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福博村
     人物  (最終更新日 : 2004/06/28)
村の創設者 原田敬太の歩んだ道

村の創設者 原田敬太の歩んだ道 (2004/06/28) (一)
 1891年10月11日福岡県浮田郡田主丸町に於いて、代々庄屋であった原田家(父、常吉)の三男として生まれる。
 1908年、国民中学第二学年終業。1913年9月12日、東洋移民会社第三回船「若狭丸」に乗って神戸出港、ブラジルに向った。
 年令22歳、結婚四ヶ月の新妻シゲリは17歳であった。
 10月27日、45日の航海を終えて、サントス上陸。直ちにモジアナ線のファゼンダ・ラファエルに配耕され、旧移民の人々が等しくなめた苦難の生活を始めた。
 三年間の耕地生活を経て、そこで生まれた長男、常悦を伴なった夫妻は、1916年9月出聖。一ヵ年半を、これも旧移民の都市生活者の多くが経験したコッペイロ生活、洗濯業などの生活をした後、アララクワラ線、イグナショ・ウシオア駅の耕地におもむき、雑作に従事、再び奥地の生活にもどった。
 1918年から33年の五ヵ年をそこで過し若干の資本と次男敬二、三男実三、長女正香をもうけた後、ソロカバナ線サント・アナスタシオに転耕した。最初の四年間はカフェの植付けのかたわら、農産物の仲買などをやり、1928年になって、ブラジル人耕主と組んで百アルケールのカフェ園造成に取りかかった。
 この間、医術に多少心得のあった経験を生かして(二人の兄が医者であり、時々代診などした)耕地内の内外人の診療投薬をしたり、日本語学校を建てて子弟の教育に力を注ぐなど、社会的な仕事に熱意を注いだ。
 しかし、1929年に入ってカフェマキナの火災による大損害、加えて世界的な不況の嵐の煽りを受けて1930年、遂に事業は一頓挫。在伯十八年間、22歳から40歳までの苦闘は水泡に帰した。

(二)
 ここで年来、親交のあった日伯新聞の蛭田徳弥、社長の三浦鑿(さく)等と計り聖市近郊に出ることに決め、1931年に入るとサンパウロ周辺の土地見に奔走した。
 2月になってスザノ市郊外のロベルト・ビアンキ氏所有の土地に接し、原始林の残されている、なだらかな地勢と肥沃な土壌に一目惚れして、ここに日系植民地を造ることに心を決めた。
 その日の日記には、簡潔に次の様に記されている。
…2月1日、朝8時白垣君と同伴で自動車でスザノ行き。雨中、処女林の残されているに驚く。心機一変、痛快だった。
…3月6日、ビアンキ氏と契約を済まし、一旦帰耕、十日、在耕者一同の見送りを受けて、永年住みなれた耕地を出発。サンパウロでセントラル線に乗り換え、新しく切り拓くべき新天地の、スザノの果樹園に着いたのは1931年の3月11日午後1時半であった。
 朝八時着聖、一同と自動車でノルテ駅に出て十時半の汽車に無事乗り換え、スザノ駅に十二時半に安着。果樹園に午後一時亦安着、一同と晩食す。
 安着祝に一杯のピンガだった。
 当時の日記であり、福博村開植の最初のページである。

(三)
 1931年に始まった村造りは、1933年3月になって、八名の会員によって日曜会が出来、8月には恵比寿会と改めて、その会長となる。1935年1月、福博日本人会が会員十四名によって誕生。引き続き会長として、1940年9月、時局の逼迫によって解散するまで、学校経営を中心として村政を司とった。
 一方、1940年、スザノ産業組合を結成。1968年9月まで二十八年間、その中心となって働いた。
 また戦後復活した福博村会の会長を四年、戦前戦後を通して十九年間、毀誉褒貶を浴びながら、つとめあげた。
 他方、村内だけに止まらず、中央線連合日本人会、全伯福岡県人会、移住斡旋団体連合会、汎スザノ文化体育農事協会等の要職をつとめた。
 ここで一つ眼を止めておきたいのは、このように日系社会に奉仕しながら、なお一つ大きな飛躍の夢を持っていたことである。
 それは次男敬二を、ウーゴ・ボルキと組んで政界に送り出すことであった。自らもゴヤス州にあるボルギ氏所有のファゼンダ、エスペランサの開発を手掛けんとしたが、いずれも端緒につくところで挫折したことは、かえすがえすも無念であったと思われる。
 1968年6月、ブラジル日本移民六十周年にあたり、日本より勲五等瑞宝章を受けた時は齢78歳であったが、意思の固りのような蒼白の貌をかすかに紅潮させて、この栄誉を傷つけたくないから、これであらゆる公職をやめたい、と側近にもらしたのは、いかにも明治の人間らしい決着のつけ方であった。そして、その言葉を実行した。
 1972年2月スザノの病院の一室で、子供達に見守られながら枯木の倒れるように静かに息をひきとった。
行年81歳。
叙勲式.jpg
叙勲式の様子(原田氏は前列左から四番目)

(大浦文雄 記)
パウリスタ新聞(1981年12月12日)より抜粋


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