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宇江木リカルド作品集
     詩集「吼えろ! 雄鶏」  (最終更新日 : 2003/05/23)
気恥ずかしいけれど薔薇を謳う

気恥ずかしいけれど薔薇を謳う (2003/05/23) 一輪の燃える色した薔薇の一枝を
道端に捨てて去った女の足跡が
残酷な微笑をつづけるから
わたしは過去を
無慚に踏み躙ってしまえないでいる

陥没した坑道のなかで
遮られた陽光を探しながら
冷えきってゆく理性を
さらに冷蔵庫に押し込んで
ときには温め直そうと
温め直した情緒など
食欲も起こらないほど
味気ないものと知りながら

毒々しいほど赤かった薔薇も
色褪せて凋み
たったひとつ残った緑の葉も
褐色に枯れてしまった一枝を
乾燥した壷に差し込んでも
遠くへ消滅してしまった記憶が
凍りついた月光となり
その雫を
母の乳かと錯覚して
唇を突き出して震えた
幼児の夢
乳の匂いが
腐った盲腸の臭いとまじり
盲腸の痛む疼きにも似た
抒情のいらだちに吐き気しても
もう引き返す道もしらない

黒く変色してゆくまっ赤な薔薇の
花びらの殘影だけが
いつまでも虹彩に灼きついていて
原形をとどめない女の唇の
甘い口づけの痕だけが唇に残る

大きくひろげすぎた傷跡に
凝結した星屑が充満して
天体を埋め尽くして墓場にし
もう竹竿を振り回しても
払い落とすことはできない
情念だけが白々しく落ちてくる
あとに黒く
薔薇の花の虚しさだけが
鈍痛となってふるえている


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