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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2008年12月号

2008年12月号 (2008/12/06) 俳句 (選者=栢野桂山)


飢餓のなき世界を願ふ子供の日
春の日の心を呉るる地蔵尊
亀鳴いて竜宮城の児童劇
【杉本良江】

評: アフリカなど世界には飢餓に苦しむ国が少なくない。そういう国の多くを救うことは困難だが、せめて明日を担う子供だけでも救いたいものと、子供の日にその思いをいよいよ強くした。


リモコンの自動車競走子供の日
春窮や一枚だけ買う焼きそば券
レストランのピエロ忙しき子供の日
【寺尾芳子】

評: レストランの給仕が子供の日だというので、子供に人気のあるピエロに扮装して愛嬌を振り撒いて居る。良いところに目をつけた子供の日の俳句。


絨毯にむらさきジャカランダの落花
ジャカランダ並木この身を紫に
ホ句記す事にも疲れ木の葉髪
【伊津野静】

評: ジャカランダの紫の色の満開の並木道を歩いていると、その花の紫に染まったようだと、自身の思いをその花の美しさに負けないように詠んだ。我も春の野に下り立てば紫に立子がある。


精霊菊村道染めて盆近し
初生りの一キロ足らずの梅を干す
子育ての襁褓洗いし春の川
【本広為子】

評: 大勢の子を育てるのに、そのおむつを洗った春の小川。ランバリーが泳ぎ、布袋草の紫の花の咲いたその小川のせせらぎの思い出は懐しいものの一つ。


皇太子迎へ目出度き移民祭
産卵を終へし蓑虫いずこかに
マクンバの焚火の跡の不気味なる
【岡村静子】

評: マクンバは奴隷がアフリカから持込んだ宗教祭と、ブラジルのカボクロが信じる人に呪いをかけたりする邪教や、さまざまな迷信などが混合したもので、よく街の辻などに赤いローソクを立てて物を焚いたりするのを度々見かけるが、なるほど不気味なもの。


祖母縫いしお手玉に似てピッタンガ
十万本の植樹移民の百年祭
山の湖身無し児のごと残る鴨
【香山和栄】

評: 人の寄りつかない山奥の青い湖に居ついて、冬を越すべく鴨が何羽か残っているが、それがまるで身寄りのない身無児のように見えた。


老今も師を持つ倖せ教師の日
美しと思えば潤む春の星
ジャカランダ夢二の少女を佇たせたし
【野村康】

評: 目が大きくて憂いのある表情の少女を描いた竹下夢二。そのような夢二の少女をジャカランダの花の下に立たせて、紫に染った姿を見たい――と思う、夢のある詩人の現実の夢。


春の露孫の忘れし縫いぐるみ
春の雷一つころげて雨降らず
牧手入見て居る癖の悪い牛
【木村都由子】

評: 古くなった牧の柵や鬼アラメを修理し、牛に悪い毒草を取ったりしていると、常に柵を破って外に出る癖の悪い牛が近くで見ている。何か悪企みをしてやろうとしているように。


