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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2011年6月号

2011年6月号 (2011/06/10) 俳句 (選者=栢野桂山)


鉄砲百合活けて住職御縁日
さそり這ふと鳥肌たて夫を呼ぶ
夏料理宮城名物烏賊(いか)ぽっぽ
手料理しつ母しのばるる菊なます
【野村康】
(評:菊の花を入れたのが「菊枕」。その花を茹でて、甘酢に漬けたのが、「菊なます」。それを上手によく作った亡き母を偲びつつ菊なますを作るその娘たち――。)

目路遥か対向車見ず春の旅
吊りズボンの草笛うまき美少年
草笛を吹く切なさを君知るや
草笛や父は亡くとも明るき子
【猪野ミツエ】
(評:これは草笛の句。この子は幼き頃父を亡くしたが、その切なさを友にも見せず、明るく草笛を吹いて淋しさを見せない健気な子。)

滝風に声をとられつつ案内人
谷に落つ白糸を引く如小滝
(評:日本に「白糸の滝」という名の知られた滝があるが、広大なこの国にもそれに良く似た滝があるとは――。一度拝見したいもの。)

大夕焼に心はずませ明日を待つ
コロニアの隆盛汗のたまものと
茶摘み娘を追ひたてし母今墓碑に
【藤井梢】
(評:茶摘みが盛んだった頃、大勢来てもらって居たどんな摘手娘にも負けず、その娘等を追い立てるように茶摘みをした亡き母を偲びつつ、その墓碑を拝んだ――。)

野も山も緑したたる夏に入る
大夕立過ぎて湯気立つアスファルト
冬着きてサンタクロース暑からむ
【杉本鶴代】
(評:クリスマスの前夜、靴下につめた贈り物を、子等にくれるサンタクロース。厚い赤い服を着ているので、さぞ暑かろうと子等の心になって心配する作者。)

奥地行きの白靴汚れ医療班
ゴムの木の実のたわわなる島に棲み
銃眼ある豪邸の庭パン実る
【木村都由子】
(評:銃眼のある豪邸と言えば、政敵の多かった昔の大物政治家の邸だったのであろうが、その庭にパンの木の実がたわわに下っていて、風に揺れている景。)

桑の実を食べ紫に手も足も
新茶もらい棚の中まで佳き香り
天候不順首出す筍時期外れ
【玉置四十華】
(評:夏になっても寒く、藪の筍が頭を見せないので諦めていたら、秋口になってやっと生えてきた。これも天候不順のせいと天を見上げる。)

家守りて女性のかがみ潔子の忌
夕ミサの讃美歌暮鐘草と聴く
水玉の模様涼しき妊婦服
【松崎きそ子】

望まれて街に嫁ぐ娘桃の花
ようやくに曾孫に女児や桃咲いて
蜂一匹入れてにせ蜂蜜を売る
【佐藤孝子】

通い婢やほのと頬染め花ベイジョ
ブラジルに俳句の世界秋高し
キャベツ畑裾ぬらしつつ露ちらす
【吉崎貞子】

里帰りかさばる土産チョコ卵
ふるさとに黙とう捧げ渡り鳥
同じ樹に赤と白咲きクワレズマ
雄鳥のとさかの色の鳳仙花
【森川玲子】

久々の夏日讃々気も晴れて
若者等背中丸出し夏来たる
【矢島みどり】

収穫の近し向日葵首重く
黄金のひまわり競ひ咲く耕地
【清水もと子】

夜濯ぎの我を見下すお月様
油虫のひげ左右戸の隙間
【矢野恵美子】

国境にかかりたる虹雄大な
大き葉を押し上げ咲ける君子蘭
【遠藤皖子】

入賞に輝く百合の花友へ
姫百合の咲きてお盆の近づきし
【青柳ます】

花ユッカ白き砂丘に青き海
婆さんと二人も良しや晦日そば
【青柳房治】

移民期に幼児背にして夜濯ぎす
油草野道に背丈草いきれ
【秋元青峯】

干物に主婦狼狽す夏の雨
実感のなきまま過ぎる夏時間
【大岩和男】

廃校となりても素心花咲き次いで
チロチロ鳥親にはやされ巣立ちたり
【寺尾芳子】

それぞれの想ひを胸に灯篭会
生きのびて今日も初蝉聞き得たり
【小野浮雲生】

新らしきスーパー開店燕舞ふ
初蝉の声昨年と変らざる
【疋田みよし】

八重さくら仄かな気品潔子の忌
山畑に鹿出て騒ぐ風の子等
【本広為子】

秋うらら海辺の披露宴華麗
母恋しカーネーションかざり偲ぶ我
【山田富子】

車止めのばす手足にパイナ吹く
菜洗いの水植木用減水期
庭に来る羽美しき冬の鳥
【畠山てるえ】

新涼や地蔵の頭巾斜にたれ
秋蛍もみじのような手に燈し
叙情歌のコーラス楽し今朝の秋
【香山和栄】

春耕の心はずめば土躍り
一児背に一児の手引き雨を乞ふ
耳寄せて芽木の鼓動をしかと聴く
香水の香を置き画廊去る女
ランバリー驚きやすき命群れ
初恋の想ひのたけを草笛に
あめんぼう水面に映る雲に乗り
ジュート洗ふ大アマゾンの水温む
色変り音かわりたる出水滝
【栢野桂山】


