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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2006年11月号

2006年11月号 (2006/11/07) 俳句 (選者=栢野桂山)


種選び愚痴の少なくなりし妻
風に落つ古巣は山羊に食はれけり
【佐藤孝子】

評: 風が荒れて家回りの立木の小鳥の棲み捨てた古巣が落ちた。放し飼いの山羊が早速来て、珍味とばかり食べた。見慣れた家回りに眼を光らせると、こんな佳句が授かる。「道のべの木槿は馬に喰はれけり」と芭蕉の句に似ているが、この方が面白い。


草原となりし茶畑鳥渡る
落葉して宿木青し枝々に
【矢萩秀子】

評: 水郷レジストロでは日系が減り、昔栄えた茶畑が荒れて草原となり、春に繁殖した小鳥が寒さを嫌い暖地へ渡って行く。荒れた昔の茶畑の上を群れとなって渡って行く小鳥を見るのは、この里の人にとっては淋しい風景であろう。


朝霧に残りて淡き窓の月
早乙女の短き衣装春めける
【伊藤桂花】

評: 同じ水郷レジトスロでは、今も水田で日本米やもち米を作る。日本の早乙女の着物にたすき姿とちがい、この里の茶摘女と同じブラジル娘の早乙女であろうが、両方とも日本的な風情があって、水郷の春を彩る。


早春の匂ひとなってをりし庭
背に腹に藁くずつけて仔馬立つ
【竹内もと子】

評: 早春の匂いとはどんな匂いであろう。庭椿が赤い花を見せ、紫木蓮が咲き、ジャボチカバの小さい花が幹びっしり付いていて、その下には春咲きの蘭やつつじの鉢がある。それが時間によって自己を主張するように、それぞれ匂いを放ち、その全体が早春の匂いであろう。


蝌蚪わんさ畑上りの手洗へば
伏兵の如とび出して火道切る
【伊津野静】

評: 牧草や荒地の雑草が枯れる頃の奥地では、野焼きの失火に用心して、鶏舎、蚕屋、パストのセルカなどが焼けないように火道を切る。トラトールの無かった昔は手鍬で火道を切った。そういう男達が何人も不意に現われたのを見て、敵のすきを見て伏せて置いた兵が、敵を襲撃するようだ――と言った。


日脚伸ぶあれこれ夢をふくらませ
牧青む嘶き跳ねて親仔馬
【矢野恵美子】

評: 冬至の六月二十二日頃から日一日と日脚が伸びて、春が近づいた感じがして心が弾み、あれもやりたいこれもしたいと夢が膨らむ。今「老人力」とよく言われているが、何んにでも挑戦してみようという高齢者の意欲、老人力が少しでも世に役立ち、その人の心と身体を活性化すると思う。