引潮の道連れとなり桜貝
宝珠なす葡萄に憑いてサニヤツソ
待ちし雨木の芽起しに足らざりし
【菅原岩山】

しっぽりと待ちしお湿り新農年
お湿りに動き出す村新農年
【畠山てるえ】

片手では持てぬ俎蝿生る
喉おくまで見える欠伸や猫長閑
【佐藤孝子】

暁のふくろうの声ほろほろと
池の辺にガルサ訪れ水温む
【森川玲子】

爺と孫仲よき凧上げ仲間なる
新農年万作豊作祈りつつ
【秋元青峯】

田舎道畑と連なる葱坊主
うつくしき落花敷きつぐ並木道
【荘司恵美子】

凧上げの童に道をふさがれて
あれこれと日永楽しき我が余生
【矢野恵美子】

日曜日老の留守居の日永かな
アマリリス真紅に開き日曜日
【遠藤皖子】

守護願う地蔵尊像春日影
新農年五風十雨を願いつつ
【纐纈喜月】

初期移民春のアンデス乗り越えて
書道展に満員の人聖母の日
【軽部孝子】

行く春の赤い夕日に目がうるむ
【山田富子】

満潮にマンゲ枝まで夏の海
バナナ園見事なる房精農家
【大岩和男】

茶摘女のかくれ煙草に向ひ風
短日の揃って割引衣服店
【小野浮雲生】

ひと区切付けて茶摘の腰のばす
この国に我も古りたり風鈴と
【伊藤信重】

風の道選びて揚げる凧高し
悲しみは春立つあした逝きし母
【宇佐見テル子】

水温み炊事洗濯はかどる日
水温み小鳥水浴び羽づくろい
【矢島みどり】

凧の糸切れ大空を舞ひ狂ふ
裏庭の一連隊の葱坊主
【酒屋登喜子】

パライーバ平野青田の波打って
ラベンダーの香に深呼吸風やさし
【名越つぎ代】

燕来る薄雲ごしに声嬉々と
春の猫夜々啼き明し声枯れて
【清水もと子】

辞書片手にひもとく吾に日脚伸ぶ
新調の傘でさすらい春の雨
【藤井梢】

お茶の里茶摘みに励みし人何処
五十年苦楽を共に茶摘して
【疋田みよし】

凧揚げて無限の空に挑む子等
寒の水指に弾けば鯉集う
【風間慧一郎】

冬温く健康体操日々楽し
二千越す風船空に百年祭
【矢萩秀子】

亡き姉と一緒に茶摘子守せし
楽しかりし少女時代の茶摘唄
【玉置四十華】

ホ句仲間久に揃って秋日和
日脚伸ぶ話巧みな人と居て
【中川操】

久方の雨に喜ぶ牧草地
温泉にたゆとう色々なる木の葉
【井出香哉】

雨を待ちかねし苗手に田植かな
一斉に芽吹く雑草雨待ちて
【三上治子】

教師の日バラ一輪に感謝こめ
街路樹の芽吹にやさし春の風
【杉本鶴代】

小さき身をなをも屈めて朝寒し
訪はざりし無縁でありぬ墓洗ふ
【前橋光子】

日本は豊漁と聞く秋刀魚焼く
玄関の花に朝々蜂雀
【青柳房治】

春寒し転ばぬ先に肩貸して
天理教のおやしろ聳ゆ春の空
【青柳ます】

子供より親が懸命凧上げて
青空に大凧小凧競ひ合ふ
【失名】

朝夕べ夏来しジュキア富士拝む
北伯を去る空港のカジューの雨
「友情の橋」越へはるか鳥帰る
牛の骨ちらばる牧の火道切る
百姓のごろ寝極喜雨三月
【栢野桂山】


短歌 (選者=渡辺光)


久しぶり朝日を仰ぎ日誌繰り曇り続きし日を数えみる
蜂雀窓をたたきて覗きおり早く起きよといわんばかりに
柔らかき春の陽浴びんと葉を広げ畑の豆は青き列なす
【セントロ桜会 藤田あや子】

移り来てこの地に三年(みとせ)イペー咲き仰ぎ見つつ行く駅の道を
屋外に小鳥鳴かぬと思いしが補聴器つければさえずりを聴く
老いたれど鏡の前でひとりごち身嗜みする外出のとき
【セントロ桜会 鳥越歌子】

ようやくにシビピルーナの花季おわり庭の掃除が楽になりたり
夜明け前犬の咆え声しきりにて何事ならぬと起き出でて見る
イペーの紫はよし黄は美(は)しきジャカランダーはなお好もしく
【セントロ桜会 上岡寿美子】

鮮やかな黄のベゴンニャとシクラメン並び置きたりサーラの窓に
階段をパッパッと下りて来る若き人らし静かな夕べ
とりどりの色に咲きたるコスモスの花今一度咲かせてみたし
【セントロ桜会 井本司都子】

盆の夜浴衣に帯しめ踊りたる故郷恋し亡母の顔うかぶ
盆の墓所は花にうもれて賑やかに逝きたる人の面影しのぶ
早朝にサビアの声の姦しく早く起きよと呼ぶがにきこゆ
【セントロ桜会 上田幸音】

