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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2008年5月号

2008年5月号 (2008/05/10) 俳句 (選者=栢野桂山)


菜を洗う手にすがりつく菜虫かな
流れ星遠き我が子等乗せて来て
流星に余生の夢を託したし
【矢野恵美子】

評: 秋の夜空を一瞬彩る流れ星を見て、何となくこの星は自分の思いを叶えてくれそうな気がしてくる。仕事のために他州に住む子、出稼ぎに行って帰伯しない子に、逢わせて――と願うのである。次句、自分には余生の夢があり、その願望をこの流星に託してみたいという。昔の移民妻としての苦労をさっぱりと忘れて、現在の安心できる生活にひたった、童心のあふれた流星の二句。


諍いの境界流る水澄める
よく廻る水車の水の澄みにけり
生き別れして来て永住流れ星
【纐纈喜月】

評: 一ト儲けして故郷へ錦を飾るつもりで、老いた両親や兄弟を置いて移住したが、その内に子等が育ち、それぞれ嫁にやったり貰ったりして、やむなく永住となってしまった。その親兄弟と生別れとなった――という嘆きを詠んで、共感があり前句との対比が面白い。


歓声を揚げしかに咲くアレルイア
人恋うて駈け来る馬や露の牧
春節や竜と獅子舞ふ東洋街
【木村都由子】

評: 春季皇霊祭は日本の国祭日の一つで、中国や台湾ではこの日は昼夜の時間が同じで、この国では九月二十三日頃。東洋街では祖国の三月二十日頃に合せて、お祝いの龍の舞い獅子の舞がリベルダーデ広場の仮小屋であり、故郷を偲びつつ祝福した。


仰向けに青い空見て囮守
馬肥えて背の衛兵の小さく見ゆ
アラッ私の制服着てる案山子さん
【猪野ミツエ】

評: 霞網などで小鳥を捕るのに、誘ふ方法として鳴かせる篭の鳥が囮で、それを見張るのが囮守。いくら待っても小鳥が寄りつかないので退屈して、寝そべって青空を見ている少年。


落着かぬホ句の下五字秋暑し
カピバラの肉干し木藷酒醸し
お下りでなき制服で入学す
【佐藤孝子】

評: 末っ子は兄や姉のお下りの制服で入学するのは、昔のコロニアでは当り前のことであったが、この子は一人子か又裕福なのか、一人だけ真新らしい服と鞄で入学式に臨んだ。だが本人は囲りに対して少し気恥かしくなったところ。

軽暖の髪形二百三高地
法話カレンダー尊びて初手前
居眠れる老いの二人の煤篭
【菅原岩山】

評: 煤掃の日、老人子供は邪魔になるので、別室に避けるのを煤篭、又は煤逃とも言う。その老夫婦が隠居所にこもったが、別に話がはずむ訳でもなく、のんびりと居眠りをしているという、平和を絵にしたような句。


飼ふてやり度き眸いとしや迷ひ鹿
花のなき狭庭灯点す実南天
【名越つぎ代】

評: 鹿には牝鹿、女鹿、妻恋う鹿などあるが、小鹿もその一つで、親に連れられて歩いている内にはぐれて親を見失った。その   迷い鹿を見付けて近くからその眸を見ると、仲々に愛しくて捕まえて飼ってみたいと思った。これも母性の一つの現われであろう。


