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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2009年11月号

2009年11月号 (2009/11/09) 俳句 (選者=栢野桂山)


奥ノロの野の茫々と乾季風
待つ男児誕生天瓜粉を打つ
露草の咲いて踏まるる運命とて
【伊津野静】
(評:この草は月草ともほたる草とも美しい名を得ているが、高さ十五センチほどの何処にでも咲くので人々に踏まれやすい。)

向日葵の畑の迷路で遊ぶ児等
わが日記読み返しつつ年惜しむ
亡き母の顔浮びくる冬銀河
【原口貴美子】
(評:明滅する寒期の銀河を見ていると、何となしに優しかった亡き母の笑顔が浮びあがり、色々なことが想い出される。)

冬霧に包まれし山見る旅に
老ひたれど希望の年を迎えたし
灯篭会暮れ花火待つ人出かな
【小野浮雲生】
(評:賑やかだった灯篭流しがようやく暮れて、更に夜空の花火の華やかさを待つ河辺の人々。)

炎天の街を彩り行く日傘
災害禍のたび胸痛む雨季に入る
合同歌集朗々と読む窓の秋
【彭鄭美智】
(評:句集ならぬ合同歌集を、朗々と美声をあげて読んでいる秋らしい景が、通りすがりの家の窓から見える。)

雨季明けの空の青さよ眩しさよ
湯上りの読書楽しく燈涼し
浜の家椰子の葉ずれのさやさやと
【矢野恵美子】
(評:海水浴に来た浜の家、辺りの椰子の並木の葉ずれがさやさやと聴えて、灯火までも楽しく涼しそうだ!)

初ミサや異人神父の日語聞く
前肢で甘藷掘り食ふて馬肥ゆる
古ミシン音高々と夜なべ更け
【纐纈喜月】
(評:古ミシンが高々と臨終前のように音を立てて、己れの存在を主張していて、貧乏長屋の様子があらわれている。)

野良歩き楽しむ仔犬草虱
紅絵の貝底つく夾竹桃描いて
貝殻の形とりどり避暑土産
【菅原岩山】
(評:まだ生きているさくら貝や巻貝の殻だけの、彩とりどりのものを、楽しかった避暑の土産として持ち帰った、子供思いの良き父親。)

寺の屋根鳩の睦める初景色
初日の出拝み故郷を想ひ出す
手を合す広き大地の初日の出
【宇佐美テル子】
(評:広々として豊かなこの国の大地。この恵まれた処に移り住んで、美しい初日の出を迎えるという、現在に感謝して思わず掌を合せた。)

髪型変へてもみたり更衣
老ひしとて望み大きく去年今年
網戸起しの風に嬰児の熟睡す
【木村都由子】
(評:涼しい網戸を通ってみどりの風が、眠り込んでいる赤ん坊。彼か彼女がさてどんな楽しい夢を見ていることか。)

針持たずなりて久しや冬支度
恩師逝く大いなる星流るる夜
パンの実の太る潮風砲台に
【佐藤孝子】
(評:其処は北方のマラニョンかセアラ州であろう。其の浜を守る砲台があり、荒々しい潮風に吹かれていて、それによってパンの木の実が実ってゆく。)