短歌 (選者=梅崎嘉明)


さくら鯛・名古屋コーチン・きし麺と庶民の味が次々と出る
ブラジルで年金暮しの身となりて夢のようなる日本旅行
【スザノ福栄会 青柳房治】

母の日は息子に連れられ母の家へひさしぶりにて兄弟揃う
母の日は皆で持ち寄りさまざまな馳走が並ぶ所狭しと
足痛の夫と二人でテレビ見る運動会も行けぬ齢となりて
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

移住して二十七年ぶりの訪日にアルバムくれば父母の亡し
これからはブラジルの国が良くなるとポツリと言いし父の浮かぶ夜
日本の地震津波も知らずして逝きたる恩師は幸福なりし
【スザノ福栄会 青柳ます】

大輪の朝顔咲きしと種分けし友よりの電話の弾みたる声
日本の治安評価もさがりつつ各所に目立つ防犯カメラ
健康は「サウデ」とポ語で知りてより娘の住む地区に親しみ覚ゆ
【スザノ福栄会 原君子】

悪夢見る思いに日本の大津波身を固くしてテレビを凝視す
いまやっとこの地に住める幸せを享受しており震災なくて
死者思い生活を思い大津波に合いし人等のかなしみ思う
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

難聴の歌友と眼の薄き吾ちぐはぐ会話にも心は通う
歌会の日は学生の気分にて友とつれだち会場に急ぐ
【セントロ桜会 上田幸音】

日本の大地震に息をのむ思いは馳せる息子らの上に
福島の原発の事故遠縁にあたる人らに心はいたむ
【セントロ桜会 富樫苓子】

二時間を車に揺られ着きたるは緑すがしき藤田さんのシャカラ
久々に緑すがしきシャカラに空は青天もろ手をあぐる
【セントロ桜会 井本司都子】

おし寄せる津波に人命うばわれて天災のこわさにおののきており
大震災に津波は人家をひと呑みに瓦礫と化してあと形もなし
【セントロ桜会 鳥越歌子】

近づきし母の日を言い名古屋から「中身はないしょ」と娘の電話
早朝に渡辺さんが逝きたると知らせを受けて茫然と佇つ
【セントロ桜会 大志田良子】

ゴヤス州のピレノポリスに湧く水はアマゾン大河に流れつくとか
ブラジルで育ちし吾は年毎に日本の桜をテレビにて見る
【セントロ桜会 上岡寿美子】

あれこれと思うばかりでこの身体ついてはゆかずはがゆき毎日
ジャカランダの緑のかたえパイネーラの桃色の花見ごと咲きおり
【セントロ桜会 板谷幸子】

連日のテレビニュースは原発の修復事業をくり返し告ぐ
震災に家族なくせし老人の失望の姿に心痛みぬ
八十七歳の姑すこやかに娘や孫等に誕生日祝わる
【プ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:少し手を加えましたが、核心はよくつかまれています。)

原発と共存共栄の生活が巨大地震でもろく崩るる
被災せし痛恨の地に春の来て家なき跡に黄水仙咲く
つつがなき今日の幸せ感謝しつつ夫と朝のスポーツ場へ行く
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:第二首、「家なき跡に黄水仙咲く」。この自然観察、この発見が短歌を不動なものにしています。)

友は逝き空家となりて早や二年主なき庭にツバキ咲きおり
あたたかく世界の移民受け入れて偏見もあらず平和なブラジル
廃線の駅舎に高々と宣伝の赤旗ゆれる選挙終れど
【ツッパン 上村秀雄】
(評:第一首、「友逝きて」とした出発。それでもいいのですが、「友は逝き」とした方が短歌の流れがよくなります。そういうこまかいことも解る頃だと思って記しました。)

七十の手習いの短歌はなかなかにまとまらずして日日苦慮する
満開の蜜柑の花に蜜蜂の数多群れつつ蜜あさりおり
亡き父が酒飲めばすぐにうたいしがいまは己れが口ぐさみおり
【ツッパン 堤博志】
(評:第二首目佳作、第三首目、亡き父は何の唄をうたったか、それを折りこむと更によくなる。)

