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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2008年8月号

2008年8月号 (2008/08/09) 俳句 (選者=栢野桂山)


一年分の野良着仕立てて農閑期
農閑期妻には妻のもくろみが
かまど猫身振いしたる灰かぐら
【伊津野静】

評: 多角農を続ける農家では、農閑期と言ってもそれほど隙は無い。だがそうは言って居られず、厨仕事の合間に一家の野良着を仕立てたり、袖の取れた仕事着を直さなくてはならないので、移民妻は大変。


孫によく似し若者の木藷買ふ
冬草に日差し届かず暮れにけり
寒夕焼ここ終焉の地と決めて
【風間慧一郎】

評: お茶の名所として知られ、住み良いレジストロでは、ジュキア富士に当る寒夕焼が美しく、今処を終焉の地と決めて、悠々自適している作者。


襟足に髪はりつきて湯ざめかな
一心に毛糸編む刻我が世界
師の卒寿目出度し移民百年祭
【佐藤孝子】

評: 木蔭誌主宰の佐藤牛童子先生は、先月の五月十四日に卒寿の誕生日を迎えられた。丁度日本移民百年祭と重なって、ひとしおにお目出度い。


散歩とは言え車椅子冬に病む
病むわれに友等温情冬ぬくし
湯灌にも等しき入浴冬の朝
【大岩和男】

評: 湯灌を体験したことがないからよく解らないが、寒い冬の朝の入浴をそのようだと想像した。元気だった作者が体調をそこねながら、朝の入浴が習慣になっている者の体験である。


猫の爪てふ棘茂り牧枯るる
沢庵漬く一と桶ごとの塩加減
【纐纈喜月】

評: 百姓の大家族では、穫れた大根を早目に食べる薄塩と、七升塩という来年まで貯蔵するものの桶と、塩加減を別にする。沢庵漬の名は沢庵和尚の創意からきたとも、たくわえ漬の転じたものとも言う。


沈む日に猟犬を呼ぶ笛を吹く
訪えり白き茶の花日和とて
【猪野ミツエ】

評: 茶の花は小さな白色五弁の花を多数付け、目立たないが可憐で清楚な感じ。久々に友を訪ねた折に、目の届くかぎりの白々とした茶の花日和であった。


散りばめし宝石さながら冬銀河
棄民とも言われし移民百年祭
【東野外喜雄】

評: 大戦中担当の大使や領事は移民を棄てて日本へ引き上げたので、我々は移民でなく棄民となった――という思いをした。その移民が農業やその他で功績を残し、百年祭では皇太子さまを迎え、この養国からも評価されたことは喜ばしい。


