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宇江木リカルド作品集
     詩集「反転の幻想」  (最終更新日 : 2003/05/23)
ウツクシカッタ祖国よ

ウツクシカッタ祖国よ (2003/05/22) 妻よ
ぼくの生まれた祖国
君の祖父母や両親が生まれたところ
JAPONという亜細亜の極東に位置する島国を
そんなに深い眼差しで憧れないでほしい

ぼくは
君の思い描く夢の島を捨ててきたんだから
JAPONという亜細亜の極東に位置する島国に
住む人たちを嫌って流れてきたんだから

妻よ
「ウツクシイ風光に恵まれた小さな国を
いちど観たいわ」
というけれど
「そうだよ。かつてはウツクシカッタんだけど」
とぼくは言葉を濁すしかない

むかし移民してきた人たちが語る日本は
ほんとうにウツクシカッタ
しかし風呂屋の看板繪のように
富士と桜とゲイシャに代表される
ウツクシサでもあった

こころに錦を着飾って 何十年ぶりかで帰郷して
大げさな苦労話と嘘をまじえた成功談を
花咲かせるところでしかない日本

ああ しかし 
ブラジルに移民してきた人たちよ
あなたたちの心のなかにある日本は
国破れても なお 山河はウツクシカッタ
時の間の旅人として行くあなたたちに
日本の現実は視えるはずもなく
接する人々はお座成りの愛想を言うから

心に殘影としてあるむかしの日本が
時間と空間を無視して
短絡的な回帰の幻想を
無性な苛立ちのままに誘う

ああ 妻よ
いまの日本は
君の祖父母や両親が語った日本ではすでにない
君たちが心を開いて語り合える
ウツクシイ心をもった日本人たちはすでにいない
ぎすぎすとした日本人たちと
ぎすぎすとした世間と
ぎすぎすとした狭い空間があるだけ

もう半世紀になるむかし
万世一系の末裔の朕と言う人が
国を治めることも識らず
軍服を着てドン・キホーテとなり
世界制覇を夢見たがため
国を滅ぼし
ウツクシカッタ日本を荒廃させてしまった

廃墟に立った人々は
焼夷爆弾や原爆で消失した風景とともに
ウツクシカッタ心も失い
祖父母や父母と相語らうやさしさも無くして
未開の国だと彼らが思い込んでいる
ブラジルからきたといえば
蔑んだ目で見るだけ

ああ ウツクシカッタ祖国よ
山よ川よ野よ町よ
彼らは灰色のコンクリートの帯に貫かれ
やさしかった人たちはハイテクの甲冑で身を固め
ロボット化した若者たちは
エコノミック・アニマルや
セックス・アニマルに変身して
世界中の鼻つまみ者になっている

ああ 国破れて なお 山河は
もとの姿のままではなかった
そんな日本へ心が残るだろうか
そんな日本へ心が向かうだろうか

妻よ
そしてむかしの日本しか識らない古い移民たちよ
極東にあるという島国は
マルコ・ポーロの黄金の国と同質の
幻影の国でしかない

ああ 祖国日本は
大洋に向かって大きく傾き
日本人たちの心は
地球の終末を背にして軋みつづけている


すでにウツクシイ日本ではなく
新種の怪獣とともに埋没してゆく
残余の島々でしかない


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