夜話その8 かなわぬ恋 (2008/10/28)
ブラジルの風俗店の代表といえば、ボアッチと呼ばれるいわゆる出会い系ナイトクラブである。別に女性は店に雇われているわけでもなんでもなく、店は単に出会い場所を提供しているだけである。お客と女性は、お互いに気が合い、交渉が成立すれば、ホテルにしけこむという具合である。だから、一度入店すれば、客と出ない限りは閉店まで店にいなければならない以外は、店の女性に対する強制は、ほとんどない。だから女性にも客を選ぶ権利があり、嫌な客だとさっさと離れていく。とはいいつつも金払いのいい客はもちろん人気がある。 一番最初にボアッチに行った時、余りのきらびやかな雰囲気ににそれこそ目が点になった。いる女性のほとんどが金髪で皆モデルのように綺麗だった。(最近は随分変わったが・・・)凄い! 交渉さえ成立すればこんな綺麗な女の子たちとホテルでひとときを過ごせるのか!!、そう思うともうぶっ飛びであった。とは、言っても、肝心な先立つものがなかった。店の払いがやっとで、交渉できるようなお金はとてもなかった。ビールをチビチビ飲みながら、女の子たちを眺めるのがやっとであった。 店は、テーブルチャージ料とドリンクで稼ぐようになっていて、女性を連れ出すには、女性にドリンクを飲まさなければならない。だから貧乏人の僕は、チャージ量のかからないカウンターに座って、バーテンと話すか、せいぜい顔見知りの女性とすこし会話するくらいである。 綺麗な女性と話ができれば、それはそれで面白いが、綺麗な女性に限って鼻が高く嫌味な女性が多い。それよりも、バーテンと話ていると、いろんな話が聞けてずっとおもしろい。最近、ナイトクラブにいくのは、むしろ彼らと話をするのが大きな目的である。 「おー、フェルナンド、元気?」 僕が初めてきた12年来の知り合いのバーテンは、今日も大げさな身振りで僕を迎えてくれた。チビチビと1本のビールを時間をかけて飲む貧乏客の僕にも彼は嫌な顔ひとつしない。 「最近、きれいな女の子も減ったね」 「そうだね。昔は多かったね」 そんな軽い話をしているうちに、ある日本人の話になった。 「今はここで働いていないけど、マリっていう背がすらりと高いかわいい子がいたんだよ。ある日本人がすっかりこの子に惚れちゃってね。毎週週末に店に通っていたよ」 「そんなのはよくある話でないの?」 「いや、彼はマイアミから飛行機で毎週末通っていたんだよ」 「それは凄いね!、で?」 「背も高くて恰幅のいい35歳くらいの男で、有名なカメラ会社駐在員だったよ、彼は。毎週マイアミから通ってくるくらいだから、本気で惚れていたんだろうね。でもマリには中国人の彼氏がいてね、日本人は結婚を申し込んだようだけど、マリは受けなかったらしいよ」 「へ~、もったいない。絶対日本人の方がいいと思うけど」 「彼女は今も前にあるボアッチで働いているよ。その日本人は日本に帰ったらしいよ。なかなかうまくいかないものだね」 追いかければ追いかけるほど、逃げていく。片思いとはそういうものかもしれない。でも、きっと日本人の想いは、マリの心の中に残っていると思う。いや、そう思いたい。しかし、どうしてマリはそんないい話を受けなかったのだろう? 中国人をそんなに愛していたのだろうか? なんにしろ金だけでは動かない、ブラジレーラのそんな気まぐれなところが僕は大好きである。
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