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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2005年6月号

2005年6月号 (2005/06/22) 俳句 (選者=栢野桂山)


松葉杖誘ひ秋晴たのしまん
秋晴や余生願ひて吾卒寿
【庄司よし子】

評:
 足の悪い人が永年松葉杖に頼っていると、己れの分身のように思えてくる。今日は気持ちの良い大秋晴なので、花が咲き小鳥が囀る公園や野路の景色を楽しみたいと、親しい友人を誘うように、大きな声をかけて松葉杖を手にした九十歳のよし子さんである。


町一つ民芸市や秋日和
目に留まる余生の文学秋深む
【畠山てるえ】

評:
 聖市に近いエンブーでは、色々な民芸品を並べて町全体が市になっている。北伯にも刺繍や編物などの手芸品を売る一町が民芸市といった所があり、陽気に騒ぐ人々があふれて町は麗かな秋日和である。


赤信号なき大空を鳥渡る
葉桜となりゐしことも聞きて縫ふ
【中原レメ】

評:
 桜が咲いたことを聞き、しばらくしてもう葉桜になった――ことも耳にした。だが老いの身では自由にならず、自分の身のまわりの物を繕う針を運ぶ日を送るのである。作者はサントス老人ホームに入居しているが、老壮の友の句会には毎月出て来るので、観桜旅行よりも句会が好きなのであろう。


草の花素直な髪の里乙女
手習ひに枝豆持ちて浴衣の娘
【前橋光子】

評:
 地味で目立たず、これという名もない草の花を、余り手をかけていない素直な髪に挿した里に住む乙女。素直な髪ということで素直な性格の乙女を表現している。


タモヨ族偲ぶルアの名土人の日
世に出でし土人文学インジオの日
【小橋矢介夫】

評:
 土人文学とは?文明化したインジオが土民の生活をモチーフにしたポ語の物語か。または語り部のようなインジオが話すのを、ポ語に訳した冊子であろうか。それを土人を敬し、土人保護を奨励する四月十九日の土人の日を期して世に発表したのであろう。前のタモヨ族の句とともにジア・デ・インジオの句として優れている。


