴子】
(評:第一首、少し変えてみました。自分の言いたいこと、感動したことは最後に持つていって引きしめると、より効果が出ます。)

あとがき
食欲や性欲そして名誉欲一つとてなきロボットよろし
【佐藤道雅】
 日本の歌人の作品です。よく解る作品で我々に何かを警鐘しているようです。感情豊かな人間界はロボットのように生きられませんが、せめて真摯な気持ちで新しい年を生きましょう。今年もよい年でありますようにー。


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


新しい政治に期待かかる年
とりあえず先ずは新年おめでとう
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:新大統領ボウソナロ政権にかける国民の期待は大きい。)

新議員キラキラ光る年始め
人間が猿なみになるるAI化
【サンパウロ中央老壮会 角谷博】
(評:年が明けて早々に出揃う議員たちの顔はみな輝いて見える。)

愛犬も老いて散歩の足緩む
子や孫に自然壊さず残したい
【名画友の会 坂口清子】
(評:愛犬への優しい思い遣りが伝わってきました。)

ゆずられて素直に座る齢となり
杖ついて休み休みつ坂登る
【サンパウロ市 寺田雪恵】
(評:老いては子に従えと言う。老ゆる毎に素直になるのが無難なようです。)

年始め脳にいのこの気合い入れ
いやな事後に回して前向きに
【サンパウロ市 大塚弥生】
(評:その意気込みにエールを送ります。今年も頑張りましょうね。)

選挙戦労働党は丸つぶれ
夢追えば食欲さらに生きる欲
【オザスコ市 井上風車】
(評:ラブァジャットで洗い出された一連の大汚職がPTの命とりとなりました。)

選挙済み町は静けさ取りもどし
希望の灯小さいけれどまだ消えず
【オザスコ市 太田孝江】
(評:選挙が終わって町と落ち着き市民もヤレヤレと言ったところ。)

熟年者バランス欠ける男女数
今年又楽しく生きよう前向きで
【サンパウロ市 秋吉寿子】
(評:熟年者の集う所には何処も女性の数が多いですね。)

施せば回りめぐって幸が来る
行きずりの行為が縁で友となり
【スザノ市 飛松信雄】
(評:「情けは人の為ならず」と言います。)

呼べば直ぐ飛んで来る人欲しい齢
思わざる友の病に胸いたむ
【サンパウロ中央老壮会 渡辺文子】
(評:独り暮らしのお年よりの思いと解釈させて頂き痛感させられた一句でした。)

第65回全伯川柳大会(課題「逆」及び自由吟)
◎兼題賞
一位 無学だが生きた証しの知恵袋【那須アリセ】
二位 逆境を越えて根を張る移民達【斉藤晃伯】
三位 逆境が鍛えてくれた身も心【鈴木甘雨】
四位 逆境で転んで拾った人生訓【高橋和子】
五位 逆境が堅実な子に育てくれ【竹内良平】
六位 逆境も気力で耐えた移民たち【青井万賀】
七位 豊作を喜び逆に泣く値段【上川好秋】
八位 逆らうな負けるが勝ちよ放っときな【河崎節子】
九位 逆戻り出来ぬ人生今を咲く【大城戸節子】
十位 逆境に励みとなった子の瞳【桜井しずえ】
◎特選賞
一位 プライドが逆を向かせた日の不覚【柿嶋さだ子】
二位 青春は逆立ちしても戻らない【中山哲弥】
三位 逆境に耐えた移民史百十年【久保久子】
三位 老化して逆に従う身となりぬ【富松貴恵子】
三位 逆境に汗して光明見出せり【山崎栄治】
三位 無学だが生きた証しの知恵袋【那須アリセ】
三位 プラス思考杖に逆境越えて起ち【柿嶋さだ子】
三位 出る杭より支える杭の人作り【竹内良平】


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