静養の七日秋立つ荘泊り
談笑に荘更け行きて暖炉燃ゆ
風邪引くな転ぶなで切る子の電話
【名越つぎ代】

秋山のはしゃぐポケット猿の群
追憶の移民街道山粧ふ
一群の精霊蜻蛉移民墓地
【菅原岩山】

朝露にささやくごとく風あそぶ
亡き夫の遺影に語り百年祭
【吉崎てい子】

風邪十日手足も遠く有る思い
手で撫でる髪のしめりて梅雨に入る
【前橋光子】

達磨の目ささらとなりて捨団扇
枯園に古色豊かな美術館
【香山和栄】

夕もやと競ふ淡色秋の虹
パイネイラ樹齢百年雲そこに
【森川玲子】

夜明けかと思ふ満月窓あかり
もろもろの伝説たのしお月様
【三上治子】

皇子待つ日伯国旗爽やかに
冬ぬくし日系の我祝詞受く
【清水もと子】

新米はリベーラ産のこしひかり
乾季埃の自動車に落書してありし
【木村都由子】

一人居のしずかに編物冬の雨
孫と猫遊びつかれて暖炉端
【玉置四十華】

秋晴やロバーロ釣れてリベイラ川
菊活けてスザノ土産のまるい花器
【矢萩秀子】

孫たちの待ちし焚火の期節来る
病む友に食欲つきしと草餅を
【小野浮雲生】

ドラセーナ見る人なくて花高く
山鳩の首出す草間露の道
【鈴木照緒】

蜻蛉飛ぶ山の畠の黍ゆれて
朝寒や背中まるめてバスを待つ
【井出香哉】

壁に掛けし鍵揺れ冬の地震とて
畑のレモン数多浮かせて冬至風呂
【寺尾芳子】

一徹に山ごもりして炭を焼く
山裾にはりつく家並暮早し
【原口貴美子】

沢庵漬そこそこと言ふ暮しかな
あっけなき日帰り旅行暮早し
【畠山てるえ】

毬イペー古びしお寺明るうす
そばかすのぴんた可愛いいジュニナ祭
【杉本鶴代】

鯉のぼり県より贈らる移民の日
銀杏散る小判のさまに風に乗り
【本広為子】

曾孫二人ブラジル五世百年祭
古日記生きてるあかし記入もれ
【黒木ふく】

余生我に燃ゆるものあり百年祭
再会を喜び合って百年祭
【青柳房治】

甘柿のよくみがかれて顔写る
朝焼けに月青白くビルの間に
【森川玲子】

柿甘し取り放題の園なりし
火焔樹下市たつ広場なんでも屋
【岡村静子】

夕食は煮込みうどんで夜寒かな
膝毛布しかと巻きつけ句作妻
【矢島みどり】

農閑期妻と自炊の車旅
冬日濃し車窓にもたれペン執る娘
【伊津野朝民】

焼肉の炭火に落ちるたれの音
炭と炭打って良し悪し確かむる
【杉本良江】

書道の美追求展覧会寒し
見事なる「墨の芸術」日短か
【軽部孝子】

朝空の力はかなき冬の山
雨季明けの空一面に鰯雲
【山田富子】

遠き日に我住みし土地牧枯るる
天を突く真紅にもえて花アロエ
【遠藤皖子】

短日の老に用なき長電話
大寒に爺さま口を一文字
【吉崎貞子】

何もかも明日にまわして日短か
日短かお客のお尻落付かぬ
【矢野恵美子】

草の葉にすがりつきたる蝶凍てて
白御飯沢庵漬けにお茶かけて
【酒屋登喜子】

炭袋積んで肉屋は街角に
屠殺場の屋根に日浴びて群ウルブ
【野村康】

寒紅を刷いて不幸に立ち向ふ
一人見るテレヴィの濡場残る虫
機械採り終え冬ざるるコーヒー園
羽撃きて人間不信檻の鷹
【栢野桂山】


短歌 (選者=渡辺光)


知っている筈の単語が口に出ず対話の最中もとまどうこの頃
癒ゆるなき骨粗鬆症に耐えながらささやかな趣味に生きゆく吾は
帰り行く吾娘の両手を握りしめ別れを惜しみ今宵は寒し
【ミランドポリス 湯朝夏子】
(評:三首共良い仕上りです。)

新聞を開けば一面地震記事犠牲者六万この世の地獄
二〇〇八年我がコロニヤの大祭典汗と涙の集大成なり
昨日まであれほど輝き咲いた菊今朝は萎れが目立ち始める
農業は天の恵みは欠かせない如何なる科学も灌漑も及ばず
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:天然自然の理は如何なる科学も曲げられないものですね。三首共若干修正しました。)

木藷汁大鉄鍋に炊き上げし子育て必死の思い出
木藷汁豚の肋を叩き込み子沢山なる吾が家なりしが
早期発見癌闘病の十年を薬餌治療をかたく守りて
月一本ビタミン注射処方され未だ六本をうたねばならぬ身
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:それぞれの歴史があり、それぞれの体調維持に努力されて長寿を全うされるのですね。頑張って下さい。)

茜雲殿下のパレード自衛隊騎兵隊行き軍機飛び行く
先駆者の御魂に届け太鼓隊打てや響けや殿下の前で
たそがれて三千の合唱流れくる異国に根付けさくらさくら
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:祭典のキャッチフレーズの感がありますが、良くまとめられました。)

