施肥の精密設計 (2009/08/16)
施肥の精密設計 施肥の設計とは、土壌分析で土壌中の養分を計算し、また作物の養分吸収量をデーターを基に算出し、さらに作物の生育状態、現在まで数年の栽培暦や施肥の経歴と収量を検討して、施肥設計を組み立てることをいう。これが優れた現場の技術指導員やコンサルタントの手法であると思う。 筆者の土壌管理と施肥(栄養管理)のコンサルタントとしての手法は、 (1)見診:畑で作物と土、周囲の環境を見る。これで作物の健康状態のどこに問題 があるのか、大体の見当がつく。 (2)問診:栽培暦を訊く。とくに最後の3年間の施肥と土壌管理、収量品質は詳しく 訊く。 (3)触診:植物体と土に触れて診る。これで植物の健康度と土の良し悪しが分かる。 (4)土壌分析:表土と下層土の化学分析はモリブデン以外の微量要素(Zn,B,Mn,Cu,Fé)を含む。 土に触り、土の表面を観察し、植物を診ることで、通気・透水省と栄養管理の良し 悪しも分かる。これは説明し難く、理屈ではなく経験の積み重ねで養われる直感である。これは、芸術の鑑賞眼を養うのとよく似ていると思う。良い作物、普通の作物、悪い作物を数多く見て歩くことである。真剣に取り組めば、1~3年で会得できる。 (1)~(3)に(4)の土壌分析の結果を合わせて、土壌管理と栄養管理、病虫害防除の処方箋が出来上がる。この処方箋をチェックし、生産者が実行に移せる最終的な処方箋に仕上げる最後の決め手は、経験と直感といってよい。 筆者は長年、この手法を現場で指導し、過去50年間で以前よりも悪くなった例は一例もない。ほとんど全部が、肥料の節減、品質と収量の改善、病虫害の減少、に成功している。 施肥設計の基準となる図式は、 施肥量(1)={目標収量を得るための養分量(2)-天然養分供給量(3)} ÷ 肥料の利用率(4)
(2)作物の目標収量に吸収される養分量は、作物の根、茎葉、実、そして作物全体の分析値から、ほぼ正確に割り出せる。各作物の10a当りの収穫量と吸収された養分量は、各地の試験場や研究機関などに多数のデーターが揃っている。 (3)天然養分供給量は、各地の試験場の圃場試験と分析値から計算できる。 (4)肥料の利用率は、JÁ全農(1999)から下記のように発表されている。
3要素肥料の平均的吸収率 区分 水田 畑 チッソ肥料 20~50% 40~60% リン酸肥料 5~20% 10~20% カリ肥料 40~70% 40~70%
上記の計算法を1とすると、もう一つのよく使われる下記の図式2は、妥当と思われる目標収量の養分吸収量に対して倍数を掛けて算出する方法である。
施肥量算出倍数(山崎) 種類 チッソ リン酸 カリ 砂土 1.3~2.0 1.2~2.0 1.0~2.0 砂壌土 1.2~1.8 0.5~2.0 0.5~1.0 3~6(吸収力の大きい土) 0.5~1.0
壌土、埴土 1.0~1.5 0.5~2.0 0.5~0.8 3~6(吸収力の大きい土) 筆者は両方法を使ってみて2のほうがより実用的と感じ、これを使っている。 ここで問題になるのは、吸収比率または倍率は、作物の種類(吸肥力の強い種類、弱い種類、中の種類)季節、樹齢(永年作物)、根の吸収力、などによって大きく変わることである。 例えばレタスの播種期の差。春播きは、秋に播種したものの半分の施肥量でよい。 オレンジ‐樹齢4~5年(ブラジルの場合:収量30kg/本)の施肥量は、同じ収量を収穫するのに15年生の半量でよい。15年生の施肥倍率を1.5とすると、4~5年生は0.7~0.8でよい。
根の吸収力について。 ➀土壌の物理的組成の差は極めて大きい。通気・透水性の悪い土では養分の吸収される量は半分以下になる。これは、施肥量が吸収された養分量の2倍になることを意味する。 ➁根の吸収力については、さらに細根及び毛細根の量と活力が大きく影響する。 ➂根の吸収機構は、光合成によって葉で合成された蔗糖が根に送られ、根から吸収された酸素で燃焼分解された時に生ずる吸収エネルギーによって養水分を吸収するのである。 ➁及び➂のために開発されたのが、土壌改良剤リブミンと生理活性剤アミノンである。 これらを活用することにより、通常の施肥量は最低30%は軽減できる。
施肥の計算は、個々の作物について、第一多量要素NPKの計算は上記の計算法1で、第二多量要素Ca,Mg,Sの土中バランスは土壌分析に基づき、これら資材を土壌施用する。微量要素は、目標基準値(病虫害の生理的防除の理論と実際を参照)に対して土壌分析で示される不足分を計算し、夫々の養分を含む市販の資材で補う。 以上のように➀土壌の化学的バランスの調整➁土壌の通気・透水性の改善(高度技術による)➂光合成促進による吸収力の増大(高度技術による)、を含んだ施肥設計を筆者は精密設計と言っている。
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