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     ブラジルの日本移民  (最終更新日 : 2024/05/01)
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高谷和夫さん (2024/01/22)
2015年8月号高谷和夫さん.jpg
 ブラジル北部パラー州モンテ・アレグレ市に住む高谷和夫(たかたに・かずお)さん(67、長崎県出身)。7人兄妹の三男である和夫さんは、1980年代から90年代までピメンタ(コショウ)栽培を中心に野菜なども生産していたが、現在は鶏卵の仲売り業を行うほか、香菜(こうさい)なども一部栽培している。
 父親の古賀野(こがの)さん(故人)は、他人に使われる仕事が嫌で軍隊に入隊。満州事変にも加わったが、背中を被弾した経験を持っていた。戦後、経済的に苦しい生活の中、親友が先にブラジルに渡っていたこともあり、高谷一家は家族7人で1955年3月、ベルテーラへのゴム移民として「あめりか丸」で神戸港を出港した。
 当時、和夫さんは8歳。ベレンから船でベルテーラに向かう中、ブラジル食やヘッジ(ハンモック)などには慣れなかったが、見るもの聞くものが新鮮で、「楽しくて仕方がなかった
」という。ベルテーラには結局、2カ月しか滞在できなかった高谷家族は、5、6家族が一緒になってモンテ・アレグレに行くことに。
 同地では、モンテ・アレグレの町から約35キロ入った「アサイザール」で兄たちが中心となって米、豆類、トウモロコシなどを植え、葉タバコの生産も見よう見まねで行った。また、ジュート麻の種子栽培を5年ほどやった後は、ピメンタ栽培にも着手した。入植して間もなくマラリアに罹り、和夫さんは1週間意識不明になった経験もしている。同移住地には小学校しかなかったが、和夫さんはブラジル学校を卒業することなく、家族のために労働力を提供。また、ポルトガル語での簡単な通訳も行い、家族を助けてきた。
 74年、和夫さんが27歳の時、重機の修理技術などを学ぶため、事業団(現:JICA)の研修で渡伯以来初めての日本へ行った。
 「見るもの聞くものすべてに驚き、あまりの変わりようにびっくりしました」
 福岡県を中心に熊本や北海道にも足を伸ばし、1年半にわたる研修期間中、当時の事業団の所長から「良い人がおるぞ」と女性を紹介され、手紙を書いて会うことになった。それが現在の夫人である幸子(さちこ)さん(64、長崎県出身)だ。「海外に出たいと思っていた」幸子さんの考えと一致し、後に花嫁移民としてモンテ・アレグレに呼び寄せた。
 和夫さんは、モンテ・アレグレに戻ってからも農作業などに力を注ぎ、地元農協の理事の一人として尽力。80年代には、トマトを中心にマナウスへの出荷用の船を購入し、販売担当責任者にも抜擢された。1回の輸送で1000箱以上のトマトを積み、60~70時間かけてマナウスへと運ぶ。和夫さんも責任者として時々、船でマナウスに行くこともあったという。
 その間、楽しみもあった。青年時代から野球が得意な和夫さんは、移住地対抗の試合や連合チームを作っては、サンタレンなどに遠征していたこともあった。しかし、当時の仲間たちも今では、ほとんどいなくなってしまった。日本語も独学で勉強。子供に日本語能力を身につけさせるため、「励みになれば」と和夫さん自信も「50歳を過ぎてから(日本語能力試験の)一級を取った」。
 80年代からリモン地区などで大規模なピメンタ栽培も行ったが、83年から現在の町に移ってきた。父親の古賀野さんは「ここは天国じゃ」とモンテ・アレグレの地で骨を埋め、「日本に帰りたいとは言ったことがなかった」という。
 97年には長男が日本に出稼ぎに行くというので、和夫さんも半年間一緒に岐阜県の工場で働いたことがある。その長男が帰伯した際には、モンテ・アレグレで一緒に仕事をしたいとの思いも持っていたが、孫が大きくなって日本での生活になじみ、今も長男家族は山梨県に住んでいる。
 一方、和夫さんの兄弟がアマゾン地域西部のマナウス市に在住していることもあり、現在もたびたび同地を訪れているという。マナウスに転住しようと考えたこともあるが、ブラジル経済の不況と治安悪化が都市部では問題化しているのが現状だ。
 「70歳まで今の商売を続けて、後はこじんまりと地鶏の養鶏などをしたいと思っているが、不安になるのはモンテ・アレグレの日本人がいなくなっていること。現在、ここに居る1世はわずかに2、3人ほど。兄弟のそばに居た方がいいとも考えるが、ここ(モンテ・アレグレ)は住みやすく、気候がいいしね」と話す和夫さん。やはり、思い入れのあるモンテ・アレグレの町を離れにくいようだ。(2015年8月号掲載)


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松本浩治 :  
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