移民百年祭 Site map 移民史 翻訳
熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2012年9月号

2012年9月号 (2012/09/14) 俳句 (選者=樋口玄海児)


冬の句座終えし見舞が別れとは
孝子さんごとあたたき冬の通夜
通夜守る老友二人に膝毛布
老妻は臍繰上手山笑ふ
【三原芥】
(評:念腹先生の教え子、孝子さんが突然亡くなった。その時の通夜の句三句。全く惜しい人が亡くなった。孝子さんは俳句上手で、日本の俳誌にも上位に名を連ねて俳人として認められたる人でした。深悼いたします。)

マンガ読む若いとうちゃんパパイの日
脂のる寒鯔南大河産
日向ぼこ特等席を犬が占め
【田中保子】
(評:一句目、昔と違って今はマンガブーム。日本でも今はマンガレストランなどがある。またマンガが映画となったり、マンガ時代でこの句もユーモラスがある。語感がすっとし、この様な句もたまには良いではないか。)

牛鍋にタツーの肉も開拓地
つるつるの紙で指切る寒さかな
きのうより今日紅濃ゆき寒椿
【森川玲子】
(評:二句目。今から七十年前頃の開拓地での牛鍋。開拓で捕れたタツーも入れたと伝えている。その様な時代では当たり前で誰も不服を言う人もいなかった、その時代の思い出。)

赤道の旅へ向かうも着ぶくれて
飛機からの落日の景春の旅
朝夕の寒さを風呂に忘れ去る
【村松ゆかり】
(評:アマゾン地方への旅は気温がよく分からず、雨が降れば急に冷え込むそうだ。アマゾンに住む土人等は雨が降れば冬が来たと言うらしい。だからアマゾンでは雨季は冬で、乾季は夏であるらしい。)

椰子落葉長々と佇つ我が影も
寒夕焼木のぼりの子を仰ぐ母
筆休め日向ぼこするほど老ひぬ
【伊津野朝民】
(評:作者は九十八歳。書道に長じている。その書道の手が寒さのために思う様に運べない。幸い、朝日が出て来た。ブラジルの朝の日向ぼこは体全体を温かくしてくれる。ありがたい。)

