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宇江木リカルド作品集
     詩集「反転の幻想」  (最終更新日 : 2003/05/23)
ふたたび子について

ふたたび子について (2003/05/22) むかし
私は女の求めに応じて
なんの考えもなく女たちに胤を与えた
女たちはなぜかしら嬉々として子を産んだ
女たちが私を愛するがゆえに
私の子を産みたがったとは思わない
女たちが子を産みたいという衝動が
どういう動物的本能によって生じるのか
私は識らないけれど
産むことに絶大なる喜悦を感じ
産んだことに博士号を取った以上の
誇らしさを覚えるのを見ると
男が口出しのできないもののあるのを
認めるしかない

むかし
人間が子を産むことは
動物の生殖本能と変わらなかった
私の父と母が
私を産もうと思って性的行為をしたとは思わない
子を産み血をつなげて行くことを
意識的ではなく当然のこととして
日常的な枠組みのなかでしたはずである
だから当然私を
父と母の子として疑いもなく育てただろう
私もそれを疑おうというのではない

しかし
あなたが疑いもなく
あなたの戸籍上の父の子だといえるのか

むかし
男たちは善良だった
女の産んだ子を疑いもなく育ててきた
その子が誰の子か識っているのは女だけなのに

いまは
男たちも女の嘘を鵜呑みにはしなくなった
女がこの子はあなたの子だというから
その子の父親のような顔をしているだけ
子の父親が誰の子かなどは問題ではない
所帯をともにしている女が
産んだ子にはちがいないのだから

いまは
もう地球規模で子の存在を考えるべきとき
試験管のなかで人間の子もつくれるのだから

むかしのままに
女が胎んで腹で温め産むという
動物的過程は貴重だ
その子が誰の子かなんぞという
詮索はしないほうがいい
いくらDINAでたしかめられるとはいっても

いまは
もう男たちよ
自らの行為の責任感に
目を釣り上げることはいらない
やりっぱなしにして旅立とう
女が産む子は間違いなく女のものなのだから
隣の人が望んで頒け与えた茄子や胡瓜の種が
隣の庭で大きくなったからといって
あなたはその所有権を主張してはいけない

いったん産んでしまうと
自らがつくった子でも殺せない
みすみすみんなに苦労をかける
不幸を背負って生まれた子でも
社会や家族のためを思って殺したら
罰せられる不便な世の中
それは自然淘汰なんだけどなぁなんぞと言うと
そんじゃてめえが死ねばいいと言われかねないから
精神的な不具者の俺は
黙っているしかないのだけれど
自死する勇気はないからおめおめと生きている
だから言うんだ
いったん産んでしまうと俺のようなものでも
殺すわけにはいかないだろうと


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