詩集「引き裂いた風景画」 (2003/05/21)
蝸牛は殼を背負っているけれど わたしは罪を背負っている旅人 ブラジルを放浪しながら描いた絵を いま開陳しようと思ったけれど ほとんどみずからの手で 引裂いてしまったから 鑑賞に堪えられないものですけれど
はじめに
カンバスに絵の具を塗りたくったものを 金に換えて食ったことにおいて 私も、あなたと同罪である
あなたは偶然の産物である「染み」に理屈を付けて得々として売り 私はしっかりしたデッサンを元にした具象画を 羞かしげに人手に渡す
あなたは自らの作品の複写を作って頒布し 私は自らの作品を引き裂きたい衝動に慄く
あなたは世界に通ずる大画伯を自称し 私はあくまで日曜画家に甘んじようとする
あなたは絵を売って豪邸を建て 私は売れない絵を塗り潰して逼塞する
しかし、M氏よ。 これは詭弁になるだろうか あなたは売るために絵を描いている 私は純然たる趣味として描いている この動機の違いを言うのは
負け犬の遠吠えだと嗤っているあなたの声が 私の耳にさわやかに聞こえます
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