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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2008年3月号

2008年3月号 (2008/03/08) 俳句 (選者=栢野桂山)


古里の白寿の母へ初電話
桜鯉ある厨房や豊かなる
年迎ふ幟に笑顔招き猫
【彭鄭美智】

評: 招き猫は右の前足を上げて人を招いている姿の置物で、顧客、財宝を招くという縁起から、客商売の店でよく飾られている。歳末の東洋街では沢山の幟がルアに林立し並べられ、景気よく風に爽やかな音を立てた。その音に合せて店の招き猫が笑顔を見せた。招き猫と幟と取り合わせたのは珍しく佳句となった。


長生きの幸かみしめて敬老日
蛙鳴く五右衛門風呂に肩しずめ
黄イペーの画家の遺せし額古りて
【岡村静子】

評: 黄イペーの画と言えば下田洌生さんのこと。彼が逝って久しくなるが、その額も古くなった。次の句。大盗人の石川五右衛門を釜茹でにしたという故事からきた風呂。この国に鉄の釜風呂は無いから、移民が昔よく使ったタンボール風呂を、面白くこう言ったもの。その外風呂に肩まで浸って、辺りの草原からの蛙の合唱を聞くのは極楽気分であろう。


青嵐ガビオン雛を盗りそこね
夫婦して香水知らず六十年
鶏の抱く卵あらはに青嵐
【佐藤孝子】

評: 地鶏が草薮で卵を抱いていると、野原を吹く強い風に鶏の胸毛が吹かれて、一瞬ちらりと卵が見えたーーという句。小動物によせる愛憐の情が平明であり、余韻ある句となった。


サルビアや緋の服似合う娘に育ち
蟻塚の地鳴り羽蟻の出る気配
雨垂れの音の楽しき喜雨の軒
【菅原岩山】

評: 三句それぞれ老練な句である。勝れた句には下手な評は控えるべきと思われるので、ペンを置くことにする。


煩悩の犬追ひ除夜の鐘を聞く
流燈会終へて河面に闇戻る
【風間慧一郎】

評: リベイラ河の流燈会が今年も華やかに行なわれた。仲の良い仲間が寄り添って流れて行くのや、一人で淋しく下ってゆくのなど色々。その流燈がすべて去ってしまうと、河面に深い闇が戻ったという。説明に終らず動きとともに「闇戻る」と、その時の自然の経過を写生して、調子の緊った佳句となった。


気っぷ良き八重子惜しまれ逝く師走
大正のモダンガールの逝く師走
【香山和栄】

評: 稲垣八重子さんが惜しくも師走に亡くなった。方々へ好文章、詩、その他を発表し、誰からも惜しまれた八重子さん。大正初期の若い女性が憧れたバスガールとして、颯爽と働いたことがあると、何時か文章を読んだことがあり、大正初期生れの者にとってモダンガールという言葉は懐しい。


米寿までまだ一と廻り筆始
ハイビジョンに観る赤富士と初日かな
【星野耕太】

評: 少し難解な句である。夏の暁方、朝日に照らされて富士が赤く染った壮観ーーと歳時記にあるが、それは一瞬のことで、めったに拝めない。珍しい景をハイビジョンで見せたあと、続いてブラジルの初日影を写した―と解した。