暖冬の小公園に日向ぼこ
父の日や百才の父健やかに
原爆忌今も奉納千羽鶴
【矢島みどり】

着せ替えてマネキン改装街小春
婦人部のすき焼き好評人あふる
寒鯔の調理は息子釣も好き
【吉崎貞子】

冬の蝶鉢植ばかりの庭に来て
寒鯔の味噌煮に生姜刻み入れ
牛鍋に顔に出て来し火酒の酔
【纐纈喜月】

長病みて人の痛さを知りし冬
連れをなくせしか野鳥に寒きびし
ひそと来て啄む姿冬の鳥
【伊津野静】

チリ松と椰子囲う家春を待つ
ただ笑顔それで解決巷春
森の闇抜けてチリ松春の空
【岬礼尾】

寒木瓜の枝ぶりをほめ今日の客
着ぶくれて互いの笑い交しけり
寒鯔の積まれて賑はふフエラかな
【畔柳道子】

鍋奉行男が得意スキヤキ会
南天で飾りし寒鯔贈り来し
ビル谷間抜け来る風の寒さかな
【野村康】

灯籠に花火の空のありにけり
病上り俳句に綴る秋灯下
伯人の子等も献灯原爆忌
【小野浮雲生】

椿咲き我家の庭のはなやぎて
すき焼きをかこみて話よくはずむ
寒鯔や家族そろってサシミかな
【荒田田鶴子】

伯父語る戦後の日本終戦忌
金婚の夫は句敵冬の句座
奉仕して余世悔なし去年今年
【松崎きそ子】

放し飼ふ鶏見当らぬ南風
湯気の立つ庭の蛇口や冬の蝶
【畠山てるえ】

相似たる身の上話日本祭
着ぶくれて歩くも楽しい小さき町
【山田富子】

牛の群パンペイロに尻向けて
冬蝶の悲しき終り葉の裏に
【原口貴美子】

口すぼめ寒鯔で晩酌おじいちゃん
冬の蝶明日の命を誰が知る
【矢野恵美子】

大風車牧の王者や着ぶくれて
陽光の慈悲に羽化して冬の蝶
【栢野桂山】

霧深し鳩啼く港街は古り
冬温し鳩啼く声に昼寝ざめ
【清水もと子】

日の蔭る時を稼ぎて日の短か
【宮腰陽子】

着ぶくれて少し貫録出た女房
【秋元青峯】

耳遠きことは倖せ猫の恋
新しくユーカリの秀は陽をはじく
初霜も別れ霜もなき今年
郷愁の如くに春の霧濃し
【樋口玄海児】


短歌 (選者=藤田朝壽)


夜中すぎテレビに流れる流行歌口ずさみつつ満たされている
わが命繋ぎとめいる点滴の減りゆくさまを息つめて見る
八十路すぎ衰えしるき下半身昔のように走って見たい
終戦忌八月十五日の蝉の声鳴きやまざりき彼の基地の夏
【スザノ福栄会 青柳房治】

食前に一日一粒のカプセルは吾が身を養い幾年過ぐる
夫に肩貸しつつ歩む並木道ともに元気で齢重ねたし
ブラジルに住めど忘れぬ同窓生返信のなき一人を思う
【スザノ福栄会 青柳ます】

こんなにも人の行き交うこの町に昔の知人の一人も居らず
ケロケロの鳴きさわぐ日なり柿の葉は裏を返して風にもまるる
明るさに目覚めし床に満月のとどく光を手に受けて見る
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

滔々と流れるアマゾンの一支流リオネグロをホテル望む
廃れたる物もありけりアマゾンの枝上ホテルの荒廃はげし
島々をつなぐ大橋七色のかがやく電飾マナウス名所
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

怠け癖つきたる如し吾が日々になさねばならぬこと捗らず
文法に明るき友いて吾が歌会よおやく進歩の兆し見えたり
指折りて三十一文字にまとめいる幾年学べと未だ一年生
【スザノ福栄会 原君子】

地震津波無きこの地にて時折に起こるはメトロとオニブスのスト
訪日の吾子の携え帰りしは「一期一会」の叔父の掛け軸
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

あたりてもあたらなくとも楽しかり老人クラブのビンゴ大会
春一番ジャカランダーは咲き初めぬえもいわれない紫の濃く
【セントロ桜会 上岡寿美子】

目の前を飛び交う蜻蛉朝の日にきらきら光る散策の道
私のほかに誰もいない家の内小鳥も見えず一人ぼっちで
【セントロ桜会 井本司都子】

吾が庭の木立に番(つがい)の小鳥いて巣にいくたびも餌はこびいる
ガラス越しに首をかしげて鳥たちの動くさま見る犬のヨーグシヤ
【セントロ桜会 上田幸音】

わが街の紅一点の紫イペー歩みきたりて花を見上ぐる
天災もいくさも知らず移民われポ語に弱く会話ままならず
【セントロ桜会 鳥越歌子】

白内障の手術のあとは何も彼も明るく見えて眩しさおぼゆ
母の日に孫や娘らのプレゼントの花はサーラに活けられてあり
【セントロ桜会 板谷幸子】

朝六時メトロ利用のお客さんおなじみの人笑顔で挨拶
季節きて広場のつつじ満開に買物客も足をとめいる
【セントロ桜会 大志田良子】

いつまでの命か分からぬ病む我に娘は冬着を調えくるる
娘をもてる幸せ沁みじみ吾が思う細かい事にも気を配りくれ
久々に友を訪ねて歌がたり帰る家路に仰ぐ寒月
足踏まれ背中を押され人ごみに立ちて食する郷土祭に
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:年に一度の郷土祭。レジストロでも大賑わいであった様子。バラッカで買った食べ物を人ごみの中で食べているのがよく解る歌。立ち食いも亦たのしからずやである。)

