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宇江木リカルド作品集
     詩集「吼えろ! 雄鶏」  (最終更新日 : 2003/05/23)
神の摂理か

神の摂理か (2003/05/23) 朝陽が萌葱の縞を織る
雀が庭を啄ばんで歩く
天と地の狭間に収縮する
静寂のなかで
明日よりも確かな今日を
余念なく生きたいと
懶惰さゆえの意識の目覚め
夢遊病者に似た思惟をゆるがす
暴力が庭の片隅で実行されようとは

小鳥としか思えない雀の
鼻先に大きな嘴まっ赤にあけて
けたたましく泣き叫び
雀の啄ばんだものを
強奪する黒い鳥がいる
雀は哀しげな顔をして
啄ばんだものをまっ赤な口に入れてやる
死活の境を転げるのはどちらなのか
「小鳥が親で
 大きいほうが押し掛け養子なの」
大柄なドイツ人の女主人が
小柄な日本人の下宿人に教える
「ほほほ、日本人らしいわねぇ、
 正義感まるだし」
日本人の男はドイツ人の女からやさしく嗤われて
雀の疲労と空腹と疾苦を惟う

淨明のなかに沈む山の嶺を
だれが黎明と呼ぶのか
暁雲はすでにして凶運の前触れ
凋落への旅立ち
安住の地を求めて
朦朧のなかへ向かう
流浪の継続を
神は冷徹に見送るのみ

グラジオラスの葉裏に
密集して孵化した
透明感のある油虫
天と地の狭間に収斂して
静謐へ限りなきときを待つ
清明な露を蓄えた彼らの背後から
獰猛な形相の黒蟻が強請りにかかる
無音の世界のなかで
間断なく行使される
恐怖の掠奪
油虫が排出する糖蜜の一滴が
真珠となって
黒蟻の口に転げ込む
どぎつい朱色の鋏の嘴が
莞爾と笑い陶酔するひととき
悲嘆をみつめる油虫への
痛切なる憐愍が沸き起る

落日のなかに低迷する砂丘を
だれが秀麗と呼ぶのか
茜色の雲は弔問の旗
忸怩たる倦怠のときの間の
なお光明を求めて歩むこころを
愚考の反復だというのか
きみは神の摂理を信じるのか


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