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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2010年9月号

2010年9月号 (2010/09/12) 俳句 (選者=栢野桂山)


山の湖染めて荘厳寒夕焼
叱られて蔭で泣く子や寒椿
濡れ野良着脱ぐももどかし卵酒
【野村康】
(評:筆者もよく珈琲園の雨に濡れて、卵酒ならぬ火酒を一気に飲み干したものだが、それを想い出だせた句。)

仕舞場に手足のびのび冬の宵
ビンゴにて当てし布団に暖まる
九十三才弱音吐くまじ冬仕度
【風間慧一郎】
(評:作者は筆者より一才上の九十三才。だが弱音を吐くまい――と、その強気の次勢を崩さない、とは心強い。)

庭石の温みに動く凍てし蝶
冬暖し子豚子山羊もよく育ち
頬っぺたに日の丸画きし子ジュニナ祭
【木村都由子】
(評:少年少女なりに知恵をしぼって、ジュニナ祭に集るが、その一人は日系を誇りにして、頬っぺたに日の丸を描いて現われた。)

手入れよき庭帰り咲くもの多し
恋人の日も子育てと看病に
祖父の代よりのコロノや神の旗
【佐藤孝子】
(評:祖父の代からのコロノだったバイアーノ。別に金持ちになる意欲もなく、ファゼンダの大事にするまま、三代も居据っていて、のんきに神の旗を掲げている。)

三寒や臍丸出しの布袋像
風紋の漣(さざなみ)に似て浜小春
太陽の帽のハンカチめく落葉
【菅原岩山】
(評:太陽の帽という木の葉とその落葉は、その名の通りに大きく「落したるハンカチ」のようだ――とは誠に適切。)

ほろほろと梟鳴く夜は母恋し
土手にある巣穴守りて昼のずく
紫紺映へ街路に垂るるねずみもち
【畠山てるえ】
(評:筆者の行く朝市の街路に、街路樹にこのねずみもちの花が咲いていて、落花と共に街路を明るくしているのを思い浮べた。)

早や日暮れ釣瓶落しという秋日
萎へ果てし手足投げだし日向ぼこ
移民の日こぞり先駆者偲び合ひ
【大岩和男】
(評:作者の住むレジストロには、数々の先駆移民の苦闘史があった。移民の日には先ずそれを偲び、感謝の祈りを捧げる村人。)

一世紀生きぬき媼爽やかに
バス窓に続く山並み夕焼けて
猫逝きて鼡の天下移民寺
【疋田みよし】
(評:寺で久しく飼っていた老猫が死んだ。それを待っていたのか鼡族が天井で大騒ぎ。老いた移民僧は毎夜眠られない。)

山襞に隠れ沼あり残る鴨
豚の耳大好きな孫フェジョアーダ
チャップリンそこのけの孫ジュニナ祭
【香山和栄】
(評:名喜劇俳優チャップリンそこのけの孫?その仕種は解らないが、大いにジュニナ祭を沸かせたのだろう。)

いぶり炭根っ子らしさを撮み出す
元気なる桜祭りの鯉のぼり
【寺尾芳子】

戦時中藷で育ちて骨太く
水涸るる出穂の稲田にもらい水
【青柳ます】

谷深き旧街道やグアラー啼く
布団干す夏めく日和に急かされて
【本広為子】

三寒四温上着の出入れ忙がしく
窓ガラス夜露流るる冬の朝
【玉置四十華】

街灯に濃霧流るる煙とも
雨を待ちみな出番待つ種袋
【三上治子】

教会の塔より帰燕湧く如し
移民の日偲び埠頭の碑に供花
【清水もと子】

恋人を連れて孫来る寿司祭
冬晴るる庭に椅子出し読書かな
【小野浮雲生】

部屋の窓月明りして夜鳥鳴く
大空を金色に染め寒夕焼
【山田富子】

掘り起したる大榾と兄を撮る
ケントンをねだる三つ児に砂糖湯を
【野村康】

田舎道のバールに高き炭袋
日本種とて甘きこと寒苺
【青柳房治】

寒波来て炬燵恋しき夜となる
楽になるリハビリ帰り日脚伸ぶ
【杉本鶴代】

裸の子部屋かけ廻りまた転ぶ
咲き盛る出湯の町の黄金藤
【岡村静子】

小春日の慈善バザーの盛大に
老ひたれど寿司巻く手付見事なる
【矢島みどり】

冬支度和服パサリと服に裁つ
着ぶくれの七十路の身も夢多く
【多川富貴子】

亡くなりし霊の法要原爆忌
ふくろうの明けの鳴声可愛らし
【軽部孝子】

慰霊碑の裾紅く染め寒椿
白菜の四つ切り一つ買ふ老女
【森川玲子】

句の道に学ぶ幸せ冬ぬくし
一人身の気楽な余生梟鳴く
【吉崎貞子】

茹ミイリョ広場一杯香り立つ
店頭に色美くしく秋茄子
【彭鄭美智】

心までほかほか温し卵酒
ふくろうの目の光り居り森の闇
【矢野恵美子】

一人居の寂しさまぎらす玉子酒
梟の鳴いてかけ出す使いの子
【原口貴美子】

テラスより寒夕焼見て故郷恋ふ
手を広げ人招くごと木靴蘭
【遠藤皖子】

潔ぎよき葉一枚無き大冬木
緩急に息づきつつも滝涸るる
忰じかみて誤字多きわが文なげく
日雇ひ等廻す仁義の新ピンガ
片笑くぼまで母に似てポンチョの娘
凍星のかたまる牧に住み古りぬ
雑炊に箸賑はしき大家族
梟啼く森に囲まれ移民墓地
妻に似てきし娘の手つき味噌を搗く
重ね着の牛見櫓の老牧夫
【栢野桂山】