早逝の夫の分まで長生きし年金貰い子等に恵まる
先夫の遺児と吾と母との三人引受けくれし夫に感謝す
【スザノ福栄会 黒木ふく】

しらじらと明けしばかりに鳴く蝉の力なき声やがてとぎるる
滝さんより苗頂きしケンポ梨茂りて庭によき陰つくりぬ
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

健康とそして天候に恵まれて桜会より柿祭りに行く
活気ある会場の運営羨しみつつ柿祭りにて土産購う
食堂や売店に立つ婦人等に往時の吾身思い出しおり
【セントロ桜会 野村康】

百周年祝う移民の皺深き顔が並べり文協講堂
フラメンゴ踊る人々美しき衣装まといて軽やかに舞う
響ショウ花魁道中美しく息を凝らし見る女形変化
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:福博短歌サークルの方達は流石に作歌に慣れておられますので、良い歌ばかりですね。)

丹念に義歯洗いつつひたすらに生き来し吾の命いとしむ
森林の匂う薬剤を入れし湯に浸りて老いの手足を伸ばす
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:高齢になる程湯船に浸ることが最高ですね。「入れ歯」を「義歯」と言葉を変えました。)

み仏に帰依せし母は子や孫に光る言葉を遺して逝けり
手に汗を握りてぞ視る東西の横綱やぶりし琴欧州を
朝夕は二十四、五度の気温にて老いの起き伏し言うことはなし
【スザノ福栄会 原君子】
(評:三首共良くまとめられ良い作品になりました。)

南瓜煮て吾をもてなしくるる人わが娘のような親しみ覚ゆ
コーラスの写真に並ぶ老妻を何処に居るかと目を凝らす夫
息子より届きし西瓜いつ食べよう今日も見えないお日様の顔
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:三首目は要推敲。一、二首は佳作にまとめられました。)

毎日の私のなすべき仕事とは字を書くよりは他に何もなし
月々に何通もの便り愚痴言わず出してくるるは長男なりき
月毎に私の安全気遣いて子等よりかかる嬉しき電話
【ツッパン寿会 林ヨシエ】
(評:三首共良い仕上りです。親を想う子供さんの気持ちが表現されています。むずかしい言葉など必要ありません。自分の心の動きを分りやすく三十一音にまとめればそれで良いし、記録として遺しておきましょう。)

正直に生きた移民の人達よ百周年祭有難う笠戸丸
父の勇気と母の優しさ伝えたい笠戸丸着く大和魂
笠戸丸サントス港に着いた日よ父たくましく日の丸揚げ
先人の苦労偲びつつ表彰式感謝百年冥福祈る
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:移民百周年祭も盛大に終わり新しい出発ですね。)

テレビ塔の高き所に胸白きつばめ仲良く朝日浴びおり
柔らかき冬陽差しいる公園の木々の一葉も揺るることもなく
満月は中空高く冴え渡り吾等夫婦の影くっきりと
【グァイーラ 金子三郎】
(評:三首共良くまとまっています。三首目の「二人」は「夫婦」としました。)