その中に夏痩せの我木句の座に
抽ん出て白アンツリオ芯長し
【伊津野朝民】

吉兆を初日に祈り移民祭
瑞雲より耀う祝日拝しけり
【名越つぎ代】

夏負けに良しとゴーヤをすすめられ
教へ子に会ひて卒業式楽し
【遠藤皖子】

春の虹みたいな笑顔新総理
農年や案山子の笑顔良き畑
【矢野恵美子】

有難うと素直に生きん冬日和
風船を掴むに苦心檻の猿
【風間慧一郎】

踏まれつつ彩失なわず草の花
銀河濃し聞手語り手一人欲し
【宇佐美テル子】

消へてゆく彩あざやかな春の虹
天の川遠き母国の里恋し
【山田富子】

この国に築きし移民の百年史
着膨れて起居のたびにドッコイショ
【名越つぎ代】

珈琲咲き清き乙女も今媼
神伝流の音無き泳ぎすいすいと
【香山和栄】

子供の日髭のはえたる子となりし
春灯点じしまに留守居かな
【吉崎貞子】

庭に来る小鳥に蒔きてポンの屑
孫三人の入学祝ひ盛大に
【寺部すみ江】

真夜の園冷ゆ散り落つるものも無く
冬夜帰り来て熱き湯に背を流す
【佐藤美恵子】

しみじみと雨の音聴く春の宵
今日もまた大夕立や窓閉す
【井出香哉】

日本移民の百一年のチャリテイショウ
移住百一年感無量とや年賀状
【軽部孝子】

三味尺八に郷愁しばし老移民
兄嫁逝き身に沁む寒き秋の風
【大岩和男】

チラピア釣れ楽しさ子等の夏休
自動車の大渋滞に旅の夏
【玉置四十華】

老いぬれば読書の秋も縁うすれ
秋愁や落葉の音にも振り返り
【秋元青峯】

人を待つ歳時記を手にホ句の秋
アレルイアの黄の窓ふさぎ花たわわ
【森川玲子】

庭一面今花盛り猩々花
実の太り種甘かりしピタンガ
【岡村静子】

成るようになりたる安堵年の暮
パモニアの湯気立ち込めて店盛ん
【伊藤桂花】

花芽上ぐ鉢の主たるシクラメン
親に従き後れじと翔ぶ雀の子
【矢島みどり】

荒牛乗り命惜しまぬペオン祭
幾千キロ飛んで来しとや蝶吹雪
【林田てる女】

秋風や子等が支える前後ろ
たまたまの持病を忘れ敬老会
【前橋光子】

ベランダの寝椅子にしばし外寝かな
三人の餅搗く杵のリズム聴く
【杉本良江】

健やかに祝う元日健やかで
会報をパソコンで打ち始めかな
【杉本鶴代】

「投句者の皆さんへ」
 投句された皆さんは、今月のこの俳句欄に今月投句した句が無い事を不審に思われたかと思います。エッセイの項にお詫びの言葉を載せておりますので、どうか、それを読んで頂きたく存じます。(選者)


短歌 (選者=渡辺光)


戦時中日語学校閉鎖さる夜学の教え子日本語堪能
いつの日か北海道の観光を念願かない最後の訪日
永らえて聞く終戦の戦悲話知らずに逝きし数多の同邦
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:苦労して身につけたものは何事も生涯忘れないものですね。自作の詩歌も折々の記録として残したいものです。)

卒業式に「巣立ちの歌」を歌うと言う「仰げば尊し」はすたれしものか
不況など何処吹く風と週末を賑わい見せるカラオケ大会
朝市に色よきポンカン出回りて主婦等が曳きゆくカヒンニョ満たす
【サンパウロ中央老壮会 野村康】
(評:時代の変遷と共にすべて変って行きますが、寂しい事ですね。)

久々にオランダ村を訪えば見違うばかり整いており
道跨ぎオランダ村に門が出来エスポジソンの会場広し
オランダ村の展示会場人、人、人でゆっくり観れず
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:三首目を若干変化させました。広々とした光景が目に見えるようです。)

酒呑めば囲炉裏の前に胡坐組む祖父が注ぎくれし白酒恋ほし
デコポンを剥きつつ夫を思い出す去年は甘いと食べしものを
電線にアンテナに止まり鳴き交わす町のベンチビーは春を呼びおり
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:追憶の詩ですね。事毎に想い出されて良い詩歌になっていきます。)

彼岸会の行事も疎き今の世に季をたがえずに彼岸花咲く
幾月も気にせし事が解決し雨は降りなれど心晴れたり
【スザノ福栄会 原君子】
(評:晴れ晴れとした良い作品となりました。)

共稼ぎの腰をかたみに伸ばしつつもう歳だなと笑い合いたり
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:前号に掲載した歌二首は省きました。)

野辺送り終えて帰りし夕べにて心に沁みるミサの鐘聴く
年金を貰いたる日の豊かさに夫と昼餉の寿司を購う
はかどらぬ歩みの夫を見守りつつ百周年の吊橋渡る
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:三首共落ちついた良い作品に仕上っています。)

嬉しきは母百歳になる誕生日に親娘いそいそ祝いに出発
前向きに日々を楽しく母教え良きを覚えて悪しきを忘れと
幼き日母の背を見て育ちし吾いくら孝行しても足らぬ想いす
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:母親の長寿にあやかり度いと子供は思うもの、そして、孝行を日頃実践されている様が伺えます。)