短歌 (選者=梅崎嘉明)


草の葉が優しき音する橋かげに足濡らしつつ君を待つ午後
ふたたびは触れまじき言葉と思いつつ夜は静かな眠りを欲りぬ
安楽死願う老いらが菩提寺に恵みの札を争いて買う
【スザノ福栄会 青柳房治】

研修に日本に出で行く子供等を見送る人等で賑わう空港
ぢぢばばの生まれし国をよく見よと日本へ研修の孫を見送る
味競う日本祭りの食堂は座る場所なきまでに賑わう
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

朝ごとに小さき庭の草花に声をかけつつ蕾かぞうる
萩の苗ひと本咲けり在りし日の温泉旅行の友ら浮かび来
ご主人と「また会えたね」と朝あさにことばを交わす婦人を見舞う
【スザノ福栄会 青柳ます】

ポ語出来ぬ吾にも解るサッカーを孫と肩寄せTVに見入る
捨てられし子猫は運の良かりしとミルクをあたう子に拾われて
ファベラの住居の如く枯枝の屑をまとえりみの虫の巣は
【スザノ福栄会 原君子】

W杯に日本が一点入れしとき老人クラブで歓声あがる
ブラジルの選手は二点先取りをせしかど油断のありて破れる
移住祭のミサに加わりて父母と夫を偲びて香をたきおり
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

お手伝いの作りてくれしブラジル食不足はあれど黙して食ぶる
たまたまに煮染めほしくて足腰のいたみにたえて厨に立てり
【セントロ桜会 鳥越歌子】

寒き朝風に吹かれて試歩に出ず昨夜の夢のつづき思いて
裸木のパイネーラの枝に巣がいくつジョン・デ・バーロは大家族なり
【セントロ桜会 上岡寿美子】

歴史ある故郷の寺の大木が松食い虫に倒れしと聞く
松の下に遊びしわれらの思出をかかえて老木の生命たえしか
【セントロ桜会 板谷幸子】

窓近くイッペ咲きたり絵にせんか短歌に詠まんか眺めて暮るる
花見るは心なごめり枝伸ばし屋根をおおいてイッペの紫紺
【セントロ桜会 藤田あや子】

寅年の暦を見つつ思いおり寅年なりしひとりの姉を
この年は赤きも白もいっせいに咲きてわが家の五月はなやぐ
【セントロ桜会 井本司都子】

呆けるとは思いのままになすことか亡母は夜半に米をとぎいし
叢におかれし廃車あまたあり使えぬものの雨に打たれて
【セントロ桜会 上田幸音】

あっけなくブラジルチームは敗れたりワールドカップのこの味気なさ
公園のマナカ・ダ・セーラの満開にあいて散歩の足をとどめる
【セントロ桜会 富樫苓子】

郷土食わが県こそと味を売る方言まじえて客よせの声
日本祭、日本酒の前は人だかりブラジル人も興味もて寄る
【セントロ桜会 大志田良子】

視野せまく視力の弱き吾なれど杖はわが目よ有難きかな
杖を手に歩めば嬉し人の世の人の情けの身にしみるなり
南より寒波の来るとのニュースありタンスにしまいしジャケツとり出す
【プ・アルボレ老壮会 矢島みどり】

あでやかに今を盛りと咲きつづく隣の庭をふとのぞき見る
早朝の通勤バスは満員で高齢者席のあきいるうれし
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:高齢者の短歌はよくとらえているが、保留の作品「晩年も君はいづこに」と表現すれば君はどこかに生きているようにもとれるが、「四十九日忌」とあるので既に亡くなってる。こういう所をよく工夫されたい。)

お盆をと言えば八月十五日かさねて終戦記念日を思う
五月ともなれば大空に舞う鯉のぼり瞼にうかべ日本を思う
【ツッパン 林ヨシエ】

戦後早や六十五年を過ぎた今シベリヤ帰りにたびし一時金
門松を立つなき国に七十五年アルボでナタールは移民の門松
足悪き妻はフェイラに手車を押しつつ歩む吾もつき添う
【ツッパン 上村秀雄】
(評:お手紙では我流で作っておりますとありますが、やはり自分の好きな歌人の作品を手本にその人の傾向をしっかりつかんで下さい。)