招き猫残暑の一ト日客招く
大根誉め見知ら伯人足止めて
【彭鄭美智】

止まりたる蹄の音や鰯売り
二親に送金少し豊の秋
【杉本良江】

NHKが放映聖市のカルナバル
すばらしき沖縄パレード百年祭
【三上治子】

元旦と言えど孫等の喧嘩声
旅に出て思はぬ方の初日の出
【小野浮雲生】

仙人掌蘇鉄等身大や移民寺
夢語る友の背に飛ぶ星一つ
【風間慧一郎】

開発のならぬ秋山自然あり
果てしなき緑の自然界の夏
【三上治子】

蝿生るビンゴ用紙の数の文字
忘れものかと見しは犬園木陰
【伊津野朝民】

二三本燐寸を無駄に雨季厨
ジュラルミンの盥と共に移民船
【香山和栄】

夜を微し人夫五人で屋根替えす
サナトリオ満開つつじ庭染めて
【岡村静子】

移民して百年仰げる天の川
あの世より夫の便りか流れ星
【野村康】

流れ星何かを告ぐる尾を引いて
残り少なき一世の代秋彼岸
【杉本鶴代】

バス十台媼の迷子ダリア祭
バカリヤオ値下りニュース女性の日
【寺尾芳子】

百周年の幕開けとなる移民祭
クワレズマ眼路のかぎりの花の山
【本広為子】

お彼岸の仏間に供ふ柿の艶
伸び育つ孫さわやかな洗ひ髪
【青柳ます】

奥地旅続くかぎりの甘蔗畑
高台の畑に恵みの秋夕焼
【黒木ふく】

孫育ち大学生よカンナ燃ゆ
母逝きて三十三年秋彼岸
【青柳房治】

養国の草原育ち椰子の花
鬼ののどとや紅を吐く滝しぶき
【中川操】

パスコアの卵自分で作る嫁
新米に黒米少しまぜて炊く
【矢萩秀子】

子供達凧上げ楽し朝風に
名の知らぬ花にやさしき春の風
【玉置四十華】

浜千鳥追われて逃る波白し
山深き杣住む小家虫の声
【井出香哉】

卒寿の兄逝きて夕べの時雨寒
よろこびも哀しみも人生年暮るる
【前橋光子】

落日の炎ゆる夕焼雲染めて
露の牧牛の三つ仔の生れたる
【林田てる女】

青蔦の塀落書きをまぬがれし
ソルベッテ舌にピアスの美大生
【清水もと子】

宿夜長眺める月に詩情あり
終着駅の夜空ながむる流れ星
【山田富子】

豊の秋長寿の宴に招かれて
美しき文字の手紙を読む夜長
【軽部孝子】

病める眼をゆっくり読書夜長かな
古里の豊年の報手に安堵
【遠藤皖子】

山合の小さき村も豊の秋
株引けば手にひんやりと菜虫かな
【畠山てるえ】

父恋し母恋しとて星流れ
一人居の夜長に励むホ句読書
【原口貴美子】

農止めて耕馬三頭良く肥えて
新涼に招かれ二泊の旅たのし
【上坊寺青雲】

星月夜何れに存す父母の星
踊りの輪見ている吾も足拍子
【矢島みどり】

流れ星かえらぬ友をなつかしむ
鳥渡る空に道あり古里へ
【宇佐見テル子】

念願が叶ひ墓地買ふ豊の秋
逝きし子の齢を数える流れ星
【吉崎貞子】

澄む水に子を負ひ濯ぎせし昔
新涼の海辺の大樹のさるおがせ
【伊津野静】

雲の峰身無し子母の顔と見る
自分史を子孫に残さん百年祭
【大岩和男】

寒夕焼古都の景色を荘厳す
愛憎のからまる櫛の木の葉髪
死産の仔呼ぶ親牛に露寒し
野鼡の仔の巣に啼ける露寒し
【栢野桂山】


短歌 (選者=渡辺光)


板壁の家閉ざされし庭前に爛漫と咲くパイネーラの花
【セントロ桜会 藤田あや子】

暑さ去り秋風吹けばフェイラには日本と同じ柿並びいる
【セントロ桜会 板谷幸子】

秋めきしサーラにトルコ桔梗の鉢真白き花に心おだしく
【セントロ桜会 井本司都子】

ユーカリの梢に白き花咲きて風なき日にも花の散りぼう
【セントロ桜会 富樫苓子】

老いの家を静かに包む秋雨に小鳥も声をひそめて宿る
【セントロ桜会 上田幸音】

街角の二本のイペー枝はりて行き交う人に良き陰なせり
【セントロ桜会 鳥越歌子】

毎朝のウォーキングの度要注意つま先上げて手を振り歩む
【セントロ桜会 大志田良子】

原始林拓きて植えしコーヒーが四年となりて初成りをみし
【セントロ桜会 上岡寿美子】

ブラジルの老人クラブ連合会三十年誌を楽しみに待つ
弟子の忌に眠る墓前で詩を吟ず草餅供え黄菊満開
メトロ駅釈迦降誕の花祭り稚児の行列衣装華やか
近付きぬ日伯修好百周年移民資料のデジタル化進む
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:二、三首目に言葉を変えた所がありますが、全体的に良くまとまっています。)