十人の兄とし生まれ若きより苦労重ねて過ごし長男
長男は苦労せしこと一言の愚痴もこぼさぬ息子でありぬ
借金のある中家業を受け継ぎて息の成功を褒めてやりたし
【ツッパン寿会 林ヨシエ】
(評:三首共添削しましたが、身近な素材に視点を当てて詠んでおく事は、ご自身の歴史となります。続けましょう。)

目をつむり手を突き出して歩きおり主存りし時の気持ちになりて
見るたびに高さが伸びるイペーの樹孫の生長と重ねておりぬ
芽を出したコップの中の萩の枝母が愛でし想い出の花
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】
(評:ご自身の視力の衰えは年齢故でしょう。誰にでもあることで致し方ない事ですが、反面、孫さんの生長がよりたのしい事ですね。)

車椅子で甘え過ぎての見物に疲れも見せず優しき笑顔
孫たちは大事な宝嫁いでも元気でいてねと曾孫の声す
天災は避けてと願い逃げもする余りに残酷な映像に涙す
【ピエダーデ 中易照子】
(評:三首共うまくまとめられました。)

紫の藤咲く庭に佇めば思いいづるや古里の春
孫の医者頭を視ますと脳の検査遊んで笑って今日は休日
ミラクラルピカピカ変わる文字追いて慌てる私に山笑う
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:二首目若干言葉を変えています。三首目の「山笑う」は俳句用語で短歌には余り見かけません。何とはなしにユーモアがあります。)

苗させばぽとりと落つる露の玉ふと思い出す雨垂れの歌
イッペーのただ一輪の残り花さながら我の心にも似て
【ナザレー老壮会 波多野敬子】
(評:三首共添削してみました。原作と比較してみて下さい。色々と言葉を変えて詠んでみると良いですよ。)

口先では良いことばかりの選挙戦陰で汚職の天国となる
長寿界あとから来たのが先に行き心細きが世の定めかな
ちょっとした心使いが嬉しくて愛情通わす人と人なり
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:身近な素材で視点良好。再度読み返しながら言葉を変えてみるとまた良い作品となります。)

待ちわびし村おこしなる運動会降雨によりてミニ運動会となる
冴え渡る独立記念日の目出たき日昨日変わる今日の晴天
【サントアマーロ青空会 竹内千賀子】
(評:たのしいイベントも天候には勝てませんね。ミニ運動会でも楽しい想い出。)

数多き幾種のバラのその中に棘無し一株見つけ挿し木に
雨降らぬ限りは毎朝四十分を手を大きく振りてウォーキングをす
地に降りて一羽のサビアは鳴きもせでつつじの植込みくぐり行き来す
【中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:二首目の言葉を少し変えています、何れも良くまとめられて情景鮮明です。)