住みし人のいまはあらなく廃屋に競いて咲けるコスモスの花
紺碧の空にあざやかに咲き盛るポインセチアの花仰ぎ見る
【サント・アンドレ白寿会 平田里子】
(評:「住む人も見る人も」などと重ねると作品が軽くなるので少し変えてみました。参考にまで。)

「さわやか」と曾孫が名つけしこのスープパパが来たら食べさせようね
ひび入りし足はリハビリのお蔭にて徐々に歩けるこの二、三日
【ピエダーデ 中易照子】
(評:自分の思ったことを中心に、その思いをよく読者に伝わるように工夫なさって下さい。)

夢多くかけごと好きな男たち暴力団のわなにかかれり
負けたれど勢いっぱいに戦いし日本のサッカーは賞讃すべし
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:時事詠もよろしいが、文学は人間の喜怒哀楽であることもお忘れなく。)

金木犀の甘き香りの流れくる畑に野菜の苗を移せり
日曜は教会に行き荒るる世の平和来れと唯々祈る
【ナザレ老壮会 波多野敬子】
(評:初心者のようですが、掲載作品のようにまとめて下さい。分からない文字がありました。丁寧に書いて下さるように。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


日本まつり人それぞれに安否知り
食減のお達し胃病を更に辛くする
悪歩道履物ばかりに目が肥える
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】
(評:「あんなヒールでよく歩けるわね」「あんな靴が歩きよさそうだわ」。―歩きながら、思わず履物に目がはしる。)

花よりもダンゴと屋台に走る客
父の日は嚊天下も一歩退き
一陣の風にワルツを舞う桜
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:風に舞う桜を「ワルツの舞」と見る作者の感動が、一陣の風と共に見事に表現された。)

他人(ひと)の呆け笑って明日は我が身なり
久しぶり声かけられて誰だっけ
孫の代お産は切って閉めるだけ
【セントロ桜会 矢野恵美子】
(評:「目から水瓜(すいか)が飛びだす」と言われる程のエネルギーを強いられた自然分娩の苦しみは新世代には通じない。)

背のびして一寸ぜいたく牛丼屋
核廃絶オバマ頑張れ見ているよ
席題に句座一せいに息つめる
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:思わぬ傑作が出るのもこの時。そしてユーモラスな句に笑い合う楽しいひと時である。)

ドラ息子父の日だけはスキヤキ会
父の日は犬より先に飯食わす
父の日はホーキハタキも影ひそめ
【サンパウロ中央老壮会 しんかわ】
(評:「粗大ゴミ」への当てつけでしょうか。スキヤキ会をしてくれるご子息の思い遣りにも目を向けて下さい。)

六十五年命が語り出す被爆
被爆地へ国連総長馳せ参じ
平和への誓い新たに原爆忌
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:原爆忌の一連、よく纏まっています。核廃絶への叫びが聞こえてくるようです。)

春風邪にしっかり食べよと言いし母
こじんまりそこが我が家と子猫部屋
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:「こじんまり」にあなたの心豊かな暮らしが見えてきます。)

がむしゃらに頑張り抜いて移民の日
地蔵さまご利益ありそでなさそうで
【サンパウロ中央老壮会 新井千里】
(評:良いことがあったら、お地蔵さまのご利益だったと思うことにしましょう。)

お花見によくぞこれだけ人集め
六十の手習い川柳始めます
【サンパウロ中央老壮会 鈴木文子】
(評:人生は生涯学習です。頑張ってください。)

老いてなお女ですもの紅をひく
屋上で笑えば山も笑いかけ
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:あなたの微笑みに、山もやさしく微笑みを返す。)

桜祭り同期の桜思い出す
ハルとナツ誰にもあった移民悲話
【セントロ桜会 中山実】
(評:戦前移民の多くが辿った道程でした。)

同じ量飲んで酔う人酔わぬ人
憂きことは忘れて庭の草むしる
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:土と草の匂いが憂さを晴らしてくれます。)

大義名分だけで生きれぬ人の道
麻薬犯極楽郷を闇にする
【アルジャー親和会 近行博】
(評:麻薬犯罪で治安は益々悪化するばかり。)

俳句に川柳あって人生楽しけり
おしゃべりは場所と内容わきまえて
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:そうした思い遣りが人徳を豊かにするのです。)

土地愛す農民食に困らない
植えもせず土地なしが振る赤い旗
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:土地政策に問題がありそうですね。)

席題「春」 鈴木文子 出題

 春が来てお出かけ増えるおばあちゃん
 禿頭に憎い春風帽子盗る【清子】
 八十路にもまだ吹く春の温い風
 春風邪も飛ばす川柳の温かさ【恵美子】
 失恋も青春ドラマの一ページ
 春来たりわたしも大きく背伸びする【文子】
 春が来る蟻もそろそろお出ましか
 ブラジルの春を朝市教えくれ【笑】
 今にしてわたしの春を省り見る
 春訪日見事な桜迎えくれ【玲子】
 春一番老いらくの恋芽生えそう【富子】
 春来れば花の女王ランが咲く【実】
 春風邪を祭り太鼓で吹き飛ばす【孝子】
 春なのにふところ寒くピンガ飲む
 はるばると春には行くと孫便り【しんかわ】


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