昼寝して夜を遊びて戻る猫窓開けてくれと軒下に鳴く
花御堂に在します若き釈迦の像甘茶かければ祖母の顕ちくる
今の年も生ける証を送りたり日本の年金受け続けたく
【グァイーラ 金子三郎】
(評:一首目の初句の言葉を一か所変えてみました。二、三首共良くまとめられました。)

三種類の蘭が見事に咲きほこり我が庭前は華やぎており
齢重ね味覚嗅覚衰えて耳も難聴で寂しき思いす
夕闇の迫り来れば遠く住む子等が恋しき老いたる吾は
【ミランドポリス 湯朝夏子】
(評:三首共良くまとまっています。年を取るほどに子供達が恋しくなるものですね。ご自愛の程を。)

月毎に何通もの便りしてくれる我に優しき息子なりけり
アラカジュと遠く離れて暮らすとも生きていてこそ逢える日を待つ
アラカジュの息子夫婦が訪れて嬉しく過しし十日間の日日
【ツッパン寿会 林ヨシエ】
(評:一首目添削しました。子供さん達に逢えた喜びが良く表現されています。良かったですね。)

三月も半ばをすぎて朝夕は寒さ身に沁む秋の訪れ
巣作りをするのか今日も小鳥たち落葉を口にせっせと運ぶ
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】
(評:二首共良く仕上っています。)

ばあちゃんの手作りケーキで祝います笑顔を写し優しさ届く
嬉しさに言葉もでない皆の顔涙で答う有難うだけ
日伯の親善結ぶ雪だるま幼き頃の手袋の思い出
世の進化親善果す雪だるま汗流す国で笑顔いっぱい
【ピエダーデ 中易照子】
(評:南国での雪だるま好評でしたね。)

この花も隣の花もそよ風に朝日をうけて耀いており
今日明日に故郷の便り心待ち郵便受見るも今日も空しく
頻繁に行き交う車の激しさに老いの我が身は竦みて佇ちぬ
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:二首目の言葉を変えてみました。三首目の結句も若干添削しています。素材が良くまとめられています。)

熟年の手習いなれど句を始め辞書を片手に入選句読む
久方の蝶の舞いくる昼の庭長雨上がり秋空晴るる
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:一首目の「句を始める」とありますが、俳句にも頑張っておられますか?御自愛の程を。)

生き残り神風特攻隊時の人赫灼として取材に応う
運ありて特攻隊を生き残り百周年に取材されたり
一刻は死の道迷いし八十八歳テレビ取材で生き生きとせり
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:ブラジルにも特攻隊の生存者がかなりの人が居ると聞きます。正に時の人ですね。)

九十を三つ超えたる日本の姉に便りを今日もしたたむ
鉄柵を巻きのぼりたるアラマンダ蝶も蜂も来ぬ淋しさのあり
書を学ぶ心姿勢を正しくし実用的にならぬ字を書く
こだわるな忘れてしまえと言われても我慢強きの自負は崩れぬ
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:一、二首を添削してみました。原作と比較してみて下さい。私の手元に二か月分たまっています。)

乳母車幼児乗せて若き女子守唄など口遊びつつ
赫灼と毎朝散歩にこの老人齢は九十六歳にして
この俺は死ぬことなんか忘れたと百歳までも生きる顔付
朝霧に街灯淡くゆれており暁の街を独り散歩す
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】
(評:各首とも元気さがあふれて良い歌に仕上っています。)

健やかに老いを生きたしバス降りてシチオへの道今日も歩きぬ
七曲り坂道とばして降りるバス席にひたすら大師を唱う
真一文字に口を結べる夫の遺影移民の苦労ただに堪えきて
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:三首目の初句「吽形」は一般的に判り易く「真一文字」としました。)

体重計を購いくれし息子等がそれぞれ気遣いくれる
夫兄弟と吾兄姉は皆逝きて米寿の吾は一人生きつぐ
【スザノ福栄会 黒木ふく】
(評:長寿である事を子達の気遣いなど最高ですね。)