イペー咲き散り果つるまで一週間わが家の花も命短かし
生きている未だ生きている寒き朝つぶやき起きる八十八歳
【セントロ桜会 藤田あや子】

ユニークな建築現場飽きもせずひねもす見ており吾は閑人
両親が居なくて何が里帰り遠いあの頃がただ懐しく
【セントロ桜会 板谷幸子】

紫の花が終われば黄の花が季はめぐりて街を彩る
四階の窓ゆ見おろす大通り車の行き来夜昼となく
【セントロ桜会 上岡寿美子】

藤つるの枯し如きが芽吹きおり春の来たるを思い出させり
窓くれば残月淡き夜明空全伯歌会の支度をいそぐ
【セントロ桜会 鳥越歌子】

朝市に並べられたるアルカショフラ好物と言いし西田さん想う
雨の日の続くあい間に明るめば早も鳴き交うヴェンテビーの群
【セントロ桜会 富樫苓子】

やりなおしきかぬ齢となり屋根漏りの修理もなせず業者にたのむ
温暖化とかく云うともこの年はよく雨の降り寒き日つづく
【セントロ桜会 梅崎嘉明】

窓に寄り外眺むればゆるやかな坂下りくる車の列は
家中にこもりておれば降る雨も気付かずにおり九月末日
【セントロ桜会 井本司都子】

夕立に鉢の花々よみがえる蝶が舞うごと葉をふるわせて
「どっこいしょ」と腰をおろすは吾のくせ老いたる父の仕草そのまま
【セントロ桜会 上田幸音】

眠れぬ夜過ぎにし昔を思い出す逝きたる姉の面影うかぶ
アパートのせまきサーラに一鉢の誇らかに咲きいる鈴なりの蘭
【セントロ桜会 大志田良子】

(寸評:板谷さんの一首目「日なが」は「ひねもす」に。上岡さんの一首目「とき」は「季(とき)」とした方が分りやすいようです。鳥越さんの一首目「芽をいだし」は「芽吹きおり」としました。富樫さんの一首目は、句またがりでも判りンいくいので言葉を入れ替えて分りやすくしました。それぞれの作品が身近な素材のため、作者の生活がリアルに表現されています。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


移り来て未来の夢を描く汗
アルバムの一点昔がよみがえり
人生の花を夢見た日の努力
両親の選んだ墳墓の地で育ち
親の夢受け継ぐ子等が流す汗
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:開拓移民とその子孫の生態が的確に表現された一連です。)

政策を貶なして野党の議員なみ
探し物ばかりし孫に嗤われる
蛇皮線で沖縄民謡ふかみ増し
詩舞を見て心のはずみ覚えたり
紙一重事故を逃れて慄然と
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:往々にして奇跡は起るものと知った瞬間の心境が巧く表現されました。全句、良く纏まっています。)

人を詠む川柳心に泉湧く
まだ夢を追ってのぼる八十路坂
逆境を貫き今の幸があり
税金は要らぬ笑顔で和を作り
【アルジャー親和会 近行博】
(評:笑う門には福来たる。大いに笑って人生を楽しく生きたいものですね。一句と二句を少し添削しました。原句と比べて参考になさって下さい。)

番犬に負けぬ人相悪い主
血統書付きの番犬寝てばかり
尾を丸めチビに負けたかでかい犬
負け犬に錦衣帰郷のチャンスなし
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】
(評:「犬」と題した一連よく纏まっています。)

年取れば身体のひずみ自慢だね
シュラスコに定着するにぎりめし
日系も同化進む太鼓腹
念仏のまなこに映る親の顔
【インダイアツーバ親和会 早川正満】
(評:四句目、少し言葉を入れ替えました。ご参考になさって下さい。)

金動く五輪に世界の目が光る
伯国の汚職欧米案じ出し
五輪の地獲得ルーラの嬉し泣き
【サンパウロ中央老壮会 野村康】
(評:二〇一六年の世界オリンピックまでに、ブラジルの社会情勢の改正を望みたいものですね。)

勇壮な記念パレード独立祭
大阪と姉妹都市なり大鳥居
アマゾンの八十周年期待かけ
アルパッカの毛布が温いクスコ宿
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:良く纏まっています。次回も頑張って下さい。)

風邪ぐすり姑は頑固にアスピリン
孫八才はや反抗期口尖る
一病息災老夫婦に違う夢
終戦忌祖国にとどけ鎮魂歌
【セントロ桜会 森川玲子】
(評:終戦忌に当たっての心境が巧く表現されました。一句目と三句目、言葉を少し入れ替えて分かり易くしました。原句と比べてご参考になさって下さい。)

子供の日玩具もらって恵比須顔
子供の日赤いネクタイかけて行く
子供の日公園いずこも家族連れ
【セントロ桜会 中山実】
(評:子供の日の一連、良く纏まっています。三句目、若干添削しました。)

コチア青年奥様ほめられうらやまし
貧乏籤引いたがお陰でまだ元気
八十路心だけはまだ六十路
【西原大平楽】
(評:言葉を入れ替えて分かり易くしました。原句と比べてご参考になさって下さい。)

人の噂七十五日と言うけれど
人は人わたしはわたし一すじに
腹立ちを川柳にたくす老いのグチ
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:若干添削しました。ご参考になさって下さい。)





「息子から」

息子からの電話
 空かけて来た、良い報せ
喜びに弾んだ声
 母ちゃん、元気か?
 もう日本人並みだよ
 正社員だよ
 退職金も貰えれば
 ボーナスも貰える
 それも一年に二回だよ

 おめでとう
 よく頑張ったね
 これからもしっかりやりなさい

すこやかに
母の願い
【ナザレ老壮会 波多野敬子】


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