久々にリオの浜辺に外寝して
初ミサのあと一家してお祝いを
【高井節子】

野も丘も黄金に光り麦の秋
ハイビスカスのレイ掛けバスの観光客
【木村都由子】

土人等が競ひ登りてジャッカ穫る
棉の虫三日の油断で半作に
【上坊寺青雲】

古扇老師偲べば胸あつく
知る人に老夫気付かずサングラス
【岡本朝子】

卒寿祝い杖贈られて初笑
ごった返す海辺に海月現れて
【矢島みどり】

友呉れし萩の花咲き故郷しのぶ
うねうねとつづく山道蝉の声
【井出香哉】

安否問えば七七忌とや十二月
マスコミに背を向けているサングラス
【猪野ミツエ】

昆布巻の黴も詮なし旅戻り
着慣れたる野良着身に添ふ鍬始
【伊津野静】

読書して静かな正月父老ひて
山の避暑山ほど本をたずさえて
【三上治子】

賀状書く移民百年シール貼り
ミサイルの如風切って除夜花火
【清水もと子】

バラ白し塀の楽書赤と黒
年迎ふひよろひよろと卒寿越え
【伊津野朝民】

移住地の暮し多彩に駝鳥飼ふ
リオ夜景ニテロイ橋も涼しけれ
【畠山てるえ】

東洋街餅搗きもして領事様
東洋街恒例餅搗き大晦日
【軽部孝子】

幸せが射し込む様な初日影
葉桜や又咲く春を待ちわびて
【宇佐見テル子】

そびえ立つビルの角より初日の出
葉桜の萌えたつ並木月淡く
【酒屋登喜子】

海越えてお年玉付き賀状受く
裏庭にほころびそめし月見草
【遠藤皖子】

遠く住む子等に初日の恵みあれ
お雑煮をお箸上手に孫五歳
【矢野恵美子】

初空や年の挨拶雀にも
葉桜に句心生れ涼しけれ
【吉崎貞子】

妻留守の独りの天下寝正月
悠大なさそり座見上げ外寝かな
【纐纈喜月】

ナタールと卒寿を子等に祝われて
売家札源平かずら咲きつつむ
【原口貴美子】

新年会せめて国旗を揚げたら
暮れて行く葉桜夕べの道の辺に
【山田富子】

百歳を目指したる人逝きし夏
忽然と散りゆき夏の遺句二つ
【大岩和男】

宇宙より銀河こぼしてリベイラ川
友逝きて残る孤老の秋扇
【中川操】

姉弟の一人亡くなりお正月
懐しや昔の正月三ヶ日
【玉置四十華】

働けるだけ働いて年暮るる
照り降りに使ひ色褪せたる日傘
【矢萩秀子】

病む友の回復祈り年明かす
老移民百年祭を待たず逝く
【小野浮雲生】

若水とお神酒と並べ供へたり
友賜ふ筆ペン嬉し吉書かな
【野村康】

若竹の伸び行く如き孫三人
幸せは皆なの健康年酒酌む
【杉本鶴代】

凧あげる大河にほのと初日の出
日本着の美女並べたる初暦
【青柳房治】

宝塚歌劇に更けるお正月
ソーセージかじる鼡の賀状来る
【寺尾芳子】

ブラジルのTVに日本の初日の出
おかげさまありがとうとて年を越す
【青柳ます】

煙管吸う歌麿の画の新暦
添えありし気付かぬ賀状年越せり
【本広為子】

去年今年五人の子等に守られて
ナタールや娘のアパートで寿司巻いて
【黒木ふく】

万人の崇める月の煌々と
避暑の客海月に刺されたるさわぎ
【林田てる女】

吉兆を初日に祈り移民祭
クリスマスポ語のみの座に母黙す
【名越つぎ代】

蒼天に新緑輝く遠き峰
油草茂り近道ままならず
【岡本朝子】

土橋よりせせらぐ蝌蚪の水覗く
餌を欲りグアツセに袋巣ゆれ通し
【青木駿浪】

向日葵や道問う人に首ふりて
夕焼け小焼けの唄も聞えず赤トンボ
【前橋光子】

群落を放れ一群水草生ふ
茗荷竹わらのふとんを跳ね出して
【佐藤美恵子】

造園の片隅に長け韮の花
窓の灯のあやかに点るジャカランダ
【中川千江子】

ノロエステぶりの残暑に耐へる旅
ラバペーの巣を踏み地駄々草取女
土荒れの老の手に愛づ菜飯かな
対話なき父子並びて夕端居
【栢野桂山】


短歌 (選者=渡辺光)


さからわず時の流れに從きゆかむ涼しき朝を蘭に寄りゆく
父よりも祖父よりも齢重ねきて異国の空に初日を仰ぐ
独り身を移り来し日もはるかなりうからと共に穏やかな日々
【グァイーラ 金子三郎】
(評:三首目良くまとめられました。長寿で倖せですね。)

好物の冷奴に醤油の過ぎたと血圧あげし友の嘆ける
失恋も五回目という男性の声渋く唄い聞かせる佐渡の恋唄
頂きし山梔の花捨てて来し旧家思いて匂いたちくる
【セントロ桜会 野村康】
(評:塩分取りすぎて血圧を上げ、人に恋い焦がれて血圧上昇)

亡き夫よあなたは千の風になり私の頬をそっと撫ぜゆく
【ミランドポリス 湯朝夏子】
(評:いくつになってもこのような気持ちでいれば楽しいでしょう。)

五十年ぶりの訪日胸躍り故郷の大地を踏みしめており
半世紀ぶりの訪日故郷の幼なくして訣れし父母とは無言で
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:半世紀ぶりの訪日。故郷も変っていたでしょう。貴方の思いは変わる事なく故郷を偲びます。少し添削あり。)