野犬狩る父もち肩身せまき子等
猿蟹の童話の浮かぶ木の実植う
【猪野ミツエ】

メトロのストに歩くベンテビー聞いて
民謡を習う余生や春深む
【野村康】

百千鳥バラ・ボニータの舟着場
海のもの山のもの入れ五目寿司
【香山和栄】

蘭展の花もおどろく寒さかな
入り陽今真赤に春の空炎えて
【杉本鶴代】

春めくと老の身動き軽くなる
気兼なく一人暮しの朝寝して
【内田千代女】

雨戸閉め夜明遅らす寒い朝
一時の昼寝妙薬とて老ら
【小野浮雲生】

乗り越えし苦難の歴史椰子の花
この汗で稔りを願ひ種を蒔く
【中川操】

目の届く限り広野の冬景色
サナトリオ今老人ホーム桜咲く
【大岩和男】

凍蝶に淡き日射しの小半時
寒きびし言葉選びて病む友に
【風間慧一郎】

ポ語日語と曾孫の片言山笑ふ
一人居の読書春眠ほしいまま
【近岡忠子】

アカシヤの花冬終ると告げくるる
道産子アカシヤ咲けば泣くという
【寺尾芳子】

巣の雛に窓の蜂鳥矢の如し
皇室に男子誕生風光る
【本広為子】

待望の皇孫誕生祝賀会
七十年の歴史の村の入植祭
【黒木ふく】

原爆忌和の象徴の鳩放つ
鉄線花意志の強さを見せて咲く
【吉田しのぶ】

別れ霜きびしき農に見限りつけ
恋猫の猫なで声で妻を呼ぶ
【木村都由子】

今日も又時雨に打たれ露天風呂
白鳥の如くの脚で踊りおり
【成戸浪居】

蜂鳥のささやき受けて草の花
野焼する父母の後追ひ叱られて
【宇佐見テル子】

春暑しバスの窓際への日差し
うららかや列車の窓辺駆ける景
【伊津野朝民】

寝返りす夜長体の固さかな
幾年振り訪ふ古里の蛙鳴く
【寺部すみ江】

熱々の味噌汁旨き寒き夜
残り物寄せて夕餉のお雑炊
【矢島みどり】

甘酒にふる里しのぶひな祭
日なたぼこ女房同志雑談す
【三上治子】

一人居の呟き癖や秋の暮
ブラジルに増しゆく家系移民祭
【稲垣八重子】

人声に魚影の散れる花真菰
土壌良きこと明らかに稲の花
【佐藤美恵子】

じゃが薯のつぶれてカレーもの足りぬ
桜散る人にも終りあるを知る
【彭鄭美智】

晩餐に豚汁つくる春寒し
深呼吸して風かほる春を待つ
【山田富子】

皇室に親王誕生麗かに
夕サビア鳴いて優しく連れを呼ぶ
【西沢てい子】

水鳥を翔たせ密漁監視艇
まなうらに消えぬ焼討桑枯る
【菅原岩山】

亡き兄の十七年忌サビア鳴く
故郷の良き便り来てカジューの花
【上坊寺青雲】

寒い朝道行く人等肩すくめ
移民祭除草に泣いた日も遠く
【井出香哉】

かすれ声元に戻らず春の風邪
牧青みケロケロ鳥のかす翔ぶ
【纐纈喜月】

蜂鳥の空中サーカス雨呼ぶか
長話につき合ふつもり日脚伸ぶ
【星野耕太】

蜂鳥や花無き庭に今日も来て
試歩の道少し延ばして日脚伸ぶ
【吉崎貞子】

丸い物見れば蹴る子等の日脚伸ぶ
野火近し径をよぎりてモルモット
【畠山てるえ】

親王の誕生ニュース風光る
ふるさとに旅装解きたる春寒し
【杉本良江】

華麗なる真紅のラッパアマリリス
春寒し訪日名残の手袋を
【遠藤皖子】

リュック背に武道の稽古日脚伸ぶ
一日に四季ある国の独立祭
【軽部孝子】

停年の漢退屈山笑う
軍楽に軍靴響く独立祭
【名越つぎ代】

拗ね牛の梃でも動かず山笑ふ
春雷や望む雨量にほど遠く
【岡本朝子】

歓喜樹や子等ピポカ食ぶ公園に
野遊びや蝶追い廻す子等二人
【仲村渠月峰】

南瓜蒔く手垢光りのタツーの甲
鳥の糞に一ト文字消えて苗木札
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


逃れゆく処などなし癌告知うけて闘ういつまでの命
【フェラース 米沢幹夫】

テレビにて血液サラサラ信じつつ今日も玉葱のサラダを作る
終戦の日近づきくれば思い出すあの暑き日を吾が若き日を
【セントロ桜会 板谷幸子】

八月が来れば毎年かわりなく被爆者の叫びと蝉の声きく
【セントロ桜会 渡辺光】

白菊に覆われし柩の弟の重ねし手には十字架のあり
石楠花の咲く頃来いと言いし弟終の日来れば石楠花咲けり
【セントロ桜会 鳥越歌子】

朝々を歩く道辺のパイネーラ実のはじけ初め棉散らしおり
名の知らぬ山鳥啼けば炎天に農に励みし日々甦りくる
【セントロ桜会 富樫苓子】

本願寺の屋根を仰ぎて藤棚のかたえに人らは黙していたり
月々の年金受くるその日には只頂くはすまぬ思いす
【セントロ桜会 上岡寿美子】

義経のドラマ見しあと眞夜さめて「青葉の笛」の一節を思えり
はぐれたる蟻は列にもどれずにあちこちさまよいいづこへ行きしか
【セントロ桜会 上田幸音】

この年の花祭りには行けざれば甥は買い来ぬいくつかの花鉢を
蘭展にて莟の数多つきたるを購いこころ足らうひと日なり
【セントロ桜会 井本司都子】

早朝に犬連れし人急ぎ足われの前後は急ぐ人々
残冬の名残りの寒さは老いの身の足腰にひびき肩こりはげし
【セントロ桜会 大志田良子】

恐れいし霜来ず晴れて暖かし九月第一日曜日朝
買物に行く息子の車に便乗し四方を眺めて歌材を拾う
【セントロ桜会 藤田あや子】

老境を視聴不全に生くるわれさだめ寂しき異郷のあけくれ
無謀なる戦いは敗れ殉国の戦友悼みつつ他郷に老いゆく
【サンパウロ 岡本利一】

訪日を終えて帰れば三人の子ども達から電話がかかる
母ちゃん達より僕の方が嬉しかったよと末の息子が喜び呉るる
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