くぐもれる山鳩の声に起こされてここはシチオかと再び眠る
十月十五日古里伊勢の大祭りあの賑わいも遠き夢かな
窓に見るビルの谷間に夕日が沈む明日の天気を約す夕焼け
【セントロ桜会 板谷幸子】

移民祭イベントあまた賑やかな終わりも近づき今年も暮るるか
大相撲今年最后の九州場所早くも横綱破れる
欲しきものなけれど娘と歩くたのしさくたびれ儲け
【セントロ桜会 大志田良子】

定まらぬ天候なれども陽の照れば冬の陽差しの一日温とし
朝早く日本からの子の電話その日一(ひと)日も胸ぬくくおり
噛む度にプツンと音するジャボチカバ木の上で踏みこと思い出す
【セントロ桜会 富樫苓子】

夏時間となりて一時間早く起き利点ありや職なき吾に
ショルチはき帽子かぶれば少しばかり若く見られて庭を掃除す
双葉山もヒットラーも知らぬ若者の英語の唄は吾に解らず
【梅崎嘉明】

日本の書代表作家サンパウロ展七生報告「潤」も賑わう
水曜シネマ旧制高校野球の会「北辰斜にさすところ」良し
一文字の文学書道の名を上げて日本の書代表サンパウロ展
銀行にテレビがありて椅子も茶もバーラもありて客をもてなす
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:様々な趣味をもち、あらゆるイベントを見て回るのも倖せな事ですね。)

我短歌大雲書の神したためて見事に展示マスピの席に
誉れなる記念の家宝いただいて子孫に残す移民一代
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:精進の甲斐ありといったところですね。)

ご無沙汰のお墓参りを漸くに果して今日は心安らぐ
気まぐれにふと思い付き作りたる料理が案外美味で充ち足る
裏庭のコスモス今が花ざかり風に黄色の波打たせおり
【ミランドポリス 湯朝夏子】
(評:墓参を終えての一安心と料理のレパートリーも増えて楽しそうですね。)

天候の不順を気にせし此の冬を見事に咲きしラッパ水仙
何処より寄り来しものか熊蜂はひとりじめして藤の蜜すう
花卉展を一とめぐりして家族らと花の話題に焼きそば囲む
【スザノ福栄会 原君子】
(評:虫も花も季節のめぐりを知っていますので活動しますね。自然現象とはすごいですね。)

コールテンをポ語にてコテレーと言うなりと教えて呉れし美しき人
友の着るコールテンの上衣見しときに浮かび来し連想の一ツ二ツ
【セントロ桜会 野村康】
(評:人から聞いた話しにも真実性はあるでしょうが、自分で辞書で確かめたら万全ですね。覚える事は良き事です。小生も調べてみます。)

競いあい揉み合いながら遡(のぼ)る鮭チリではこの夏豊漁という
週三日体操教室に通いつつ老いゆく吾をいとしみながら
血圧の上下に一喜一憂し老人会の今日が始まる
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:三首共見事に詠いあげられました。健康に御留意下さい。)

四年に一度の選挙であれど夜半までも宣伝カーの噪音高し
再選と決まり市長選挙終え今朝降る雨に町は静まる
投票を終えし人らか連れだちて小雨の中を急ぐともなし
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:選挙戦となると落着いておれないですね。様々な騒音に悩まされます。)

春風に老いし街路樹芽吹き初めほっと安堵の息をつく吾
アベニーダ・パウリスタ街の薔薇屋敷季節が来れば華やぎており
花咲きて花の散り敷く病院の街路樹下を夫と行く日々
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:季節めぐれば草や樹も一斉に動き始めますね。人も感化されて頑張りましょう。)

出かけよう車椅子にてぼん踊娘等はしゃぎ友と語らふ
小雨降りヘチマの苗は息吹きたり大粒まじりの慈雨に喜ぶ
父の声夫の声をば大切にテープCDにと面影しのぶ
【ピエダーデ 中易照子】
(評:近況を詠んでの佳作ですよ。気負わず素直に詠みましょう。)