曾孫より初めて貰う年賀状空手の試合に出る嬉しさを
ライラック清楚に香りしあの頃は父母に守られしを今は想い出
【ピエダーデ 中易照子】
(評:曾孫の年賀状なんて、今は珍しいと思います。兎に角、嬉しいことですね。)

亥の年は過ぎて子となり吾の年七度迎えて健やかなりき
市内バスにて夫と二人でゲートボール神に祈りぬ今日の倖せ
【インダイツーバ親和会 野村文恵】
(評:二首共若干添削あり。原作と比較ありたし)

三月の三日生れのそのせいか特別おしゃれな末の息子は
私ほど倖せ者は世にありや感謝を祈り過す日日
思いのまま歩きし頃の若き日は二度とくるまいと振り返り見る
【ツッパン寿会 林ヨシエ】
(評:自分の倖せが一番だと思えば、一番の倖せです。)

新聞の色切り取りて花作り手作りの年賀状たのし
先生にカードを贈り喜ばれ指導受けしは楽しい余生
クリスマス迎えに行くから来ないかと嬉しい弟妹の愛情が
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:それぞれの楽しみがありますね。益々の御健勝を。)

出稼ぎの友が送りしはじけ栗日本の味を噛みしめており
はじけ栗昔と変わらぬその味は故郷の味なつかしきかな
囲炉裏にて栗はじけしその音を昨日のごとくに想い出しおり
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】
(評:二、三か所、言葉を変えてみました。良くまとまっています。)

風の吹くテラスに立ちて見上ぐれば真白き雲のたなびきており
【セントロ桜会 大志田良子】
(評:雲が千変万化する様を見ていると飽きないものですね。)

年変わりひと月未だたたねども今日を吹く風冷たく感ず
【セントロ桜会 井本司都子】

睦月早や走り過ぎ行き如月がこの月逃げると諺にあり
【セントロ桜会 大志田良子】

朝毎に歩く道の辺野苺をふふめば懐しく過ぎし日の顕つ
【セントロ桜会 富樫苓子】

あの女も吾も杖つき道行けば人等は急ぎ追い越して行く
【セントロ桜会 鳥越歌子】

団欒の席を離れてページ繰る老の習性淋しくはなし
【セントロ桜会 上田幸音】

大幹に凭れる心の嬉しくて残る古木をいとしみ仰ぐ
【セントロ桜会 藤田あや子】

朝顔が咲けば日毎に想い出す友が言いたるもろもろのこと
【セントロ桜会 上岡寿美子】

古里で独り暮しの兄偲ぶ窓には眉月白く浮きたり
【セントロ桜会 板谷幸子】

差別なき人種の坩堝のこの国は住み良い国にも治安の悪さよ
仏壇に火灯し香煙立ち昇る経おごそかに兄十三回忌に
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:確かに気候的には住み良い国ではありますが、治安の点では心安らかではありませんね。)

移り来て苦難の時を共にした一人の姉も卒寿を祝う
葉桜の緑の中のサガコート老いも若きもゲートボールに励む
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】
(評:初期移民の先達の苦労により、今のコロニアの倖せがあるのですね。)

健康が自慢の百寿翁散歩に杖などつかず悠然として
闘病も早や十年となりもして抗癌剤の効かなくなりぬ
抗癌の注射をうてば二、三日怠惰となりて何も出来ざり
麻酔醒め痺れしままの下半身二時間待てと看護師は言う
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:初めての投稿と思いますが、闘病生活がリアルに表現されています。つらい気分を歌に託してみると、いくらかまぎれるかもしれませんね。)

降り続く雨に雑草はびこりて蝸牛の群庭に蠢く
思いがけなき人の訃報を聞かされて故障だらけの吾が身を思う
月毎に訪ね来る娘と同室で寝息聞きつつ心安らぐ
【ミランドポリス 湯朝夏子】
(評:良くまとまりました。三首目など親子の心情が読者に伝わります。)

年毎に届きし賀状の途絶えたり如何にしありや銀河経し姉
変貌して自転車乗りし土道を今高級車の絶間なく走る
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:良くまとめられました。電話や手紙が久しく絶えると心配するものです。)

百周年民俗芸能の粋見せる日伯交流成功祈る
百周年大和撫子モデルにし移民の記念「日伯交流」
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:この様な時事的な素材はニュースのコピーになり勝ちです。次を期待します。)

