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笹井宏次朗のアリクイの目
     サッカー  (最終更新日 : 2014/01/12)
2014年W杯・日本は必ず調整不良で全敗する(下)

2014年W杯・日本は必ず調整不良で全敗する(下) (2014/01/12) ドイツの対応を見習え

 今回のブラジルW杯は、あまりに長い移動距離が組合せ発表の当初から話題になっており、サンパウロ最大手の新聞『エスタドォン』(電子版)では出場全32カ国の移動距離を発表している。
 それによると最も短い国がH組のベルギーで726キロ(ベロ・オリゾンテ→リオ・デ・ジャネイロ→サンパウロ)。最も長いのがG組の米国で5588キロ(ナタール→マナウス→レシフェ)。対戦相手がガーナ、ポルトガル、ドイツという順番だから、何とも不運としか言いようがない。まあ、暑い地域の連続という意味では、それなりの対策はキャンプ地の選定によってある程度の対策は立てられるが。
 各国とも大体2500キロ前後の移動距離となり、日本は2777キロ(レシフェ→ナタール→クイアバ)で、まあ平均程度の距離だ。同じC組のコートジボワールは3314キロ(レシフェ→ブラジリア→フォルタレーザ)。ギリシャが2266キロ(ベロ・オリゾンテ→ナタ-ル→フォルタレーザ)。コロンビアが1463キロ(ベロ・オリゾンテ→ブラジリア→クイアバ)と距離だけでみると、コロンビアの移動が少ない。
しかし、この統計では初戦の会場を起点にしており、キャンプ地からの距離を足さないと無意味になる。各国ともその事情は同じだが、日本はイトゥーからレシフェ往復約4200キロ、ナタール往復約4600キロ、クイアバは片道としても約1200キロを足すことになり、誰もがウンザリするであろう。
これに気候の変動が追い討ちをかけるのだから、体調維持などできるわけがない。
ロシアもイトゥーでキャンプを張るというが移動距離は2266キロ(クイアバ→リオ・デ・ジャネイロ→クリチーバ)で、クリチーバでの試合がありイトゥーで寒さに慣れることはできるが3試合目で、初戦がクイアバで第2戦目がリオでは暑熱の戦いに苦しむことになり、これまたイトゥーでのキャンプは無意味になる。
最も寒暖の差が激しいと思われるのはホンジュラスで移動距離3277キロ、先ずポルト・アレグレでフランスと対戦し、次にクリチーバ(ポルト・アレグレから548キロ)でエクアドル戦と寒冷で乾いた南伯地域での試合が続いてから、移動距離の大部分となる(クリチーバ~マナウス2737キロ)湿度と暑熱厳しいマナウスでスイスと対決する。これでは、マナウスでの試合は捨て試合にもなりかねない。
フランスも 3553キロでポルト・アレグレ(対ホンジュラス)、サルバドール(対スイス)、リオ・デ・ジャネイロ(対エクアドル)と寒冷地で初戦を準備し、次からは暑熱対策なると、かなり難しい調整を迫られることになる。ナイジェリアもクリチーバ(寒冷)→クイアバ(暑熱)→ポルト・アレグレ(寒冷)とお手上げだ。アフリカの暑い地域の選手にとって、クリチーバとポルト・アレグレの気候に慣れるのは至難だろう。慣れたとしても暑いクイアバが途中にあり、これまたカゼ対策が最優先になろう。
その点イタリアは、マナウス→レシフェ→ナタールといずれも熱帯圏で幸運な組合せ。実は日本だってクイアバはクセモノだが、暑熱地帯の試合ばかりで運が良かったのだ。ここに南北の移動が加わるイトゥーのベース・キャンプだけが問題なのである。
このような中で、今のところ最高のキャンプ地を選んだのはドイツと思われる。ドイツ は移動距離1658キロでもともと短く、サルバドール(対ポルトガル)→フォルタレーザ(対ガーナ)→レシフェ(対米国)と海岸地帯ばかり。キャンプ地は公式スポンサーのメルセデス・ベンツ社がバイア州ポルト・セグーロ市から30キロの海岸地帯、サント・アンドレに「カンポ・バイア」と名付けたCT(セントロ・トレイナメント)を建設することを発表した。1万5000平方㍍の敷地に65のコテージ、14の二階建て建物、専用サッカー練習場、取材センターまで備えるという。コンピューターグラフィックでネット上に紹介されている動画を見ると、まるで一大リゾートのように山小屋風の建物が並び、大きなサッカー場があり目の前は青い海という素晴らしさだ。
ただブラジルで今からこんな豪華施設を建設するなど間に合うわけがないので、おそらく、同地は昔から観光地であり手を入れてリフォームのようにすれば良い施設があったのではないかとも思える。
ポルト・セグーロならばサルバドールまで329キロ、フォルタレーザまで1419キロ、レシフェまで1040キロとそれほどの移動負担にならない。何よりも同じ海岸地帯で似たような気候であることは体調管理が格段にしやすい。