夏時間NHKがおそくなり待ちくたびれてゐねむりて
咳込んでのどを痛めて食もなく幾度転び再入院
看護婦に容態をきけばタボンだと荷をまとめひと月戻らず
日本の川は澄みきり魚住む都会の川で養殖までも
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:三首目の結句は言葉順序を変えました。毎日を気をつけましょう。)

夏時間寝不足気味のこの日頃朝昼寝やらを味わいもせり
通貨危機円高ドル安レアル安日本年金増して来たれり
庭隅に妻が作りし畝一つ葱の坊主と韮の花咲く
【グァイーラ 金子三郎】
(評:野菜も時旬の香りがします。楽しい歌です。)

権威ある書の大師範来伯し心易くも皆に話さる
大いなる筆もて揮毫なる師範其の大文字の迫力に触れ
咲ききそう如くに紫君子蘭中にまじりて白のちらほら
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:書の大家ともなれば見る人の心を引きつけますね。)

何時の間に越えて来たるや九十坂生かされていし命尊し
最近は絵を描く事に熱中しひと日の過ぐるもまたたく間にて
この絵こそはと一ツ一ツに心込め過ごす時間の楽しかりけり
【ツッパン寿会 林ヨシエ】
(評:一つの趣味に熱中する事は元気の源ですね。)

カフェ終へスイッチ入れれば日本が日本滞在中錯覚をおぼゆ
バラの香をふくみて風の渡り来る草引く我れの汗ばむはだに
青春のなかりし頃のファゼンダでマモンかじりし友に出合えり
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:ブラジルの多くの家庭でNHKを視聴しており、日本に生活している様ですね。)


川柳


移り来て平和な国に基礎づくり
子や孫が育ちて人生黄昏れる
論争の果に見直す娑婆の風
頂点に立てば意外な事も見え
自己主張過ぎれば風波立つ浮世
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:子を育て孫の世話をし、面倒を見るを生甲斐として来た。これが皆成人し、社会人として巣立った。自分のやるべき事は終ったが、何かわびしさが迫って頼りない様な気分になった。)

新生児清浄無垢な顔をして
きびしさは渡る浮世を右顧左睨
精出せば花爛漫の楽園に
人の欲生殺与奪の徳と悪
平和ならブラジル乱す麻薬犯
【アルジャー親和会 近行博】

書を観賞分ったような顔をして
世の中に頼るは我が身一人なる
落語聞き日頃の憂さを吹きとばし
長生きは生き得などと云うけれど
粗大ゴミ惜しがれいるゴミもあり
【セントロ桜会 矢野恵美子】
(評:丈夫で長生き結構ですねと云れるが、孫や曾孫の事を気遣と直接の責任はないが、先々の事を考えるとのんびりして居られない。おばあちゃんは心配性である。)

演歌より軍歌がなじみ大合唱
金融危機こらえきれずに倒産し
倒産の会社に多き失業者
ちょっとの差初日に横綱土がつき
【サントス伯寿会 三上治子】

政治家の幸七選を果したる
姉の墓参れば俤彷彿と
旬の桃食べおり空手稽古終え
冷込みて雨降る予感外套持ち
独立の記念日歩こう会集う
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

宝塚に夢中でありし若き頃
老の髪軽くなり梳く黄揚の櫛
気がつけば走るは不要老の坂
フィナードをお盆と呼びて四十年
京言葉信じたくなし腹の内
【セントロ桜会 森川玲子】

願ごとせずに合掌地蔵尊
外出着選ぶセンスの余裕持ち
酒友集る心づくしの肴出て
幼な名で呼ばれて嬉し齢忘れ
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

不順なる春の陽気に風邪ひきて
電話鳴り大急ぎして足挫き
羨やましバスの中でも眠る人
闇の中ペダジオだけが浮きたちて
ビンゴ会当り老師が頬笑まる
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

交通整理の車が邪魔なラッシュアワー
三つ揃いのチョッキ忘れて出棺し
女性とし隠し通そうお手の内
今更に誰に見しよとて厚化粧
昔から女は強い角隠し
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

無為徒食して大法螺吹きて生き
正直が取得で大成出来ずなり
丸儲けの余生と云いて火酒を酌み
口先きで足るを知るとは云い乍ら
ポ語知らで自由に暮し移民老い
【余碌出句】


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