俺は人間でありながら 人間社会を裏切った裏切り者 友情なんぞという厚いものを持ったこともなく 恋愛なんぞという熱い感情に身を焼くこともなく 連帯なんぞという堅いものに結ばれたこともない つねに冷たい笑いのなかで 自分ひとりの都合だけを考えて 親を裏切り 姉や弟を裏切り 妻を裏切り 友を裏切り その結果孤立して孤独を楽しむようになった ケモノに近い部分で生きようとすれば 友情とか愛情とか 堅い絆を必要とする関係なんぞ 邪魔になるだけ だから俺は 人間社会を裏切って 辺境の地を探してブラジルにきたのだ 失望と悔恨と不信に満ちたなかで 過ごした時間が悔やまれる 俺は俺自身が裏切り者になってはじめて 物のかたちが正しく見え 物のうらがわを透視できる目を持った 友情とか愛情なんぞという 格好良い言葉に惑わされずに 俺は俺自身を裏切らなくても 健やかな気分で生きられる場所をみつけた やはりブラジルは広いと思う 日本じゃこんなわけにもいかん 孤独を囲って生きられるのだから

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