2・19 カーニバル観戦 (2012/02/20)
ほとんど人通りもない、暗いアベニーダを歩きながら「は~っ」とため息がでた。友人とサンボドロモ(カーニバル会場)に行く約束をすっぽかされ、迷いに迷ったあげく、一人で行くことを決め会場にいく道すがらのことであった。カーニバル会場行きのバスがあったが、長蛇の列ができていて待っても待っても自分の番がこないので、しびれを切らせて歩きはじめたのだった。ときおりいるのは、女性か男かわからないような街娼がハイヒールに超ミニスカート姿で街灯の下に立っているくらいである。望遠レンズにカメラを持っていたので、歩いたのはちょっと失敗したかな、と思い始めていた。 高いチケット代を払ってカーニバルに行くような人間は、超貧乏というほどの人はいないから、徒歩で30ほどかかる道のりを歩くような人はいないのだろう。なんとか着いたが、今度はどこが入り口かよく解らない。結局広い会場をぐるりと回って入り口にたどり着いた。これだけで、もう汗ぐっしょり、クタクタである。 会場の入り口で身体検査を受ける。凶器になりそうなものは一切ダメなようである。サッカーチームと同じ系列のエスコーラがあるので、サポーター同士の喧嘩を恐れての警戒である。今日はサンパウロFCのドラゴン・レアルとコリンチャンスのガビオンエスが出場するので、新聞などでも喧嘩や暴動が起こるのではないかと、しきりに報道されていた。警察は3000人を会場に派遣するらしい。 今朝、アパートのエレベーターの中でも、乗り合せたパウリーニョともこの話になった。「ガビオンエスはそれほどでもないけど、ドラゴンの方は皆喧嘩ぱっやいから気をつけなよ」と忠告された。この話を聞いていたので、息子を誘わなかったのである。 とばっちりを受けて、怪我をしたら嫌だな、と思いつつもせっかく買ったチケットがもったいなくて約束をすっぽかされても一人できてしまったのだ。それに、ほんの少しではあるが、暴動や喧嘩シーンの写真が撮れるかもしれないという期待もないわけではなかった。 金属探知機で身体を検査され、カバンを見せた。なかに雨が降ったときのために折りたたみの傘が入れていた。 「傘はダメだよ」と長身の黒人青年がそっけなく言う。「えっ、じゃーどうするんだ?」「捨てるか、どこかに隠してくるしかないね」彼と言い合っても仕方が無いことはわかっていたのであっさりと引き下がった。 日本製の傘で捨てるには惜しかったのでど隠すことにする。入り口から5mほど離れた金網の塀の柱の後ろに隠ことにした。暗いし、まず解らないだろう。帰りにとっていけばいいや、と思っていた。 やっと会場に入ると、まだまだ、場所には余裕がある。カーニバル観戦は初めてで勝手がよく解らなかった。僕が買った場所はアレキバンカーダという一番安い所で、コンクリートの段々があり、段に座ってみることになっている。一番前の金網塀の場所は、びっしりと人が立っていて入り込む余地はない。ここが一番良く見えるところなのだろう。一番後ろは離れすぎているし、結局3段目に座ることにした。座ったら、金網の所にたった人の頭で前はまったく見えなかった。しかし、始まったら皆立つだろうから、この点はさほど心配していなかった。 やっとパレードが始まった。思ったとおり、皆立ち上がり、写真を撮れないことはない。ただ、興に乗った観客が腕をを振り上げファインダーに入り込むのには弱った。まっこれもしょうがない。ほとんど期待していなかったのだが、意外に面白い。僕がサンボドロモの行進する通りの中には行って撮影していたころと比べて、山車は確実に豪華になった。しかし、自分の中にもうひとつ乗れ切れない部分があるせいか、物足らなさを感じてしまう。ひとつには中で写真を撮れないせいもあるだろう。自分の中にギシギシウキウキするような緊張感がない。もう1チーム、もう1チームと見ているうちにメトロの最終便を逃してしまった。周囲は隙間があったのに、今は人でびっちりである。写真も随分とりずらくなった。観客を生かしながらの写真を撮ろうと試みる。直ぐ下にいるモレーナのお姉さんは応援する時の、手の振り方が女性らしくて非常にきれいだし、一番前にいる黒人の3人組は拳の上げ方力強くかっこいい。そんなことを思いながら撮っていると、一人でいても全然退屈しなかったが、3時を過ぎるとさすがに疲れてきた。4時になるのを待ち、4時半のメトロを目指してサンボドロモを後にした。 帰りに隠した傘を探したがなくなっていた。きっと誰かが僕が隠す所を見ていて取ってしまったのだろう。がっかりしてしまった。
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