短日の外燈点る午後六時老の一日の暮れゆく早さ
塀越えて大輪ダリア競い咲くリンドと声あげ見る友の庭
少年野球の選手団に孫もいてアメリカ遠征笑顔で飛び立つ
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:遠征する少年野球団。聞くだに胸がおどる。見送りの人々がしっかり頑張って来いよと叫んだ声を聞く思いがする。)

それぞれに苦労重ね来し移民妻今日は老クで昔を忘る
渡伯して初めて迎うる正月も普だんの食べ物涙出でたり
ファゼンダの鐸(かね)に起こされ草とりに馴れぬ仕事に身はやせ細る
秋晴れの空一直線に飛行機雲見事にかかる南北空路
【ツッパン 上村秀雄】

家族づれで海に遊んだ遠き日が夢に現われ楽しい思い出
車椅子の操作によおやく吾がなれて楽ではあれど足腰弱る
日本祭の日は朝より上天気ひと夜明くれば雨となりたり
読書づかれの頭休めに数独を帳尻合わず又やり直す
卵の油は血圧によいと聞いてより吾は飲むなり血のめぐり良し
【サントス伯寿会 三上治子】

小春日の日差しに咲ける花ツツジ紅あざやかに華やぎて見ゆ
三寒に堪えて小春の日曜日友より食事に招(よ)ばれてうれし
半年の研修終えて孫帰る祖父と語ろう日語やさしく
【プ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:小春日の日曜日に友人より食事に招かれた喜びが単的に表現されている。)

癒えたりと思いし持病の喘息が寒さ続けば又も出にけり
友情のつもりで愚痴を聞きやれば頼りにすると握手求める
落葉なか茸の一種なると云う踏めば紫色の煙吐く
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:三首ともよくまとまった作品。特に三首目の落葉なかの歌は類形歌がなく秀れた作品。「踏めば紫色の煙吐く」はよく見ておられる、実感のこもった歌。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


五十四年悔なく去って行く職場
ゆっくりと登る坂道老いの足
未世の平和を祈る掌を合わせ
原点に戻ると母の顔が見え
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

レジストロで老いて移民の百年祭
開拓地共に生き抜き金婚へ
父の日に父となる子に祝電す
【レジストロ春秋会 小野浮雲生】

受けついだ親の仕事に誇もち
昆布食栄養たっぷり健康美
世の進歩きれいな容器も使い捨て
【サントス伯寿会 三上治子】

老ク連旅は道づれ飛機に乗り
おやつまで頂き今日も老ク連
応援に忙し今日もオリンピック
テレビ無き初期の移民に頭下げ
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】

元女房再婚不満の元亭主
いっぱしの物識りぶっても役立たず
道楽は俺見習うなと強意見
その気ない人にむち打つ愚か知る
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

妻の座のバラ色努力で枯れさせぬ
葉桜に生き抜く力教えられ
すれ違う人に優しさふと感じ
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

柔道でブラジル女子が金メダル
ボクシング日本男子が金メダル
レスリング大和なでしこ金メダル
【セントロ桜会 中山実】

国の威信オリンピックに賭ける夢
女王陛下粋な演出開会式
昔煮物今ハンバーグ母の味
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】

きれいな人来ると呼べば皆集い
レンソイス砂漠を行くは老いばかり(「月の砂漠」の歌を連想して)
風紋は苦難の道も消し去って
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】

無器用に生きてすべては自分流
電話口逢って見たいな声美人
生かされて時の流れの速さ知る
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】

病む身でも達者な文筆生き生きと
数独に一人相撲で挑戦す
利口ぶる頭だんだんにぶくなり
【サントス伯寿会 三上治子】


前のページへ / 上へ / 次のページへ

熟年クラブ連合会 :  
Rua. Dr.Siqueira Campos, 134, Liberdade, S?o Paulo, Cep:01509-020, São Paulo, Brasil
Tel: 11-3209-5935, Fax: 11-3208-0981, E-mail: Click here
© Copyright 2024 熟年クラブ連合会. All rights reserved.