熟れし実を嘴よりこぼすインコ芭蕉
世界平和祈りし法皇逝きし秋
【木村都由子】

ささやかな農の生甲斐走り藷
秋晴の香の干し物を取り入れる
【竹内もと子】

礼拝す二礼二拍手爽やかに
秋晴の山が吸ひ込むテレフェリコ
【纐纈喜月】

胸内に小さな希望木の葉髪
秋夕焼絵心誘ふ美景あり
【黒木ふく】

秋潮に浮いてゆられる小島見ゆ
秋の潮足先波とたわむれて
【花土淳子】

南国や星きらめきて銀河濃し
七夕や願を込める天の川
【熊谷とめ】

庭真昼松葉牡丹の色まぶし
葉に一つ光る水玉鳳仙花
【伊津野朝民】

初夢をうらやむそれも目出度けれ
初夢にこだわりもなしそれも良し
【伊津野静】

お手製の大きお位牌秋彼岸
ジャカチロン荘の小道は花ジュウタン
【寺尾芳子】

秋晴や手話の若人活き活きと
鳥帰る我が家という名の塒へと
【矢野恵美子】

炎天や急坂つらき老の足
豊満な姿態美しき水着
【内田千代女】

秋彼岸供華に豪華な胡蝶蘭
夜半の月出水汚れの街照らす
【岡本朝子】

未だ柿がなっている木の紅葉して
泥水にカピバーラ四五頭遊ぶ道
【矢萩秀子】

哀歓の八十八年生きて秋
富有柿親子で一つ食べ試す
【風間慧一郎】

天の川仰ぎて父母の年数ふ
逃足の黄色な屁ひる虫なりし
【伊藤桂花】

銀漢や住めば都よ八十年
初成りの竜眼梢に天高し
【近岡忠子】

孫嫁ぐまで長寿して菊日和
ユーモアの巧みな君と日向ぼこ
【中川操】

カピバラの試育に励むニグロ村
晴天の下観賞す柿畑
【小野浮雲生】

高原のたわわな柿の実りかな
老ひらくの恋手を取りて春楽し
【大岩和男】

秋暑し地球温暖化のためぞ
秋の夜何時までつづく我余生
【上辻南竜】

鰯雲ひろがる空に飛機見えて
本を持つ手に秋の蚊のまつわりて
【杉本てる子】

息ひそめ止まるを待ちて打つ秋蚊
残菊に便りなき友案じ佇つ
【梅林千代】

花まつり子等の太鼓に幕開く
虚子祀る乙女の色に御所つばき
【本広為子】

悲しげな研師の笛や秋夕べ
二世三世の演じる神楽秋高し
【野村康】

綿菓子の如き白雲秋の空
秋夕焼まっかに染まる夫の顔
【杉本鶴代】

行く雲を映し静かに水澄めり
来客に冷水一杯残暑かな
【矢島みどり】

コスモスや今は二人となりし家
水澄むや山家暮しをして二人
【寺部すみ江】

天高し杖を頼りの余生坂
青き踏む走ってみたき気はあれど
【稲垣八重子】

鳥帰る空に道あり我が里へ
秋晴や麻州の空が近く見ゆ
【宇佐見テル子】

秋晴の空なごやかに今日も暮れ
水澄めり池で楽しむ錦鯉
【山田富子】

秋晴や元気戻りし老の幸
水澄むや素足ではしゃぎ老忘れ
【吉崎貞子】

時計草壁むき出しのスラム街
髪結ひし妻のうなじや秋日和
【桑原寛太郎】

秋晴や大耶蘇像のくっきりと
秋晴やさやけき腰に万歩計
【軽部孝子】

娘等発ちて淋しき墾の夕月夜
季節なく花咲き果樹の実る国
【山上とし子】

立冬の朝日明るき厨ごと
夜更けまで病夫看取りつ夜なべかな
【松崎きそ子】

子育ても一段落や夏夕べ
サングラス声かけられて人違ひ
【中川千江子】

秋彼岸通訳付きの法話聞く
テクシーで用足す老に日短か
【須賀吐句志】

炎天下牛の匂ひの貨車停る
花房を孕み始めし破芭蕉
【青木駿浪】

赤土のねばり付く鍬牛蒡掘る
私小説涙で捲る夜長かな
【谷脇小夜子】

病む猫にお守り抱かせ孫の秋
娘の活けし造花とまがふ鹿子百合
【岡田愛子】

月一度訪ふ芝の墓地秋彼岸
筍を掘り置き逝きし夫偲ぶ
【小林エリーザ】

鳥帰る地を墳墓とし移民妻
水澄んで底石に陽の当るあり
【井垣節】

何もせで貰う年金秋深む
娘の留守の残りもの食べ秋夕べ
【下境とみ子】

アレルイア命の洗濯果たす旅
五十年勤め上げたる端居かな
【彭鄭美智】

己が葉に隠れて太る草バロン
紙人形に目鼻を入れて窓の秋
【猪野ミツエ】

アパート群建ちし昔の桃の村
かく甘く誰が名付けしや富有柿
【西沢てい子】

星も無き鳥羽玉の闇誘蛾燈
硯洗ひのっぴきならぬ位牌書く
【菅原岩山】

高低を違へて庭の松手入
筆箱にドングリコロコロ三つ程
【佐藤美恵子】

ちまちまと並ぶ百鉢小鳥来る
初秋や月に柳の軸に替へ
【香山和栄】

白人の金髪蒼い眼の案山子
禁猟の番のアンタのたりのたり
【上坊寺青雲】

渋残る口をなだめて熟柿吸ふ
塀越しの声も母似の帰省の娘
【中井秋葉】

コスモスや母亡き後も咲きつづけ
星月夜野良犬が寝に戻る軒
【佐藤孝子】

新涼やせせらぎ聞ゆ浜の家
法要に登る階段秋深む
【玉井邦子】

貝塚は土民の歴史アレルイア
竹馬に心を残す子と夕餉
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


ボヤデーロの角笛きこゆしばらくを地平線上に夕陽たゆとう
【フェラース 米沢幹夫】

スマトラの大津波うつす夜のTV夏の避暑地を跡形もなく
【中央老壮会 信太千恵子(バストス在住)】

年を越し耳遠くなり友よりの電話の声も聞きとりがたし
【サンパウロ 大塚清】

台風に豪雨地震大雪と祖国おそいし災害はげし
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

海二つ越えて移りし南国に汗と涙の移住史重し
【サンパウロ 岡本利一】

畑に熟れしぶどう一房ぶらさげて喰べおり甘さを味わいながら
【スザノ福栄会 青柳房治】

勝ち越しをかける力士のこの土俵眼こらして取り口を追う
【スザノ福栄会 原君子】

彼岸会の供物の柿は陽に映えて祭壇に並ぶ位牌は明るし
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

励まして呉れる師もあり友もありて歩めど遠きこの歌の道
【スザノ福栄会 青柳ます】

しずくさえ染りて見ゆる杜若古家守りて雨の狭庭に
【セントロ桜会 野村康】

いま一度訪日叶わば過去の地をめぐりてみたしと足病みて思う
【スザノ福栄会 黒木フク】

かっての日水稲栽培誇りいしパライーバ平風渡り来る
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

三才にて母を亡くせし夫なれど必ず命日には灯をともす
夏なれど冷たき空気ただよえる大木の下息ふかく吸う
【セントロ桜会 富樫苓子】

