移民百年祭 Site map 移民史 翻訳
岡村淳のオフレコ日記
     西暦2021年の日記  (最終更新日 : 2021/04/10)
4月1日(木)の記 清張の聖木曜日

4月1日(木)の記 清張の聖木曜日 (2021/04/01) 清張の聖木曜日
ブラジルにて


清張の文庫本を推理する。
サンパウロの連れ合いの実家の物置きに、日本の書店のカバーのかかった文庫本が何冊かあった。
手に取ったものは静岡に本店のある書店のものだった。
しきりに訪日していた亡義父が旅先で買ったものか。
だが、あの義父が清張を買うとは考えにくい。
この家は日本からの訪問者、滞在者もしょっちゅうだったので、誰か静岡の人が旅の共に持参して置いていったものかもしれない。

僕はすでに自分の蔵書の処分を考えるべき分際で、そもそもあまり食指の動かないものばかり。
その中に一冊、松本清張があった。
文春文庫『証明』。
50ページ前後の4編を収録している。
そのなかの「密宗律仙教」というのが目に留まり、気になってこの本をわが家に持参することにした。
のこりは近々、処分されることになる。

想えば日本の高校時代に清張を読み耽った。
ダジャレっぽいが、わが成長期は清張とともにあった。
当時、文庫化されていたものはひと通り入手して読んだ。
大学に入り、考古学徒のフィールドと旅の生活が始まり、「清張期」を終えた。

表題作の「証明」からして引き込まれていった。
妻はフリーの雑誌のライター。
夫はプロの小説家を志望して会社勤めをやめたが、いま一つ芽が出ず、悶々とした日々を送っている。
妻はそんな夫に気遣い、おびえながら二人の生活を支えるためのライター業を続けている。
…身につまされる設定である。
この状況と日常だけでも十分に小説として面白いのだが、そこは清張ワールド、「しっかりと」「ご期待の」血なまぐさい犯罪が発生する。

4編いずれも面白かったが、調べてみると「密宗律仙教」をのぞいていずれもテレビドラマ化されていて、すでに2回ドラマ化されたものもある。
メディアも、見る方もお好きである。

「密宗律仙教」は他の清張ものとはかなり毛色が変わり、書き込みも細かく、僕はノンフィクションかと思い込んでいた。
文春文庫の難点は解説がないことで、ネットで調べるとこの話は実話を参考にしたフィクションの由。
また小説家にしてやられた。
清張は初期に実在の考古学者を主人公にした、いわばノンフィクションのベルをいくつか書いているのでその路線かと思い込んでしまった。
この一編は知人の真言僧にすすめてみよう。

パンデミック中に読んであげつらった清張の『神々の乱心』(上)もいわば日本の新興宗教ものだが、これは清張の未完の絶筆だったと今回、知った。
とにかく週刊誌の連載で発表し続けて、あとで加筆修正しようと考えていた由。
なるほど、それなら第2次大戦前の「こんにゃくサラダ」等々の記載もわからないでもない。

かつての清張本は日本の実家の建て直し時にひと通り処分してしまった。
いまこちらに清張の本がまだまだあれば、しばらくその世界から出てこれなくなっていただろう。




 


前のページへ / 上へ / 次のページへ

岡村淳 :  
E-mail: Click here
© Copyright 2021 岡村淳. All rights reserved.