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紺谷君の伯剌西爾ぶらぶら
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コロニアおばあちゃんの知恵3

コロニアおばあちゃんの知恵3 (2002/01/07) 漬物の話

 またまた私事で恐縮なのだが、うちの山ノ神が「明日から毎日、美味しい糠漬けを食べさせてあげるから」とリベルダーデで買ってきた糠(日本からの輸入品)を自慢そうに見せてくれた。
 「糠漬けには、乳酸菌、ビタミンBなどが含まれ、栄養満点なのよ」と強調、嬉しそうに糠を眺めている。
 「毎日、糠床をかき回さなければいけないのだろ」との質問に、「そんな事ぐらい栄養満点の糠漬けを食べれることに比べたら」と重要視していない。「キュウリ、ナス、それにキャベツなんかもいいわね」とのん気に構えていた。
 そういえば、最近でこそ糠は簡単に買えるが、昔のコロニアの移住地では、どうしていたのだろうか?
 日本人とは切り離せない漬物、塩漬けや酢漬けは出来たとしても、米糠は精米所がないと手に入らなかったはず。
 
【ハツエさんの本】
 意外だったことに、コロニアでは、昔から「糠漬けを食べていた」という回答がほとんど。「米糠はどうしたのですか」と質問すると、男性の場合は必ず「さぁ、女房がやっていたからね」との返答だった。
 やはり、婦人に聞かなければと考えていると、二世の女性が、「『ハツエさんの本』を見れば」と教えてくれた。
 この本は、コロニア夫人のバイブルと呼ばれている料理本で、ほとんどの夫人が愛用していたという。「日伯料理と製菓の友」というのが正式名だが、通称「ハツエさんの本」と、著者の佐藤初枝さんの名前で呼ばれている。
 驚くべきことに同本は、戦前の一九三四年に初版。以後改訂を重ね、九七年の十四版まで発行され、現在でも日系書店に並べられている。
 日系書店の話によれば、「最近は、あまり売れなくなったが、一昔前まで『ハツエさんの本』は婚約や結婚のお祝いなどに、新婦の心得として渡されていた」というのだ。

【米糠の代わりにフバ】
 手許にある「ハツエさんの本」は、一九六三年発行の第七版。移住地のおばあちゃんから借りた。まだまだ、旧字体が使われており、読みにくかったが、いろいろなメモ書き、手垢で汚れ、おばあちゃんの苦労が伺えた。
 漬物の項を見ると、「フバ(とうもろこしの粉)のどぶ漬け」として「これは糠漬けのことであるが」と紹介されている。
 日系人が昔から食べていたという糠漬けは、正確には「フバ漬け」だったのだ。もちろん米糠を使っていた人もいた。確かに、フバならば、どこの移住地でも手に入っただろう。
 同本によれば作り方は、「フバをコップ三杯、塩を大さじ(山盛り)一杯、水コップ一杯半を混合して一夜おく。また、ビール、日本酒、ワインを混合すれば一層よろしい」。
 糠床は一度の多く作らず、前述の半量を小さな器に作り、汁気が多くなれば新しいフバを加え、また塩分もその度に適度に加えるという。
 「キュウリ、大根、かぶら、ナス、白菜、キャベツなどを、毎日朝のうちに漬ける。ナスは指形切りにして、少し塩をふり、握って水気の出かかったところで、床に漬けると二時間程で食べられる。大根、かぶらなどは一夜くらい漬けたのが好ましい」と説明されている。(つづく・紺谷充彦記者)


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