朝まだきルーアに死せる鳩一羽めざとくウルブーが舞い降りてくる
餌に寄り追いつ道われつウルブー等は争いておりしばし見て佇つ 
運動会の準備手伝う人々は朝早くより笑顔で集う
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:ウルブーの短歌のように、何でもないちょっとしたことをとらえて一首にする手法が身についたようです。それを読んで読者はその情景に感動するのです。)

震災にあいて苦難に耐えている人々の姿テレビは映す
【セントロ桜会 星井文子】
(評:三首くらい投稿して下さい。作品の下句「目にあきもの」という言葉はよく解らなかったので少し変えてみました。たゆまず続けてください。)

大都会離るれば次第に風気澄み山の緑も花も美し
遠く来て吐く息吸う息みなうましああすばらしきイグアスの滝
街中を流るる川の水澄めり風に吹かれつつしばし佇ずむ
【サントアマーロ青空会 竹内千賀子】
(評:少し言葉を置きかえてみました。こうすることで作品が引きしまって読者に共感を与えます。)

雲一つあらぬ朝の日に照らされてザクロの緑葉きらめきいたり
椰子の樹もザクロも眠りいる如し風一つなき夕暮れの刻
部屋の窓開くれば隣のザクロの樹目の前にあり小鳥が飛び来る
【ツッパン 林ヨシエ】
(評:第一首、照らされ、光り、輝きなど同じ意味の言葉が重なっていましたのではぶいて、「緑葉きらめき」と強調してみました。参考にまで。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


人生の山坂越えて老いの坂
今日があり明日は分からぬ老いの道
我を張って生きて来ました人生路
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:気骨あればこその人生でした。)

パイネイラ咲いて女を意識する
逆算で暮らす人生淋しすぎ
わが齢(よわい)他人のようで落ち着かず
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:「もう七十まだ七十と紅をさす」と云う川柳を思い出しました。全句ともよく纏まっています。)

日伯語聖書の話も分かりかね
早口の祈りに老いは追いつかず
教会の集いご馳走たのしみに
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:ミサの後知友と過すお茶のひとときは楽しいものですね。)

あちこちに鳥居があれど神不在
老いて尚多事多忙で生きる幸
不器用でもそれぞれ生きる術をもち
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:人それぞれに生きる道はあるもの。)

人間の驕りに牙むく放射能
横文字は何度聞いてもすぐ忘れ
物言わぬ花がもの言う腕の冴え
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:語彙、句姿共に良く纏まっています。下句の「腕の冴え」お見事です。)

母の日は上座に座ってもてなされ
喜びと溜息ビンゴの数字出て
助け合う人との絆宝もの
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:美しい絆です。宝ものが光っています。)

マイペースだけじゃ世の中渡れない
又着れぬ服が出てきた恨めしさ
誕生日絵文字のメール日本へ
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:絵文字にはより温か味を感ずるものです。)

大災害戦後より増しと高齢者
発音を正せば会話出来もせず
ブラジルに皆んなで作ろう日本村
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】
(評:当国政府に受け入れ態勢さえあれば、満更夢ではありません。)

久しぶり兄妹揃った老母の日
父の日と比べちゃいけない母の日だ
放射能津波国債恐ろしい
【サンパウロ中央老壮会 しんかわ】
(評:政府は今この大困難を乗り切る為の対策に必死で取り組んでいます。)

温泉で見る素足の美しさ
秋かぜが新緑揺すって過ぎてゆく
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:上下の言葉を入れ替えることで、句全体がはっきりします。ご参考になさって下さい。)

増えてくる天災地災が恐ろしい
孫の名も忘れる程に年をとり
【セントロ桜会 中山実】
(評:若干言葉を入れ替えました。説明句にならないように―。)

旗色を変える智恵もつ年の功
苦難から大和魂顔を出す
【インダイアツーバ親和会 早川正満】
(評:大震災の復旧復興を祈りましょう。)

◎席題「恨み」 笑出題
恨めしや相思の相手に嫁が来た【玲子】
恨めしや親友が先に課長様【玲子】
友人の大農場が恨めしい【しんかわ】
又上位取った相手が恨めしい【しんかわ】
恨めしや好きなおかずを食べられて【ふみ】
恨むことやめて心が軽くなり【ふみ】
大天災恨んでみても始まらぬ【笑】
恨み越え沖に小さな手を合わせ【笑】
恨めしや我より先に逝きし夫【清子】
恨めしやビンゴの数字皆はずれ【清子】
過去のこと今更恨む事もなし【余碌】
恨めしい只働きを三年も【余碌】
天災と思えどやっぱり恨めしい【富子】
マンションの一人暮らしを恨むまい【富子】
死んだ人恨んでみても仕方なし【実】
又勝った赤組ゲート恨めしい【実】


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