寝入りばな轟く雷に覚まされて思い出したる空襲の時
空晴れて香りくる梅頬をなず冬はじまりしばかりの朝を
【セントロ桜会 藤田あや子】

杖つきて足のはこびのままならず立ち居ふるまいの緩慢となる
人生は一夢と言いし父の言葉よみがえりくる吾も老いつつ
【セントロ桜会 梅崎嘉明】

群なして枯枝に止まれるウルブーの突如一羽が羽をひろげる
牛蹄花幼木なれど花咲きて紅映ゆる朝陽をうけて
【セントロ桜会 富樫苓子】

晩夏の夕べしきりなきつぐ蝉時雨ふるさと恋しと鳴くがごとくに
渡伯時は先ず健康と白米を食することをば喜びとせり
【セントロ桜会 上田幸音】

日本語を少しなりとも教えんと孫との会話日語を使う
この週が終われば今年も半分が過ぎるを思う窓閉めながら
【セントロ桜会 井本司都子】

アメリカの義姉と再会十年振り夫によく似て肥満型
遠来の客のもてなし板につき三度の食も和洋折衷
【セントロ桜会 大志田良子】

パソコンもケイタイもなき我が暮しさりとて別に不自由もなし
幼き頃父さん子だった私は今も忘れぬ背のぬくもり
【セントロ桜会 板谷幸子】

皇太子のお声を拝聴移民祭に出合いし吾の今日の幸せ
久々に子に伴われ墓参りの紫イペーの花あかりにて
【セントロ桜会 鳥越歌子】

青き実はようやく赤く色づきぬ数鉢並べし万両の実が
スモッグにおおわれ夜空に星一つ見えぬ都会に住みて久しき
【セントロ桜会 上岡寿美子】


川柳


先駆百年尊く移民の子が育ち
農移民行方変えたる道しるべ
いたわりの心に咲いた愛の花
最高を目指し句作の灯をともす
両の眼で見つめ心に句を描く
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

百年樹嵐に耐えて根を張れる
今の世に不思議にお金要らぬ人
主留守猫藤椅子に眠り居て
大それた願ひに神も苦が笑い
生も死も神に委かせて句を案ず
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

転倒して一寸先の闇を知る
ギンナンを食べ認知症追払い
三十回噛んで食れば長寿すと
リハビリの韓国ドラマにほれた日々
此れからは己が可愛いと欲を張り
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

日系のブラジル支える百年祭
共同で社会に尽す日系人
人信じ売った土地代ごまかされ
土地よこせ努力もせずに横どりし
ひかえ目で争い好かぬ日系人
【サントス伯寿会 三上治子】

浮世風避けて通れぬ嶮しさよ
インターネットバアさんうろうろするばかり
孫達が次々現るインターネット
宗教も医者も治せず胸の傷
己が身を殺して生きる世は苛酷
【セントロ桜会 矢野恵美子】

目の前の金山利用も腕次第
公金を上手に使ふも技術あり
仕舞い込み食べない内に腐らせた
催促され腐らせ捨てたと云へずして
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

黄金色神輿担いで青葉祭
百周年舞台に羽ばたく青葉祭
移民祭記念法要厳粛に
笠戸丸百年神戸も移民祭
寿司まつりブラジル人に人気呼び
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

母の日を祝いて呉るる子皆遠く
母の日に親子断絶遠退きて
移住者の運命それぞれハルとナツ
セルラルで時代は過ぎし伝書鳩
愛犬も寿命の伸びて医者通い
【セントロ桜会 森川玲子】

移民皆働き通した百周年
子育ては苦あり楽あり人生路
苦難乗り越え来て今の幸掴む
カラオケで親子楽しむささやかに
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

孫育ち吾が子と同じ癖持ちて
今少し長生きのぞむ移民祭
曾孫抱万歳三唱移民祭
長電話終りて用件思い出し
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

百周年日本文化に花咲かせ
生け花をしかと見つめて自然の美
電子辞書引いた途端に又忘れ
地球病む二酸化炭素の重圧に
農政を貶して百姓鍬を研ぐ
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】





「斧」

大斧の音丁々と
森ふかく木霊となりて
伐りすすむ千とせの大樹
苔青きはだえに励む
大斧の斧くず赤し
怪鳥いて声のするどく
降る木の葉しぐるるに似て
丁々と斧に火花に
幹ふかく斧の進むと
千とせの樹身震いおこる
魔の神の大槌振りて
打ち砕く地軸の音に
千とせの樹今ぞたおるる
百獣はために葬らむ
百鳥はために黙さむ
森遠く地響き消えて
天閉ざす梢ひらきて
蒼空に白雲遊ぶ
【サンパウロ中央老壮会 栢野桂山】


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