朝な朝な庭の花々摘みきては佛壇に供え妻安らぎぬ
降るとなく晴れるともなき朝空にくぐもり聞こゆ山鳩の声
【グァイーラ 金子三郎】
(評:二首共素材の視点良好。良くまとめました。)

五回目の恋を偲ぶと唄う男性老いても負けじカラオケ部員
それぞれの国がら顕たせ民謡に齢思わせぬ声量聴かす
【セントロ桜会 野村康】

次々に吾が家の周りビル建ちて除夜の花火も音を聞くのみ
キタンダに卸すが如く箱詰めの茸と野菜を友に頂く
出席の叶わぬ歌会偲びつつ身近な素材で一首詠みたり
【スザノ福栄会 原君子】
(評:三首目は気になりますが御病気ですか?三首目添削)

釣り好きの人等集まる池ありて大きな鯉釣り歓声あがる
高原の宿に過ごして朝毎の散歩の道よりパラチが見える
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

長病みの夫の看護を手伝いし息子なりしよ過ぎし日憶う
酒呑みてサーラに横臥せし息子に親より先に逝くなと諭す
【スザノ福栄会 黒木ふく】

毛越寺に芭蕉の色紙求めたり俳句の聖者偲ぶ思いに
東北の灘と言われる酒どころその名も高き「爛漫酒造」
【スザノ福栄会 青柳房治】

酒呑みは夫一代息子も婿もグァラナで乾杯年を越したり
弟の病癒えしとう初電話二〇〇八年の吾の喜び
【スザノ福栄会 青柳ます】

形見分け三人の息子に皆渡し空きしタンスの香を閉ず
物忘れは娘らにもありとハリハリと茗荷の花穂今宵も食す
【スザノ福栄会 寺尾芳子】


川柳


銭よりも心豊かな友と居て
燃える夢抱いて希望の陽を仰ぐ
日本の夢新幹線が飛ぶ昿野
先駆者え感謝土台に立つ移民
先駆者の苦難感謝で咲かす花
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

主留守諦め蔭で汗を拭く
連絡もせで訪えば主留守
真夜中に起きて俳句をしたためる
八十四歳百歳迄は未だ未だと
友逝けり呑ん兵天国で逢うつもり
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

自己本位通して後ろ指さされ
習ふより教える技のむつかしき
予後の身に番いの鶴を描き上げし
生長の家だと詐欺漢近づきし
面倒を見た孫共を頼る今
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

流行りとて町中皆んな黒づくめ
紫は戦争の色黒は厭や
マンソンに新車にピアノ揃えたし
栄養の豊富なバナナ食べる事
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

肝心な要件忘れ長電話
散ることの知らぬ造花のちり払ふ
脳の皺無くなり顔の皺が増え
こわれもの棚に仕舞って孫迎え
時と場合勝手つんぼになり済まし
【サンパウロ中央老壮会 香山かずえ】

口惜しくも人生にある落し穴
八十路坂掛け声かけて踏み登る
孫曾孫末広がりの我が家かな
捨て去りし日記に残る思い出よ
【セントロ桜会 矢野恵美子】

我れ学ぶ書道繁栄安泰す
雨の日は小鳥何処で安堵すや
ビルの窓風はひゆうひゆう唸りたて
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

カルナバル大仏武将も登場す
百周年祝うサンバの大合唱
大仏が現れ出でしサンバ山車
岩崩れ落ち島となる観光地
芸能祭派手な日舞に見惚れたる
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

正月は餅の食べ初め太り初め
狂い咲く陽気の故か姥桜
一と目惚れ老はとっても気は若い
年忘れほれたはれたと皺のばし
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

四世は目はパッチリと百年祭
開拓期童謡唄って洗濯し
移民船スタート一緒でこの格差
百年祭重い歴史も受けとめて
開拓地食べたバカリヤウ今高値
【セントロ桜会 森川玲子】

科学者の知恵製品で金もうけ
ネクタリーナ桃と林檎の混血児
若者のパソコン犯罪続出す
使い捨てなれど容器の美しく
【サントス伯寿会 三上治子】





「思ひ出」

若嫁二人
義父母 遠出の日には
内緒事しようか いいねえ
ごぼうを掘って天ぷら
懐かしく思い出す
ささやかな内緒事
この義姉も逝って久しい
五十年昔の話 人生も終わりに近い
残された人生を精一杯生きよう
【ナザレー老壮会 波多野敬子】


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