さすがにメルセデス・ベンツがスポンサーとなるとやることが違う。ドイツの代表監督であるヨギことヨアヒム・レーヴ監督もすでに同地を視察している。事前予想では、ブラジルと並んでドイツの優勝を占う声も多いが、その可能性は高くなるばかりだ。
日本もこのドイツを見習うべきだ。
中日スポーツのホームページ、昨12月9日版によると「1次リーグ3試合の会場(レシフェ、ナタル、クイアバ)はいずれも最高気温30度超、湿度80%前後と高温多湿。ただ、キックオフ時刻が午後10時、同7時、同5時とあって、原技術委員長は『昼は暑いが、夜は涼しい』と話し、大きな影響を与えるとの見方には否定的。第1戦のレシフェと第2戦のナタルは同じ東海岸にあり、直線距離は約250キロと比較的近距離であっても、原技術委員長は『中4日あるのでベースキャンプに帰って調整する』という」との記事が配信されていたが、何ともお目出度い技術委員長がいたものである。
「昼は暑いが、夜は涼しい」と感じるのは現地の人間であって、冷涼なイトゥーで過ごした人間にとっては酷暑であり、90分間走り回る選手は暑熱地獄となろう。「大きな影響」は避けられない。そこを往復するなど何度も書くが、カゼをひくのがオチである。広大なブラジルの気候変動を日本の感覚で計ってはならない。
日本サッカー協会は、使用可能な83カ所の候補地のうち優秀なスタッフが約50カ所を視察したそうである。その結果が、ブラジルに住む者からすると、まるで納得できない選定なのだから、サッカー王国ブラジルで、母国の日本代表が惨めな戦いをしてもらいたくないことを祈り、勝手なことを書かせていただきたい。
ベース・キャンプ地は北東部の海岸地帯にすべきであろう。
筆者の手元にブラジル組織委員会作成のキャンプ地推薦リストがあるわけではないので、どこが候補地に挙がっているか判然としない。しかし、リスト以外でも希望地は選定できるはずだ。筆者の経験からするとアラゴアス州のマセイオーが最適である。
ここからだと初戦のレシフェまで200キロ、2戦目のナタールまで435キロといわば隣町感覚だ。予選最後のクイアバは2307キロあるが、何よりも気候的にレシフェ、ナタールと同じ熱帯性気候で(クアイバにも準ずる)、体調管理にはもってこいだ。
そしてマセイオーといえばカズこと三浦知良選手が、1987年10月から半年ほど所属したCRB(クルーベ・レガタス・ド・ブラジル)の本拠地。カズはレギュラーとして、日本人で初めてブラジル選手権に出場した。グローボ局の名物レポーター、マルシオ・カヌート氏がカズの活躍を「グローボ・エスポルテ」で報じた映像を覚えている読者も多いであろう。
筆者はカズの取材で何度か同地を訪れたが、当時からタニ・プラザ・ホテルがあり「博多」だったか日本食レストランもあった。海産物が豊富でエビが安く、日本人にはありがたい。今ではマツバラ・ホテルもあり、宿泊と食事にはそれほど困らないはずだ。バスタブぐらいは無理を頼めば何とかなるかもしれない。
練習場はCRBに協力してもらい、ホテルに隣接とはいかないが、目の前の海岸で軽い練習ならば自由にできる。アラゴアス州の州都で93万に近いの人口を擁しているが、こじんまりとした都市で、ホテルの近辺を警官に立哨してもらいパトカーに巡回してもらえば安心できる。昨年発表された各都市の10万人あたりの殺人被害者数(2011年)ではマセイオーが何と111・1人でトップだったが、海岸地帯はのんびりとしており、統計が示すほどの危険は少ないはずだ。
交通のアクセスも大都会ほどの渋滞は少なく、ズンビ・ドス・パウマーレス空港は多くの都市を連絡しており、またいくつかの国際便も運行されている国際空港で、心配はない。
こうしてみると、筆者の独断ではあるが、日本代表の健闘を期待するのであれば、ベース・キャンプ地はマセイオー以外に考えられない。だが、北東部の海岸地域には筆者の知らない素晴らしい町が数多くある。美しい海岸で有名なセルジッペ州のアラカジュ、歴史あるオリンダ、パライバ州のジョアン・ペッソーアと、リゾート地の宝庫だ。日本サッカー協会は50ヵ所の候補地を視察したというが、どうも信用できない。
試合地がレシフェ、ナタール、クイアバであれば、イトゥーをベース・キャンプにすることは気候が違い過ぎ、地理的にも遠隔地であり完全に間違いである。もし、この予定を変更しないのであれば、予選連敗は避けられない。
イトゥー近辺で、日本代表のキャンプを楽しみにしている日本人の皆様には、誠に申し訳ないが、筆者の指摘を首肯してもらえるのではないか。
ブラジルにあって、日本代表を応援し健闘を祈るのであれば、日本サッカー協会や日本の知人へこのことを知らせよう。今はメールやフェイス・ブックという便利な通信手段が多い。今ならまだ間に合う。(終)


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