「１９５６年渡伯」 一人息子の政行（４歳）とシンガポールで写してもらったもの 　神戸港を出でてより、早五十四年が過ぎました。 　あれは十二月も暮れの頃でした。母と弟そして、従兄弟たちに見送られ、テープが切れた時のあの辛さ、悲しさは忘れることが出来ません。 　そして日本の最後の寄港地、門司に着いた時はこのままどこかに逃げられたら…と思いましたが、子供を置いていく勇気も無くとうとう日本を離れてしまいました。 　途中、シンガポールに着いた時、新年を迎えました。外務省の係の方から、まだまだ反日感情が残っているからくれぐれも気をつけるように言われましたが、そんな気配はまったくなくて路上でバナナ売りの人から子供に持ち切れないほどたくさんのバナナを頂き驚きました。 　日本人墓地にもお参りして、そこで買ったパイナップルの美味しさにまた驚きました。日本では缶詰しか食べたことが無かったのであの美味しさは今も忘れられません。ブラジルにも色々たくさんありますが、あのようなものにはまだめぐり合ったことがありません。あの時、四歳だった息子も、もうすぐ還暦です。

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