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宇江木リカルド作品集
     詩集「反転の幻想」  (最終更新日 : 2003/05/23)
懐い出だけの山河

懐い出だけの山河 (2003/05/22) 懐い出だけの山河は美しいけれど
旅行社のパンフレットのなかの風景は
緊急司令を受けた細切れの時間
「ライムライト」の駒落としのフィルム
美しさも醜さも削除して
無味乾燥な造型物と化している

昆虫たちは標本箱のなかで
飛び回ることを忘れて懶惰になり
花々は鉢植えの規律のなかに納まって
匂いも薄らぐ
商人たちの手のなかに収集された自然の美は
銭と引き替えに購う量産された美
人々が消えてしまったむかしを懐かしむのは
すでに明日への希望のなくなった証左

むかし美しい山河があったのは
住む人々の心の反映ではなかったのだろうか
いまも美しい山河はあるはずだと
美しい心を失った人々は探すけれど
それは悲哀のなかで
苦渋を探すことでしかないだろう

叙情的な楽しみは遺書にしてしまった偽証
あの美しさを改竄したのは君たち自身なのに
細切れにしてしまった山河を
信玄袋のそこから拾い集めて糊付けしても
もとの美しさはもう戻るはずもない
昆虫は中空から失速して落下し
花々は中空へ放つ芳香を忘却し
少女は八重歯を牙に変貌させて
狼たちは尻尾を巻いて後退りし
恐竜たちが地球に蘇る世紀末に
美しい山河を求める愚かさだけが
鋏で切り刻んだあとに糊付けされた
パンフレットの表情になる


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