モトリスタの飲酒運転をTVの報ずる夕べ事故は相次ぐ
おみおつけ吸う時音を立てたれば笑顔の娘眼で「ノン」と
野牡丹が咲けば母の誕生日祝いに集いし彼の日のことを
【セントロ桜会 野村康】
(評:三首共字余りでリズムが崩れますので、若干添削しました。リズムが基本ですから気をつけましょう。)

我が夫の田舎に帰りしアパートは何か足りない空間があり
朝夕は風が秋めく頃なれど日中の暑き老いの身にこたう
老いし父健康に気遣い子供等はビタミン剤を飲ませていたり
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:一首目などは余韻があり良いですね。)

贈られし派手なセーター着こなして若返りたる今日は父の日
焼き上がる鰯の中より腹子もつ鰯取り合う食卓の孫等
年金にボーナス出でしを喜べり長生きしたるを妻と語りて
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:三首目の結句「共に語りて」では誰と?になりますので「妻」としました。)

今世紀初の子の年めぐり来て吾七回目の齢重ねる
雨に暮れ雨に明けたるこの年の水害のニュース何時まで続く
病床の窓より飽かず眺めおりたおやかに揺るる百日紅の花
【スザノ福栄会 原君子】
(評:一首目二句目漢字にしました。良くまとまっています。)

人知れず開くや数十の蕾ふくらむ月下の美人
庭潦昨夜の雨の晴れし道映る月影またぎて通る
言の葉の裏も聞きおり夫の言う「うるさいなあ」に腹も立てずに
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:二首目にある「昨夜の雨」とあり、にわたたずみに映る月影は矛盾するようです。「朝の月」または「昼月」となれば納得ですが?)


川柳


聖火リレー意外なとこで非難され
趣味の道夢を追い行く余生日々
太陽の下で楽しく流す汗
百年を彩る移民夢のあと
感謝の念燃えて輝く大昿野
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

聞き上手誰の話も良く聞いて
調和心あれば世の中敵はなし
何が起きても平常心失なわず
百年樹時をたがえず花咲かす
百年樹花を咲かせて実もならす
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

緑の地獄今は地球の肺と云う
都市育ち農家に嫁すも運命とて
移民史は喜怒哀楽の九十九折り
貪すればねたみ心をむき出して
御僧の教説なれど空しくて
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

追ひ風に追われ続けて登る坂
米寿てふ山に登りて深呼吸
八十路坂押されて登る余生かな
一人ぼち泣いて笑ってドラマ観る
三本足友は笑いて杖をひく
【セントロ桜会 矢野恵美子】

デブがデブ見て笑いおり太いねと
絶世の美女も美男も皮一と重
色男ぶってオバングループの鼻つまみ
隣席は一人よがりの色男
日曜日浮浪者天国商店街
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

障害者職場を得たり生きいきと
痛み知る親の重病看護して
タクト振り晴れの舞台の発表会
世の矛盾悪が大ぴら大手ふり
温暖化協力すればけちんぼと
【サントス伯寿会 三上治子】

健康のもとは鰯とバナナとか
よく働き人に尽して天寿まで
押し売りをポ語わからぬと追ひ払ひ
コーラスにお腹も締まり背筋伸び
東郷大将ばんばんざいの手毬唄
【サンパウロ中央老壮会 香山かずえ】

誕生日四年目に一ぺんまだはたち
憶え書き家中に貼りてボケ愉快
金貯るまづ塀高くして安眠す
【セントロ桜会 森川玲子】
(注:大統領夫人を揶揄した句、プラナルト宮を批判した句は没にしました。選者)

酉年会皆すこやかに乾杯す
甘茶かけ合掌をして降誕祭
学生等月夜のバンカに賑わいて
白寿翁酉年会に来て若し
剣詩舞を踊りて楽し酉年会
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

八十路とておしゃれは女のみだしなみ
それぞれの個性いかせば美しく
我れ書道十年一期として励む
移り来て百年祭を祝福す
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

老人会友の顔見に今日も来る
痩せ薬値段を聞いて買う気失せ
俳句めく友の川柳読み返す
癖となり独言には孫笑う
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】


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