心地よく風呂にひたれば火吹竹で沸かしくれたる母の顕ちくる
ブラジルの他に生きゆくすべはなく移植の万両赤く色づく
【セントロ桜会 上田幸音】

ホームレスの主従なるかややせ犬の忠実なるさまを微笑みて見る
【セントロ桜会 渡辺光】

蘭の花咲く友の家訪いゆけば花も共々迎えてくるる
樹々繁るアルファビーレの友の家にたのしきひと日話はつきず
【セントロ桜会 井本司都子】

日本の桜のたより聞く四月ここブラジルは秋に入りたり
桜咲く日本の春は知らずして「NHK」で花見楽しむ
【セントロ桜会 上岡寿美子】

よくもまあこう毎日も降るものぞ山くずれして停電つづく
今日もまたいつもの通り夕立が雷ともないとおりすぎゆく
【セントロ桜会 板谷幸子】

癌という病魔におかされ親友はひと月余りで逝ってしまえり
十数年唄いつづけしカナリアが奇しくも息絶えぬパスコアの日に
【セントロ桜会 大志田良子】

体力の弱みにつけいる病源はたのしみよろこび奪う悪魔なり
癒えぬとて家にこもれば尚重く杖をたよりに今日は出でゆく
【セントロ桜会 鳥越歌子】

亡き母に尽さざりしを悔いにつつ労わりくるる吾娘等に感謝す
【ミランドポリス 湯朝夏子】

生前の父が遺せし言の葉を辞書引きて今その訳を知る
【グァイーラ 金子三郎】

亡妻の在りて今日(こんにち)我の在り支えてくれし君に感謝す
【オウリンニョス長寿会 金田敏夫】

山百合の清々しさに手が伸びて摘んで帰りてみ佛の前に
【ピエダーデ寿会 中易照子】

優勝に日の丸の旗目にしみる胸あつくするわれも邦人
【栃木県人会老人部 星井文子】

この時代平和な国に住いして日々こと無きをよろこびとする
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

秋日和神の恵みを感謝しつつ年を思わずゲートに励げむ
小雨降る朝のひととき満員のスクールバスに手を振り見送る
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

今をさかりと咲く黄イッペーに盆栽にすればとふと思いいる我
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

新潟の大地震現場TVにて見れば被害者の心情思わる
白菊を墓に供えて父母偲ぶ二人が好みしこの白い花
【S・J・リオプレット白寿会 浅野三郎】

父の日に秋海棠の鉢届く赤紫の色冴えざえと
早朝の若葉樹間にベンテビー目覚めを誘う囀り高く
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

あと何年生きられる身か知らねども良妻で居たし健康で居たし
懐かしの心の歌に聞きほれて何時しか我も口ずさみおり
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

山家にも窓入口はグラージ付け泥棒防ぐ世とはなりたり
柿熟す手術せし足まだ癒えず無念なれども眺めるのみにて
【タピライ 杉浦勝女】

より添いし小さき傘に降りそそぐ雨もいつしか止み青空に
週毎に買い出しに行く朝市の売り競う声ひびき渡りて
枕辺に本を寄せしが居眠りし身の弱りしをつくづく思う
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

やや屈み陽向ぼっこの老妻の背結婚五十五年の年月刻む
山葉蘭枯木に宿り良く繁り大きな葉っぱに小さな花を
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


久闊も二十年ぶりなり年取りて
良き人とは高額布施を喜捨をする
NHKの歌謡に合唱妻機嫌
夜の電話身内の訃報とは悲し
一世と二世の立場それぞれに
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

インジヨ等を射殺し終る西部劇
イスラエル・アラブの店の並ぶ街
年と共常に女性が優位なる
老人も喜色満面入賞し
頑固屋も孫を抱いては好々爺
【サンパウロ 竹山サブロー】

おだやかな愛に包まれ風ぬくし
今年また柿を味わふ季節来し
老人と思われ年は隠せざり
六十代若いと云わる老人会
【サンパウロ玉芙蓉会 擴聖】

生き残り余生安泰ありがたし
良き事に会わず逝きたる父母妹弟
幼な児の五体を病みて親泣かす
辛らかりしさだめ乗越え身の安堵
勿体なや古物大事を笑はれる
【サントス伯寿会 三上治子】

亡き夫の写真に愚痴をこぼしもし
それぞれの目的を乗せメトロ行く
炊事番気を付けて居て鍋焦がし
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

楽しさにぶらりと街を散策す
人生で健康なるは我が宝
楽しめるビンゴゲームの老ク連
ホ句会の楽し集いにお洒落して
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

幸運の福引当り掌を合わす
霧の中かすむ高原歩こう会
供花黄菊二年忌となる姉の墓
ビンゴ終え覗くシネマの横文字を
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

医師苦笑薬がわりに火酒飲めば
半病人と嘯き火酒に親しみて
我が祖父は嘉永生れでありしかな
年老いて己が無芸をつくづくと
曾孫抱き赤ん坊言葉聞き分ける
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

台風と地震来たよな客騒動
惚けてないと云うのが惚けの証拠とか
手に汗を握りる相撲は少なくて
訪ひ呉るる十人目なる我が曾孫
母の日やキッスの雨に頬濡らす
【セントロ桜会 矢野恵美子】





「撫肩」

いつものように
左肩にバックを掛ける
少しセカセカ歩くとずり落ちる
また、元に戻す
外出時の私の癖
流行遅れのように肩当が要る
暑い時などイヤになる
怒り肩の姉は洋服が良く似合い
羨ましかったものだ
最近になって盆踊りを習い始めた
浴衣はそんな撫肩の私にもやさしい

【サンパウロ鶴亀会 猪野光枝】


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