故里の八十路の兄の訃報受く思い出胸に冥福祈る
校庭に頭を下げしは遥かなり忘れ難かり教育勅語
【グァイーラ 金子三郎】

祭り日は余生の灯りかかげつつ命の限り踊って見たし
【イタニャエン 稲垣八重子】

夢の中足どり軽く歩みおり覚めてはかなし重きこの足
【ミランドポリス 湯朝夏子】

ゆるやかに波紋を広げ船は行き青き湖水に心安らぐ
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

どす黒く酷く汚れし街河も夜の街灯を映しきらめく
【サンパウロ 竹山三郎】

二人でも淋しかりしを夫逝きてわが身一人に吹く風沁みる
【タピライ 杉浦勝女】

流れ星見つめて願う事多し身近な思いをひたすら祈る
上達は望めずとは知りつつも指折り数え今日も一首を
降り続く静かな午後のひと時を昔を偲び昭和の歌聞く
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

遠き道お別れするのはせつないが愛しき孫は日本へ嫁ぐ
【ピエダーデ寿会 中易照子】

アルジャーの花祭りゆお土産のアマリリス球根わが手に重し
庭隅に小鳥のくれしプレゼント山ほうずきの実りてふくらむ
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

この菊を花咲かせんと朝夕に手入れし甲斐ありて今日の満開
十五年今年こそはと庭桜莟を持ちしを夢かとぞ思う
【ツッパン寿会 上村秀雄】

大空に黒雲にわかに湧き来しが午後は身を灼く暑さ格別
景気よく売り出し弁当人だかりシネマ帰りの土産にせむと
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

豊作の甘きパラナ産日本梨人気を呼びて店賑わいぬ
リベイロンの俳句大会虚子祀る先づお互いに抱き合う俳友
銀杏の実とイリコ入れお粥炊く我も我もとお代りつづく
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

枕辺に本を寄せしが居眠れり身の弱りしをひたに悲しむ
週毎に吾の安否を電話にて気遣いくるる子らのいとおし
移り香の微かに残る応接間に今去り行きし親友をし偲ぶ
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

朝早き静かな浜辺人も無く鳩にまじりてかもめ飛び交う
ボール蹴り渚を走る子供等に負けじとばかり犬追いかける
眼をつむりじっと聞きいる波の音寄せては返し胸に沁み入る
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

海鳴りが高まりてゆく暁方を鴎の群は沖を目指して
海鳴りがやや静まりし砂浜に散歩する人次第に増えゆく
それぞれの水着姿の人々がパラソル拡げ海に戯むる
砂浜に五、六羽づつの町鳩が何を拾うか群れて啄ばむ
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


鶏鳴いてせかされ起きる山の宿
飼ひ猫は鼡は捕らず飽食す
バス運転勢いすぎてポント越す
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

世に人に恵みに謝する白寿かな
亡妻の分まで生きたく思ふ日々
今一息我も祝わん百年祭
人生は一期一会と夢多し
恵まれし母国は異国と思われて
【オウリンニョス長寿会 金田敏夫】

当選しこんなものだと胸を張り
汚職も出談合ばなしも母国にも
貧しさに少しの金も魅力なり
日系は真面目勤勉親ゆずり
上層に頭角あまた日系人
【サントス伯寿会 三上治子】

嫌なこと忘れ愉快に生く老いら
生きる事こそ最高の人生と
健康は富より良しと思う日々
人生を楽しく生きよう先づ笑え
読書して頭の体操若返り
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

過ぎし日々偲びて耐ゆる孤独吾れ
ばら生けて香に酔いし如見とれたる
身嗜み良き女性とて好かれもし
一人酌むワインにまぎらす孤独の膳
帰り花素敵に咲いた月の夜に
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

弁護士は嘘八百を創作し
民事裁判和解すと云う手も有りて
ご都合主義最後は皆に嫌はるる
二た股膏薬蝙蝠などと嗤われる
お人好しと云われて友は尚達者
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

地球儀は荒れて人間見直され
不満呑む事も処生の一ヶ條
船で来た移民の錦飛機の旅
不況風あらゆる智恵で生きて行く
友が居て人生多忙の花が咲く
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

座禅組み無念無想になれず居る
体毛の脱け落つ癌の治療して
玄米の健康食は胃にもたれ
臭い物のふたとび跳ねて罪つくり
カンピーナス本山翁を悼む
百五才に二日足りざる翁偲ぶ
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

大妙や真白道衣で張る上体
満たりて世界現象空洞化
初夏稽古天真五相の白胴衣
大学の夜学同志のピクニック
書道展師範揮毫に見とれたる
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】


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